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【高校編】分岐・山ノ内瑛

こんちきちん

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 こんちきちん、という擬音がぴったり合うお囃子が舞う中、びっしりとした(ほんとにそんな感じ!)の人波の中を、私とアキラくんは通る。

「歩行者専用になるんや」

 アキラくんはそう説明してくれた。
 私たちがいるのは、四条通っていう東西の大きな通り。普段は車でいっぱいのここは、歩行者天国になってて、まるで!

「満員電車にいるみたい」
「ほんまやなぁ。久々やけどこんなやったかな」

 宵山っていうのは、山鉾巡行の前日のことで、宵宵宵山(つまり3日前)から行われてるお祭り。
 京都市の中心部に山鉾っていわれる山車が飾られてーーその大きさ的には「設置されて」のほうがしっくりくるーーそこでは色んなお守りや手拭いを売ってるとのこと。屋台も出て、山鉾巡業のつぎに(もしかしたら、それよりも)盛り上がる行事らしい。
 ふ、と藍色の空を見上げると、金色の月ーー、の形が浮くように見える。

「あれは月鉾」
「大きいねぇ」

 本当の月は白くて細くて、でも藍色の空によく似合っていた。

「ほんっま、人多いな。華、いける?」
「いけるいける」

 アキラくんの手をぎゅうっと握った。アキラくんは優しく私を見てる。

「とりあえずさぁ」
「ん?」

 私はにこりとアキラくんを見上げた。
 ずっとお祭り行きたかった、って言ってくれた。なら、楽しまなきゃだ!

「食べまくりましょうか!」

 そこからは東西南北ウロウロしながら、かき氷から焼き鳥から食べまくり。

「お、美味しいよう」

 屋台のご飯ってこんなだっけ……!

「いつぶりだろう」

 私は思わずぽつりと漏らす。前世ぶりだし、「華」の記憶的には小学四年生のお正月にお母さんと初詣に出掛けたぶり、になる。

(前世では大人になってからはあんまり行ってなかったなぁ)

 お祭り、なんて。屋台なんて。

「俺もいつぶりやろ」
「私はね、四年生ぶり……あ」

 はた、と気がつく。違うな。

「小学校の時にさ」
「うん」
「樹くんが」

 アキラくんが私の口にりんご飴を突っ込んだ。

「んぐ!?」

 甘い! 美味しい! でも喋れない!

「ごめんな、華」

 アキラくんは目を細めた。

「他の男との思い出話すんのやめて」
「……小学生のころの話だよ?」
「それでも嫌や」

 きっぱり言われて、私はうなずいた。

「ごめんね」
「ん、いや、すまん」

 アキラくんは視線をうろつかせた。

「ほんまに、俺、ガキで嫌んなるわ」
「ううん」

 私はちろりとりんご飴を舐める。

「……あ、鳩」

 アキラくんが私の手を引く。鳩?
 アキラくんに連れて行かれた、ライトに照らされたそこには色んなお守りや、粽(食べられないらしい)が並んでいる。
 その中に小さな、白とピンクの鳩の焼き物がおいてある。

「はとすず?」

 うん、と言いながらアキラくんはそれを買った。白とピンク。

「こっち、華に」

 すこし歩いたところで、アキラくんは私の鞄にピンクの鳩が入った紙袋を突っ込んだ。

「え、わ、いいの?」
「ん」

 アキラくんは笑った。

「夫婦円満のお守りらしいで」
「ふ、ふうふ」
「縁結びんとこもあるんやけど」

 アキラくんは繋いだ手をすこし上げる。

「もう縁結ばっとるし、夫婦円満でええやろ」

 にかっ、と笑うアキラくんに、私はきゅうとくっついた。

「あーあ、華、可愛い」

 吐き出すみたいにアキラくんがそう呟いて、私は照れて視線をウロウロさせる。
 と、コンビニの前に出てる出店、というかコンビニの人たちが唐揚げとビール売ってる屋台の売り子さんと目が合う。

「あれ」
「あれ!? 設楽さん、と彼氏くん!」

 コンビニの制服を着て私たちに手を振ったのは柚木くん。

「わ、久しぶり」
「バイトしてんの?」

 私たちはそっちに近づく。柚木くんは天を仰ぐように「だー!」と叫んだ。

「オレはバイトバイトやのに楽しそうやなぁ羨ましいわっ!」
「せやろ柚木クン、めっちゃ美人なカノジョと祇園祭デート羨ましいやろ」
「うるせ! 唐揚げ食っとけ!」

 柚木くんは唐揚げが入った紙コップを渡してくれる。

「え、いいの?」
「ええねん奢りや」

 柚木くんは笑いながら言ってくれる。

「ありがとう……あ、」

 私は受け取りながら写真のことを思い出す。

「写真もありがとう。誰が送ってくれたのかな? 差出人がなくって」
「へ? 写真?」

 柚木くんはきょとんと私を見つめる。

「え?」

 私はぽかんと柚木くんを見つめた。

「柚木くんじゃないの?」

 首をひねりながら、届いた手紙と写真について説明する。

「えー、ほんまにオレちゃうで? そんなプライベートなこと友達かてよう言わんし」
「そうなんだ?」

 じゃあ誰からだったんだろ、とのんびり考えてると、アキラくんが強く強く手を握ってきた。

「?」
「華」
「なあに?」
「悪いけどその写真、ちょお貸してくれへん?」

 見上げたアキラくんの目はなんだか酷く真剣で、私は押されるように頷いた。
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