587 / 702
【高校編】分岐・相良仁
【番外編】冬の日(上)
しおりを挟む
コタツはいい。すごくいい。
「こら、寝るな華」
お母さんみたいなことを言ってくる仁を、微睡むまぶたの間からなんとか見る。
「……んう」
「んうじゃない」
呆れたような、優しい声。
「布団いけ」
「寒いんだもん」
「風邪引くぞ」
「んー」
わかってる。わかってるんですけどね?
冬の夜のコタツ。
この魔力から逃れられる人間が、この世に果たしているのでしょうか……。
「そういう奴から風邪ひいていくんだ」
「あれ」
どうやら言葉に出ていたらしい。うー、半分まどろんでるからなぁ。
「しょうがねーなぁほんと俺のお姫様は」
「お姫様て」
コタツでクッション枕にゴロゴロしてるお姫様がいるんだろうか。
(あ、ダメだ……)
また眠気が……、と。
「ひゃあ!」
「まったくお前何歳になったんだよ」
ひょい、と私をお姫様抱っこした仁が笑う。
「22」
「中身だよナカミ」
「……」
ノー・コメントで。
寝室まで運ばれて、ベッドにぽすりと寝かされる。
「ひゃー、やだもー、お布団つめたいー!」
「文句ばっかだなお姫様」
「お姫様にしては扱いが乱雑!」
ぷうぷう言ってると、仁も布団に入ってくる。
「オラこれで多少は寒くねーだろ」
「あったかー」
仁にぎゅう、と抱きつく。至近距離に、仁の穏やかに笑ってる顔……あと。
「あのー、おっぱい揉むのやめてもらえます?」
「運び賃」
なんだそりゃ。
まぁそのままあったかーくなることされて、そのまま眠って。
起きたら、一面、雪だった。
「仁! 起きて起きて雪!」
「だからお前は一体何歳に……って、すげえな」
マンションから望む街の風景。一面、白い。
「あー、クルマ渋滞すんだろな」
「電車動かないよね……」
ベッドサイドのスマホを見ると、もうゼミの先生から「休講にします」と連絡が回ってきていた。
諦めがはやいなぁ、とか思うけど、仕方ない。都会のインフラは大雪に向いてないのです。
「俺も休むか」
私のスマホをひょいと覗き込んだ仁が笑って言う。
「え、ずる休み?」
「有給溜まってんのー」
飄々と仁は寝室から出て行く。なんとなくつられて一緒にキッチンへ。
「さむー!」
「文句言うならコタツにでも入ってなコタツ姫」
「コタツ姫」
仁はさっさとコーヒーを淹れ始める。
ばちりとつくコーヒーサーバーの赤いランプ。
「もー今日はゆっくりしようぜ」
「切り替え早いね」
私はキッチンを出る仁にまたもやついて歩いて。
「……どしたの?」
訝しげな仁に抱きついて、ぎゅうと顔を埋める。
「なーんか」
「うん」
「なんかねぇ」
甘えたい気分です。
仁の左手が私の背中に回って、それから右手で私の顎をくいっと上げた。
「なぁに、華」
「なんだと思う?」
「まったくお前はずるい奴だよ」
柔らかなキスが落ちてくる。何度も繰り返されるその軽いキスは、やがて少しずつ深くなって。
仁のスウェットを強く握る。
後頭部を支えられて、熱い舌がぬるりと入ってきて。
相変わらず私はこうなると息継ぎがとても下手くそで、溺れそうになりながら仁にしがみつく。
「……ま、出かける訳にもいかねーしな」
しがみつく私を仁はひょいとお姫様だっこ。
「今日は一日いちゃついてるかー」
「そうしましょうかー」
なんだか気楽なノリで答えて、顔を見合わせて笑い合う。
「さっき出てきたところなのになぁ」
「ベッドで朝ごはん食べようよ」
「行儀が悪い奴め」
ベッドにぽすりと降ろされて、私の頭を撫でながら仁は目を細める。
「あーマジ愛してる」
「なぁに唐突に」
おでこ、頬、鼻、手を取ってその指に。ひとつひとつ、丁寧にキスを落として行く。本当に、大切なものに印をつけるみたいに。
「唐突?」
「うん」
さらり、と髪を梳く。
「全然唐突じゃない」
「?」
「常にそう思ってるから」
思わずその眼を見る。
日本人にしては少し明るいその瞳が、真剣に私を見て、揺れた。
「仁」
「俺時々、夢じゃないかって思うよ」
なにが、と答える前に食べられるみたいなキスが降ってきて。
溺れるように、焦がれるように、私はその行為に蕩けていく。
目を覚ますと、横で仁はコーヒーを飲んでいた。
「……行儀悪いって言ったくせに」
「飲む?」
「うん」
身体を起こすと、「服着ろ」ってスウェットを渡される。お揃いの部屋着、チャコールグレーのスウェット。気楽だよね。
仁がベッドから出て、コーヒーがたっぷり入ったマグカップを持ってきてくれた。
「熱いから気を付けろよ」
「うん。……ねえ、仁」
「ん?」
「夢なんかじゃないよ」
マグカップをサイトボードに置いて、私は首を傾げた。
仁はなにも言わずに、ベッドに入って私をぎゅうと抱きしめる。
なぜだか仁は泣いてる。
私はぽんぽんとその背中を撫でた。
窓の外では、静かに雪が降り続いている。
「こら、寝るな華」
お母さんみたいなことを言ってくる仁を、微睡むまぶたの間からなんとか見る。
「……んう」
「んうじゃない」
呆れたような、優しい声。
「布団いけ」
「寒いんだもん」
「風邪引くぞ」
「んー」
わかってる。わかってるんですけどね?
冬の夜のコタツ。
この魔力から逃れられる人間が、この世に果たしているのでしょうか……。
「そういう奴から風邪ひいていくんだ」
「あれ」
どうやら言葉に出ていたらしい。うー、半分まどろんでるからなぁ。
「しょうがねーなぁほんと俺のお姫様は」
「お姫様て」
コタツでクッション枕にゴロゴロしてるお姫様がいるんだろうか。
(あ、ダメだ……)
また眠気が……、と。
「ひゃあ!」
「まったくお前何歳になったんだよ」
ひょい、と私をお姫様抱っこした仁が笑う。
「22」
「中身だよナカミ」
「……」
ノー・コメントで。
寝室まで運ばれて、ベッドにぽすりと寝かされる。
「ひゃー、やだもー、お布団つめたいー!」
「文句ばっかだなお姫様」
「お姫様にしては扱いが乱雑!」
ぷうぷう言ってると、仁も布団に入ってくる。
「オラこれで多少は寒くねーだろ」
「あったかー」
仁にぎゅう、と抱きつく。至近距離に、仁の穏やかに笑ってる顔……あと。
「あのー、おっぱい揉むのやめてもらえます?」
「運び賃」
なんだそりゃ。
まぁそのままあったかーくなることされて、そのまま眠って。
起きたら、一面、雪だった。
「仁! 起きて起きて雪!」
「だからお前は一体何歳に……って、すげえな」
マンションから望む街の風景。一面、白い。
「あー、クルマ渋滞すんだろな」
「電車動かないよね……」
ベッドサイドのスマホを見ると、もうゼミの先生から「休講にします」と連絡が回ってきていた。
諦めがはやいなぁ、とか思うけど、仕方ない。都会のインフラは大雪に向いてないのです。
「俺も休むか」
私のスマホをひょいと覗き込んだ仁が笑って言う。
「え、ずる休み?」
「有給溜まってんのー」
飄々と仁は寝室から出て行く。なんとなくつられて一緒にキッチンへ。
「さむー!」
「文句言うならコタツにでも入ってなコタツ姫」
「コタツ姫」
仁はさっさとコーヒーを淹れ始める。
ばちりとつくコーヒーサーバーの赤いランプ。
「もー今日はゆっくりしようぜ」
「切り替え早いね」
私はキッチンを出る仁にまたもやついて歩いて。
「……どしたの?」
訝しげな仁に抱きついて、ぎゅうと顔を埋める。
「なーんか」
「うん」
「なんかねぇ」
甘えたい気分です。
仁の左手が私の背中に回って、それから右手で私の顎をくいっと上げた。
「なぁに、華」
「なんだと思う?」
「まったくお前はずるい奴だよ」
柔らかなキスが落ちてくる。何度も繰り返されるその軽いキスは、やがて少しずつ深くなって。
仁のスウェットを強く握る。
後頭部を支えられて、熱い舌がぬるりと入ってきて。
相変わらず私はこうなると息継ぎがとても下手くそで、溺れそうになりながら仁にしがみつく。
「……ま、出かける訳にもいかねーしな」
しがみつく私を仁はひょいとお姫様だっこ。
「今日は一日いちゃついてるかー」
「そうしましょうかー」
なんだか気楽なノリで答えて、顔を見合わせて笑い合う。
「さっき出てきたところなのになぁ」
「ベッドで朝ごはん食べようよ」
「行儀が悪い奴め」
ベッドにぽすりと降ろされて、私の頭を撫でながら仁は目を細める。
「あーマジ愛してる」
「なぁに唐突に」
おでこ、頬、鼻、手を取ってその指に。ひとつひとつ、丁寧にキスを落として行く。本当に、大切なものに印をつけるみたいに。
「唐突?」
「うん」
さらり、と髪を梳く。
「全然唐突じゃない」
「?」
「常にそう思ってるから」
思わずその眼を見る。
日本人にしては少し明るいその瞳が、真剣に私を見て、揺れた。
「仁」
「俺時々、夢じゃないかって思うよ」
なにが、と答える前に食べられるみたいなキスが降ってきて。
溺れるように、焦がれるように、私はその行為に蕩けていく。
目を覚ますと、横で仁はコーヒーを飲んでいた。
「……行儀悪いって言ったくせに」
「飲む?」
「うん」
身体を起こすと、「服着ろ」ってスウェットを渡される。お揃いの部屋着、チャコールグレーのスウェット。気楽だよね。
仁がベッドから出て、コーヒーがたっぷり入ったマグカップを持ってきてくれた。
「熱いから気を付けろよ」
「うん。……ねえ、仁」
「ん?」
「夢なんかじゃないよ」
マグカップをサイトボードに置いて、私は首を傾げた。
仁はなにも言わずに、ベッドに入って私をぎゅうと抱きしめる。
なぜだか仁は泣いてる。
私はぽんぽんとその背中を撫でた。
窓の外では、静かに雪が降り続いている。
10
お気に入りに追加
3,084
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?
tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」
「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」
子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。
転生したら攻略対象者の母親(王妃)でした
黒木寿々
恋愛
我儘な公爵令嬢リザベル・フォリス、7歳。弟が産まれたことで前世の記憶を思い出したけど、この世界って前世でハマっていた乙女ゲームの世界!?私の未来って物凄く性悪な王妃様じゃん!
しかもゲーム本編が始まる時点ですでに亡くなってるし・・・。
ゲームの中ではことごとく酷いことをしていたみたいだけど、私はそんなことしない!
清く正しい心で、未来の息子(攻略対象者)を愛でまくるぞ!!!
*R15は保険です。小説家になろう様でも掲載しています。
裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……
希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。
幼馴染に婚約者を奪われたのだ。
レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。
「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」
「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」
誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。
けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。
レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。
心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。
強く気高く冷酷に。
裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。
☆完結しました。ありがとうございました!☆
(ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在))
(ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9))
(ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在))
(ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))
転生悪役令嬢の前途多難な没落計画
一花八華
恋愛
斬首、幽閉、没落endの悪役令嬢に転生しましたわ。
私、ヴィクトリア・アクヤック。金髪ドリルの碧眼美少女ですの。
攻略対象とヒロインには、関わりませんわ。恋愛でも逆ハーでもお好きになさって?
私は、執事攻略に勤しみますわ!!
っといいつつもなんだかんだでガッツリ攻略対象とヒロインに囲まれ、持ち前の暴走と妄想と、斜め上を行き過ぎるネジ曲がった思考回路で突き進む猪突猛進型ドリル系主人公の(読者様からの)突っ込み待ち(ラブ)コメディです。
※全話に挿絵が入る予定です。作者絵が苦手な方は、ご注意ください。ファンアートいただけると、泣いて喜びます。掲載させて下さい。お願いします。
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる