上 下
577 / 702
【高校編】分岐・相良仁

【side仁】これから

しおりを挟む
 どこからどう今回の話を嗅ぎつけたかわかんない父親はまぁベラベラベラベラ嬉しそうにお喋りしてくれた。

「だからジーンは5歳までひとりでトイレに」
「お前少し黙れ」
「やぁだなぁジーン、お父様は楽しい昔話をしてるだけじゃないか」

 華は楽しそうに肩を揺らしている。

「なんでよー、もっと聞きたい」
「……聞かなくていいよ」

 さらりと髪を撫でそうになって、華のバーさんの視線に射殺されそうになる。

「指一本触れないのでは?」
「……でした」

 華はじとりと俺を見上げる。余計なこと言って! って顔。
 でも俺はそれで認めてもらえるなら、一年くらい我慢する……我慢できるかな? しますよ!

「じゃあ次は~」
「まだ何か話す気なのかよ」

 親父にそう言うと、親父は肩を竦めた。

「ううん? でも次は華さんが誠意見せるばーん」

 俺はぽかんと親父を見つめた。なんだそりゃ。
 華はじっと親父を見てる。

「まだボクは認めてないデスよ?」
「しらねーよ、いって」

 華に太ももをつねられた。なになに!? ……ていうか、華から触んのはOKなの?

「私はちゃんと認められたい」
「……認めるもなにもない」

 別に親の許可なんか必要ない。単に、華は未成年だし、それに華のバーさんと縁切りみたいになんのは、なんかヤだった。だからちゃんと挨拶したかったし、認められたかった。
 華もバーさんも、多分普通に「家族」なのに……華を奪って行くのは、出来る限り、最後の手段にしたくなっていた。

「まーまー、そう言わずにジーンちゃん」
「腹立つ呼び方ヤメロ」
「別にさあ、結婚に反対してるわけじゃないの。単に少しだけ、英国の学校に通ってもらいたいだけで」
「……へ?」

 俺たちはぽかんと顔を見合わせた。親父は笑って、華と華のバーさんに向かって話しだす。

「ロンドン郊外に知り合いがやってる全寮制の学校 ボーディングスクールがあるんです。もちろん女子校」

 華のバーさんは興味深げに聞いていた。その表情を俺はやっと少し冷静に見つめる。

(ふうん)

 いや、わかってたけど……認めるなんかなかなかできないよなぁ。
 親父は言葉を続ける。

「この学校は未だに花嫁学校フィニッシングスクールとしての色合いを残してましてね」

 ちら、と華を見たあとさらに続ける。

「英国式のマナーや儀典、もちろんお勉強もひととおり」
「……はい」
「できる?」
「できます」

 華はキッパリ答えて、俺は親父の足を踏んだ。

「いっ」
「なに勝手こいてんだクソ親父」

 立場を利用させてもらったけれど、それだって親父のモンってわけじゃない。代々勝手に受け継がれてる良く分かんないモンで、俺は継ぐ気がない。

「いやぁ、だってさぁ、ジーン。お前のお母さんはそこで苦労したんだよ」

 母親の名前を出されて、少し黙る。苦労?

「伯爵家に嫁ぐってどっかそーいうことなの。マナーも儀典も、くだらないけど知らないと苦労するの」

 ねぇ? と華に笑いかける親父に、華は神妙に頷いた。

「がんばります……ね、敦子さん行っていいでしょう?」

 華のバーさんは頷く。

「全寮制ね。いいんじゃない? いってらっしゃいよ」

 微笑むその口で「頭が冷えそうで」と言いたいのを我慢してんだろーな、と俺は思う。

(少し離れたら感情も冷えると思われてんだろうなぁ)

 親父の知り合いのその学校、確か教職員スタッフに至るまで全員女性だ。つまり、俺の入り込む隙間はない……。
 その間に、華の俺に対する感情が冷えちゃえば万々歳、って感じなんだろうなぁ。
 でも残念ながら、それはない。

「でも」

 俺は華を見つめる。

(学校は?)

 今の学校、楽しいって言ってたじゃんか。……桜澤以外は、って感じになるけど、でも。

(友達も、委員会も、勉強も)

 全部捨てて行くのかよ。……俺なんかのために?

「……卒業後でいいんじゃないか」
「高校出てるのに高校に留学って変じゃない?」

 華は首を傾げた。俺は「変じゃないよ」とテキトーに答える。

「でもあの、できれば夏以降にしてもらえませんか?」

 華は親父に笑う。

「いまやってる委員会の任期が、1学期末までなんです。七月半ば」
「うん、構わないよ。というかちょうどいいかなぁ」

 9月が新学年だからね、と親父は笑う。

「一年でぜぇんぶ覚えるんだよ? できなかったら留年だからね」
「できます」

 華はきゅうと膝の上で手を握り締めて、そう答えた。

「それでこの人といられるなら、やります」
「……おやおやウチの息子たん、ずいぶん想われてるみたいで」

 親父は茶化すけど、俺はなぜだか泣きそうだしそこまでやんなくていいと思う。継ぐ気なんかないのに。
 華は笑う。

「仁、なんで泣いてるの」
「泣いてねーし」
「泣いてる」

 くすくすと華は笑う。
 華をぎゅうぎゅう抱きしめたいけど、それは我慢する。約束だから。

(結婚まで指一本触れません)

 ……てことは来年の卒業、七月まで我慢ってこと!?

(こっちの学校より期間増えてるじゃん!)

 顔に出てたのか、じとりと華のばーさんに顔を見られて、俺はなんとか苦笑いを返した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

くだらない結婚はもう終わりにしましょう

杉本凪咲
恋愛
夫の隣には私ではない女性。 妻である私を除け者にして、彼は違う女性を選んだ。 くだらない結婚に終わりを告げるべく、私は行動を起こす。

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?

tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」 「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」 子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。

転生したら攻略対象者の母親(王妃)でした

黒木寿々
恋愛
我儘な公爵令嬢リザベル・フォリス、7歳。弟が産まれたことで前世の記憶を思い出したけど、この世界って前世でハマっていた乙女ゲームの世界!?私の未来って物凄く性悪な王妃様じゃん! しかもゲーム本編が始まる時点ですでに亡くなってるし・・・。 ゲームの中ではことごとく酷いことをしていたみたいだけど、私はそんなことしない! 清く正しい心で、未来の息子(攻略対象者)を愛でまくるぞ!!! *R15は保険です。小説家になろう様でも掲載しています。

処理中です...