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【高校編】分岐・山ノ内瑛

桜と雪

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 ふ、とアキラくんと目が合う。
 肩をすくめられて、私は身体から力がぬけた。

(……そっか、これ。もう、ほんとに私関係ない「イベント」なんだ)

 高校生の、断罪される悪役令嬢はいなくて。
 この場は、青花のために準備された舞台。アキラくんのお父さんたちが「事件を終わらせる」ーーそのための。

(いまいち概要はわかってないんだけれど)

 犯人が、……ここに現れるってこと、なのかな。
 いちおう数日前から、警戒するようにとは、それとなく伝えられていた。

(なんだっけ……ええと、青花と犯人を繋ぐ直接の線がない、とかで)

 自供をねらう、それも言い逃れできない状況でーーだから。

「しばらく高等部のほうには寄らないほうがいいかも」

 そう、お父さんは言っていたけれど。
 逃げるのもな、って迷って、やっぱり逃げたくなくて普通にこっちにもきてたんだけれど。

(わかってたのに、一瞬我を忘れちゃった)

 自分に呆れる。
 でも、それだけ恐れていた光景だったんだろうーーあの、断罪のシーンというのは。
 ちら、とアキラくんを見る。軽く微笑まれた。笑い返す。うん、もう大丈夫。
 青花は少しずつ、雰囲気が違うことに気がつき始めていた。
 きょろ、と見回す。
 そうして、不思議そうな顔をした。
 肩を抱かれているというよりは、掴まれていて。
 見守られているというよりは、見張られている。

「桜澤青花さん」

 ざ、と現れたのはスーツ姿の男女数人。

「こんにちは」
「……こんにちは?」

 訝しそうに、青花は答えた。

「単刀直入に申し上げます」
「……はい?」
「あなたに、逮捕状が出ています」

 ぽかん、と青花は口を開く。

「……は?」
「犯罪教唆……こちらは共同正犯ですね、それから売春防止法違反、および斡旋の件でお話が聞きたく」
「なにそれぇ!?」

 青花はばっ、と自分の肩を掴んでいた樹くんの手を振り払う。

「聞いてない! だ、だって今日は」
「今日は?」

 聞き返す刑事さんの言葉に、青花の視線はウロウロと私へ。

「断罪の日、のはず、……で」
「断罪?」

 なんの話です、って顔の刑事さんを無視して、青花はブツブツと続けた。

「だから、あたし、もここに呼んで」
「桜澤さん?」
「そんで、もっと断罪を面白くしてやろうと」

 きょろきょろ、と青花の視線の先にーーそいつはいた。
 思わずすくむ身体と、そっとそばに来てくれたアキラくん。

「これで終わりやからな」

 小さく言われて、うなずく。
 そうだ、ここで終わりーー。

「な、にを」

 青花は私を見て、口を開く。

「なにを勝ち誇った顔をして」
「……」

 そんなつもりはない。
 ただ、……少しの安堵はあった。


「……え?」


 青花が笑った。



 私は振り向く。
 そいつは、お母さんを殺したそいつは、アキラくんのお父さんに腕を取られながらーー私を見て、笑っていた。
 桜吹雪が、舞う。
 ちらちらと、白く、雪のように。

(私のせいで、殺された)

 お母さん。
 優しくて大好きだった、……大好きな、お母さん。

(私のせいで)

 ズタズタにされて殺された。

(痛かったよね)

 痛かった、はずだ。
 刺されるのは、殺されるのは、痛くて熱くて怖い。
 "私"は知ってる。
 そうやって、かつて、殺されたんだから。
 目の前を桜が舞っていく。
 誰かが私の名前を呼んでる。
 ……桜?
 ちがう。
 雪が降っている。
 暗闇の中を、雪が舞い降りてくる。
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