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【高校編】分岐・山ノ内瑛

初詣

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 アキラくんと初詣に行こう、って話になったのは、年が明けて、三学期が始まってすぐくらいの頃。

「これくらいやったら、もうヒトおらんやろ」

 私が人混みあんまり好きじゃないのと、知り合いに会っちゃうかもなことを心配してくれてたらしい。

「初詣!」

 単純な私は喜んで、ものすごくテンションが上がってしまう、そんな放課後の図書館の地下書架。

「どこいく?」
「あんま観光地ちゃうとこかなぁ」

 ああでもないこうでもない、と2人でスマホを覗き込んでの相談。
 デートの計画って、立ててるときから楽しいよね?
 頬を寄せ合って、右手と左手はつないで。ふと目線があって、唇が重なってーー。

「華」

 呼ばれること自体が、なんだか誇らしくて。
 笑い返した私のおでこに、優しいキス。

「もーすぐ卒業やな」
「まぁ、ね」

 まだ二年生だけれど、飛び級しちゃう私は3月で卒業。

「委員会は続けるけどね?」

 そこは特別措置。系列の大学だからできる特例だ。

「お手柔らかにな? 風紀委員長サン」
「染め直してくーださい」

 そっと金の髪に触れる。
 綺麗、だけれど。
 もう一度、唇が重なって、離れた。

 図書館を出ると、寒い風がひゅうと吹いた。

「……寒ッ」

 思わず呟く。マフラーに顔を埋めた。

(暖冬だっていうけれど、じゅーぶん寒い気がするよ)

 一緒に歩けたらなぁ、と私は思う。
 こんな道も、きっとちっとも寒くない。
 手と手を繋いで。

(もう少し、かな)

 卒業しちゃえば、もう色んなことは気にしなくて良くなってくる。
 寂しいような気もするけど、そうだ「大学生になる」ってそんなだったなぁと私は思い返す。
 制服を捨てる代わりに、自由が手に入る……ようなところがある。
 と、ふと校門を出たところで話しかけられた。

「設楽華さん?」

 見上げた先には、知らない男の人。

「?」

 誰、だろ?
 なんとなく、顔を見たことがある気はするんだけれど。

「わたしは神奈川県警の白井と言います」

 彼が示したのは、一枚のA4サイズの白い紙。

「へ」

 間抜けな声が口から溢れた。

「た、逮捕状?」

 白井……刑事? は薄く、なんだかイヤな感じで笑って頷く。

「去年の4月、桜澤青花さんを階段から突き落とし、怪我をさせましたね?」
「え!? あ、や、それ、違って」
「その件で逮捕状が出ています」

 腕時計で時間を確認するような仕草。

「あなたを逮捕します」

 そう言って私の手に触れようとした手は、別の手に跳ね除けられた。
 知ってる声。
 安心をくれる声。

「なーんヒトの可愛い彼女に触ろうとしてんねん、オッサン」
「……君は」

 思わず、って顔をする白井刑事に、アキラくんは思いっきり顔をしかめた。

「アンタ、こないだ桜澤といた」
「……!」

 思い出した!
 クリスマス、青花とホテルに行こうとしてた、あのひと!

「な、なんの話だね!?」
「なんの話ちゃうわオッサン。つうか、なんやねんそれ? あのオンナに利用されてんのか」

(……!)

 白井刑事を見つめる。ばつの悪そうに逸らされる、目。

(青花、一体なにを!?)

 白井刑事はしばらく黙った後、こほんと咳払いをして笑った。

「まったく、なんの話だか。人違いだよ」

 そして言う。

「証拠はあるのかね?」
「……てめぇ」

 ぎり、とアキラくんは白井刑事を睨みつける。

「と、とにかく! 君には関係のない話だよ。僕は仕事として」
「すこし離れていただけますか」

 割り込んできたのは、知らない男の人。

「?」

 きょとんと見つめると、男の人はすこし私を見た後、白井刑事と話し始める。

「それは正当な捜査の結果なのですか?」
「当然です。……というか、あなたは? 教師?」
「いえ」

 男の人は目を細めた。

「お嬢様の護衛を任されている者です」
「エッ」

 私は思わず男の人を見るーー仁以外にもいたのか!

(そ、そりゃそうか)

 ひとりでやってたんじゃ、身が持たないよねぇ。

「ご、護衛?」

 白井刑事は一瞬引きつった顔をして、呟く。

「そんな話は聞いてない」

 そんな話……、って。誰から? 青花?

「聞いていようといまいと関係ありません」

 そんな2人の会話の間に、私はアキラくんの腕の中に閉じ込められる。

「大丈夫やで華」

 アキラくんの、低い声。

「絶対守ったる」

 白井刑事は苦虫を噛み潰したような顔をしばらくしたあと、腹を決めたように低く言った。

「とにかく……署へ」
「わたしが同行して構いませんね?」
「構いませんが、取り調べは」
「ロクロクされますよね?」
「……それはわたしが決めることでは」

 ……ロクロクってなんだろう。

「お嬢様、申し訳ありませんが。いま弁護士を手配しておりますので」

 護衛さんは、アキラくんの腕の中にいる私にそう告げる。小さく頷いた。

「……」

 アキラくんはなにかを考えるようにしながら、きゅっと私を抱きしめる腕に力を込めていた。
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