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【高校編】分岐・山ノ内瑛

勉強

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 季節はすっかり夏を過ぎて、二学期が始まった。
 とはいえ、まだまだ暑いのだけれど。まだまだセミも頑張ってて、そして最近のアキラくんは勉強を頑張ってる。すっごい頑張ってる。

「……どうしたの?」
「勉強しとるだけでそんな怪しまれるぅ?」

 アキラくんはケタケタ笑う。笑うけどさぁ、もう。

(前は平均とれたらいいみたいな感じだったのに)

 最近では、勉強教えてとまで言われるようになってきた。すごいぞ。

「いいけど……あ、ここ公式間違ってる」
「あ、ほんま? ……華」
「なに?」

 私たちがいるのは、図書館の地下書庫。相変わらず人の気配はない。こおお、と静かなエアコンの稼働音だけが響いている。
 そんな書庫の大きな机に並んで座って、私はアキラくんと教科書を眺めていた。

「華」

 もう一度名前を呼ばれて、私は首を傾げた。

「さみしい?」
「え、なんで?」

 アキラくんはさらりと私の髪を撫でる。

「かまってへんから?」
「へ、でも」

 一緒にいれるだけでいいんだよ、と私は笑う。

「別に、なにしてたって」
「ふうん?」

 アキラくんが首を傾げた。さらりと金髪が揺れる。

「なにしてもええの?」
「それは言ってないよ?」

 噛みつかれるみたいに、キスされた。
 最初から舌を吸われて、甘噛みされて、まるで内側から食べられていくみたいに。
 ほんの少し離れた時に私から出たのはなんだかヤらしい息遣いで、思わず赤面してしまう。

「可愛い」
「な、なにが?」
「華が」

 言いながら耳元に唇を寄せられる。甘噛みされる耳たぶにびくりと身体が揺れる。溶けちゃいそうだと思う。

「すまん」

 耳元で、優しげに笑う声。

「俺の方が欲求不満」
「あ、アキラくん」
「もうちょっとだけ」

 言われて、首筋をべろりと舐められる。思わず上がりそうな声を我慢すると、楽しげにアキラくんの肩が揺れた。

「たっ、楽しんでるでしょう!?」
「うん、めっちゃ楽しい」
「もう!」
「だって華が可愛いんやもん」

 世界一なんやもん、とアキラくんは笑う。笑いながら、私の制服のリボンタイをしゅるりと解いた。

「わ、」
「鎖骨噛んどこ」
「なにそれ」

 ついでついで、みたいな感じだけれど。
 ちろりと舐められて、噛まれて、私はアキラくんの服を掴む。

「……えろえろな顔してんなぁ」
「してないよう」
「してる」

 アキラくんの唇が、また私のと重なる。今度はゆっくりと、丁寧に口腔を舐められ上げていく。
 アキラくんの指が、私の骨盤のお腹側をぐりっと押さえる。

「……なんでこれで反応するん」
「や、だって」
「骨やでー? 華チャン、これ骨」

 楽しげにアキラくんはぐりぐりと骨盤を刺激してくる。だって、だって、くすぐったいのと混じって、なんか!

「変態さん」
「うぅ」

 アキラくんを見上げると、アキラくんはそっと私の頬にキスをしてくれる。

「とろっとろやな顔」
「してないよう」
「してる」

 私たちは見つめ合う。許されるなら、もう超えてほしい一線を、アキラくんは絶対に超えない。
 物欲しげな私の顔を見て、アキラくんは「ごめんな」と髪を撫でた。

「大事にしたいからやで?」
「うん」
「ほんまに好き」

 ぎゅう、と抱きしめられて、そっと離された。

「ここまでにしとこー。俺の理性的に」
「……しなくていいのに」
「ほんまに華は可愛いなぁ」

 こめかみにキス。
 見上げたアキラくんの目は優しげで、大切なものを見てくれてる目をしてて、私はそれだけでまた蕩けそうになる。

「……あ、そういや」

 アキラくんはカバンからクリアファイルを取り出す。

「これ」
「あ、写真」

 この間送られてきてた、私とお母さんの写真。

「ありがとな」
「なんだったの?」

 私は手帳にそれを挟み直しながらアキラくんを見た。アキラくんはかたをすくめる。

「や、オヤジ繋がりでな、華たちのこと知ってる人おらんかなと」
「?」
「一応警察関係も知り合い多いから。華のオトーサンの写真とか手に入らんかなと」

 アキラくんはもう一枚、写真を取り出す。

「わ、ほんとに!?」
「オヤジの京都府警の知り合いから貰ったんや」

 写真に写ってるのは、敬礼して微笑んでるお父さんの写真。

「広報で使われてたやつらしいねんけど」
「いいの?」
「いいらしいで」

 私はまじまじとそれを見つめた。……うん、あんまり覚えてないけど、これ、お父さんだ。

「嬉しい」
「良かった」

 なぜだかアキラくんはほっとしたというか、少し気まずそうに笑った。

「?」
「ところで華、ここの問題なんやけど」
「あ、うん」

 私はテキストに向かい直す。すっとアキラくんの腕が私の腰に回った。

「わ」
「くっついとこ」
「なんで」
「嫌?」
「やなわけないよ」

 私たちは椅子をくっつけて、できるだけぴったりくっついてテキストを眺める。
 時折見上げると、幸せそうな視線とぶつかるから、私もとても幸せになる。
 こんな時間が続いたらいいのに、って心から思う。
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