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雨音

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「荷物の点検の前に、それぞれの島に着く前後の行動を整理しておかへん?」

 山ノ内さんは言う。

「夜のパーティ以降の行動は、その監視カメラ映像にある通りのはずやし」

 と、タブレットを目線で指す。

「まぁ、この中にヒト殺しがおるなんてあんま考えたくないけどな、せやけど、雑餉隈さんが殺されてるんは確かなんや。もしかしたら、その辺にヒントがあるかも分からへん」
「……そう、ね。わたしとしても、犯人がこの中にいるとは考えられないけれど」

 そう言いつつも、牟田さんはチラリと山ノ内さんを横目で見た……何か考えがあるのか?
 鹿王院さんも異論はないみたいで、となると大人たちに従わざるを得ない、だろう。

「言い出しっぺやし、俺からな。俺が島に着いたんは昨日の昼過ぎや。牟田さんと、資産家さんと」

 山ノ内さんはちらりと、牟田さんと鹿王院さんを見た。

「大橋さんに福岡空港まで来てもろうて、そのあと港からクルーザーでここまで来たわ。ほんで、庭でガーデンパーティ言うんやろか、お茶もろうて、……その時すでにヒカルとミチルはおったな?」
「はい」

 ヒカルが頷いた。ミチルが後を引き取る。

「わたし達が島についたのは、昨日の10時…….午前10時くらいだったかな? ヒカル」

 ミチルの言葉に、ヒカルは頷く。

「博多駅まで大橋さんに迎えに来てもらいました。あのヒト……父親は、その時もうこの島にいたんですよね?」
「ええ。一昨日からご宿泊でした」

 大橋さんはうなずく。

「そもそも」

 鹿王院さんが口を開いた。

「あなた方2人は、どういう経緯で雑餉隈さんに雇用されたのです?」

 大橋さんと吉田さんは顔を見合わせた。

「……わたしは昔からお世話になってまして」

 大橋さんは言う。

「社長が、……雑餉隈が以前経営しておりました不動産会社に勤務しておりました。退職していたのですが、こういう美術館を作るから管理人として住み込みで働かないか、とお声がけいただいて」
「なるほど。吉田さんは?」
「あ、僕は今回限り、というか」

 吉田さんは手を振る。

「僕は博多のフレンチレストランの従業員なんです、本当は。雑餉隈さんは常連客で……こういったイベントの時だけ、出向で働いてくれないかと」

 お給料も良くて、悪い話ではなかったですし、と吉田さんは眉を寄せた。

「まさか、こんなことになるとは……」
「ちなみに」

 大橋さんが言う。

「我々ふたりと、雑餉隈は一昨日からこの島にいます。わたしは皆様をお迎えに時々本土へ行きましたが、おおむねこの島にいたと思っていただいて結構です」
「分かりました」

 鹿王院さんは言う。

「では、次は俺が話そう。と言っても、概ね山ノ内の言う通りだ。福岡空港まで来てもらって、そのあと船」
「わたしもよ」

 牟田さんが手を挙げた。

「全く同じ……違う点と言えば、そうね、大橋さんに荷物を持ってもらったくらいかしら」
「あの坂は、女性が荷物を持って登るのは難しいかと」

 大橋さんは苦笑する。

(そういえば、華と日和も持ってもらっていたな)

 華に至っては、背中を健に押してもらうまでしていた。ヒールでは、あの坂はきついから。
 島についてからは、華はサンダルで過ごしているけれど。
 ちらりと牟田さんの足元に目をやる。これでもかと言うほどのピンヒール。背が高い上にこれだから、ほとんど山ノ内さんと背は変わらなく見える。

(これであの坂を登ったのか)

 僕には絶対無理だ。

「それから、そう、鹿王院さんとは空港で名刺交換させていただいたわ。山ノ内さんには断られたけれど」

 肩をすくめる牟田さんに、山ノ内さんは苦笑する。

「や、だって俺、名刺ないっすし……」
「今更だけれど、はい」
「ああ、あざす」

 山ノ内さんは牟田さんから名刺を受け取った。少し不思議そうな顔をしている。

「じゃあ、俺ら」

 健が僕たちを代表して言う。

「大橋さんに博多駅まで来てもらって、その後船っス。ガーデンパーティーには間に合わなくて、途中参加になったっす」
「そうだったね」

 ヒカルが言って、皆無言になった。
 外の雨音が、うるさいくらいに響く。風もさらに強くなってきていた。

「あー」

 山ノ内さんが、ボリボリと頭をかいた。

「すまん、時間ムダにさせたな。なんもわからんかった」
「そんなこと、ないわ」

 牟田さんは微笑んだ。

「分かったこともある」
「え、なんすか」

 山ノ内さんが聞く。牟田さんはゆったり笑った。

「今は秘密……」

 少しぽってりとした唇に、たおやかな指をそっと当てて牟田さんは言った。山ノ内さんが気圧されたようにたじろぐ。

「美魔女だ」
「美魔女だねぇ……」

 華と日和が感心したように言った。

「色気がすごい」
「あら、ありがと」

 牟田さんは艶やかに笑う。

「まだまだイケるかしら、わたし?」
「もーぜんぜん美しいですよ」
「ふふ」

 牟田さんは笑うけれど、その目はあまり笑っていない。何か確信があるような顔だ、と僕は思った。
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