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【高校編】分岐・鍋島真

鎖骨がきゅん

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 蝉が、まだ鳴いている。
 私はぼんやりと木を見上げた。木漏れ日の先の青い空は、夏の気配は残しつつ秋、って感じだ。なのに。

「あつー……」

 思わずそんな声が出た。

「大丈夫、設楽さん?」
「あ、うん。元気」
「暑いの苦手だもんね」

 大村さんはじめ、同じクラスのみんなは笑ってくれるけれど、この暑い中申し訳ない……。
 というのも、今は生徒会選挙の真っ只中。お願いしまーす、と校門で挨拶するのも本当の選挙みたいで少し面白い。

(たすきも本格的だしねぇ)

 政治家の御子息とかも多く通うから、だろうか? 割と選挙の擬似体験ができるようなシステムになっている。

(違うのは……あの変な制度かなぁ)

 立候補しなくても、投票で票が多ければ当選します(強制)って制度。
 最も、いままでその制度で当選した人はいないらしい。そりゃそうだ。

「華」

 挨拶しながらぼうっとしてた私に、知ってる声が話しかけた。
 視線の先には、樹くん。

「あ、おはよ」
「精がでるな」
「選挙も大詰めですので~」

 清き一票を、と笑いかけると大仰に頷かれた。

「必ず投票しよう」
「ありがとう~」
「しかし」

 不思議そうに私を見つめる。

「なぜ生徒会に入ろうと?」
「えーと」

 苦笑いすると、後ろからクラスの友達がクスクス笑いながら言った。

「職員室に特攻ブッコミかけてたよね」
「あの設楽さん強かったよね」
「強かった」
「すごかった」
「バッファローみたいだった」
「いやストップ、そんな勢いなかったよね!?」

 私はそんな凄い勢いで職員室に突入してない! ていうかブッコミって、どこのヤクザだよう!

「聞いてよ鹿王院くん」

 大村さんが笑いながら話す。

「設楽さん風紀委員に入ったの」
「うむ」
「水泳部の子でさ、髪が赤茶くなる子いるじゃん。塩素で」
「色が抜けてか?」
「そーそー。で、校則的には染め直ししなきゃじゃん、女子は」
「ああ」

 樹くんは頷く。この学校、男子校と女子校が戦後合併してできたから、校則が男女別のままなのです。男子は緩いんだけど、女子はガチガチに厳しい!

「それで、設楽さん水泳部の女子、見逃しちゃったらしいんだよ」
「華らしいな」
「いや、だってさぁ」

 悪くないじゃん。別に。ていうか男子は良くて女子はダメって、さぁ。なんかさあ。

「でも結局、その子職員室に呼び出しされて。それ聞いた設楽さんが荒ぶる猛牛のように」
「ねえみんな私のこと牛だと思ってるの?」
「それで啖呵切ってきたんだよね、職員室で」
「そうそう」

 別の子も話に入ってくる。

「そんなら校則変えます! って。んで今に至る」

 樹くんは、と見ると楽しげに笑っていた。

「ほんとうに華らしい。しかし、仲がいいんだな、特進は」
「うーん、良くしてもらってます」
「そうか」

 樹くんは目を細めて、少しだけ笑った。
 それからしばらくして、千晶ちゃんに出会う。

「おはよ華ちゃん」
「おはよ」

 っていっても、朝の挨拶2回目。一緒に住んでるんだもんね。

「がんばってるね~」
「清き一票を!」
「あは、もちろんもちろん」

 笑いながら手を振って、千晶ちゃんは校舎へ向かっていく。

「鍋島議員の娘さん」
「設楽さん仲良かったの?」
「え、あ、うん」

 頷くと、へえって顔をされた。

「いろいろ大変だろうにねえ」
「いまはお爺様と暮らされてるのかな」

 ……千晶ちゃんと真さんのお父さん、逮捕されちゃってるからなぁ。
 あのリスしばらく実刑くらいそう、って真さんは嬉しげに言ってたけど。

「お兄さんがいらしたよね?」

 その言葉に、びくりと肩を揺らす。なぜか鎖骨がきゅんとする。……昨日なぜか噛まれまくったから、あのあたりキスマークがすごい。体育の時見られないようにしないと……。

「そうだよね、確か。すごい美形らしいけど」
「法学部だっけ?」
「政治家になるのかなぁ」

 そんな会話を、なんとも言えない表情で聞いていると、ふ、と大村さんと目があって逸らされた。不思議な顔。何か、面白そうな、楽しそうな。

「?」

 そんな顔をしたときだった。目の前を金髪が通り過ぎようとしたからーー。

「アキラくんっ」
「お、華。タスキも似合うなぁ」
「ごまかさないっ」

 いまは選挙と関係なく、風紀委員としてのお仕事モードに入る。

「いいですか、確かに男子の染髪は校則違反ではありませんが、その金色は明らかに目立ちすぎですっ」
「なんでやー、目立ちたいんやっ」
「なんで!」
「目立った方がスカウトに目ぇつけられるやんか」
「アキラくんはそんなことしなくても目立つから大丈夫」

 さあ髪を黒くしなさい、と詰め寄ったとき「離れなさい設楽華ッ」と声を上げられる。
 その声の主は、なんていうか桜澤青花で……入学したときより、なんていうか、狂気じみたものを感じるようになってる昨今。

「自分の取り巻きの髪が明るいのはよくて、校則違反じゃないアキラくんの髪が染められてるのはダメなの!?」
「アキラくんはわざと! あの子は不可抗力!」
「結果としては同じでしょ!?」

 詰め寄って来る青花と私の間に、アキラくんと大村さんが割り込む。

「?」

 ぽかんとしてると、アキラくんが口を開いた。

「アンタには関係ないやん」

 冷たい声。

「つうか、なんで下の名前でよぶんや。許可してへんやんな?」
「え、でも?」

 庇ったのになんで責められてるの、って顔で青花は首を傾げた。
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