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【高校編】分岐・相良仁

【番外編】あの子の婚約者【side???】

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 日本から転校してきたハナは、可愛くて面白くて、好き。
 だからその話を聞いたとき、あたしは心配になった。
 あたしたちの学校は、少し特殊。少しっていうか、結構、特殊。
 超に超を何回重ねても足りないくらいの「お嬢様学校」。花嫁学校フィニッシングスクールとしての形を残していて、……三年間の牢獄、とも言うかな。
 ヨーロッパ中の「貴族」の女の子が集まってる。スイスか、ここか、くらいしかもう残ってないから。こんな時代遅れな(通ってるあたしだってそう思う)学校は。
 そんな学校に通ってるあたしたち、大抵は「婚約者」がいる。
 ほとんどは親が決めてたけど、まぁ、残念ながら出会いなんてものが望めないあたしたちだし、小さい頃から「そう」言われてたら好きになったりもするし、大体の子は不満とかないみたい。
 だから、ハナに婚約者がいるって聞いてもあんまり驚かなかった。

「あ、そうなんだ」

 日本の人? って聞くと「英国こっちのひと」って言う。

「伯爵さんの息子さん」

 あたしは、ああ、って納得した。

「それで転校してきたんだね」
「うん。こっちのマナーだのなんだの覚えなきゃだからね」

 割と綺麗な発音で、ハナは笑う。わざわざ大変だね、と思うけど口にはしない。みんなそれなりに抱えてるものはある。特にこういう学校だとね。

「どんなひと?」
「ええと、優しいよ」

 好きでいてくれるし、とハナは照れ臭そうに笑う。

「えー、いいな」

 こんな学校に通っておきながら、婚約者なんていないあたしは少し彼女が羨ましい。

「大学へは行くの?」
「うん、好きにしていいって」
「ふうん。何才くらいのひと?」

 あたしがその質問をしたのは、なんとなくその「好きにしていい」が気になったからだ。なんか、年上っぽいよなって。

「……えーと」

 ものすごく言いにくそうにハナは首を傾げた。それから日本語(多分)で何か呟いてから「30過ぎ」と答えてくれた……は?

「は? 30?」
「うん……30半ば」
「は?」

 あたしは流石に呆然とした。それって、それってさぁ。

「歳の差ありすぎない?」
「あー……うん」

 そうなんだけどね、とハナは苦笑い。

「だ、だめだよ。そんなの……ええと、向こうから申し込まれたの? 何かご実家、負債とかあるの?」

 普通はそう思う、と思う。

「あ、そんなんじゃなくて、うーん」

 ハナは困ったように、笑う。

「そうじゃないんだよ。ふつうに、お互い、好き」
「じゃあそいつロリコンだよ」

 悪いけどはっきり言った。

「だめだよ、ハナ」
「あー、多分年齢は関係ないかなぁ」
「あるよ」

 断言すると、ハナは首を傾げた。

「あってもらったら、分かるよ」

 あたしは唇を引き結ぶ。
 ぜぇったいに、ロクでとないと思うんだけどなぁ。
 でも、卒業前のガーデンパーティー。
 学園の薔薇園で行われるそれで、ハナが「婚約者」と紹介してくれたそのひとは、まぁ、なんていうか、本当にこの子のことが愛しくて仕方ないんだろうなって分かった。
 だって泣いてたから。……正確には、泣き止んでたけれど。

「会うの一年ぶりだからって、泣くことないと思わない?」

 6月の爽やかな風のなか、ハナはサバサバしたもので、ケタケタ笑って彼、アッシャー卿の背中を叩いた。

「いや、泣いてない。泣いてないから」

 そんな風に言うアッシャー卿は、どうやら混血のようだった。おそらくアジア系……それでハナと御縁があったのかしら。

「泣いてたよ。あった瞬間にぴゃって涙吹き出ててたよ」
「んなことない」

 そう言ったあと、彼女たちは日本語で何か言い合ってーーそして顔を見合わせて、笑っていた。

「いいなぁ」

 思わずぽつりと呟いて、不思議そうにハナは首を傾げた。

「お式はいつだっけ」
「7月に、日本で」
「へぇ」

 帰国してすぐなんだ、とあたしは目を丸くした。まぁ、一年も離れてたらね。すぐにでも一緒に暮らしたいだろうな。

「ねえ、急だけれど」

 ハナは言う。

「式、きてくれないかな。……遠いけれど」
「え、行く」

 日本は行ってみたかったから。即答するとハナは笑ってくれた。

「日本の神社でするから、楽しいと思うの」
「わ、それ楽しみ!」

 思わずハナの手を取る。
 ハナははにかむように笑って、あたしはさっそく頭の中で旅行プランを立て始めるーーなにか、素敵な出会いなんかがあればいいのだけれど!
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