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(桔平視点)
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結局スヤスヤ眠ってしまった亜沙姫さんを、旅館の駐車場で起こす。あんまりにも幸せそうに眠っているから、起こすのは正直可哀想なくらいだった。
「……っ、はっ、寝てた!」
「ヨダレついてますよ」
ほんの少し、口の端にあったよだれ。亜沙姫さんは真っ赤になって、ハンカチで慌てて拭いていた。なんだこれ可愛い。網膜に焼き付けた。
チェックインしたあと、バタバタと夕食をとる。旅館の和食料亭で、メニューを見て目を輝かせる亜沙姫さんを見て目を細めた。
「ごめんね、私のバイトがなければ部屋食の懐石料理も頼めたんでしょう?」
チェックインを20時半にした関係で、部屋食の予約はできなかったのだった。
「先にきてさぁ、ゆっくり食べてくれていても良かったんだよ」
「いえ、それだと旅行の意味が……」
あれを渡したかったのと、亜沙姫さんとゆっくり、……というかいちゃいちゃしたかっただけなのだ。秘密だけれど。
「ん? 温泉好きなんでしょう?」
「? 好きですけれど」
広い風呂は気持ちがいい。……部屋に露天風呂がついているのは、亜沙姫さん気がついているよな?
「温泉入ってさ、のんびりしてたら」
「俺も道場ありましたし」
「あ、そっか」
なにかすれ違っている気がする。
気がするけれど、日本酒お猪口一杯で頬を赤くしてる亜沙姫さんが可愛くて、俺は半分思考がどこかへ行ってしまった。
夕食を食べ終わって、部屋に戻って──亜沙姫さんは大浴場へ行く気満々だった。
「おっきぃおーふろー」
「……あの、酔っ払ってはないですよね?」
「大丈夫大丈夫」
ほろ酔いなのか旅行のテンションなのか、大浴場へ行く準備をしながら亜沙姫さんはかなりの上機嫌だった。
「亜沙姫さん」
「なぁに?」
「……部屋にも露天風呂、あるんですよ」
「へっ?」
亜沙姫さんは驚いたように、大きな掃き出し窓の方を見る。障子を開けると、少し大きめの檜風呂が湯気を立てている。
「わ、わ、中居さん言ってた!?」
「言ってましたよ」
部屋についたとき、亜沙姫さんはまだ少し眠そうだった。そうか、寝ぼけていたのか、あれ。可愛い。
「亜沙姫さん」
後ろからそっと近づく。細い肩を両手で抱き寄せて、耳たぶを噛んだ。
「"おっきいお風呂"のあとでいいので──あれ、一緒に入ってもらえませんか」
最近、妙な自信がついてきている。
亜沙姫さんは、俺のお願いは大抵断らない。……もしかしたら、誰のお願いでもそうなのかもしれないけれど……それはかなり嫉妬するけれど、それは置いておいて──。
「ぁ、ええと、うん」
案の定、亜沙姫さんはきょときょとと目線をあちこちにやりながら、小さく頷いてくれる。
その返事に満足して、手を繋いで部屋をでた。亜沙姫さんは「おっきいお風呂」楽しみていたみたいだから──。
……と、俺はその選択を後に後悔した。
もう部屋の露天風呂だけで済ませておけば良かった。
大浴場は手前が男風呂、奥が女風呂で、明日の朝には入れ替わる。
とりあえずさっぱりと温泉を堪能して、浴衣に着替えた。
亜沙姫さんとの待ち合わせをしていた大浴場前の休憩所へ向かう。
もう遅い時間だというのに、結構な人数が籐の椅子に座り、のんびりと過ごしていた。
自動販売機の前で、俺は何か飲もうと迷っていた──ら、尻を叩かれた。
「亜沙姫さん?」
「こら! ダメダメだなぁ桔平くん、温泉上がりは瓶だよ、瓶。牛乳瓶だって相場が決まってるの」
振り向いた先にいた亜沙姫さんを見て、目が丸くなる。
(……扇情的すぎる!)
暑いのか、少し広めに寛げられた浴衣の襟元。……上から見ると、思い切り谷間が見えていた。
まだほんのり湿り気を残す髪は、軽くまとめられている。後れ毛が風呂上がりの上気した肌に落ちて。
薄手の浴衣では、隠しきれない亜沙姫さんの肢体。胸から太ももまでのラインが、くっきり──。
ばっ、と周りを見た。数人がサッと目を逸らす。
(見られた!)
いや見られて困るものじゃない。別に亜沙姫さんがフシダラな格好をしてるわけではない。ないけど、俺が嫌だ。
目線から隠すように身体を動かす。亜沙姫さんは不思議そうに俺を見上げた。
「牛乳、牛乳がいいんですね亜沙姫さん」
「うん……?」
首をひねる亜沙姫さんの身体をガードしながら、牛乳瓶が並ぶ販売機の前まで向かう。
「私、普通の牛乳~」
亜沙姫さんは上機嫌に牛乳を買う。
「桔平くんは? フルーツ牛乳もあるよ」
「……コーヒーにします」
俺がコーヒー牛乳を買うと、亜沙姫さんは何の警戒心もなく先程の籐椅子が並ぶあたりへ向かう。
……俺の独占欲が強すぎるんだろうか。
並んで座って、紙の蓋を開けた。亜沙姫さんはあれだけ豪語していたにも関わらず、苦心している。蓋の表面だけが剥がれていっていた。
「貸してください」
ぽす、と開けると嬉しそうに亜沙姫さんは笑う。
「ありがとう」
「──いえ」
亜沙姫さん、時々不器用だけれど、動物の手術とか大丈夫なんだろうか。そこは別問題なのかもしれない。
こくこく、と亜沙姫さんが牛乳を飲む。
「あ」
口の端から、牛乳が垂れた。
亜沙姫さんは赤くなって「飲み方失敗した!」とタオルを持つけれど──その一瞬の間に、牛乳が胸の谷間に落ちていく。
「……っ」
はっとして周りを見た。ざっと目線を外された。自分が凶悪な顔をしている自覚はあった。
亜沙姫さんはというと、さっさと拭き終わって続きを飲んでいる。
「亜沙姫さん」
「? なぁに」
「飲み終わったら、部屋で少し話があります」
「なぁに怖い顔して」
不服そうに唇を尖らせる亜沙姫さんに、俺は叫びそうになる。
そういう顔も可愛いから、できれば他の男の前ではしないでほしい……!
「……っ、はっ、寝てた!」
「ヨダレついてますよ」
ほんの少し、口の端にあったよだれ。亜沙姫さんは真っ赤になって、ハンカチで慌てて拭いていた。なんだこれ可愛い。網膜に焼き付けた。
チェックインしたあと、バタバタと夕食をとる。旅館の和食料亭で、メニューを見て目を輝かせる亜沙姫さんを見て目を細めた。
「ごめんね、私のバイトがなければ部屋食の懐石料理も頼めたんでしょう?」
チェックインを20時半にした関係で、部屋食の予約はできなかったのだった。
「先にきてさぁ、ゆっくり食べてくれていても良かったんだよ」
「いえ、それだと旅行の意味が……」
あれを渡したかったのと、亜沙姫さんとゆっくり、……というかいちゃいちゃしたかっただけなのだ。秘密だけれど。
「ん? 温泉好きなんでしょう?」
「? 好きですけれど」
広い風呂は気持ちがいい。……部屋に露天風呂がついているのは、亜沙姫さん気がついているよな?
「温泉入ってさ、のんびりしてたら」
「俺も道場ありましたし」
「あ、そっか」
なにかすれ違っている気がする。
気がするけれど、日本酒お猪口一杯で頬を赤くしてる亜沙姫さんが可愛くて、俺は半分思考がどこかへ行ってしまった。
夕食を食べ終わって、部屋に戻って──亜沙姫さんは大浴場へ行く気満々だった。
「おっきぃおーふろー」
「……あの、酔っ払ってはないですよね?」
「大丈夫大丈夫」
ほろ酔いなのか旅行のテンションなのか、大浴場へ行く準備をしながら亜沙姫さんはかなりの上機嫌だった。
「亜沙姫さん」
「なぁに?」
「……部屋にも露天風呂、あるんですよ」
「へっ?」
亜沙姫さんは驚いたように、大きな掃き出し窓の方を見る。障子を開けると、少し大きめの檜風呂が湯気を立てている。
「わ、わ、中居さん言ってた!?」
「言ってましたよ」
部屋についたとき、亜沙姫さんはまだ少し眠そうだった。そうか、寝ぼけていたのか、あれ。可愛い。
「亜沙姫さん」
後ろからそっと近づく。細い肩を両手で抱き寄せて、耳たぶを噛んだ。
「"おっきいお風呂"のあとでいいので──あれ、一緒に入ってもらえませんか」
最近、妙な自信がついてきている。
亜沙姫さんは、俺のお願いは大抵断らない。……もしかしたら、誰のお願いでもそうなのかもしれないけれど……それはかなり嫉妬するけれど、それは置いておいて──。
「ぁ、ええと、うん」
案の定、亜沙姫さんはきょときょとと目線をあちこちにやりながら、小さく頷いてくれる。
その返事に満足して、手を繋いで部屋をでた。亜沙姫さんは「おっきいお風呂」楽しみていたみたいだから──。
……と、俺はその選択を後に後悔した。
もう部屋の露天風呂だけで済ませておけば良かった。
大浴場は手前が男風呂、奥が女風呂で、明日の朝には入れ替わる。
とりあえずさっぱりと温泉を堪能して、浴衣に着替えた。
亜沙姫さんとの待ち合わせをしていた大浴場前の休憩所へ向かう。
もう遅い時間だというのに、結構な人数が籐の椅子に座り、のんびりと過ごしていた。
自動販売機の前で、俺は何か飲もうと迷っていた──ら、尻を叩かれた。
「亜沙姫さん?」
「こら! ダメダメだなぁ桔平くん、温泉上がりは瓶だよ、瓶。牛乳瓶だって相場が決まってるの」
振り向いた先にいた亜沙姫さんを見て、目が丸くなる。
(……扇情的すぎる!)
暑いのか、少し広めに寛げられた浴衣の襟元。……上から見ると、思い切り谷間が見えていた。
まだほんのり湿り気を残す髪は、軽くまとめられている。後れ毛が風呂上がりの上気した肌に落ちて。
薄手の浴衣では、隠しきれない亜沙姫さんの肢体。胸から太ももまでのラインが、くっきり──。
ばっ、と周りを見た。数人がサッと目を逸らす。
(見られた!)
いや見られて困るものじゃない。別に亜沙姫さんがフシダラな格好をしてるわけではない。ないけど、俺が嫌だ。
目線から隠すように身体を動かす。亜沙姫さんは不思議そうに俺を見上げた。
「牛乳、牛乳がいいんですね亜沙姫さん」
「うん……?」
首をひねる亜沙姫さんの身体をガードしながら、牛乳瓶が並ぶ販売機の前まで向かう。
「私、普通の牛乳~」
亜沙姫さんは上機嫌に牛乳を買う。
「桔平くんは? フルーツ牛乳もあるよ」
「……コーヒーにします」
俺がコーヒー牛乳を買うと、亜沙姫さんは何の警戒心もなく先程の籐椅子が並ぶあたりへ向かう。
……俺の独占欲が強すぎるんだろうか。
並んで座って、紙の蓋を開けた。亜沙姫さんはあれだけ豪語していたにも関わらず、苦心している。蓋の表面だけが剥がれていっていた。
「貸してください」
ぽす、と開けると嬉しそうに亜沙姫さんは笑う。
「ありがとう」
「──いえ」
亜沙姫さん、時々不器用だけれど、動物の手術とか大丈夫なんだろうか。そこは別問題なのかもしれない。
こくこく、と亜沙姫さんが牛乳を飲む。
「あ」
口の端から、牛乳が垂れた。
亜沙姫さんは赤くなって「飲み方失敗した!」とタオルを持つけれど──その一瞬の間に、牛乳が胸の谷間に落ちていく。
「……っ」
はっとして周りを見た。ざっと目線を外された。自分が凶悪な顔をしている自覚はあった。
亜沙姫さんはというと、さっさと拭き終わって続きを飲んでいる。
「亜沙姫さん」
「? なぁに」
「飲み終わったら、部屋で少し話があります」
「なぁに怖い顔して」
不服そうに唇を尖らせる亜沙姫さんに、俺は叫びそうになる。
そういう顔も可愛いから、できれば他の男の前ではしないでほしい……!
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