お見合い相手は無愛想な警察官僚でした 誤解まみれの溺愛婚

にしのムラサキ

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番外編

【番外編SS】結婚記念日【時系列戻ります】

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(時系列、新婚旅行後の秋くらい)

※※※

 結婚記念日まで、もう少し。
 もう少し、といってもまだ1ヶ月弱あるのに、修平さんはスマホで色んなレストランを検索しながら「どこがいい?」なんて聞いてくる。
 家のソファ。ローテーブルには、修平さんには日本酒、私にはアイスコーヒー……デカフェに、しておいた。
 そんなに気をつけなくていい、とは聞いたんだけれど。

「あの、修平さん」
「うん」
「家で、お祝いにしませんか?」

(あー……)

 変な汗出ちゃうな。
 緊張、……緊張してる。

「? いやもちろん美保の料理が世界一なのは前提として」
「前提にしなくていいです」
「それでもやはり外の方が──と、そうだ俺が作ろう」

 修平さんはうん、って頷いた。

「君のすきな銘柄でお酒も」
「あの、……お酒は」

 やめておきます、と小さい声で言う。
 修平さんは不思議そうに私を見た。

「あの、……来年の5月あたりに。家族が……増えますので、たぶん……」

 修平さんはめちゃくちゃぽかんと私を見つめて。

「つ、つわりが少しきてて! 来月だともっと酷くなってそうだなぁとか」

 分からないけれど──友達の話や雑誌とかネット情報だと、たぶんいちばんキツイ時期。

「だ、だから家でお祝いのほうが、いいかなー……って」

 言い訳のように、もごもごと呟きながら俯く。
 うう、なんか顔見れないよー。
 修平さんは、ゆっくりスマホをローテーブルに置いて、深く深く、深呼吸をした。
 それからとても自然に、私を抱きしめて。

「美保」
「っ、は、はいっ」
「とにかく身体がいちばんだ」
「はい」
「家事は今後一切、俺がする」
「!? や、やりますよそれくらいっ」
「しかし」

 修平さんは真剣に言う。

「悪阻でキツイんだろう」
「まだそんなに」
「では」

 修平さんは、やっぱり真面目に続けた。

「無理だけはしないと約束してくれ」
「……はい」

 修平さんはそう、っと私のお腹を撫でた。

「そうか」
「はい」
「名前を、考えなくては」
「気が早いですよ」

 思わず笑うと、修平さんと目があった。
 ものすごく、優しく細められて。

「修平さんに似てるといいな」

 修平さんに、甘えてくっつきながら、そんなことを言うと。

「……君に似た方がいいと思う」

 修平さんはとてもシリアスなトーンで、そう言った。

「俺に似たら目つきが悪い……」
「そんな風に思ってたんですか」

 思わず肩を揺らすと、修平さんはとっても不思議そうな顔をする。

「どうみてもそうだろう」
「ええと、端正とか?」

 だってカッコいいもの。

「いや。"もしノンキャリだったらマル暴にスカウトしてた"と若手の頃お世話になった警部に言われた」
「……マル暴って、あの?」

 ヤクザさんの家とかに、捜査で立ち入るのがニュースになってて。
 見かけるたびに「……どっちがヤクザか分からない」ってくらいに怖そうな顔の人が揃ってる、あそこ?
 うむ、って真面目に修平さんは頷いた。
 なんとなく、想像する。
 修平さんの、ヤクザさんっぽい、ちょっと着崩したスーツ姿。

「……似合うかも?」
「ほら、目つきが悪い」
「そうじゃなくてー」
「美保に似てくれ」

 お腹に向かって、修平さんはものすごく真剣に頼む。
 ひょい、と抱き上げられて、膝の上に収納されるように後ろから、抱きしめられた。
 お腹の上で、重なる修平さんの手。

「……ほんとうは、どっちでもいい」
「? そうなんですか」

 ん、と修平さんは肩口に顔を埋めて。

「美保と子供が元気なら、なんでもいい」
「……はい」

 ちゅ、とこめかみにキス。
 重なった手で、お腹がほかほかあったかい。

(元気に生まれてね)

 修平さんの手の上に、私も手を重ねた。
 小さな命が、もう一生懸命に心臓を動かしているかと思うと、なんだか不思議な感じ。

(会いたいな)

 私はどうか分からないけれど──。
 あなたのパパは、とっても素敵なひとですよ。
 重なる手のあたたかさ。
 はやくこの温もりに、あなたを触れさせてあげたいな、って。
 そんな風に、思ったのでした。
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