335 / 702
【高校編】分岐・鍋島真
鎖骨がきゅん
しおりを挟む
蝉が、まだ鳴いている。
私はぼんやりと木を見上げた。木漏れ日の先の青い空は、夏の気配は残しつつ秋、って感じだ。なのに。
「あつー……」
思わずそんな声が出た。
「大丈夫、設楽さん?」
「あ、うん。元気」
「暑いの苦手だもんね」
大村さんはじめ、同じクラスのみんなは笑ってくれるけれど、この暑い中申し訳ない……。
というのも、今は生徒会選挙の真っ只中。お願いしまーす、と校門で挨拶するのも本当の選挙みたいで少し面白い。
(たすきも本格的だしねぇ)
政治家の御子息とかも多く通うから、だろうか? 割と選挙の擬似体験ができるようなシステムになっている。
(違うのは……あの変な制度かなぁ)
立候補しなくても、投票で票が多ければ当選します(強制)って制度。
最も、いままでその制度で当選した人はいないらしい。そりゃそうだ。
「華」
挨拶しながらぼうっとしてた私に、知ってる声が話しかけた。
視線の先には、樹くん。
「あ、おはよ」
「精がでるな」
「選挙も大詰めですので~」
清き一票を、と笑いかけると大仰に頷かれた。
「必ず投票しよう」
「ありがとう~」
「しかし」
不思議そうに私を見つめる。
「なぜ生徒会に入ろうと?」
「えーと」
苦笑いすると、後ろからクラスの友達がクスクス笑いながら言った。
「職員室に特攻かけてたよね」
「あの設楽さん強かったよね」
「強かった」
「すごかった」
「バッファローみたいだった」
「いやストップ、そんな勢いなかったよね!?」
私はそんな凄い勢いで職員室に突入してない! ていうかブッコミって、どこのヤクザだよう!
「聞いてよ鹿王院くん」
大村さんが笑いながら話す。
「設楽さん風紀委員に入ったの」
「うむ」
「水泳部の子でさ、髪が赤茶くなる子いるじゃん。塩素で」
「色が抜けてか?」
「そーそー。で、校則的には染め直ししなきゃじゃん、女子は」
「ああ」
樹くんは頷く。この学校、男子校と女子校が戦後合併してできたから、校則が男女別のままなのです。男子は緩いんだけど、女子はガチガチに厳しい!
「それで、設楽さん水泳部の女子、見逃しちゃったらしいんだよ」
「華らしいな」
「いや、だってさぁ」
悪くないじゃん。別に。ていうか男子は良くて女子はダメって、さぁ。なんかさあ。
「でも結局、その子職員室に呼び出しされて。それ聞いた設楽さんが荒ぶる猛牛のように」
「ねえみんな私のこと牛だと思ってるの?」
「それで啖呵切ってきたんだよね、職員室で」
「そうそう」
別の子も話に入ってくる。
「そんなら校則変えます! って。んで今に至る」
樹くんは、と見ると楽しげに笑っていた。
「ほんとうに華らしい。しかし、仲がいいんだな、特進は」
「うーん、良くしてもらってます」
「そうか」
樹くんは目を細めて、少しだけ笑った。
それからしばらくして、千晶ちゃんに出会う。
「おはよ華ちゃん」
「おはよ」
っていっても、朝の挨拶2回目。一緒に住んでるんだもんね。
「がんばってるね~」
「清き一票を!」
「あは、もちろんもちろん」
笑いながら手を振って、千晶ちゃんは校舎へ向かっていく。
「鍋島議員の娘さん」
「設楽さん仲良かったの?」
「え、あ、うん」
頷くと、へえって顔をされた。
「いろいろ大変だろうにねえ」
「いまはお爺様と暮らされてるのかな」
……千晶ちゃんと真さんのお父さん、逮捕されちゃってるからなぁ。
あのリスしばらく実刑くらいそう、って真さんは嬉しげに言ってたけど。
「お兄さんがいらしたよね?」
その言葉に、びくりと肩を揺らす。なぜか鎖骨がきゅんとする。……昨日なぜか噛まれまくったから、あのあたりキスマークがすごい。体育の時見られないようにしないと……。
「そうだよね、確か。すごい美形らしいけど」
「法学部だっけ?」
「政治家になるのかなぁ」
そんな会話を、なんとも言えない表情で聞いていると、ふ、と大村さんと目があって逸らされた。不思議な顔。何か、面白そうな、楽しそうな。
「?」
そんな顔をしたときだった。目の前を金髪が通り過ぎようとしたからーー。
「アキラくんっ」
「お、華。タスキも似合うなぁ」
「ごまかさないっ」
いまは選挙と関係なく、風紀委員としてのお仕事モードに入る。
「いいですか、確かに男子の染髪は校則違反ではありませんが、その金色は明らかに目立ちすぎですっ」
「なんでやー、目立ちたいんやっ」
「なんで!」
「目立った方がスカウトに目ぇつけられるやんか」
「アキラくんはそんなことしなくても目立つから大丈夫」
さあ髪を黒くしなさい、と詰め寄ったとき「離れなさい設楽華ッ」と声を上げられる。
その声の主は、なんていうか桜澤青花で……入学したときより、なんていうか、狂気じみたものを感じるようになってる昨今。
「自分の取り巻きの髪が明るいのはよくて、校則違反じゃないアキラくんの髪が染められてるのはダメなの!?」
「アキラくんはわざと! あの子は不可抗力!」
「結果としては同じでしょ!?」
詰め寄って来る青花と私の間に、アキラくんと大村さんが割り込む。
「?」
ぽかんとしてると、アキラくんが口を開いた。
「アンタには関係ないやん」
冷たい声。
「つうか、なんで下の名前でよぶんや。許可してへんやんな?」
「え、でも?」
庇ったのになんで責められてるの、って顔で青花は首を傾げた。
私はぼんやりと木を見上げた。木漏れ日の先の青い空は、夏の気配は残しつつ秋、って感じだ。なのに。
「あつー……」
思わずそんな声が出た。
「大丈夫、設楽さん?」
「あ、うん。元気」
「暑いの苦手だもんね」
大村さんはじめ、同じクラスのみんなは笑ってくれるけれど、この暑い中申し訳ない……。
というのも、今は生徒会選挙の真っ只中。お願いしまーす、と校門で挨拶するのも本当の選挙みたいで少し面白い。
(たすきも本格的だしねぇ)
政治家の御子息とかも多く通うから、だろうか? 割と選挙の擬似体験ができるようなシステムになっている。
(違うのは……あの変な制度かなぁ)
立候補しなくても、投票で票が多ければ当選します(強制)って制度。
最も、いままでその制度で当選した人はいないらしい。そりゃそうだ。
「華」
挨拶しながらぼうっとしてた私に、知ってる声が話しかけた。
視線の先には、樹くん。
「あ、おはよ」
「精がでるな」
「選挙も大詰めですので~」
清き一票を、と笑いかけると大仰に頷かれた。
「必ず投票しよう」
「ありがとう~」
「しかし」
不思議そうに私を見つめる。
「なぜ生徒会に入ろうと?」
「えーと」
苦笑いすると、後ろからクラスの友達がクスクス笑いながら言った。
「職員室に特攻かけてたよね」
「あの設楽さん強かったよね」
「強かった」
「すごかった」
「バッファローみたいだった」
「いやストップ、そんな勢いなかったよね!?」
私はそんな凄い勢いで職員室に突入してない! ていうかブッコミって、どこのヤクザだよう!
「聞いてよ鹿王院くん」
大村さんが笑いながら話す。
「設楽さん風紀委員に入ったの」
「うむ」
「水泳部の子でさ、髪が赤茶くなる子いるじゃん。塩素で」
「色が抜けてか?」
「そーそー。で、校則的には染め直ししなきゃじゃん、女子は」
「ああ」
樹くんは頷く。この学校、男子校と女子校が戦後合併してできたから、校則が男女別のままなのです。男子は緩いんだけど、女子はガチガチに厳しい!
「それで、設楽さん水泳部の女子、見逃しちゃったらしいんだよ」
「華らしいな」
「いや、だってさぁ」
悪くないじゃん。別に。ていうか男子は良くて女子はダメって、さぁ。なんかさあ。
「でも結局、その子職員室に呼び出しされて。それ聞いた設楽さんが荒ぶる猛牛のように」
「ねえみんな私のこと牛だと思ってるの?」
「それで啖呵切ってきたんだよね、職員室で」
「そうそう」
別の子も話に入ってくる。
「そんなら校則変えます! って。んで今に至る」
樹くんは、と見ると楽しげに笑っていた。
「ほんとうに華らしい。しかし、仲がいいんだな、特進は」
「うーん、良くしてもらってます」
「そうか」
樹くんは目を細めて、少しだけ笑った。
それからしばらくして、千晶ちゃんに出会う。
「おはよ華ちゃん」
「おはよ」
っていっても、朝の挨拶2回目。一緒に住んでるんだもんね。
「がんばってるね~」
「清き一票を!」
「あは、もちろんもちろん」
笑いながら手を振って、千晶ちゃんは校舎へ向かっていく。
「鍋島議員の娘さん」
「設楽さん仲良かったの?」
「え、あ、うん」
頷くと、へえって顔をされた。
「いろいろ大変だろうにねえ」
「いまはお爺様と暮らされてるのかな」
……千晶ちゃんと真さんのお父さん、逮捕されちゃってるからなぁ。
あのリスしばらく実刑くらいそう、って真さんは嬉しげに言ってたけど。
「お兄さんがいらしたよね?」
その言葉に、びくりと肩を揺らす。なぜか鎖骨がきゅんとする。……昨日なぜか噛まれまくったから、あのあたりキスマークがすごい。体育の時見られないようにしないと……。
「そうだよね、確か。すごい美形らしいけど」
「法学部だっけ?」
「政治家になるのかなぁ」
そんな会話を、なんとも言えない表情で聞いていると、ふ、と大村さんと目があって逸らされた。不思議な顔。何か、面白そうな、楽しそうな。
「?」
そんな顔をしたときだった。目の前を金髪が通り過ぎようとしたからーー。
「アキラくんっ」
「お、華。タスキも似合うなぁ」
「ごまかさないっ」
いまは選挙と関係なく、風紀委員としてのお仕事モードに入る。
「いいですか、確かに男子の染髪は校則違反ではありませんが、その金色は明らかに目立ちすぎですっ」
「なんでやー、目立ちたいんやっ」
「なんで!」
「目立った方がスカウトに目ぇつけられるやんか」
「アキラくんはそんなことしなくても目立つから大丈夫」
さあ髪を黒くしなさい、と詰め寄ったとき「離れなさい設楽華ッ」と声を上げられる。
その声の主は、なんていうか桜澤青花で……入学したときより、なんていうか、狂気じみたものを感じるようになってる昨今。
「自分の取り巻きの髪が明るいのはよくて、校則違反じゃないアキラくんの髪が染められてるのはダメなの!?」
「アキラくんはわざと! あの子は不可抗力!」
「結果としては同じでしょ!?」
詰め寄って来る青花と私の間に、アキラくんと大村さんが割り込む。
「?」
ぽかんとしてると、アキラくんが口を開いた。
「アンタには関係ないやん」
冷たい声。
「つうか、なんで下の名前でよぶんや。許可してへんやんな?」
「え、でも?」
庇ったのになんで責められてるの、って顔で青花は首を傾げた。
0
お気に入りに追加
3,084
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢なので舞台である学園に行きません!
神々廻
恋愛
ある日、前世でプレイしていた乙女ゲーに転生した事に気付いたアリサ・モニーク。この乙女ゲーは悪役令嬢にハッピーエンドはない。そして、ことあるイベント事に死んでしまう.......
だが、ここは乙女ゲーの世界だが自由に動ける!よし、学園に行かなければ婚約破棄はされても死にはしないのでは!?
全8話完結 完結保証!!
【完結】死がふたりを分かつとも
杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」
私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。
ああ、やった。
とうとうやり遂げた。
これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。
私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。
自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。
彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。
それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。
やれるかどうか何とも言えない。
だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。
だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺!
◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。
詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。
◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。
1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。
◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます!
◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。
あなたの剣になりたい
四季
恋愛
——思えば、それがすべての始まりだった。
親や使用人らと退屈ながら穏やかな日々を送っていた令嬢、エアリ・フィールド。
彼女はある夜、買い物を終え村へ帰る途中の森で、気を失っている見知らぬ少年リゴールと出会う。
だが、その時エアリはまだ知らない。
彼との邂逅が、己の人生に大きな変化をもたらすということを——。
美しかったホワイトスター。
憎しみに満ちるブラックスター。
そして、穏やかで平凡な地上界。
近くて遠い三つの世界。これは、そこに生きる人々の物語。
著作者:四季 無断転載は固く禁じます。
※2019.2.10~2019.9.22 に執筆したものです。
ヒロインを虐めなくても死亡エンドしかない悪役令嬢に転生してしまった!
青星 みづ
恋愛
【第Ⅰ章完結】『イケメン達と乙女ゲームの様な甘くてせつない恋模様を描く。少しシリアスな悪役令嬢の物語』
なんで今、前世を思い出したかな?!ルクレツィアは顔を真っ青に染めた。目の前には前世の押しである超絶イケメンのクレイが憎悪の表情でこちらを睨んでいた。
それもそのはず、ルクレツィアは固い扇子を振りかざして目の前のクレイの頬を引っぱたこうとしていたのだから。でもそれはクレイの手によって阻まれていた。
そしてその瞬間に前世を思い出した。
この世界は前世で遊んでいた乙女ゲームの世界であり、自分が悪役令嬢だという事を。
や、やばい……。
何故なら既にゲームは開始されている。
そのゲームでは悪役令嬢である私はどのルートでも必ず死を迎えてしまう末路だった!
しかもそれはヒロインを虐めても虐めなくても全く関係ない死に方だし!
どうしよう、どうしよう……。
どうやったら生き延びる事ができる?!
何とか生き延びる為に頑張ります!
モブ令嬢ですが、悪役令嬢の妹です。
霜月零
恋愛
私は、ある日思い出した。
ヒロインに、悪役令嬢たるお姉様が言った一言で。
「どうして、このお茶会に平民がまぎれているのかしら」
その瞬間、私はこの世界が、前世やってた乙女ゲームに酷似した世界だと気が付いた。
思い出した私がとった行動は、ヒロインをこの場から逃がさない事。
だってここで走り出されたら、婚約者のいる攻略対象とヒロインのフラグが立っちゃうんだもの!!!
略奪愛ダメ絶対。
そんなことをしたら国が滅ぶのよ。
バッドエンド回避の為に、クリスティーナ=ローエンガルデ。
悪役令嬢の妹だけど、前世の知識総動員で、破滅の運命回避して見せます。
※他サイト様にも掲載中です。
未来の記憶を手に入れて~婚約破棄された瞬間に未来を知った私は、受け入れて逃げ出したのだが~
キョウキョウ
恋愛
リムピンゼル公爵家の令嬢であるコルネリアはある日突然、ヘルベルト王子から婚約を破棄すると告げられた。
その瞬間にコルネリアは、処刑されてしまった数々の未来を見る。
絶対に死にたくないと思った彼女は、婚約破棄を快く受け入れた。
今後は彼らに目をつけられないよう、田舎に引きこもって地味に暮らすことを決意する。
それなのに、王子の周りに居た人達が次々と私に求婚してきた!?
※カクヨムにも掲載中の作品です。
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後
有木珠乃
恋愛
アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢は「使えない」悪役令嬢である。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに、最低限の義務である、王子の婚約者にすらなれなったほどの。
だから簡単に、ヒロインは王子の婚約者の座を得る。
それを見た父、ハイドフェルド公爵は怒り心頭でアベリアを修道院へ行くように命じる。
王子の婚約者にもなれず、断罪やざまぁもされていないのに、修道院!?
けれど、そこには……。
※この作品は小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる