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【高校編】分岐・黒田健
うなじ
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「うなじなぁ」
黒田くんは不思議そうに、私の首の後ろに手を添えた。
「?」
すうっと後ろ髪を持ち上げられて(と言っても短いのだけれど)マジマジと見られる。
「……なんか、恥ずかしいんですけど」
私の髪は肩までだから、めったに結んだりしないし、だから何だか見られるとすうすうする。
「別にえろかないけど」
「うん」
「設楽のは」
「?」
設楽のは、の続きはなかった。
抱き上げられて、黒田くんの膝の間で後ろから抱きしめられた。
ふ、と後ろ首寄せられた唇、かかる息、思わず身体を硬直させる。
「ん、っ」
「……なぁ、そういう声、わざとだったりすんの」
「ちが、」
「知ってる」
少しからかう色の声。顔が見えないぶん、声になんだか意識が行ってしまって、なんか、なんだか!
「……華」
私は心臓が爆発したと思った。華、華!? よ、呼び捨て! 下の名前!
「く、黒田く、」
「華」
ぎゅうぎゅうと抱きしめられる。
少し力がゆるんで、私は振り向いた。切ない目をしてて、私はやっぱり心臓が爆発しそうになる。
「た、けるくん」
噛み付くみたいなキス。食べられそう、っていうか食べられてると思った。黒田くんの背中に手を回す。
息継ぎみたいに唇を離して、見つめ合う。
「華、……舌」
「した?」
べえっと出すと、黒田くんは少しだけ口を緩めた。
べえと出した舌を甘噛みされて、私は喉から高い声が出てしまう。
「うまそーだなと思ってた」
黒田くんがやたらと真剣に言う。え、なにが、舌が!?
「た、タン!?」
「だな」
楽しげに肩を揺らして、もう一度舌を吸われてーーそこで、ガタンと音がして私たちはぱっと離れた。
リビングの扉が開く。
「いやほんとごめん」
扉の先にいたのは黒田くんのお父さんでーー私は脳内で叫ぶ。
えらいとこ見られてしまいました!? や、その前に離れた!?
黒田くんは飄々と「はええな」と立ち上がる。
「ごめん設楽、俺の不注意」
「え、や、ええと? ごめん」
半分パニックだし、あれ名前呼んでくれてないとか変なとこに思考行っちゃうし、な私に対して、お父さんは落ち着いた感じで「えーと」と肩をすくめた。
「別にいいんだよ、俺、君たち信用してるし。でもそういうの部屋でしてね、気まずいから」
「ごめんなさい……」
うう、やっぱちゅー、見られてました?
「華さんのせいじゃないよ、健でしょサカってたの」
「うるせぇなぁ」
そう言いながら、黒田くんはコップに麦茶を勢いよく注いでお父さんに突き出していた。
「メシくらい食ってけるんだろ」
その言葉に私は首を傾げた。お仕事から帰ったわけじゃないのかな?
私の疑問を感じ取ったかのように、麦茶を飲んだお父さんは笑って説明してくれた。
「ほら、こないだ駅で会った時の事件。あれニュースにもなってるけど、殺人って断定されたから帳場立ってね」
「帳場?」
「捜査本部」
「捜査本部!」
警察っぽいなー、と話を聞く。
「もうここしばらくは着替えに帰宅してる感じだねー」
「不健康だよな」
「文句言うくせに、なんでお前は警察官になりたがってるんだろうなぁ」
「別に親父に憧れてるわけでもなんでもねーから心配すんな」
「あ、そー。ねえ華さん、ほんと可愛げのないやつですよね」
こいつのなにがいいんですか、とお父さんは笑った。
「ええと、全部です」
「おやお熱い」
お父さんは面白げに言って、それからダイニングチェアにゆっくり座った。
「あれねぇ、変な事件でねぇ」
「情報漏洩じゃねーだろーな」
「大丈夫、報道されてるレベルだから」
そう言ってお父さんが教えてくれたのは、この妙な時間の顛末だった。
「防犯カメラにね、あの多目的トイレに入っていく二人連れが映ってたんだよね」
ひとりは被害者で、もう1人が当然に犯人だろう、ということになった。
「背格好からして若い女性、マスクと帽子をしてて顔ははっきり映ってない。そいつは多目的トイレから出た後、電車で横浜駅まで向かってる」
だけれど、とお父さんは言う。
「横浜市内のデパートの防犯カメラに、同じ格好の女性が映っていて。すぐに重要参考人として手配したんだ。したのはいいものの」
お父さんが言うには、彼女にはアリバイがあったらしい。しかも相当にきっちりとしたアリバイが。
「どうもね、横浜駅のトイレで頼まれたらしいんだよね。この服装をしてこのトイレから出て行って欲しい、元カレにしつこく付き纏われて困ってる、って」
暴力的なひとではないから、人違いとわかれば手を出すことはない、お礼もします、と1万円を手渡されたその少女は言いなりに手渡されたその服に着替えたらしい。
「まんまと踊らされたんだねぇ僕たちは」
犯人はおそらく、まったく別の服装に着替えて悠々と人混みに紛れ姿を消した、ということらしい。
少女のほうは、頼まれた服装で頼まれたとおりにしばらくウロウロしたあと、普通に帰宅した、ということのようだった。
「実は物証もほぼなくてねー、困ってるんだよねー」
「それをなんとかするのが仕事だろ」
「簡単に言うね~、と、失礼」
お父さんのスマホが着信を告げる。
「はいはい、……分かった」
声のトーンが変わる。
お父さんは立ち上がり、私に「ゆっくりしていってください」と笑った。
「なにかあったのかよ」
「そうそう。事件。新しい事件」
お父さんはほとんど無表情でそう言って、それから眉を強くひそめた。
黒田くんは不思議そうに、私の首の後ろに手を添えた。
「?」
すうっと後ろ髪を持ち上げられて(と言っても短いのだけれど)マジマジと見られる。
「……なんか、恥ずかしいんですけど」
私の髪は肩までだから、めったに結んだりしないし、だから何だか見られるとすうすうする。
「別にえろかないけど」
「うん」
「設楽のは」
「?」
設楽のは、の続きはなかった。
抱き上げられて、黒田くんの膝の間で後ろから抱きしめられた。
ふ、と後ろ首寄せられた唇、かかる息、思わず身体を硬直させる。
「ん、っ」
「……なぁ、そういう声、わざとだったりすんの」
「ちが、」
「知ってる」
少しからかう色の声。顔が見えないぶん、声になんだか意識が行ってしまって、なんか、なんだか!
「……華」
私は心臓が爆発したと思った。華、華!? よ、呼び捨て! 下の名前!
「く、黒田く、」
「華」
ぎゅうぎゅうと抱きしめられる。
少し力がゆるんで、私は振り向いた。切ない目をしてて、私はやっぱり心臓が爆発しそうになる。
「た、けるくん」
噛み付くみたいなキス。食べられそう、っていうか食べられてると思った。黒田くんの背中に手を回す。
息継ぎみたいに唇を離して、見つめ合う。
「華、……舌」
「した?」
べえっと出すと、黒田くんは少しだけ口を緩めた。
べえと出した舌を甘噛みされて、私は喉から高い声が出てしまう。
「うまそーだなと思ってた」
黒田くんがやたらと真剣に言う。え、なにが、舌が!?
「た、タン!?」
「だな」
楽しげに肩を揺らして、もう一度舌を吸われてーーそこで、ガタンと音がして私たちはぱっと離れた。
リビングの扉が開く。
「いやほんとごめん」
扉の先にいたのは黒田くんのお父さんでーー私は脳内で叫ぶ。
えらいとこ見られてしまいました!? や、その前に離れた!?
黒田くんは飄々と「はええな」と立ち上がる。
「ごめん設楽、俺の不注意」
「え、や、ええと? ごめん」
半分パニックだし、あれ名前呼んでくれてないとか変なとこに思考行っちゃうし、な私に対して、お父さんは落ち着いた感じで「えーと」と肩をすくめた。
「別にいいんだよ、俺、君たち信用してるし。でもそういうの部屋でしてね、気まずいから」
「ごめんなさい……」
うう、やっぱちゅー、見られてました?
「華さんのせいじゃないよ、健でしょサカってたの」
「うるせぇなぁ」
そう言いながら、黒田くんはコップに麦茶を勢いよく注いでお父さんに突き出していた。
「メシくらい食ってけるんだろ」
その言葉に私は首を傾げた。お仕事から帰ったわけじゃないのかな?
私の疑問を感じ取ったかのように、麦茶を飲んだお父さんは笑って説明してくれた。
「ほら、こないだ駅で会った時の事件。あれニュースにもなってるけど、殺人って断定されたから帳場立ってね」
「帳場?」
「捜査本部」
「捜査本部!」
警察っぽいなー、と話を聞く。
「もうここしばらくは着替えに帰宅してる感じだねー」
「不健康だよな」
「文句言うくせに、なんでお前は警察官になりたがってるんだろうなぁ」
「別に親父に憧れてるわけでもなんでもねーから心配すんな」
「あ、そー。ねえ華さん、ほんと可愛げのないやつですよね」
こいつのなにがいいんですか、とお父さんは笑った。
「ええと、全部です」
「おやお熱い」
お父さんは面白げに言って、それからダイニングチェアにゆっくり座った。
「あれねぇ、変な事件でねぇ」
「情報漏洩じゃねーだろーな」
「大丈夫、報道されてるレベルだから」
そう言ってお父さんが教えてくれたのは、この妙な時間の顛末だった。
「防犯カメラにね、あの多目的トイレに入っていく二人連れが映ってたんだよね」
ひとりは被害者で、もう1人が当然に犯人だろう、ということになった。
「背格好からして若い女性、マスクと帽子をしてて顔ははっきり映ってない。そいつは多目的トイレから出た後、電車で横浜駅まで向かってる」
だけれど、とお父さんは言う。
「横浜市内のデパートの防犯カメラに、同じ格好の女性が映っていて。すぐに重要参考人として手配したんだ。したのはいいものの」
お父さんが言うには、彼女にはアリバイがあったらしい。しかも相当にきっちりとしたアリバイが。
「どうもね、横浜駅のトイレで頼まれたらしいんだよね。この服装をしてこのトイレから出て行って欲しい、元カレにしつこく付き纏われて困ってる、って」
暴力的なひとではないから、人違いとわかれば手を出すことはない、お礼もします、と1万円を手渡されたその少女は言いなりに手渡されたその服に着替えたらしい。
「まんまと踊らされたんだねぇ僕たちは」
犯人はおそらく、まったく別の服装に着替えて悠々と人混みに紛れ姿を消した、ということらしい。
少女のほうは、頼まれた服装で頼まれたとおりにしばらくウロウロしたあと、普通に帰宅した、ということのようだった。
「実は物証もほぼなくてねー、困ってるんだよねー」
「それをなんとかするのが仕事だろ」
「簡単に言うね~、と、失礼」
お父さんのスマホが着信を告げる。
「はいはい、……分かった」
声のトーンが変わる。
お父さんは立ち上がり、私に「ゆっくりしていってください」と笑った。
「なにかあったのかよ」
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