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【高校編】分岐・黒田健

【side健】ざわつき

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 なんとなく、皮膚がひりつく感じがする。

(……とはまた違う)

 なんつーか、確信めいた何かがある。
 目の前で笑ってるコイツが犯人だと、俺の中で警鐘がガンガン鳴ってる。

「……お前だよな?」
「なんの話ぃ?」

 学校帰りのコンビニ。窓ガラス越しに視線を感じると、桜澤が立っていた。
 俺を挑発的に見つめる目に、コンビニから出る。
 10月の夕方は、少し肌寒い。
 桜澤は制服姿で、じっと立っている。

(何しにきた?)

 そうは、思った。
 でもまさか、コイツが犯人だなんて、……さっきまでそんな確信はなかった。情けないことに。
 だけれど桜澤が笑いながら俺に言った。

「全然気がついてもらえないんだもの」

 薄らと笑って、首を傾げて。
 皮膚がひりついた。
 こいつ、こいつは。
 だから言った。聞いた。「お前だよな?」。
 桜澤はとぼけて笑う。

「……名古屋でも起きたらしいな」
「なにが?」
「ヒト殺し」
「よくある話なんじゃないの?」
「緑区で殺されてたのは金田緑郎サンだ」
「へえしらなかった」

 わざとらしく桜澤は笑った。

「なんで色にこだわる?」
「だから青花、よくわかんなぁい」

 クスクス笑う桜澤を見ながら、ふと嫌な予感に襲われる。

「……設楽か?」
「なにがあ?」
「あいつ、白だろ」
「どうしてぇ?」

 ニヤニヤと俺を見る目。頭の中がごちゃごちゃしてくる。

「……設楽に何かしてみろ。コロス」
「やだー、こわーい」

 桜澤は声の高低なく、淡々と目を細めて言った。

「ねえ知ってる? 殺人の9割は顔見知りによる犯行なんだよ」
「……だからなんだよ」
「ふふ」

 桜澤は余裕たっぷり、って表情で踵を返す。

「またねー黒田くん」
「……俺にバラして良かったのかよ」

 何がやりたい? よく分からない。

「いいのいいの、少し楽しくしたかっただけだから」

 桜澤は夕陽の中笑う。そのまま夕陽に溶けるように去っていった。
 帰宅してすぐにキッチンで唐揚げ作ってる親父に「犯人は桜澤青花だ」と告げる。
 じゅうじゅうと揚がる唐揚げ。どうやら晩飯は唐揚げらしい。……やけに大量だな。

「んん? それって」
「知ってんのか」
「知ってるも何も……新横浜の駅で参考人だった子」
「そのまま逮捕しとけよ」

 何釈放してんだよ。

「アリバイがあったらしいんだよ。俺が取り調べ当たったわけじゃないけど、担当によると、相当ハッキリとしたアリバイが」
「……共犯がいるってことか」
「うーん、待って待ってよタケルくん」

 親父は困った顔をする。

「変な話だけれどね、こういう子はよく居るんだ」
「こういう?」
「僕が犯人です、私が犯人です、って言ってくるひとたち」
「……は?」

 親父は肩をすくめる。

「センセーショナルな事件になればなるほど、そういう人が増える」
「なんのために」
「自己顕示欲? 承認欲求?」
「はー?」
「まぁ他人のふんどしなんだけれど……まぁ、要は目立ちたい、注目されたい」
「わかんねーな」

 とりあえず俺はカバンをリビングのソファに置いた。

「あ」
「なんだよ」
「今からお客さん来るから、ソファあけといて」
「は? 客う?」

 うん、と親父はうなずいて笑った。

「ほら、今回のことで京都府警の人もこっち来てて」
「おう」
「そのうちの1人がね、顔見知りで。ちょっと晩ご飯ご一緒に」

 ふうん、と俺は思う。それでキッチンでせっせと唐揚げ揚げてたわけか。

「健にも会いたがってるよ」
「なんで」
「だってこの共通点、見つけたの健だしさ」
「違ったじゃねーか」

 名古屋の被害者は、まったくウチの学校とは関係ない人物だった。

「いや、それでも3人のリンクを見つけたのは大きい」
「そーかよ。で、桜澤どうにかしてくれんの」
「うーん諦めないねぇ」
「ケーサツがやんねぇなら俺がやる」

 じっと見つめると、親父は諦めたように肩を竦めた。

「わかったよ。今回の殊勲賞は君だから、君に免じて桜澤さんこっそり監視でもしましょうかねぇ」
「……頼むわ」

 ど素人の俺が動くより、警察が動いてくれんなら言うことはない。
 そう思ってると、ふとインターフォンが鳴った。

「タケル、出て」
「はいはい」

 モニタも確認せずに玄関に出ると、設楽が「や」と手を上げた。

「設楽?」

 何してんだ、この暗いのに。
 歩いてきたわけじゃねーってのはわかる。設楽に暗い夜道は一人じゃ無理だ。

「ここまでタクシーで来たの」

 ふふ、と笑う。制服姿、多分学校から直接?

「どーした」
「あのね、あのね、当選! しましたっ」

 嬉しげに見せてくれたスマホの画面には、だるまに目を入れる設楽の姿。

「……青百合って生徒会選挙でこんなんなんのか」
「さすがにお酒の樽は割らないけどね」

 くすくすと設楽は笑う。嬉しかったんだろう、と思う。それを伝えたくて、直接伝えたくてここに来てくれた。
 衝動が止まらない。

「設楽」
「ん?」

 俺を見上げた設楽を抱きしめて、耳元で「おめでとう」と呟く。設楽は嬉しそうに身体をよじって、俺の背中に手を回す。
 強請るように顔を見上げて、俺を見つめる目。唇を重ねようとした瞬間、ごほん、と咳払い。

「あのさあ」
「ぎゃあお父さん! す、すみません毎回毎回っ」
「慣れてきたよ~」

 ヒラヒラと手を振る親父は「今日唐揚げだけど?」と設楽を誘う。

「食べてかない?」

 設楽はよだれを垂らしそうな顔をしながら「か、唐揚げ」と実に簡単に頷いた。……コイツ誘拐すんの、すっげー楽そうだよな?
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