341 / 702
【高校編】分岐・鍋島真
【side真】クリスマス
しおりを挟む
きゅうと確かに握り返すその手に、僕は流石に驚愕した。
「ね?」
小野くんの声。
心から、嬉しそうな声。
「ほら、アリサ、鍋島さんいらしてくれたよ」
その声に、反応するようにーー彼女の、骨と皮だけの指が、確かに動いた。
彼女がその身体をアスファルトに叩きつける覚悟をしてから、明日でちょうど一年目のことだった。
「鍋島さんのお陰かもしれません」
病院の中庭、粉雪が舞い落ちるそこで、小野くんはぽつぽつと話す。
「アリサと僕は、二人ぼっちでした」
曇天の空からは、絶え間なく、雪。
「アリサのご家族は……あれ以来、めちゃくちゃで。オレも、……ご存知でしょうけれど、桜澤を殺してやろうとまで思いつめて」
僕は黙ってうながす。
「だから、鍋島さんが来てくれて。少し前向きになれて」
「前向き?」
「前向きな復讐……、変ですか?」
「いや全く」
復讐とはかくあるべきだ。
前を向いて復讐しよう。
「もう少し待ってね」
僕は微笑む。
「いま持ち上げてるところだから」
「持ち上げる?」
ウン、と僕は返事をした。
「あの尿路結石が何考えてるか、僕にはよく分からないんだ。ホラ、僕は人間でアレはシュウ酸の塊だろ?」
はは、と小野くんは乾いた笑いを返す。あれー、受けなかった。まぁいいや。
「でもね、特定の男子に執着してるんだ。恋愛のようで、少し違うみたいなんだけれど」
「執着」
「そー」
僕はサクサク歩く。
「その人たちと上手くいってる、と見せかけて、ばーんと落とす」
「たち、って。複数なんですか?」
「ウン」
苦虫を噛み潰したような顔をするから、僕は小野くんの頭の雪を払ってあげる。
「わ」
「ねぇ小野クン」
「はい」
「メリークリスマス」
「……唐突ですね」
変な顔をしてる小野くんに手を振って、僕は駐車場まで歩く。
「またね」
「はい」
車に乗り込んで、僕はマンションに向かう。
途中できちんと買い物を済ませて、マンションの扉を開けると華は嬉しそうに家中に飾り付けをしている最中だった。
「あ、おかえりなさーい」
「ただいま。……ねえ、そのクリスマスツリーどうしたの?」
この部屋には不釣り合いなくらい、大きなクリスマスツリー……。
「ネットで買ったらサイズ感間違ってました」
「いいけどさ」
僕が買ってくる家電は散々文句つけるくせにさー。どこに収納するつもりなんだろ、なんて思うけれど、嬉しげにツリーにオーナメントを飾り付けしていく華を見てると、文句なんて萎んでいく。
「……留学から帰ってきたら、それ置いても超超余裕なおっきいおウチ買おうね」
「ツリーのためだけに?」
「ツリーのだけに」
そう答えると、華は楽しそうに肩を揺らした。
「楽しみです」
「プレゼントをその下に置いてさ」
飾り付けしてる華を、後ろから抱きしめる。
「僕と君で、置くんだよ」
クリスマスの朝、駆け寄る子ども。……想像でしかない。僕にサンタさんとやらは来たことがない。まったく、仕事をサボっていたなあの紅白ジジイ。
「私もそんなクリスマスはしたことがないですよ」
ウチの親は枕元派でした、と華は少し懐かしい顔をする。
「ふうん」
華をこっちに向かせて、その頬を撫でた。「ウチの親」か。
(記憶)
この子の母親が亡くなる以前の記憶は、この子にない、と昔聞いていた。
けれど、そばにいてぽろぽろ溢れてくるように、そんな思い出話を彼女は話す。
(なんの記憶?)
普通に考えれば、小学五年生より前の記憶が戻ってきているんだろう。
けれど、何か違うような。……ま、なんでもいいさ。
ほんの少しだけ唇を重ねて、離れた。物足りなさそうな視線とぶつかる。
「……なんだか」
「ハイ?」
「僕、君のことすっかり調教しちゃったみたいだね」
「調教!?」
なんですかそれ、と素っ頓狂な声で言うから、僕は吹き出す。
そうか、無自覚か。
こんな煽るような潤んだ目も、物欲しげにうっすら開いた唇も。
「調教じゃないか」
「だから、何が……んっ」
欲しいなら全部あげる。
唇にねじ込んだ舌で、華のをつつく。それだけで力が抜けていく華を、抱き上げてそっとソファに座らせた。
「……もっと」
とろとろの華チャンはとっても素直。
「言っておくけれど、僕、ヤる気なかったんだからね」
「嘘」
華はそう言いながら、挑発的に僕を見る。その嫋やかな腕が、僕に巻き付く。
「こんなにやる気あるのに?」
「まぁね」
僕らは沈んで行く。ずぶずぶと。
それが僕らは心地良くて仕方ない。
そのあと、華の作ってくれてたゴハンと、僕の買ってきたケーキとシャンパン(華はうらやましそうに見ていた)でクリスマスパーティー、をした。
「去年はドイツでしたね」
華はやっぱり羨ましそうに僕のアルコールを見てる。
「お子様にはあげられません……ま、華にもあるよ」
はいこれー、とシャンメリー(アニメイラスト付)を渡す。華はブツブツ言いながらもなんだかんだで、それを飲んでくれた。
なんだか可愛くて、僕はそのまま華を寝室に連れ込む。
お風呂、シャワー、食器の片付け、と抵抗する華チャンをぐずぐずにしてとろとろにして、僕は大満足で、華チャンは爆睡。
食器だけは食洗機に、いれておいた。
それからベッドに潜り込む。温かな体温。規則的に上下する寝息。
(すき)
そう思いながら、華を抱きしめる。
目を開けると、枕元に包みがあった。
「……?」
「夜中にね~」
隣で裸のまま寝てる華は、僕に背を向けている。
「サンタさん、来てましたよー」
「……わーお」
僕の反応に、華は笑いながらこちらに寝返りを打つ。
「もう、なんですかその棒読み」
僕は答えないで、ただ華にキスをする。もう、キスしまくりだ。
「わ、もう、くすぐったい」
文句言ってる華が、愛おしくて仕方なくて、ただ僕は僕の大事な奥さんを抱きしめた。
「メリークリスマス」
そっと華が僕に言う。僕は頷いたんだか、何か答えたんだか、……その辺は少し曖昧だ。
「ね?」
小野くんの声。
心から、嬉しそうな声。
「ほら、アリサ、鍋島さんいらしてくれたよ」
その声に、反応するようにーー彼女の、骨と皮だけの指が、確かに動いた。
彼女がその身体をアスファルトに叩きつける覚悟をしてから、明日でちょうど一年目のことだった。
「鍋島さんのお陰かもしれません」
病院の中庭、粉雪が舞い落ちるそこで、小野くんはぽつぽつと話す。
「アリサと僕は、二人ぼっちでした」
曇天の空からは、絶え間なく、雪。
「アリサのご家族は……あれ以来、めちゃくちゃで。オレも、……ご存知でしょうけれど、桜澤を殺してやろうとまで思いつめて」
僕は黙ってうながす。
「だから、鍋島さんが来てくれて。少し前向きになれて」
「前向き?」
「前向きな復讐……、変ですか?」
「いや全く」
復讐とはかくあるべきだ。
前を向いて復讐しよう。
「もう少し待ってね」
僕は微笑む。
「いま持ち上げてるところだから」
「持ち上げる?」
ウン、と僕は返事をした。
「あの尿路結石が何考えてるか、僕にはよく分からないんだ。ホラ、僕は人間でアレはシュウ酸の塊だろ?」
はは、と小野くんは乾いた笑いを返す。あれー、受けなかった。まぁいいや。
「でもね、特定の男子に執着してるんだ。恋愛のようで、少し違うみたいなんだけれど」
「執着」
「そー」
僕はサクサク歩く。
「その人たちと上手くいってる、と見せかけて、ばーんと落とす」
「たち、って。複数なんですか?」
「ウン」
苦虫を噛み潰したような顔をするから、僕は小野くんの頭の雪を払ってあげる。
「わ」
「ねぇ小野クン」
「はい」
「メリークリスマス」
「……唐突ですね」
変な顔をしてる小野くんに手を振って、僕は駐車場まで歩く。
「またね」
「はい」
車に乗り込んで、僕はマンションに向かう。
途中できちんと買い物を済ませて、マンションの扉を開けると華は嬉しそうに家中に飾り付けをしている最中だった。
「あ、おかえりなさーい」
「ただいま。……ねえ、そのクリスマスツリーどうしたの?」
この部屋には不釣り合いなくらい、大きなクリスマスツリー……。
「ネットで買ったらサイズ感間違ってました」
「いいけどさ」
僕が買ってくる家電は散々文句つけるくせにさー。どこに収納するつもりなんだろ、なんて思うけれど、嬉しげにツリーにオーナメントを飾り付けしていく華を見てると、文句なんて萎んでいく。
「……留学から帰ってきたら、それ置いても超超余裕なおっきいおウチ買おうね」
「ツリーのためだけに?」
「ツリーのだけに」
そう答えると、華は楽しそうに肩を揺らした。
「楽しみです」
「プレゼントをその下に置いてさ」
飾り付けしてる華を、後ろから抱きしめる。
「僕と君で、置くんだよ」
クリスマスの朝、駆け寄る子ども。……想像でしかない。僕にサンタさんとやらは来たことがない。まったく、仕事をサボっていたなあの紅白ジジイ。
「私もそんなクリスマスはしたことがないですよ」
ウチの親は枕元派でした、と華は少し懐かしい顔をする。
「ふうん」
華をこっちに向かせて、その頬を撫でた。「ウチの親」か。
(記憶)
この子の母親が亡くなる以前の記憶は、この子にない、と昔聞いていた。
けれど、そばにいてぽろぽろ溢れてくるように、そんな思い出話を彼女は話す。
(なんの記憶?)
普通に考えれば、小学五年生より前の記憶が戻ってきているんだろう。
けれど、何か違うような。……ま、なんでもいいさ。
ほんの少しだけ唇を重ねて、離れた。物足りなさそうな視線とぶつかる。
「……なんだか」
「ハイ?」
「僕、君のことすっかり調教しちゃったみたいだね」
「調教!?」
なんですかそれ、と素っ頓狂な声で言うから、僕は吹き出す。
そうか、無自覚か。
こんな煽るような潤んだ目も、物欲しげにうっすら開いた唇も。
「調教じゃないか」
「だから、何が……んっ」
欲しいなら全部あげる。
唇にねじ込んだ舌で、華のをつつく。それだけで力が抜けていく華を、抱き上げてそっとソファに座らせた。
「……もっと」
とろとろの華チャンはとっても素直。
「言っておくけれど、僕、ヤる気なかったんだからね」
「嘘」
華はそう言いながら、挑発的に僕を見る。その嫋やかな腕が、僕に巻き付く。
「こんなにやる気あるのに?」
「まぁね」
僕らは沈んで行く。ずぶずぶと。
それが僕らは心地良くて仕方ない。
そのあと、華の作ってくれてたゴハンと、僕の買ってきたケーキとシャンパン(華はうらやましそうに見ていた)でクリスマスパーティー、をした。
「去年はドイツでしたね」
華はやっぱり羨ましそうに僕のアルコールを見てる。
「お子様にはあげられません……ま、華にもあるよ」
はいこれー、とシャンメリー(アニメイラスト付)を渡す。華はブツブツ言いながらもなんだかんだで、それを飲んでくれた。
なんだか可愛くて、僕はそのまま華を寝室に連れ込む。
お風呂、シャワー、食器の片付け、と抵抗する華チャンをぐずぐずにしてとろとろにして、僕は大満足で、華チャンは爆睡。
食器だけは食洗機に、いれておいた。
それからベッドに潜り込む。温かな体温。規則的に上下する寝息。
(すき)
そう思いながら、華を抱きしめる。
目を開けると、枕元に包みがあった。
「……?」
「夜中にね~」
隣で裸のまま寝てる華は、僕に背を向けている。
「サンタさん、来てましたよー」
「……わーお」
僕の反応に、華は笑いながらこちらに寝返りを打つ。
「もう、なんですかその棒読み」
僕は答えないで、ただ華にキスをする。もう、キスしまくりだ。
「わ、もう、くすぐったい」
文句言ってる華が、愛おしくて仕方なくて、ただ僕は僕の大事な奥さんを抱きしめた。
「メリークリスマス」
そっと華が僕に言う。僕は頷いたんだか、何か答えたんだか、……その辺は少し曖昧だ。
0
お気に入りに追加
3,085
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
英国紳士の熱い抱擁に、今にも腰が砕けそうです
坂合奏
恋愛
「I love much more than you think(君が思っているよりは、愛しているよ)」
祖母の策略によって、冷徹上司であるイギリス人のジャン・ブラウンと婚約することになってしまった、二十八歳の清水萌衣。
こんな男と結婚してしまったら、この先人生お先真っ暗だと思いきや、意外にもジャンは恋人に甘々の男で……。
あまりの熱い抱擁に、今にも腰が砕けそうです。
※物語の都合で軽い性描写が2~3ページほどあります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。
しかも、定番の悪役令嬢。
いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。
ですから婚約者の王子様。
私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
嫌われ者の悪役令嬢の私ですが、殿下の心の声には愛されているみたいです。
深月カナメ
恋愛
婚約者のオルフレット殿下とメアリスさんが
抱き合う姿を目撃して倒れた後から。
私ことロレッテは殿下の心の声が聞こえる様になりました。
のんびり更新。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ
奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。
スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!
春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前!
さて、どうやって切り抜けようか?
(全6話で完結)
※一般的なざまぁではありません
※他サイト様にも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる