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触れたくて、感じたくて

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 はっきり言うと、「胸ですること」……鮫川くんは別に気持ちよくないみたいだった。
 ただ──眼鏡をしてなくて、ぼんやりとしか見えないなりに伝わってくる雰囲気はすっごく「オス」で……なんていうか。
 興奮は、してくれているみたい。

(うれしい)

 ベッドの上で、お互い裸で、鮫川くんが仰向けになってて。枕をクッション代わりに、軽く上半身を起こして、何やらジッと私を見つめているみたいだった。
 私が「鮫川くんにしてあげるの」って初めて、かも。

「気持ちよくはない?」

 鮫川くんは、しかしものすごくキリッとした口調で答えてくれる。

「はい。ただ、ものすごく興奮はします」
「するの?」

 地味メガネザル、な私なのに。あ、眼鏡外してるから単なる地味サルだ。
 首を傾げた。

「します」

 断言して、そうっと私の髪に触れる。
 指先から伝わる熱。

(そっかぁ……)

 男性は胸が大きい方が好きなのかな? 個体差があるとは思うけれど、傾向として?

(そういえば、毎日シてるもんね)

 生まれてはじめて、胸が大きくて良かった、って思えた。
 鮫川くんが悦んでくれるから。
 好きな人に何かできることがある、って嬉しいし、……私で興奮してくれるなんてすごく嬉しい。
 鮫川くんが好む部分が、私の身体に附属していたことが、とても誇らしい。

(イヤだって思ったのに)

 中学のときは──先輩たちに、そういう目で見られていたことが、すごくショックだった。
 だから、あれ以来、できるだけ胸が小さく見えるブラジャーを選んで、買って。
 ……高校の水泳なんかは、地獄だった。男女別にしてくれたら良かったのに。

(て、ことは……)

 鮫川くんを見つめる。

「鮫川くん、もしかして巨乳好き? それで私?」

 契約結婚──家にいてくれるなら誰とでもいいにしたって、体付きくらいは好みのひとが良かった、とか?
 鮫川くんが慌てた声で「まさか!」と強く言う。

「そんなつもりはありません。胸なんか、大きくても、小さくても」
「そうなの?」
「そもそも……その、アサヒさんの胸がそんなにあることを知ったのは、……結婚してからです」
「あ、そっか」

 返事をしながら、自分の胸の間でそれでも屹立して先端から液体を零している鮫川くんのを見つめる。なんとなく舐めた。

「……ッ!」
「気持ちい?」

 鮫川くんの反応が明らかに違う。なるほどなぁ。なんか可愛いなぁ。
 もう一度、そっとキスをした。それから少しだけ、先端だけを口で咥えて舐めてみる。

「……アサヒ、さん」

 鮫川くんのおっきな手が、私の頬を撫でる。
 ゆるゆるとしたその手に撫でられながら、……、思う。シたいな、って。
 そう。
 生物として、性衝動があることは仕方のないこと。

(言い訳、だなぁ)

 単純に、好きなひとと……セックスしたいんだ、私は。
 がばりと上半身を起こした私に、鮫川くんは不思議そうに、でもすこし労るような声で「キツかったですか?」と聞いてくる。

「ううん、あの、ね」

 膝立ちになって、鮫川くんの上に跨る。

「挿れて、い?」
「……」

 鮫川くんの反応はない。私はほんの少し残念に思う。でも、──太ももまで濡れている分泌液。
 それを溢れさせている入り口に、鮫川くんの先端だけを当てがった。

「お願い」

 自分がこんなふうになる、なんて……思ってもみなかった。
 誰かを求めて身体が疼くなんてこと、想像もしていなかった。
 心が痛くなるなんて、──誰かと夜空を眺めたいと願うなんて、そんなの……考えたことも、なかったから。

(身体だけでも、いいんだ)

 直接、繋がりたい。
 触れたい。
 触れて欲しい。
 くちゅ、と自分のナカに、鮫川くんの肉ばった先端だけを埋める。

「──アサヒ、さん」

 鮫川くんの声が掠れている。
 表情は見えない。眼鏡、しておけば良かった。どんな顔で、私をみているの? あなたは。

「ゴム、は」
「いらない。でも、こんなの、言うの」

 ぐちゅ、と腰をまた少し、沈めた。
 奥まで欲しがって、私のナカが蠢く。誘うように締まる。

「鮫川くんだけ。他の人だったら、──絶対に言わなかった」

 シたいのは、身体だけでもいい、胸目的でもいいんだ、繋がりたいのは……鮫川桔平くん、あなただけなんだよ。
 お願い、と嘆願する私の声と、私を呼ぶ鮫川くんの声は同時だった。そうして、鮫川くんが私の腰を掴んで自分の腰を突き上げる。

「っ、ぁあ、っ!」

 思わず顎が仰反る。

「あ、ぁ、あっ」

 そのまま、腰を下ろして──奥に当たる、鮫川くんの。
 すっかり馴染んだ私のナカは、悦んで蕩けてグズグズだ。

(鮫川くんの、鮫川くんの……っ)

 鮫川くんのを、私のナカが直接的に包む。ナカで、そのままの彼を感じて、いて。
 私の腰は、自然に動いた。
 動き方なんか、わからない。ただ気持ちいいところに鮫川くんのが欲しくて、鮫川くんに気持ちよくなって欲しくて、がむしゃらに動く。
 ぬちゅぬちゅ、と粘膜が擦れる音。

「ぁ、あっ、あ……」

 ぎしぎしとベッドが軋む。
 はぁはぁと、お互いの息が荒い。

「鮫川くん」

 快楽に飲み込まれそうになりながら、私は言う。

「気持ち、いい?」

 鮫川くんはぐっと耐えるような、そんな声で「は、い」と答えてくれた。

(キモチイイんだ)

 嬉しい。
 私はなんだか──とても満たされたような気分になって、小さく笑った。
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