上 下
419 / 702
【高校編】分岐・山ノ内瑛

"絶対に離れへん"

しおりを挟む
 白井さん(絶対に青花に利用されてる!)に連れてこられたのは、警察署の旧庁舎だった。

「……なぜ新館ではないのです?」
「これでも気を使っているのですよ?」

 護衛さんの質問に、白井さんは鷹揚に構える。

「常盤のお嬢様が、逮捕だなんて。衆目に晒して良いものではないでしょう?」
「……そうですが」
「しかし、驚いた」

 人気のない廊下を、かつんかつんと進みながら白井さんは言う。

「護衛、だとか言うから。要は見張りでしょう? 常盤のお嬢様が、これ以上何かしでかさないように」
「……はぁ?」

 護衛さんは訝しげに低く呟いた。

「なんでも、勘当寸前じゃないそうですか。いやでも、この逮捕で確定かな?」

 白井さんは舌舐めずりをするような、そんな視線で私を見たーー何を企んでるの?
 その視線はすぐに、アキラくんによって遮られる。

「アホ抜かすなよオッサン、華は溺愛されてんのやで。それで俺は苦労してんのに」

 勘当されてたらすぐお持ち帰りやわ、とアキラくんは白井さんを睨む。
 けど、今のでなんとなく分かった。

(青花、そのへんはシナリオ通りだと思ってるんだ)

 だから、その通りをこの人に説明して、……保護者の庇護がない未成年なんか、どうにでもできるとでも踏んだんだろう。

(何をする気かは知らないけれど……)

 ぐっとアキラくんの手を握る。強く握り返してくれて、安心して白井さんに向き直る。

「その、逮捕状」

 私の言葉に、白井さんはぴくりと反応した。

「もう一度、見せてもらえますか?」

 白井さんが青花に利用されてる、とすれば。

(……本物かなぁ?)

 刑事さんとはいえ、ひとりでそんなもの、本物作れるはずがない。
 確か裁判所の承認とかもいるはずで……。

「……また、取り調べ室でな」
「あっやしーわオッサン。そもそもなんで1人やねん。普通、こういうの女性警官同行するやろ」

 JK相手やで!? というアキラくんに、白井さんは「ああ」と頷く。

「それはね、さっきも言った通りに秘密裏にことを進めるためだよ。常盤のお嬢様相手、だしね……というか」

 白井さんは目を細める。

「なんで君もいるのかな」
「いるに決まっとるやろがダボ」

 アキラくんは白井さんを見下すーー背はずいぶん、アキラくんの方が高い。
 威圧されたのか、白井さんは肩を揺らすけれど、そこは警察官。すぐに睨み返す。

「君は無関係だろう」
「無関係なわけあるかい。華は俺の彼女やぞ」
「かの、……え? 彼女?」

 白井さんは眉を寄せた。

「君は桜澤さんが好きなんだろう?」
「好きなわけあるかいあのビッチ」

 言い切って、アキラくんは私を腕に閉じ込めた。

「こーんな可愛い彼女おんねんで? ほかに目移りするかいな」
「……? まぁ、いい」

 私は少し気の毒になりながら白井さんを見つめる。
 青花から聞いてる青花的真実(ゲームシナリオ)と現実は、随分違うと思うから……。

「とにかく離れたまえ。設楽さんだけ付いてきて」
「できません」

 ずい、と護衛さんが前に出る。

「じきに弁護士が参ります」
「……調べ室には、女性警官もいますから」

 白井さんは始まった押し問答に、明らかにイライラし始めた。
 時間がない、みたいな顔をしてる気がする。

(やっぱり、あの逮捕状、偽物なんだ)

 弁護士さんたちが到着する前に、私に何かをしてーー交渉か、脅迫か、なにか……わからないけれど。
 とにかく、それで私に「ことを荒げたくない」とか言わせて事態を収束させて……え、どうするんだろ?

(うーん)

 ぐるぐる考えてると、きゅっと抱きしめる腕が強くなる。

「絶対守るから、華」
「アキラくん?」
「絶対離れへん」

 見上げた先で、ニカッと笑う金色。

「安心しとき」
「……うん」

 にっこりと笑って、私は頷く。
 うん、何も心配してない。
 アキラくんが横にいてくれている。

「と、とにかく、設楽さんを、はやく」
「その逮捕状とやら」

 聞こえてきた、関西なまりの低い声。
 ば、と振り向くと、アキラくんのお父さんがスウェット姿で立っていた。

「遅いでおとん」
「いや、お前、1ヶ月ぶりの休日やのに……ま、ええわ」

 ん、とアキラくんのお父さんは手を差し出す。

「その逮捕状? 見せてもらうてええ?」
「……あんた、誰だ」
「あー、言い遅れました」

 アキラくんのお父さんが差し出したのは、一枚の名刺。

「……山ノ内、検事」
「すんませんなこんな格好で。寝てましてん」
「いや、その」

 明らかに挙動不審な白井さんに、アキラくんのお父さんは詰め寄る。

「俺の知ってる警察の捜査とは、どーも雰囲気ちゃいますね」
「……秘密裏の、捜査なので。常盤の、お嬢様なので」
「ほーん。まぁええわ、さ」

 見せてえなソレ。
 アキラくんのお父さんの目が細くなって、白井さんは目線をウロウロさせたあと、ぐうっと唇をかみしめた。
しおりを挟む
感想 168

あなたにおすすめの小説

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

英国紳士の熱い抱擁に、今にも腰が砕けそうです

坂合奏
恋愛
「I love much more than you think(君が思っているよりは、愛しているよ)」  祖母の策略によって、冷徹上司であるイギリス人のジャン・ブラウンと婚約することになってしまった、二十八歳の清水萌衣。  こんな男と結婚してしまったら、この先人生お先真っ暗だと思いきや、意外にもジャンは恋人に甘々の男で……。  あまりの熱い抱擁に、今にも腰が砕けそうです。   ※物語の都合で軽い性描写が2~3ページほどあります。

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。  しかも、定番の悪役令嬢。 いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。  ですから婚約者の王子様。 私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。

気配消し令嬢の失敗

かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。 15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。 ※王子は曾祖母コンです。 ※ユリアは悪役令嬢ではありません。 ※タグを少し修正しました。 初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

嫌われ者の悪役令嬢の私ですが、殿下の心の声には愛されているみたいです。

深月カナメ
恋愛
婚約者のオルフレット殿下とメアリスさんが 抱き合う姿を目撃して倒れた後から。 私ことロレッテは殿下の心の声が聞こえる様になりました。 のんびり更新。

処理中です...