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【高校編】分岐・相良仁

罪と罰(side仁)

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 気合十分、って感じの顔で(なにする気だオイ)桜澤青花の方をぐっと見つめる華を止めたのは、黒田だった。

「設楽、ちょい落ち着け」
「? 黒田くん」

 ふ、と華は思い切り吸い込んでいた息を吐く。華は昔から、なんていうか黒田には許してる部分が多い。踏み込ませてもいいラインが他の人より一歩分多くて、それは恋愛感情に基づくものじゃないと分かってても、それでも俺の心臓は悋気を起こしてひりつく。

(こんなときに、なに考えてんだかーー)

 自分で自分が笑えてしまう。馬鹿らしいとも思うし、やっぱりそれだけ華を好きなんだとも思う。
 華は黒田にとめられて、ふと視線を動かす。自然な仕草で。そして俺が視界に入ると、ふ、と肩から力を抜いた。

(……ああ)

 それだけで。たったそれだけで、さっきまであった嫉妬心が霧散した。

(さて、と)

 俺は一歩踏み出す。と言っても、ここまで来たら俺のやることなんて、ほとんど残ってない。桜澤への、登場人物紹介くらいだ。

(ま、華が来たのは少し想定外かな)

 変な危害が及んでもいけないし、知らないうちに終わらせるつもりだったけれど、と華のそばまで行く。
 終わらせるーー桜澤青花の悪事を、企みを、今日、この場で終わらせる。
 そのための「仕掛け」。
 桜澤本人は鹿王院に抑えてもらっている。桜澤がやたらと固執していた山ノ内、それから華の「弟」常盤圭。桜澤の担任の(華いわく)トージ先生、にも揃ってもらった。
 これはお膳立てだ。要は華や鍋島の言う「ゲーム」の展開に沿うような。

(そうすりゃホイホイ引っかかるだろうなとは思っていたけれど、まぁ)

 思った以上だった。実に嬉しそうに、我が意を得たりとばかりに庭園まで足取り軽くお越しいただいたのが、ほんの数分前。
 なんでか華が(どうせ花見でもしながら弁当食う気だったんだろう)現れたのが、ほとんど同時。
 少しばかり「ゲームのシナリオ」だとか強制力、だとか、そういうモンがあるのかもしんないなぁとか思うけど、あるにしたってもうそんなモンは関係ない。
 グッチャグチャだ。
 ……その「ゲーム」とやらを作ったシナリオライターが見たら発狂するかもしんないなぁ。こんな筋書き書いた覚えない! ってさ。
 やぁすんませんね、と俺は見たこともないそのシナリオライター神様に向かって謝る。
 悪役令嬢は俺の嫁にします。
 一生幸せにします。
 そう考えて、少しだけ笑った。
 華は不思議そうに俺を見るけど、さっきみたいな緊張感はない。
 その信頼が、愛情が、何より心地いい。

「こんにちは」

 そう声をかけられた桜澤が、不思議そうに声の方へ顔を向ける。
 そこにいるのは、スーツ姿の数人の男女。その先頭にいた、四十絡みの男が軽く微笑みながら口を開く。

「桜澤青花さんですね」
「……そう、ですけど」
「神奈川県警の黒田です」

 そう言って、その男ーー黒田の父親は、身分証を提示する。
 桜澤は怪訝そうにそれを見つめた。
 それから黒田の父親は白いA4サイズの紙を桜澤に提示した。

「逮捕状が出ています」
「……は?」

 ぽかん、と桜澤はそれを見つめた。

「麻薬及び向精神薬取締法、国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律
、これに違反したということで逮捕状が出ています。確認して」
「……は?」

 もう一度、桜澤はぽかんと宙を見つめる。

「それから強要と、売春防止法と薬事法違反に関してもお話が聞けたらなぁって」
「そ、それこそなんの話よっ」

 桜澤は騒ぐけれど、「売春」の二文字はあたりの茫然としていた生徒にもはっきり届いたらしい。

「売春?」
「てか、え? 麻薬って」

 ざわざわ、と生徒が騒ぎ出す。……本来なら、未成年を逮捕するのにこんな公衆の面前を選ばないだろう。けれど、桜澤には逃亡の虞があった。

(……高校生のガキのやることじゃねぇよなー)

 こいつの前世、なにしてたんだろってくらいに、桜澤の犯罪は組織化されていた。……麻薬の密輸を通して、外国の犯罪組織とも繋がりがあるくらいだ。

「し、知らないっ!」

 桜澤は声を張り上げた。

「知らない知らない知らないっ! い、一体なんの証拠があるっていうのよ!」

 半ば蒼白になりながら、それでも桜澤はキッパリと罪を否定するーー。

(さて)

 俺は桜澤を見据える。そろそろ「登場人物紹介」といきますか。
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