お見合い相手は無愛想な警察官僚でした 誤解まみれの溺愛婚

にしのムラサキ

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番外編

【番外編SS】あなたは恋をしてるのかしら(美保の母視点)

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 美保は小さい頃から、手のかからない子供だった。
 それこそ赤ちゃんの時も起こすまで眠っているような感じだったし、「魔の2歳」すら歳が離れた上の2人に比べて、拍子抜けするような楽チンさだった。

「こんなに性格違うものなのね」

 時折、どうしても着ていく、とピンクのパジャマで外出しようとするのには閉口したけれど。
 それから、上2人も半狂乱になって美保を可愛がった。半狂乱、だ。まさに。

「みほちゃん」
「みほちゃん」

 歳の離れた妹が、可愛くて可愛くて可愛いくて仕方ない。
 ありとあらゆる世話を焼いた。
 ワガママに育つんじゃないか、と心配したけれど、……逆だった。
 美保は、世話を焼かれすぎて「心配かけちゃいけない!」と、どこか自分を押し殺すような性格に育った。
 長男の、大学受験の直前だっただろうか。
 入試直前の模試の結果が、最悪で。
 さすがに家の中もぴりぴりしていて、全体的に「お受験モード」。
 この時、まだ美保は幼稚園年長。
 なのに──美保はお腹がいたいのを、数日ずうっと我慢していた、らしかった。
 誰も、気がつかなかった。
 あたしは──母親、なのに。

「須賀川さん、美保ちゃん病院に搬送されました!」

 幼稚園の先生から連絡があって、あたしは泡を食って病院に駆けつけた。

「腹膜炎一歩手前ですね、手術が必要です」

 お医者様の言葉に、真っ青になって頷く。
 あたしに抱かれた美保は、ただ蒼白な顔でぐうっと唇を噛みしめてるだけだった。

「手術!」
「お腹に傷は残らないんですか!? 美保は女の子ですよ!」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!?」

 背後では兄妹喧嘩が始まっている。
 なんでいるの。というか特に兄の方、あなたは受験はどうなった?
 とにかく美保は手術を受けて(腹腔鏡手術とのことで、跡は目立たないようだった)落ち着いた頃、話を聞いてみると。

「おにいちゃんが」
「うん」
「じゅけんだから、みほ、じゃましちゃいけないと思って」
「オレの受験なんかお前に比べたら些末だよ!」

 兄の方はもはや泣いていた。

「さまつ?」

 美保は不思議そうにしていたけれど、とにかくまあ、美保はそういう性格で。
 兄のほうは、なにやら普通に合格していた。
 美保が責任感じるとダメだから死ぬ気で試験を受けた、と後々言っていたけれど……最初からそうして欲しかった。
 そんな子だったから、長じてのち(反抗期らしい反抗期もなかった)美保がお見合い話を受けたとき。

(……ほんとうに、いいの?)

 不安に思った。
 修平くんはいい青年だと思う(夫も気に入ってて、目をかけているみたいだ)。
 けれど、美保の。
 美保の気持ちは?
 周りに気を使って、断れなくてOKしたんじゃないの?
 だけれど、……修平くんは多分美保を幸せにしてくれる、と結婚式を見ながらそう思えた。
 美保は緊張して気がついていないかもしれないけれど、まぁ驚くくらいに──美保のことを愛してるのが、伝わってきたから。

 それからしばらくして、夏頃。
 ふと、美保から連絡があった。

「浴衣を探しているんだけれど、いいお店知らない?」

 夫婦で夏祭りにいく、という美保に、あたしからプレゼントすることにした。
 受け取りに来た美保に、修平くんと仲良くやってるの、と聞くと。
 ほう、と頬を赤く染めて小さく美保は頷いた。

(へえ!)

 あたしは感心してしまう。
 なあんだ! アナタもちゃあんと、修平くんが好きだったんじゃないの。
 ニヤニヤしてるあたしに、美保は「なぁに?」と不思議そう。

「なんでも?」
「変なお母さん」

 美保が笑う。
 女の子のように、恋をしたての、片思いをしてる幼い女の子のように。
 それからしばらくして、美保のお腹に新しい命がやってきて、順調に育って、産まれて──。
 しばらく実家ウチで(里帰り、ってほどの距離はないけれど、お互いに都内だったから)過ごしてる美保と、美保が産んだばかりの女の子、美雨のところに、甲斐甲斐しいほどに修平くんはやってくる。

「……お義母かあさん、すみません。助けてください」

 慣れない育児に疲れ果ててる美保に「俺があとはするから寝ていてくれ」と頼もしく言った修平くん。
 美保も、素直に甘えて──あたしは、驚いた。

(あの、美保が)

 人に迷惑かけちゃダメ、って自分を律してる美保が、素直に修平くんには甘えてる。
 それに、すごく……安心した。
 当の修平くんは、美雨を抱っこして、あたしのところまできて、どうしたものかと思案顔。
 大きな修平くんが抱っこしてると、まだ小さな美雨がさらに小さく見えた。

「あら」

 ミルクを飲んで大満足した美雨は寝てる。
 寝てるけど、寝る前にげっぷして、修平くんのシャツに吐き戻して。肩のところが濡れていた。
 ついでにゆるゆるのウンチまでしていて。
 うーん、あるあるだ。

「まずはオムツと美雨の服かな」

 そうですね、と修平くんは自分が汚れたのは気にならないのか、眠ったままの美雨のおむつを慣れない手つきで一生懸命に変えていく。赤ちゃん用のお洋服、ロンパースも。

「洗っておこうか」

 汚れたロンパースを手に取ろうとすると、修平くんは首を振る。

「いえ、俺が」
「いいのに」
「すこしは、慣れなければ」

 なんだか生真面目な顔でそう言うから、笑ってしまった。
 美雨もちっとも起きない。

「……美保そっくり」
「そうですね、美保に似てよかったです。優しい顔だ」

 修平くんはなんだか真剣に言うけれど、それにもあたしは笑ってしまう。修平くんは不思議そう。
 美雨はスヤスヤ眠っていて。

「アナタは幸せねぇ」

 そう言いながら小さな手のひらをつつくと、きゅうとその小さな小さな指が、あたしの指を握りしめた。
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