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【高校編】分岐・山ノ内瑛

夏の日(中)

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「えー、ほんとに可愛い」
「そりゃ山ノ内も隠しとくよな、こんな可愛い子」
「美人~」

 華は目を白黒させて、少しだけ俺にきゅっと近づく。びっくりしてる。
 どいつもこいつも180はこえてるし、デカいやつは2メートルある。華からしたら、威圧感すごいやろな。

「おらお前ら解散っ! 解散や! どっかいね!」
「えー、山ノ内。いいじゃん」
「みんなでメシいこーよー」

 みんなでっつうか華と飯食べたい感満々なやつらを無視して華を連れて地下鉄に乗る。華は切符をすこし嬉しげに眺めた。

「どこいくの?」
「東京駅」
「ええーっ」

 華の不満げな声。

「なんで!?」
「いや、帰らなあかんやろ」

 華にスマホの画面を見せた。着信履歴が全て「相良仁」で埋まっている。華の護衛サン。

「めっちゃ怒られるで?」
「むー」

 華は不服気。よしよしと頭を撫でると、少し気を取り直したように笑った。

「ま、いっか。アキラくんカッコよかったもん」
「せやろ?」

 にかっと笑うと、華も照れたように笑った。あかん、ほんまに可愛い。

「せやけど、ほんまどうやって来たん?」
「だから新幹線だって」
「そうやなくって、」

 俺は少し口籠る。華は察したように笑った。

「駅まで行って、聞いたの。この体育館まで行きたいですって」
「そしたら?」
「お客様これは東京ですよって言われたから、東京行きたいんですって。駅員さん、びっくりしてたけど教えてくれたよ」

 そこから新神戸まで向かって、また駅で人に新幹線の乗り方を教えてもらったらしい。

「それで、着いたらまた人に聞いて」
「あかーん」

 俺はぎゅうと華を抱きしめた。周りの乗客が、ぎょっと俺たちを見る。

「何しとるんや、悪いヤツおったらどうするつもりやったんや、誘拐されてたかもなんやで?」
「されないよー、大丈夫だよー、私、オトナだよ?」

 それから首を傾げた。

「オトナ? 大人……私、何歳?」
「21」
「だったら、大人だよね? あれ? なんか違う気もする」

 唐突に少しパニックになる華を、俺はさらに抱きしめる。
 華は急に記憶が思い浮かんで、たまにこうなるときがある。

「大丈夫や、華。ゆっくりで」
「……ん。ごめんね、私の方が年上なのに」
「昔からそんな感じは無かったで?」
「うそー!」

 ケタケタと華が笑うから、俺は少し安心する。
 せやけど東京駅について、固まった。新幹線、動いてへん。

「終日運休」

 華は嬉しそうに言った。

「えへへ、お泊りだ」
「……」

 ラッキー! って感情と「いやあかんやろ妊娠させてまうやんけ」って感情がぐるぐる。
 いま都内で一人暮らしな俺の部屋なんか、クッソ狭いで同じ布団で寝るしかないし。そんなんなったら、さすがに理性どっか行く自信あるでほんまに!

(せやけど)

 じ、と華を見下ろす。
 まだ俺といられる、ってはしゃぐ華。……しゃあないなぁ、もう!

(いざとなりゃ俺は玄関ででも寝たらええか)

 そう決めて、スマホの向こうから「絶対に手ぇ出すなよ」と呪詛のような声で言う相良サンの許可を取って(つうか、あんたが華をひとりで外出させるからこんなことに! って言うたら「小西の仕業だ!」って返ってきた)華を家に連れて帰る。
 家いうか、ほんまに狭いワンルーム。

「わー。せまーい」
「遠慮ないご意見ありがとう」
「えへへ」

 華は嬉し気に、俺のベッドに座った。……まぁ、座ることそこしかないねんけど。
 ないねんけど、俺のベッドに華がおる。……あかん、頑張れ俺の理性。

「あ、写真飾ってくれてる」
「んー」

 何枚も飾ってる、華の写真。

「これ、高校の時?」
「そ」

 華と行った、都内の水族館。華は首を傾げて、それから目を細めた。

「……行ったら、思い出すかな」
「明日、行こか」
「え、時間あるの?」
「午前中だけやけどな」
「わーい」

 華はにっこりと笑う。俺はすこし、胸が痛い。

「あ」

 華は思い出したように、自分の鞄から小さな包みを取り出した。

「これね、小西さんからアキラくんに」
「俺に?」

 なんやろ、と包みを開けて、すぐに閉じた。

「? なんだったの?」
「なんでもない」

 ゴムやった。コンドームやった。サイズ違いで二箱、入っていた。

(……あんのひと、何考えてんねんっ)

 ふと、ついていたメモに気がつく。"サイズ分からないから二箱にしました"……俺も分からんわ、こんなんっ!
 途中のスーパーで買ってきた惣菜をせっまいローテーブルに並べて、2人で晩ご飯を食べる。白飯だけ炊いた。

「えへへ、たのしーい。新婚さんみたいじゃない?」
「……ほんまやな」
「ふふふ」

 華は甘えるみたいに、俺にすり寄ってきた。あかん可愛い。じゃなくて、ええと、なんやこれ。

「華サン?」
「……不安になるの」

 華は俺にぎゅっと抱きついて、小さくいう。

「アキラくん、なんで私のこと好きでいてくれるか分からないんだもん」
「華」
「記憶が、ないから……自信がないの」

 華はぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。

「せめて身体でつなぎとめたい、って思っちゃうのは、ダメなこと?」
「ダメ、とかやなくてな、華」

 華は俺の首のうしろに、手を回した。可愛すぎる表情で、首を傾げて、それから唇を重ねてきた。
 少し、震えていてーー切なくて、愛しくて、思わず華を抱きしめた。
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