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【高校編】分岐・鍋島真
【side真】指
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華がものすごーく訝しそうな顔で「ほんとに何やってるんですか?」なんて言うから、僕はその可愛らしいお口を唇でちゅうっと塞ぐ。
「んむぅ!?」
「あは、素っ頓狂」
「いや、そーでなくて、ですね?」
華が言うには、修学旅行から帰ってきた登校初日。尿路結石ガールこと桜澤青花が、なにやら焦燥してる感じ、だったらしい。
たまたま廊下で見かけた華が、友人と結石ちゃんを見てると、ぐるりと振り返って、それからふ、と力を抜いて「なあんだあんた達」と呟いた、とのこと。
「一体なにしてるんですか?」
「華は気にしなくていいんだよ?」
これは、僕の勝手なんだから。
「でも」
綺麗な眉をひそませて、華は僕を見上げる。
相変わらず、だ。僕は微笑んで見せた。華はじっと僕を見つめる。その目の奥が、少し揺れているみたいで、それもまた綺麗だなと思う。
華は、僕がやりすぎてないか心配になってる。僕のことも、それから尿路結石ちゃんのこともーー。
(それもあるけれど)
僕は華の髪の毛をさらりと梳かしながら思う。この子は、自分を優先しないんだ。
(だから、もし青花がやったことをつぶさに知ったら)
被害者の女の子が、いま意識不明だと知ればーー華は酷くかき乱されるだろう。
華はされるがままだ。
都内の僕のマンション、そのソファの上で。華は僕に後ろから抱きしめられたまま、気持ちよさそうに目を細めた。
(猫みたいに)
撫でられるのが好きなんだ、この子は。
心地良さそうな華の表情をみながら、ふと今日のことを思い出す。
「こんにちは鍋島さん」
病室ーーあの、尿路結石ちゃんに追い詰められて、自分から死のうとして果たせなかった、女の子……磯ヶ村アリサ、という女の子。
その子の病室で、幼馴染の男の子、小野くんは少し穏やかに微笑んだ。
小野くんはアリサちゃんの手を握っている。彼女の胸は規則的に上下している。ありとあらゆる方法によって、機械的に生かされている女の子。
「マッサージをしているんです」
小野くんは静かに言った。
「おばさん、……こいつの母親、倒れちゃってて。そのかわり、じゃないですけれど」
彼はそっと、優しく、アリサの手を撫でるようにマッサージしている。僕は頷く。
「時々」
小野くんはポツリ、と言う。
「本当に時々、こいつの手、てか、指なんですけど。動くんです」
僕は小野くんに目をやる。小野くんは真剣な表情で、アリサの手を優しくこする。
「時々、……あ、ほら」
アリサの手を取って、嬉しそうに僕を見上げる小野くんに、僕はいえなかった。動いてるようになんか、見えなかったけれど。
「もしかしたら、聴こえているのかも。なぁ、アリサ」
ひどく優しい声で、彼は彼女の名前を呼ぶ。
「……もっとはやく、」
その声はそのまま消えたので、その先に彼がなにを言おうとしたのかは、分からない。
僕は「お見舞い」と言って花と、それからお菓子を(これは小野くんやご家族へ)置いて、病室を出た。
別に何かを感じたわけじゃないけれど、とにかく華に会いたくなった。
(でも、その前に)
僕は調べていた住所へ向かう。
その一軒家の、薄暗い八畳間からほとんど外へ出ずに、その少年は暮らしていた。
中学の時、尿路結石や、アリサと同じクラスだった男子。
アリサ転校後に尿路結石の「つぎのおもちゃ」にされた男の子。……ただ。
(彼に関しては)
うーん、と思う。自業自得、と思わないでもない。
「つぎのおもちゃ」であり、アリサを青花と一緒に傷つけた張本人でもある。
「……何の用ですか」
「聞きたいんだ」
僕はそのホコリっぽい部屋で布団の上に蹲るようにいたその少年に尋ねる。
「君は、尿路結石になにをされたのかな」
「……尿路結石?」
「ああ失礼」
僕はゆったりと微笑んで見せた。
「桜澤青花」
その名前を出すと、少年はびくりと露骨なほどに肩を揺らした。そして黙り込む。だから僕は口を開いた。
「ねえ気持ちよかった?」
「……なにがですか?」
訝しそうに、そのドロリとした瞳を向けてくる少年に僕は微笑む。できるだけ優雅に。
「クチでしてもらったんでしょう? アリサちゃんだっけ」
呆然と、少年は僕を見上げた。
「……は」
「可愛い子だよね、あの子ね」
首を傾げる。
「どんな気持ちだっただろうね? 好きでもない人のを」
強制的に。
呼び出された空き教室に向かう気持ちは。
言うことを聞かなければ「もっと酷い目に遭う」と自分に言い聞かせる、その時の感情は。
少年は俯く。
「尿路結石はいちいち確認したらしいね。アリサちゃんの口の中を」
呼び出された教室で、酷い屈辱に遭い。そして廊下では青花が取り巻きと待っている。
そしてアリサちゃんの口を見ては「汚い! キモい!」とはしゃいで笑っていたらしい。「よくこんな事できるよね!?」と笑っていたらしい。
「そして写真を撮ってーー」
「分かりました」
少年は息も荒く、言う。
「言いますから、お願いですから」
少年はいまにも泣きそうだ。
「後悔、しているのかな?」
「してます。あんな目にあって、初めて」
自分が汚い人間だと知りました、と少年は吐き出すように呟いた。
「んむぅ!?」
「あは、素っ頓狂」
「いや、そーでなくて、ですね?」
華が言うには、修学旅行から帰ってきた登校初日。尿路結石ガールこと桜澤青花が、なにやら焦燥してる感じ、だったらしい。
たまたま廊下で見かけた華が、友人と結石ちゃんを見てると、ぐるりと振り返って、それからふ、と力を抜いて「なあんだあんた達」と呟いた、とのこと。
「一体なにしてるんですか?」
「華は気にしなくていいんだよ?」
これは、僕の勝手なんだから。
「でも」
綺麗な眉をひそませて、華は僕を見上げる。
相変わらず、だ。僕は微笑んで見せた。華はじっと僕を見つめる。その目の奥が、少し揺れているみたいで、それもまた綺麗だなと思う。
華は、僕がやりすぎてないか心配になってる。僕のことも、それから尿路結石ちゃんのこともーー。
(それもあるけれど)
僕は華の髪の毛をさらりと梳かしながら思う。この子は、自分を優先しないんだ。
(だから、もし青花がやったことをつぶさに知ったら)
被害者の女の子が、いま意識不明だと知ればーー華は酷くかき乱されるだろう。
華はされるがままだ。
都内の僕のマンション、そのソファの上で。華は僕に後ろから抱きしめられたまま、気持ちよさそうに目を細めた。
(猫みたいに)
撫でられるのが好きなんだ、この子は。
心地良さそうな華の表情をみながら、ふと今日のことを思い出す。
「こんにちは鍋島さん」
病室ーーあの、尿路結石ちゃんに追い詰められて、自分から死のうとして果たせなかった、女の子……磯ヶ村アリサ、という女の子。
その子の病室で、幼馴染の男の子、小野くんは少し穏やかに微笑んだ。
小野くんはアリサちゃんの手を握っている。彼女の胸は規則的に上下している。ありとあらゆる方法によって、機械的に生かされている女の子。
「マッサージをしているんです」
小野くんは静かに言った。
「おばさん、……こいつの母親、倒れちゃってて。そのかわり、じゃないですけれど」
彼はそっと、優しく、アリサの手を撫でるようにマッサージしている。僕は頷く。
「時々」
小野くんはポツリ、と言う。
「本当に時々、こいつの手、てか、指なんですけど。動くんです」
僕は小野くんに目をやる。小野くんは真剣な表情で、アリサの手を優しくこする。
「時々、……あ、ほら」
アリサの手を取って、嬉しそうに僕を見上げる小野くんに、僕はいえなかった。動いてるようになんか、見えなかったけれど。
「もしかしたら、聴こえているのかも。なぁ、アリサ」
ひどく優しい声で、彼は彼女の名前を呼ぶ。
「……もっとはやく、」
その声はそのまま消えたので、その先に彼がなにを言おうとしたのかは、分からない。
僕は「お見舞い」と言って花と、それからお菓子を(これは小野くんやご家族へ)置いて、病室を出た。
別に何かを感じたわけじゃないけれど、とにかく華に会いたくなった。
(でも、その前に)
僕は調べていた住所へ向かう。
その一軒家の、薄暗い八畳間からほとんど外へ出ずに、その少年は暮らしていた。
中学の時、尿路結石や、アリサと同じクラスだった男子。
アリサ転校後に尿路結石の「つぎのおもちゃ」にされた男の子。……ただ。
(彼に関しては)
うーん、と思う。自業自得、と思わないでもない。
「つぎのおもちゃ」であり、アリサを青花と一緒に傷つけた張本人でもある。
「……何の用ですか」
「聞きたいんだ」
僕はそのホコリっぽい部屋で布団の上に蹲るようにいたその少年に尋ねる。
「君は、尿路結石になにをされたのかな」
「……尿路結石?」
「ああ失礼」
僕はゆったりと微笑んで見せた。
「桜澤青花」
その名前を出すと、少年はびくりと露骨なほどに肩を揺らした。そして黙り込む。だから僕は口を開いた。
「ねえ気持ちよかった?」
「……なにがですか?」
訝しそうに、そのドロリとした瞳を向けてくる少年に僕は微笑む。できるだけ優雅に。
「クチでしてもらったんでしょう? アリサちゃんだっけ」
呆然と、少年は僕を見上げた。
「……は」
「可愛い子だよね、あの子ね」
首を傾げる。
「どんな気持ちだっただろうね? 好きでもない人のを」
強制的に。
呼び出された空き教室に向かう気持ちは。
言うことを聞かなければ「もっと酷い目に遭う」と自分に言い聞かせる、その時の感情は。
少年は俯く。
「尿路結石はいちいち確認したらしいね。アリサちゃんの口の中を」
呼び出された教室で、酷い屈辱に遭い。そして廊下では青花が取り巻きと待っている。
そしてアリサちゃんの口を見ては「汚い! キモい!」とはしゃいで笑っていたらしい。「よくこんな事できるよね!?」と笑っていたらしい。
「そして写真を撮ってーー」
「分かりました」
少年は息も荒く、言う。
「言いますから、お願いですから」
少年はいまにも泣きそうだ。
「後悔、しているのかな?」
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