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【高校編】分岐・黒田健

【最終話】夏のひかり

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「で、アレで終わったんだよな?」

 ものすごく唐突に黒田くんが言うから、私は首を傾げた。
 夏、の入道雲が浮かんでいる。
 黒田くんの家の近くの公園。
 暑すぎて、人の姿はまったくない。
 その、葉桜が濃い緑を反射するその木陰のベンチに、私たちは座っていた。
 セミがうるさくて、影が信じられないくらいに、黒い。
 ぽたん、ってそこに食べかけのアイスがひと雫。

「あ」

 慌ててそのアイスキャンディをペロペロ舐めながら、「なにが?」って答えた。
 黒田くんは「お前はそれを別の男の前でやるな、絶対にやるなよ」と釘を刺しつつ(なんでだろ)続ける。

「設楽の言ってた"ゲーム"とやらのシナリオ」
「へ? あ、うん。おしまい」

 私は頷く。

「あそこで終わり」

 後日譚、みたいなのはあったっけ……? 細かいことは千晶ちゃんに聞いてみなきゃだけれど、大筋はあそこで終わりだろう。
 桜の庭園。
 断罪。
 ……されたのは、悪役令嬢わたしじゃなくてヒロイン青花だった、けれど。

 青花の件は凄かった。
 日本中が大騒ぎしたし、ていうか未だに大騒ぎ。
 ジョシコーセーが警察官と共謀して、無差別……どうやら「色」っていう共通性はあったみたいだけれど、全く恨みもなにもない人たちを、殺して殺して殺して回った……ってのが、かなりセンセーショナルだったみたい、で。

「言っとくけどな」

 そんな話をしたら、黒田くんに頭を撫でられた。

「?」

 黒田くんはよしよしって私の頭を撫でたり頬を撫でたりで忙しそう。
 撫でられるの気持ち良くて、目を細めたりしながらされるがままになっていたけれど、なんでしょうこれ?

「なあに?」
「……お前もさ、なんかされそーになってたって気が付いてたか?」
「え!?」

 わ、私!?

「なんで? そりゃ、邪魔だったのかなーとか、はあるけれど」

 ちゃんと悪役令嬢して! みたいな感じのことは言われてたし、妙に不気味だったけれどシナリオに沿うような動きも見せていたし。

「それだけじゃなくて……設楽の"楽"、白が入ってるから」
「あ」
「多分だけど、……白井を殺して、その犯人に仕立て上げるつもりだったんじゃねーかなって」
「う、うわわ!?」

 それは相当に怖い!
 そんなこと企まれていたのか……。

「こーわ……」

 ぞっとした。
 また、ぽたりとアイスキャンディが溶けるけど、なんか舐め直す気にならない。

「まぁあいつも当分は塀の中だ」

 黒田くんがぽつりといって、私は頷く……青花は、少なくとも死刑にはならない。未成年、だから。

「とにかく」

 気を取り直すように、黒田くんは私からアイスキャンディを奪って食べる。

「甘っ」
「おいしーじゃん」
「これ逆に喉乾かねー?」

 真夏に食べるアイスの美味しさが分からないらしい。私は少し頬を膨らませてアイスキャンディを取り返す。

「へーんだ。美味しいからいいんだもんね」

 ぺろり、とひと舐め。
 その唇に、キスされた。
 閉じた唇を宥められるように舌で開かれて、入ってきた黒田くんの舌が私の口の中を舐め尽くす。
 持ってたアイスキャンディがとろりと溶けて、私の手をどんどん甘くベタベタにしていく。

「ふぁ……っ」

 ぽとり、とアイスキャンディが地面に落ちる。

「エロい声」

 からかう声と共に、黒田くんの唇は離れていって。

「こっちのが甘い」

 黒田くんが目をほそめて、私の胸はきゅうん。アイスキャンディを取り落としてベタベタな右手を、黒田くんは手に取る。

「?」

 なにしてるのかな、って見てたらぺろりと舐められた。

「ひゃうん!?」

 私の変な声に、黒田くんは肩を揺らすけど止めてくれる気配はなくて。

「や、ぁ、……っ、黒田くん」

 ぺろりぺろり、と丁寧に舐めあげられる手、と指。
 ちゅ、と吸われて指と指の間まで舐め尽くされて。
 なんだかクッタリしてる私の、今度は左手をとって、その薬指に口付けた。

「……?」
「設楽、結婚しようか」

 私はぱちぱちと瞬きをして黒田くんを見つめた。……結婚? え?

「これから採用試験始まるから」

 私は頷く。警察官の、採用試験。

「絶対合格するから」
「うん」
「設楽、大学生かもしんねーけど。結婚しよう」
「……」

 ぱちぱちと、瞬き。
 結婚。
 桜の葉を透かす、夏の光が黒田くんをきらきらさせて見せている。
 なくてもキラキラしてるけど。

「あー」

 無言の私に、黒田くんは苦笑い。

「やっぱ早いか? 設楽の大学、卒業まで待っ」
「待たなくていい!」

 私はがばり! って黒田くんに抱きつく。

「待たなくていいよー! しよー! 結婚!」
「……俺もしばらく警察学校で、一緒に暮らせるわけじゃねーけど」

 うんうん、って私は頷く。

「待ってるうう何年でもおおお」
「いや1年もねーから」

 冷静に突っ込みつつ、黒田くんは私の背中を撫でた。
 暑い夏で、黒田くんの身体も熱くて、ポーカーフェイスを装ってるその頬が真っ赤なのは、暑さのせいだけじゃなことくらい、私にだってわかる。

「あのね黒田くん、大好き!」
「……知ってるよ」

 黒田くんは片頬だけをあげて笑って、小さく私にキスをした。

「愛してる、……華」

 小さく呼ばれた私の名前に、私は笑ってるつもりだっけど、もしかしたら泣いてたかもしれない。
 でもそれは黒田くん、……じゃないや、健くんだって一緒だったから、まぁいいやなんて、私は思ったりするのでした。
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