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【高校編】分岐・黒田健

【side健】クリスマス

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「桜澤青花の監視、解かれることになったよ」

 親父がそう言って、俺は眉を片方だけ上げた。

「マジかよ」
「上の決定でね」

 親父は俺をじっと見ている。

「何せ、また事件が起きた。監視下にいたにも関わらず、だ」

 俺は頷いて、さっき見たニュースを思い出す。
 名古屋市の緑区で変死体が見つかって、被害者の名前は「佐川緑介ろくすけ」。

「手口も凶器も一致した」
「ちゃんと監視されてたんだよな?」
「疑うなぁ……一応、俺の班から何人か出して、それなりに」
「親父の」

 ふ、と思い浮かべる。

「それ、白井ってひと?」
「まぁ、白井もメンバーではあるけれど」

 白井。
 この間学校にいたな? 剣道部OBとか言ってたか。

(OBなら、同窓会名簿も手に入る)

 もし、もしだ。
 白井が桜澤と繋がっていたならばーー可能だ。同窓会名簿を手に入れて、獲物を探すことも。
 殺人の間のアリバイを証明することもーー。
 ちら、と親父を見る。

(……ダメだろうな)

 親父に「身内を疑う」って考え自体、もしかしたらねーかもしんねぇなと思う。

(鹿王院が言っていた)

 俺と設楽の写真を撮った人物は、「尾行にも盗撮にも慣れている、と。

(警察官ならどうだ?)

 それも、刑事部の刑事であればーー俺を出し抜けるんじゃないか。

(ジカで会うしかねぇかな)

 とにかく会ってーー感触を確かめよう、そう決めた矢先。
 白井が学校に現れた。
 クリスマス、その日に。
 部活終わり、暗くなった校門の前に、白井は立っていた。
 人通りはない。

(変なことはない)

 俺は思う。元々OBで、ここに通っていたんだから。
 けれどーー明らかに。

「やあ健くん」

 馴れ馴れしく俺を呼ぶ白井に、俺は軽く会釈した。

「うっす」
「……お互い、話があるような気がしてるんだけれど」
「そっすね」
「車、乗る?」
「エンリョしとくっす」
「はは」

 用心深いね。
 白井はそう言って笑ってーーなんの躊躇もなく俺にそれを振りかざした。
 薄暗い街灯でひかるそれは。

(特殊警棒!?)

 隠してやがったのか。
 伸縮式のその警棒は、正確に俺の脳天を狙ってくる。
 線をずらすように避けて、その手に向かって蹴りを繰り出す。
 ガシャンと地面に落ちる警棒。

「へえ」

 白井は右手をさすりながら、薄く笑う。

「強いねぇ。オレ、これでも有段者なんだよ。剣道三倍段、とかいうのに」

 剣道の初段は他の格闘技の三段あたりに匹敵する、とかいうアレ。

「……さあ」

 正直俺は……油断していた、んだろう。
 白井以外に。……白井に集中、しすぎていた。
 車の影には、もうひとりーー気がついた時には、頭が痺れるような痛み。

(スタンガン!?)

 流れる電流に、身体がうまく動かないーー。

「心配しないでね、違法改造はしてるけど死ぬほどではないからね」

 俺を見下ろして嗤う桜澤を見ながら、俺は意識を手放した。
 じきに、夢を見た。
 設楽が泣いている。

「黒田くん」

 ぽろぽろと涙をこぼしてーー。

(泣かせてんの誰だ)

 腹が立ってそいつを覗き込んだら、俺だった。
 目を閉じて、寝てるみたいな俺に設楽はしがみついて、ぽろぽろぽろぽろ泣いていた。

「やくそくしたのに」

 そうだ、約束したのに。
 絶対に、俺は先に死なない。
 目を覚ますと、暗くてじめじめした空間だった。

「……」

 ちらり、と見渡すと、天井付近に小さな光が見えた。……月光?

(どこだ?)

 腰のあたりをさすりながら起き上がる。どうやらこの辺りにスタンガンを当てられたらしい、が。

「起きたぁ?」

 小さな穴から、桜澤の声。

「あっは、元気そうでよかったぁ」
「てめー……」

 がん、と壁を蹴る。

「何する気だ」
「なにも?」

 桜澤はくすくすと笑う。
 顔は見えねーけど、楽しげに歪んでんだろうなと思う。

「なぁんにも。いまからね、私はなんにもしないよ。水もあげないし食事もあげない。この地下室で君は弱っていくの、それを見せて?」
「……は?」
「あったかいのが、元気なのが、弱って冷たくなっていくところ、みたいんだぁ」
「……ざけんな。目的はなんだ」

 それには答えず、桜澤はケタケタ笑いながら去っていく。
 まだ元気みたいだから見てもつまんない。
 そう言い残してーー。
 俺は舌打ちをする。
 その舌打ちが、暗い空間に虚しく響いた。
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