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【高校編】分岐・相良仁
【side仁】信頼/【三人称視点】副作用
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「なんかさぁ寒いとゼンザイ食べたくなるよね?」
華がもぐもぐと餅を食べながら言う。
華が最近気に入ってるお高めな和菓子屋、そのイートインスペース。
ついたてで席ごとに仕切られたそこは、まぁ半個室みたいになってるから割とふたりでも食事しやすい。
時刻ももう閉店間際、客の姿は俺たち以外に見なかった。
「お餅おいしー」
「あんこついてるぞ」
口元にある餡子を拭ってやる。
「えへ」
小首を傾げて意識の半分以上をぜんざいに向けてる華は、さっきまで警察署でクサイ飯食べてたことを全く気にしてないそぶりだった。
「あのさぁ」
「ん?」
「なんであんなに落ち着いてたの」
「なにが?」
きょとんと聞き返された。
「逮捕されてたじゃん」
普通、やってもないことであんなことになったら取り乱すだろうに。
「やってないもん」
「それでもさぁ」
死ぬほど心配しながら駆けつけたら、アレだ。カツ丼食べながら雑談に興じていた。
「だって」
華はふふふ、と笑った。子供の笑い方じゃない、前世の彼女と同じ笑い方。少し大人じみた。
「仁来てくれるのわかってたしなぁ」
「……そーですか」
信頼。くすぐったいくらい、俺に向けられた、それ。
俺は思わず目線を逸らした。
お礼を言いたくなるけど、我慢する。変だろ、急にお礼なんか。
(でも)
俺は思う。信頼してくれてありがとう。
(お前に信頼してもらってるってだけで)
俺はなんでもできる気がする。
「ていうかさ」
華はびしりと俺に箸を向けた。
「箸でさすな」
「あれ、なんなのよなんだかクソ長いお貴族様の名前」
「あー」
俺は軽く首を傾げた。
「The Right Honourable Liam Alexander Load Asher of Warwickshire」
「無駄に発音いい!」
華はケタケタ笑った。なにが面白いんだ。イギリス人だぞ俺。
「いや俺もね、とっくに爵位返してたと思ってたんだよ」
「えっお父様、マジもんのお貴族様なの?」
「形だけだよあんなモン。貴族だろうがなんだろうが今あんま関係ねーし、普通に働いてるよ」
親父も公務員だよ、と言うと華は「ふーん」と首を傾げた。
「まぁ軍隊入るときに縁切ったつもりだったから……ちょっと色々アレで、なにやら再会したけれども」
華の「大伯父様」の件の時だ。
「使えるものは親でも使えって言うじゃん」
きっちり使わせていただきました。いろんな方面に、いろんなもの使って。……親の七光だよなぁ。
「けどねぇ」
華は俺を見てニヤニヤ笑ってる。からかう目つき。
「ぷすすす、仁がお貴族様だなんて」
ウケる、と華は食べながら笑う。
「餅詰まらずぞ」
「むっ」
華ははっと気がついた顔になる。
「そだね。気をつけよ」
「素直だな」
餅が怖いですか。
俺は目の前に置かれた濃い目の緑茶をずずりと飲んだ。どうにも、ぜんざいは少し苦手だ。あんこが甘すぎる。胃もたれすんだよな。
「……そういや吐き気とかどうなんだよ」
「あー」
華は少し目線をそらす。
「まだちょっと」
「……大丈夫なのか」
「こないだの、生タマネギ食べた時ほどのはないよ! ほんとに、ちょっとだけ」
華は眉をひそめた。
「心配されるからさ、あんまり言いたくないの! ほら食欲もあるし!」
大丈夫だよ! と華は口を尖らせた。
「けどなぁ」
「あ、カフェインのせいかもってことになって」
「カフェイン?」
それはあり得る、かもしれない。コーヒーも紅茶も、華は好きだし。
「シュリちゃんがコーヒー淹れてくれるんだけど、美味しいのね」
「へえ」
意外だな、と俺は呟く。
「なんとなく紅茶派なイメージが」
「紅茶も上手なんだけど」
華は笑った。
「つい飲み過ぎちゃうんだよね、シュリちゃんのカフェオレ」
※※※
【三人称視点】
本当にクスリ飲ませてるの、というメッセージが、シュリのSNSに届いた。使い捨てられるようなアカウント……シュリに取引を持ちかけてきたアカウント。
シュリは少しだけ眉を寄せた。それから画面をタップする。
『問題ない。副作用が吐き気と嘔吐らしいとアンタから聞いたけれど、その作用も出てる。クリスマスには盛大に吐いてた』
その答えに満足したのか、メッセージの返信はなかった。
シュリは引き出しを開ける。それから少し思う。減ってきたから、また補充しなくちゃいけない。
シュリはスマホを引き寄せる。
(あと少し)
そう思う。「目標」達成まで、あと少し。
窓の外には、もう月が昇っていた。
華がもぐもぐと餅を食べながら言う。
華が最近気に入ってるお高めな和菓子屋、そのイートインスペース。
ついたてで席ごとに仕切られたそこは、まぁ半個室みたいになってるから割とふたりでも食事しやすい。
時刻ももう閉店間際、客の姿は俺たち以外に見なかった。
「お餅おいしー」
「あんこついてるぞ」
口元にある餡子を拭ってやる。
「えへ」
小首を傾げて意識の半分以上をぜんざいに向けてる華は、さっきまで警察署でクサイ飯食べてたことを全く気にしてないそぶりだった。
「あのさぁ」
「ん?」
「なんであんなに落ち着いてたの」
「なにが?」
きょとんと聞き返された。
「逮捕されてたじゃん」
普通、やってもないことであんなことになったら取り乱すだろうに。
「やってないもん」
「それでもさぁ」
死ぬほど心配しながら駆けつけたら、アレだ。カツ丼食べながら雑談に興じていた。
「だって」
華はふふふ、と笑った。子供の笑い方じゃない、前世の彼女と同じ笑い方。少し大人じみた。
「仁来てくれるのわかってたしなぁ」
「……そーですか」
信頼。くすぐったいくらい、俺に向けられた、それ。
俺は思わず目線を逸らした。
お礼を言いたくなるけど、我慢する。変だろ、急にお礼なんか。
(でも)
俺は思う。信頼してくれてありがとう。
(お前に信頼してもらってるってだけで)
俺はなんでもできる気がする。
「ていうかさ」
華はびしりと俺に箸を向けた。
「箸でさすな」
「あれ、なんなのよなんだかクソ長いお貴族様の名前」
「あー」
俺は軽く首を傾げた。
「The Right Honourable Liam Alexander Load Asher of Warwickshire」
「無駄に発音いい!」
華はケタケタ笑った。なにが面白いんだ。イギリス人だぞ俺。
「いや俺もね、とっくに爵位返してたと思ってたんだよ」
「えっお父様、マジもんのお貴族様なの?」
「形だけだよあんなモン。貴族だろうがなんだろうが今あんま関係ねーし、普通に働いてるよ」
親父も公務員だよ、と言うと華は「ふーん」と首を傾げた。
「まぁ軍隊入るときに縁切ったつもりだったから……ちょっと色々アレで、なにやら再会したけれども」
華の「大伯父様」の件の時だ。
「使えるものは親でも使えって言うじゃん」
きっちり使わせていただきました。いろんな方面に、いろんなもの使って。……親の七光だよなぁ。
「けどねぇ」
華は俺を見てニヤニヤ笑ってる。からかう目つき。
「ぷすすす、仁がお貴族様だなんて」
ウケる、と華は食べながら笑う。
「餅詰まらずぞ」
「むっ」
華ははっと気がついた顔になる。
「そだね。気をつけよ」
「素直だな」
餅が怖いですか。
俺は目の前に置かれた濃い目の緑茶をずずりと飲んだ。どうにも、ぜんざいは少し苦手だ。あんこが甘すぎる。胃もたれすんだよな。
「……そういや吐き気とかどうなんだよ」
「あー」
華は少し目線をそらす。
「まだちょっと」
「……大丈夫なのか」
「こないだの、生タマネギ食べた時ほどのはないよ! ほんとに、ちょっとだけ」
華は眉をひそめた。
「心配されるからさ、あんまり言いたくないの! ほら食欲もあるし!」
大丈夫だよ! と華は口を尖らせた。
「けどなぁ」
「あ、カフェインのせいかもってことになって」
「カフェイン?」
それはあり得る、かもしれない。コーヒーも紅茶も、華は好きだし。
「シュリちゃんがコーヒー淹れてくれるんだけど、美味しいのね」
「へえ」
意外だな、と俺は呟く。
「なんとなく紅茶派なイメージが」
「紅茶も上手なんだけど」
華は笑った。
「つい飲み過ぎちゃうんだよね、シュリちゃんのカフェオレ」
※※※
【三人称視点】
本当にクスリ飲ませてるの、というメッセージが、シュリのSNSに届いた。使い捨てられるようなアカウント……シュリに取引を持ちかけてきたアカウント。
シュリは少しだけ眉を寄せた。それから画面をタップする。
『問題ない。副作用が吐き気と嘔吐らしいとアンタから聞いたけれど、その作用も出てる。クリスマスには盛大に吐いてた』
その答えに満足したのか、メッセージの返信はなかった。
シュリは引き出しを開ける。それから少し思う。減ってきたから、また補充しなくちゃいけない。
シュリはスマホを引き寄せる。
(あと少し)
そう思う。「目標」達成まで、あと少し。
窓の外には、もう月が昇っていた。
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