上 下
686 / 702
【高校編】分岐・鹿王院樹

三者三様【三人称視点】【side青花】【side華】

しおりを挟む
【三人称視点】

 ひそやかに、集まって話す数人の女の子。揃いの白い制服。ひとりの髪は、少しだけ茶色い。

「ねえ、設楽先輩と鹿王院先輩の話、聞いた?」
「結婚式延期の話?」
「聞いた聞いた」

 そこで、少女たちはふと口を噤む。誰かが廊下を歩いていく気配がしたから。
 通り過ぎて行ったのを確認して、再び少女たちは話し始めた。

「設楽先輩、赤ちゃんが」
「えっ!」
「まじ!?」

 少女たちはそれぞれに反応する。

「大丈夫なの?」
「籍は予定通りですってー」
「ご婚約はされてたからねぇ」
「まぁねぇ」
「鹿王院先輩も就職決まってるんでしょ?」
「あ、やっぱりプロなんだ。チーム決められたの?」
「噂だけれど。練習にもよく視察に来られてるって」
「へぇ」
「そもそも学費なんかも自分で払ってたんだって」
「え、まじ? ここの学費?」
「いくらするんだろ」
「ねー。そもそも一緒に暮らしてたんでしょ? 設楽先輩とこもその辺は織り込み済みなんじゃない」
「お金持ちってわかんないねー」
「ねー」
「委員会どうすんのかな」
「一学期いっぱいで転校って聞いたけど。だから任期いっぱい」
「そっかぁ」

 茶髪の女の子が、少しだけ寂しそうにする。

「……二学期の生徒会選挙、でてみようかな」
「え、いいじゃん」
「応援するよ?」

 少女たちはふと時計を見上げる。

「あ、部活」
「ほんとだ」
「急がなきゃ」

 それぞれに立ち上がり、カバンを掴んで教室を出る。
 廊下には、春の日差しが満ちていた。
 もうすぐ、桜が咲く。

※※※


【side青花】

 偶然通りかかった廊下で、樹くんと設楽華の結婚が延期になるって聞いて、あたしは嬉しくて飛び跳ねるのを我慢するので精一杯だった。

(やっぱりね!)

 樹くんの気持ちは、あたしに傾いてるんだ!

(だって、最近たくさん話するし!)

 嬉しくて嬉しくて仕方ない!
 軽い足取りでグラウンドへ向かう。サッカー部の練習グラウンド。
 そこで樹くんの姿を見つけて、軽く手を振る。ちらりと視線が向けられて、あたしは彼の特別だってはっきり自覚した。
 あたし、愛されてる!
 空を見上げた。明るい水色の、春の空。
 ふとあたしは桜のつぼみが膨らんでることに気がつく。

(そっか)

 思わず微笑む。
 もうすぐ桜が咲くんだ。

※※※

【side華】

 つわりは全然治らないし、なんだかトイレも近くなってきたし、夜もなんだか眠れないし、精神的にも少しキツイ。

「妊娠中は多かれ少なかれ、精神的に不安定になりがちですよ」

 病院の先生はそう言うけれど。
 ふう、と私は春の霞がかった空を見上げる。

(それになぁ)

 実のところ、ちょっと樹くんとケンカ中。ケンカっていうか、一方的に私が「きー!」ってなってるだけなんだけど……でも。

(樹くんも悪いよね!?)

 うん。
 知らないスマホ持ってたんだもん。

(新しいものじゃなかったけど)

 あれはなんだったんだろ。問い詰めたら「華は心配するな」の一点張りでさ。……青花関係かなと思う。

(相談してくれたって!)

 唇をとがらせて思う。うーん、拗ねてるだけ?
 どうなんだろう。頭がごちゃごちゃして、うまくまとまらない。
 ごちゃごちゃしたまま、ぼうっと空を眺め続ける。
 すこし、暖かい風が吹いた。
 もうすぐ、桜が咲く。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢なので舞台である学園に行きません!

神々廻
恋愛
ある日、前世でプレイしていた乙女ゲーに転生した事に気付いたアリサ・モニーク。この乙女ゲーは悪役令嬢にハッピーエンドはない。そして、ことあるイベント事に死んでしまう....... だが、ここは乙女ゲーの世界だが自由に動ける!よし、学園に行かなければ婚約破棄はされても死にはしないのでは!? 全8話完結 完結保証!!

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

ヒロインを虐めなくても死亡エンドしかない悪役令嬢に転生してしまった!

青星 みづ
恋愛
【第Ⅰ章完結】『イケメン達と乙女ゲームの様な甘くてせつない恋模様を描く。少しシリアスな悪役令嬢の物語』 なんで今、前世を思い出したかな?!ルクレツィアは顔を真っ青に染めた。目の前には前世の押しである超絶イケメンのクレイが憎悪の表情でこちらを睨んでいた。 それもそのはず、ルクレツィアは固い扇子を振りかざして目の前のクレイの頬を引っぱたこうとしていたのだから。でもそれはクレイの手によって阻まれていた。 そしてその瞬間に前世を思い出した。 この世界は前世で遊んでいた乙女ゲームの世界であり、自分が悪役令嬢だという事を。 や、やばい……。 何故なら既にゲームは開始されている。 そのゲームでは悪役令嬢である私はどのルートでも必ず死を迎えてしまう末路だった! しかもそれはヒロインを虐めても虐めなくても全く関係ない死に方だし! どうしよう、どうしよう……。 どうやったら生き延びる事ができる?! 何とか生き延びる為に頑張ります!

【完結】死がふたりを分かつとも

杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」  私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。  ああ、やった。  とうとうやり遂げた。  これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。  私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。 自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。 彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。 それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。 やれるかどうか何とも言えない。 だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。 だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺! ◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。 詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。 ◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。 1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。 ◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます! ◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。

モブ令嬢ですが、悪役令嬢の妹です。

霜月零
恋愛
 私は、ある日思い出した。  ヒロインに、悪役令嬢たるお姉様が言った一言で。 「どうして、このお茶会に平民がまぎれているのかしら」  その瞬間、私はこの世界が、前世やってた乙女ゲームに酷似した世界だと気が付いた。  思い出した私がとった行動は、ヒロインをこの場から逃がさない事。  だってここで走り出されたら、婚約者のいる攻略対象とヒロインのフラグが立っちゃうんだもの!!!  略奪愛ダメ絶対。  そんなことをしたら国が滅ぶのよ。  バッドエンド回避の為に、クリスティーナ=ローエンガルデ。  悪役令嬢の妹だけど、前世の知識総動員で、破滅の運命回避して見せます。 ※他サイト様にも掲載中です。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後

有木珠乃
恋愛
アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢は「使えない」悪役令嬢である。 乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに、最低限の義務である、王子の婚約者にすらなれなったほどの。 だから簡単に、ヒロインは王子の婚約者の座を得る。 それを見た父、ハイドフェルド公爵は怒り心頭でアベリアを修道院へ行くように命じる。 王子の婚約者にもなれず、断罪やざまぁもされていないのに、修道院!? けれど、そこには……。 ※この作品は小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

執事が〇〇だなんて聞いてない!

一花八華
恋愛
テンプレ悪役令嬢であるセリーナは、乙女ゲームの舞台から穏便に退場する為、処女を散らそうと決意する。そのお相手に選んだのは能面執事のクラウスで…… ちょっとお馬鹿なお嬢様が、色気だだ漏れな狼執事や、ヤンデレなお義兄様に迫られあわあわするお話。 ※ギャグとシリアスとホラーの混じったラブコメです。寸止め。生殺し。 完結感謝。後日続編投稿予定です。 ※ちょっとえっちな表現を含みますので、苦手な方はお気をつけ下さい。 表紙は、綾切なお先生にいただきました!

処理中です...