お見合い相手は無愛想な警察官僚でした 誤解まみれの溺愛婚

にしのムラサキ

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番外編

【番外編SS】(時系列新婚旅行後)(修平視点)

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「……なにがあったんです?」
「だから箝口令が敷かれてて」

 呼び出された、警察庁。
 警備局のその課長ははぁとため息をついた。
 部下の失態はイコールで本人の失態。

「あいつ、やってくれたよ。……羽鳥」

 さすがに俺も耳を疑った。
 羽鳥さんが、一般市民とトラブルを起こして、……それも傷害の現行犯で逮捕された。
 相手は、目の不自由な女性と、その孫だったらしい。

「それがさ、……なぁ。まさか高検の次席の母親と姪っ子だってんだから」

 最悪だよ、と課長は眉間を揉む。
 東京高等検察庁。その次席、No.2の家族とのトラブル。
 次席とはいえ、高検は特例だ。他の地検、それもA庁(東京地検、大阪地検その他)で検事正トップだった人間の「ご栄転」コース。

「まぁ、本人としては不幸中の幸いなのか? こうして内々で処理されてくんだから」
「……むこうもこっちにアドバンテージは持ってたいでしょうからね」
「あー、もー! ほんっとに余計なことしたな羽鳥!」

 くそ、と課長は疲れた顔で言う。

「結局マスコミに漏れたし。朝から上から詰められるし、苦情の電話で業務が捗らんと、オレに陳情が上がってくるし」
「……お疲れさまです」
「羽鳥は多分、懲戒処分だろうな」

 その言い方から、おそらく訓告や減給で済まされるものではない、と推測した。
 それはそうだろう。警察官が、それも警察庁警察官が、一般市民に暴力行為を働いたのだから。

「……」
「で、ね。まぁそのうち連絡行くとは思うけど」

 課長は俺をみた。じっと。

「お前が現場にこだわってんのは知ってるよ。ただ宮仕えの悲しさか、お前の希望と配属は一致しないこともある」
「……はい」
「要はいま、ここ人不足。警察庁こっち戻ってきて。一応栄転」

 静かに頷く。
 いずれは来ることになると、知っていた。

「ちなみに、どちらに?」
「企画課」

 警備局企画課。
 そうして課長が告げた、その名称は。

「将来的には理事官のポストのご用意がありますよ? 鮫川警視」
「……まだずいぶん先ですが」

 警視正になれば、ということだろう。目の前にぶら下げられた餌。
 食らいつけと言われている。試されている。
 試しているのは、……最愛の人の父親、だろう。目にかけてもらってると感謝すべきか。

「エースだってことだよ」

 チヨダ、もしくはゼロと呼ばれるその職場で理事官を務めるのは、それだけ重圧のある仕事。
 それに向けて動けという、内示。

「渋い顔だな」
「忙しいと妻とゆっくりできないなと」
「断る?」
「いえ」

 俺は頭を下げた。

「お受けさせていただきます」

 下げながら思う。
 現場に拘泥してる俺に、現場に近い職を与えてくれた。……報いなければ。

 その後署に戻って事務処理を終え、帰宅途中。白河さんから電話をもらう。

『会ってきたんだ、羽鳥に』

 羽鳥さんは今は釈放されて、自宅待機、とのことらしい。

『もうヨレヨレでさ。ヤバかったよ。あの羽鳥が、だよ? 10歳は老けて見えた』
「……そう、ですか」
『まー、いつか来るとは思ってたんだよな』
「?」
『なんつうか、……しっぺ返し?』
「と、いうと」
『あいつ、今まで人を駆逐して生きてきただろ? ま、本人気がついてなかったけど』

 駆逐。
 たしかにそうかもしれない。気に入らない人間は全て排除して、叩き潰して生きてきた、あのひと。
 しかも恐らくは「自然」に。
 羽鳥さんにとって、気に入らない人間はそうするのが当たり前。
 ……好き、だと言っていた俺でさえ、気に入らない内面を「矯正」してやろうとしていたのだろう。
 俺を全否定して。

『そのツケ、だろーなぁ……あいつどうなるの?』
「処分に関してはご想像にお任せしますが……容疑が固まり次第、送検はされるはずです」

 検察がどう動くか。
 次席の圧がなくとも、周りの人間は「そう」動くだろう。甘い処分はまず、ない。

『あいつの人生、失敗ってなかったからな』

 白河さんが感慨深気に言った。

『転がり始めたら、とことんだろうなぁ』

 俺はなんとなく、羽鳥さんの顔を思い浮かべた。
 もう二度と会うことのない、彼女の顔を。同情や憐憫が湧くかな、とも思ったが。
 ……やっぱり、嫌いだった。

 帰宅すると、上機嫌な美保の鼻歌が聞こえてきた。一気に俺の機嫌も回復していく。
 自分でも単純だと思う。

「ただいま」
「あ、おかえりなさーい」

 美保が柔らかに笑う。

「今日、お蕎麦です。旅行のお土産にした日本酒に合うかなぁって」
「いいな」
「天ぷら、今から揚げちゃいますから」

 いっぱい食べてくださいね、って美保が穏やかに目元を緩めた。
 その頬に手を伸ばして、親指で撫でる。

「? 修平さん」
「いっぱい食べてくださいね、か」

 美保をひょい、と抱き上げて。

「へ?」
「ではいただくとしよう」
「あの、私じゃない、っ、私じゃないですよーっ」

 甘くて蕩けそうな抵抗をしてるせる美保。可愛いその耳を、かり、と甘噛み。

「ひゃ、ぁ……っ」

 高い声を零す美保の耳元で、低く小さく、告げた。

「いただきます」

 可愛い妻は観念したように俺の首の後ろに手を回して。

「……召し上がれ?」

 許可ももらったし、たっぷり堪能させてもらうことにしよう。
 俺は思わず唇を緩めながら、そんなことを考えていた。
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