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もやもやと、その資格

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 まあ分かってたけど、と私は買った下着の白い紙袋を手にお店を出た。

(待たせちゃったな)

 さすがに下着屋さんには入れなくて(鮫川くん、固まってた。思い出すとちょっと面白い)鮫川くんには一階のカフェにいてもらうことにしたんだけれど。
 時間がかかったのには、理由がある。
 大きいサイズのブラ、あんま可愛いのない! 知ってたけど!

(……別に、いいんだけれど)

 せっかくだから可愛いの、欲しかったような、……鮫川くん、別に興味ないかな?
 ないか。
 まぁそれでも──選べないなかでも、できるだけ可愛いのを選んで。
 店員さんがやたらとオススメしてくれた「セクシーで大人めなデザイン」のものも選んで……結構な出費だったけれど、まぁ予算内で済んで良かったと思う。

「どこかな」

 カフェをのぞきこむ。鮫川くんは大きいから、すぐわかるはず──。

「……あれ」

 一瞬、心臓がキュッてなった。
 鮫川くんが、誰か女の人と話してる。私より、もう少し年上の、ふんわりした雰囲気の女性。

「……顔、赤い」

 鮫川くんの顔、ほんのり赤い。
 心臓がツキツキ痛い。
 誰、なのかな?
 ここで会う約束してた?

「あ」

 目があってしまった。
 鮫川くんが立ち上がる。元の、少し野良猫みたいな目にもどる。

「アサヒさん」

 呼ばれて、顔を上げた。鮫川くんがギョッとする。

「どうしました」

 駆け寄って来てくれた。
 心がどこかすっとして、……自分でも性格悪くて嫌になる。

「なんでもないよ」
「体調でも」
「悪くないよ」

 頑張ってにっこり笑えば、鮫川くんは引いてくれた。それから、目線を席に戻す。
 私も目線をそちらに──女の人と、目があった。にっこりと笑って、会釈してくれる。

「一番上の兄貴の、奥さんで。たまたま」
「……あ、そう、なの」

 頬が熱い。
 あ、お義姉さん、……だったのか!

(は、恥ずかしい!)

 え、今のヤキモチやいてた、私?
 ていうか冷静に考えたら、それはそう。私と出かけてるのに、わざわざ別の女の人と会ったりしないよ、鮫川くんそんな人じゃない。
 ほんとにもう、私、どうしちゃったんだろうか。思考が悪い方、悪い方にいってるとしか思えない。

(でも、頬赤かった)

 ぼんやりと、心にそれだけはシコリのように残る。
 ていうか、今もまた、ちょっと赤くなってる。

(なんで?)

 ねえなんで? モヤモヤ。

「こんにちは」

 お義姉さん、美保さんというらしい──は、柔らかく笑ってくれる。
 向かいの席に鮫川くんと並んで座りながら、アタフタと頭を下げた。

「秋に顔合わせが、とは聞いていたんですけれど、先に会えて嬉しいです」

 美保さんが微笑んだ。
 私たちは式をしないかわりに(だって、秘密だけれど契約結婚だ)11月に両家顔合わせをする、という話になっていた。

「こちらこそ」
「今日は、主人と子供たちはお留守番なんです」

 美保さんはちらり、と時計を見た。

「もう少しお話したかったんだけれど」

 ちょっと残念そうにしながら、美保さんは席を立つ。いまからお友達とお茶らしい。

「じゃあまた!」

 優しく笑う美保さんは、ちらっと鮫川くんを意味ありげに見て、いたずらっぽく笑う。
 鮫川くんの頬が、またちょっとだけ赤くなって──私の心臓は、つきん。

(もしかして)

 もしかして、鮫川くんの……「ずっと好きだった人」って。

(美保、さん?)

 だとしたら、繋がる。
 お兄さんの奥さんに、片想いして──いまだにもしかして、好きで。
 結婚相手なんか誰でもいいやってくらいに、好きで、好きで──。

「行きましょうか」

 鮫川くんの声に、ハッとする。
 いつも通りの、野良猫みたいな目線。少し無愛想な声音。なのに手はきっちりと繋がれた。
 もやもや。
 けど、私にはこのモヤモヤをどうにかする資格なんかない。
 ヤキモチ妬く資格は、私にはない。
 きゅっと手に力を入れると、目線はまっすぐ前のまま、別段私の方に視線をくれるわけでもなく、でも──鮫川くんも、きゅっと手を握り返してくれる。

(……いいやぁ)

 なんだか、力がぬけた。
 これだけで、いいや。
 鮫川くんのおっきな手が、あったかい。
 ぼーっとしてる間に、鮫川くんが来たがっていたデパートに入る。
 一階には、化粧品と宝飾品売り場。
 香水の香りがするなー、と手を引かれるまま連れてこられたのは、宝飾品のほうだった。

「? 鮫川くん、アクセサリーなんてつけるっけ?」

 あんまりイメージにないなぁ。
 時計だとすれば、別の売り場の方が種類ありそうだけれど……と、視線に気がつく。

「?」
「あの、……俺のもなんですが。アサヒさんのも」
「私? 私あんまりつけないよ」

 きょとんとしてると、鮫川くんはじっと私を見つめて、そのあとぐっと唇を噛み締めて口を開く。

「指輪を」
「指輪?」
「結婚指輪を」

 鮫川くんは、すうっと息を吸った。

「作りませんか」
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