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「重い愛情」

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 不安でいっぱいになってる私をチラリと見て、なのに桔平くんは少し頬を緩めた。

(え?)

 なんだろう。なんだか優しい顔で。

「式や新婚旅行は、まだ未定です」
「未定ぃ~?」

 おねぇちゃんは不服顔。
 未定、未定……と、ハッとしておねぇちゃんの腕を取る。

「わ、私まだ大学に在籍してるから! 博士課程まだ終わってないし! ちゃんと就職してないしっ」

 おねぇちゃんはジッと私を見た後、桔平くんに向き直る。

「……なるほどね? じゃあそれはいいとして、アンタはなんでそんなにニヤニヤしてるわけ」

 桔平くん、別にニヤニヤはしてないと思う……。少し表情が柔らかいだけで。

「いえ」

 桔平くんはその柔和な表情のまま、続けた。

「姉妹ってこんな感じなんだなぁ、と」

 違うよ桔平くん。
 多分、世の中の普通の姉妹はこんなじゃないよ。

「俺は兄と弟しかいないので、新鮮でした。微笑ましいというか。仲が良いんですね」

 おねぇちゃんの機嫌が急上昇していくのがわかる。
 だいたい、私たち姉妹を見た人の反応は「あ、し、姉妹なんだ……?」だから。ほぼ100%、ドン引きといって過言じゃない。
 桔平くんみたいな反応は珍しい。

「そ、そうよ? アタシと亜沙姫は仲良しなの。らぶらぶなの。小さい頃から、一度だってケンカしたことがないのよ。ねー、亜沙姫?」
「う、うん……」

 それは、おねぇちゃんがマイペース過ぎるのが原因ではないかと思いますけれども。
 というか、おねぇちゃんに抵抗する気力がなかったといいますか……。

「喧嘩もないんですね。ウチは男兄弟で、喧嘩になると家が壊れる外でしろとよく」
「き、桔平くんケンカなんてしたの?」

 おだやか~な人だから(顔つきはともかく)そんなことないのかなぁ、と思っていたけれど。

「まぁ、たまにですけど……。姉妹の家だと、きっと優雅なんでしょうね」

 桔平くんはきっと夢を見ている。
 お姫様みたいな可愛らしい(?)姉妹を。
 実際は、お人形のようにフリフリの服を取っ替え引っ替え、髪型さえ自分で決められない環境にいたんだけれども。

「ふ、ふん。アンタを認めたわけじゃないけど、まぁまぁ見る目はあるみたいじゃないの」

 おねぇちゃんのツンデレ(?)的な対応のあと、おねぇちゃんは一泊だけウチでしていくことになった。
 夕食のお寿司で一悶着あったり、お風呂に一緒に入らされたりと色々あったけれど……。
 おねぇちゃんのパジャマは、桔平くんのスウェットを借りた。身長高いから、私のじゃ無理だ。
 謎に着こなしていて、思わず褒めると満更でも無さげだった。

「……ごめんね桔平くん、疲れたでしょ」

 おねぇちゃんを客間で寝かしつけて(文字通り)寝室に行くと、お風呂上がりの桔平くんが不思議そうに私を見る。

「いや、明るいお姉さんだなぁと」
「……めんどうくさい、とか思わなかった?」

 申し訳なくて、うまく顔が上げられない。

「なぜですか?」

 不思議そうな桔平くんの声に、私は言う。

「普通の"お姉ちゃん"はあんなじゃないよ、多分……」
「俺は」

 桔平くんが、さらりと私の髪を撫でた。ゆるゆると顔を上げる。

「アサヒさんが愛されて育ったんだなぁ、と……そう思いました」
「……愛が重すぎない?」
「重い愛情は苦手ですか?」

 やたらと真剣な眼差しで言われて、首を傾げた。
 重たい愛情?

「んん……慣れては、いるのかな」

 なんだかんだ、「あんな」じゃないおねぇちゃんは想像できない。いや、そろそろ妹離れして欲しいな~とは思っているんだけれど。
 ……無理かな?

「良かった」

 桔平くんは軽く頷く。
 どの辺が良かったのかなぁ。
 でも、とこっそり息を吐く。

(面倒くさい、とか思われてなくて良かった……)

 というか、姉妹は「あんな」だと思っちゃってるのかな?
 そのあと二人でベッドに入って、横になる。ぎゅうっと後ろから抱きしめられて、ほかほかあったかい。

「最近、冷えてきたよねぇ……」
「ですね」

 アサヒさんあったかいです、と首筋に顔を埋められる。くすぐったい。
 桔平くん、寒がりなのかな?
 筋肉質なくせに、って笑っていると、ぐっと腰を引かれる。

「……わ」
「すみません、つい」

 太ももに当たってる、桔平くんのおっきくなってるの……。

「アサヒさん」

 切なそうな声で呼ばれて、やわやわと胸を揉まれる。

「……っ、んっ」
「いやですか?」
「や、じゃないけど」

 声は我慢しなきゃだ……。
 桔平くんのキスがうなじに落ちてくる。ちゅ、ちゅ、と繰り返されるリップ音。

「すみません、堪え性がなくて」
「……っ、う、ん」

 でも、と桔平くんは続ける。

「アサヒさんがあったかくて柔らかいのがいけないと思います」
「ぅえ、そんな、ひゃっ」

 するり、とパジャマに入ってくる大きな手。胸に直接に触れられて、捏ねるように揉まれる。

「っ、ふぅ、……っ」

 胸、本当に揉まれておっきくなるのかなぁ。こんど論文検索してみようかな……。そんな論文あるかなぁ?

(でも本当だとしたら、これ以上大きくなるのは、ヤだなぁ)

 ……なんて思っていたら、きゅっと先端を摘まれる。

「……っ、」

 シーツを強く握った。肩で息をする。
 こ、声が出せないのって辛いんだね!?
 気持ちいいのが、逃せない。
 桔平くんが私の耳を、かぷりと噛む。
 私の身体は、小さく震えた。ふ、と息をついて甘い感覚に耐える。
 桔平くんは、そのまま舌で耳の溝をちろちろと舐めながら、ため息をつくように言った。

「我慢してるアサヒさん、めちゃくちゃそそりますね」
「……!」

 や、やっぱり桔平くん、苛めるの好きな人なんだな!?
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