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【高校編】分岐・相良仁
【side仁】星空
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翌朝の新幹線でソッコー横浜まで帰るけど「病院の前に家帰る」って華は一点張りで、しゃあなしで鎌倉に戻る。
「お帰り華」
シュリが出迎えてくれた。俺のことは完全に無視して。
「ただいまシュリちゃん」
「? なに、またどっか行くの」
「うん、病院」
「病院ん?」
シュリはものすごく眉間にシワを寄せて俺を睨んだ。
「なにしたの」
ジト目で尋ねられる。
「してない」
端的に言い返した。まぁ、色々したけど一線は超えてないですし、なんならそれ吐いた後だしさ。
「モーニングアフターピル?」
「してない!」
なんですぐに皆俺を疑うんだ! そんなに手ェ出しそうに見える!?
……いやまぁ、出してないか? と言われると返答に困るけど、うん、してないし。してない。
「すぐ手を出しそうに見えるわよ、なんかその軽薄そうな顔つきが」
「け、軽薄」
というか思考を読まないで欲しい。
「あのね、昨日吐いちゃって」
慌てたように、華が言う。
「吐いた?」
シュリは華をじっと見る。それから「なにを拾い食いしたの、華?」と首をかしげた。
「ひ、拾い食いなんかしてないよ!」
「じゃあ何食べたのよ」
「焼肉くらいしかっ」
「食べ過ぎ?」
「ううん、そんな感じじゃ」
「他は?」
「えー?」
華は首をひねった。
「あとは、サラダくらいしか」
「サラダ?」
シュリは唇に手を当てた。
「何サラダ」
「え、玉ねぎ」
「ナマの?」
「? うん」
「じゃあそれね」
シュリは目を細める。
「あんたさ、気がついてないかもだけど。あたしと体質似てんのよ」
「へ?」
ぽかん、とする華に、シュリは続けた。
「一応血縁があるからかしら? あたしもそうなんだけど、生タマネギ食べるとお腹壊すのよね」
アレルギーなんだと思うけれど、とシュリは言った。
「ええっ? そ、そうだっけ」
「だからこの家で生タマネギなんか出ないでしょ? メニューがカツオのタタキだろうが、生ハムサラダだろうが。多分、敦子伯母さんもそうだから」
「……あ」
華は口に手を当てた。
「そーいえば、そーかも」
「ま、心配なら内科にでも行ってきたら? 一応、アレルギー科と一緒のとこがいいかもね」
くるり、と背を向けてシュリは廊下を歩いていく。
「そうそう」
思い返したように振り向いて、シュリは笑った。
「あたしと華、体質似てるからさ、多分、ビタミン剤とかも身体に合わないよ」
「へ、そうなの?」
「うん」
シュリは頷く。
「あたし、それでも吐き気出るから」
言われた通り、というかなんというか、内科での検査の結果は「多分体質ですね」だったらしい。
「アレルギーってわけでも無さそうだったから、血液検査は無しにした~」
病院の駐車場、車の中で待ってた俺に華は説明する。
「なんだっけ、何とか言う成分が胃に負担を……? 上手く消化できない体質?」
「非アレルギー性食物過敏症?」
「なんでそんなの知ってるの」
華は呆れたように笑った。
「調べてみないと分からないですけど、って」
「そか」
「とりあえず、しばらく玉ねぎ抜いて様子見~」
「吐き気のことは話したのか?」
「え? ああ、うん。胃薬くれた」
華は薬の袋を見せてくる。俺は頷いた。まぁ、とりあえずは大丈夫ってことなんだろう。
「だからさ、」
ふふ、と華はひそやかに笑う。
「心配しすぎ、なんだって」
「そう言われてもなぁ」
俺はぐしゃぐしゃと華の頭を撫でる。
「心配なんだよ。いつも」
「……ごめんね?」
「謝られることじゃねーけどさ」
額にキスをして、軽く抱きしめた。
「大したことなくて、良かった」
「……ん」
腕の中で、華は小さく頷いた。
それからの日々は、割と静かなものだった。華は鎌倉のあの家で年越しをして(もう親戚で集まっての謎の新年会はない、あのジーサンが逮捕されてしまってるから)どこぞのホテル謹製の豪華おせちを食べまくり「太った」「ダイエットする」とやたらと連絡をよこした。
『夜迎えに来て』
1月4日の夜に、そんな連絡が来て迎えに行くと、華は嬉しげに玄関先までやってきた。
「みんなお出かけなの」
「へぇ?」
「敦子さんはお仕事の新年祝賀パーティーで、圭くんは部活の先輩のお家で新年会。シュリちゃんも学校のお友達と」
「お前、友達いないの?」
「いるよ! ばか!」
ぷう、と華は唇を尖らせて俺を睨む。
「知ってる知ってる」
「私は、」
華は俺を見上げた。
「ただ、仁と初詣、行きたいなって」
「……素直だな?」
華は今度こそ俺を睨んで黙るから、ぎゅっと抱きしめて持ち上げる。
「へ!? なにしてるの?」
「初詣行くんだろーが」
「あ、う、うん!」
嬉しそうに華は頷いた。……素直だな今日。可愛いなオイ。
車の助手席まで運んで、シートベルト付けたの確認して出発。
「人が多いところは無理だろ」
一応、生徒と先生ですからね。人目は避けなくては。
「うん」
俺は少しだけ考えて、少し山手にある小さな神社を思い出す。
近くに止めて、歩いて行くとやっぱり人気はなかった。
「わー」
俺と手を繋いだ華ははしゃいだ声で、空を見上げた。一面の星空。
新月だからか、星が眩しい。
社務所も何もない、その小さな神社で俺たちは無言でお参りする。
「ねえなにお願いしたの」
「秘密」
定番の答えを返すと、華は破顔して「教えてよ」と甘えてくる。うん、やっぱり変だ、今日。
「今日なんでそんななの?」
「? そんなって?」
「甘えん坊さん」
揶揄うように言うと、華は少し黙ったあと、俺にぎゅうと抱きつく。
「だってさぁ」
「うん」
「こんなに離れてたの、久々じゃない?」
俯いてる華の表情は見えない。
「夏休みとかはさぁ、なんやかんや夏期課外で学校行ってたけど」
年末年始は学校もないからさ、と小さく華は言う。
(まぁ、たしかに)
クリスマス以来、だったりする。直接会うのは……。護衛任務で近くにはいたけれど、なんやかんやと華は忙しくて、常に誰かといたりしたから。それこそ友達とかと。俺が出て行くわけにもいかないし。
「だからさー」
少し甘えた声で華は言った。
「だから、さぁ」
俺は胸がぎゅうと痛くて、嬉しくて切なくて、華を抱きしめ返す。
要は、久々に二人きりでテンションが上がってた、ってことらしくて。
「華?」
「なぁに」
答えの代わりに、唇にキスをひとつ。
俺を見上げて、華は嬉しそうに笑った。
「お帰り華」
シュリが出迎えてくれた。俺のことは完全に無視して。
「ただいまシュリちゃん」
「? なに、またどっか行くの」
「うん、病院」
「病院ん?」
シュリはものすごく眉間にシワを寄せて俺を睨んだ。
「なにしたの」
ジト目で尋ねられる。
「してない」
端的に言い返した。まぁ、色々したけど一線は超えてないですし、なんならそれ吐いた後だしさ。
「モーニングアフターピル?」
「してない!」
なんですぐに皆俺を疑うんだ! そんなに手ェ出しそうに見える!?
……いやまぁ、出してないか? と言われると返答に困るけど、うん、してないし。してない。
「すぐ手を出しそうに見えるわよ、なんかその軽薄そうな顔つきが」
「け、軽薄」
というか思考を読まないで欲しい。
「あのね、昨日吐いちゃって」
慌てたように、華が言う。
「吐いた?」
シュリは華をじっと見る。それから「なにを拾い食いしたの、華?」と首をかしげた。
「ひ、拾い食いなんかしてないよ!」
「じゃあ何食べたのよ」
「焼肉くらいしかっ」
「食べ過ぎ?」
「ううん、そんな感じじゃ」
「他は?」
「えー?」
華は首をひねった。
「あとは、サラダくらいしか」
「サラダ?」
シュリは唇に手を当てた。
「何サラダ」
「え、玉ねぎ」
「ナマの?」
「? うん」
「じゃあそれね」
シュリは目を細める。
「あんたさ、気がついてないかもだけど。あたしと体質似てんのよ」
「へ?」
ぽかん、とする華に、シュリは続けた。
「一応血縁があるからかしら? あたしもそうなんだけど、生タマネギ食べるとお腹壊すのよね」
アレルギーなんだと思うけれど、とシュリは言った。
「ええっ? そ、そうだっけ」
「だからこの家で生タマネギなんか出ないでしょ? メニューがカツオのタタキだろうが、生ハムサラダだろうが。多分、敦子伯母さんもそうだから」
「……あ」
華は口に手を当てた。
「そーいえば、そーかも」
「ま、心配なら内科にでも行ってきたら? 一応、アレルギー科と一緒のとこがいいかもね」
くるり、と背を向けてシュリは廊下を歩いていく。
「そうそう」
思い返したように振り向いて、シュリは笑った。
「あたしと華、体質似てるからさ、多分、ビタミン剤とかも身体に合わないよ」
「へ、そうなの?」
「うん」
シュリは頷く。
「あたし、それでも吐き気出るから」
言われた通り、というかなんというか、内科での検査の結果は「多分体質ですね」だったらしい。
「アレルギーってわけでも無さそうだったから、血液検査は無しにした~」
病院の駐車場、車の中で待ってた俺に華は説明する。
「なんだっけ、何とか言う成分が胃に負担を……? 上手く消化できない体質?」
「非アレルギー性食物過敏症?」
「なんでそんなの知ってるの」
華は呆れたように笑った。
「調べてみないと分からないですけど、って」
「そか」
「とりあえず、しばらく玉ねぎ抜いて様子見~」
「吐き気のことは話したのか?」
「え? ああ、うん。胃薬くれた」
華は薬の袋を見せてくる。俺は頷いた。まぁ、とりあえずは大丈夫ってことなんだろう。
「だからさ、」
ふふ、と華はひそやかに笑う。
「心配しすぎ、なんだって」
「そう言われてもなぁ」
俺はぐしゃぐしゃと華の頭を撫でる。
「心配なんだよ。いつも」
「……ごめんね?」
「謝られることじゃねーけどさ」
額にキスをして、軽く抱きしめた。
「大したことなくて、良かった」
「……ん」
腕の中で、華は小さく頷いた。
それからの日々は、割と静かなものだった。華は鎌倉のあの家で年越しをして(もう親戚で集まっての謎の新年会はない、あのジーサンが逮捕されてしまってるから)どこぞのホテル謹製の豪華おせちを食べまくり「太った」「ダイエットする」とやたらと連絡をよこした。
『夜迎えに来て』
1月4日の夜に、そんな連絡が来て迎えに行くと、華は嬉しげに玄関先までやってきた。
「みんなお出かけなの」
「へぇ?」
「敦子さんはお仕事の新年祝賀パーティーで、圭くんは部活の先輩のお家で新年会。シュリちゃんも学校のお友達と」
「お前、友達いないの?」
「いるよ! ばか!」
ぷう、と華は唇を尖らせて俺を睨む。
「知ってる知ってる」
「私は、」
華は俺を見上げた。
「ただ、仁と初詣、行きたいなって」
「……素直だな?」
華は今度こそ俺を睨んで黙るから、ぎゅっと抱きしめて持ち上げる。
「へ!? なにしてるの?」
「初詣行くんだろーが」
「あ、う、うん!」
嬉しそうに華は頷いた。……素直だな今日。可愛いなオイ。
車の助手席まで運んで、シートベルト付けたの確認して出発。
「人が多いところは無理だろ」
一応、生徒と先生ですからね。人目は避けなくては。
「うん」
俺は少しだけ考えて、少し山手にある小さな神社を思い出す。
近くに止めて、歩いて行くとやっぱり人気はなかった。
「わー」
俺と手を繋いだ華ははしゃいだ声で、空を見上げた。一面の星空。
新月だからか、星が眩しい。
社務所も何もない、その小さな神社で俺たちは無言でお参りする。
「ねえなにお願いしたの」
「秘密」
定番の答えを返すと、華は破顔して「教えてよ」と甘えてくる。うん、やっぱり変だ、今日。
「今日なんでそんななの?」
「? そんなって?」
「甘えん坊さん」
揶揄うように言うと、華は少し黙ったあと、俺にぎゅうと抱きつく。
「だってさぁ」
「うん」
「こんなに離れてたの、久々じゃない?」
俯いてる華の表情は見えない。
「夏休みとかはさぁ、なんやかんや夏期課外で学校行ってたけど」
年末年始は学校もないからさ、と小さく華は言う。
(まぁ、たしかに)
クリスマス以来、だったりする。直接会うのは……。護衛任務で近くにはいたけれど、なんやかんやと華は忙しくて、常に誰かといたりしたから。それこそ友達とかと。俺が出て行くわけにもいかないし。
「だからさー」
少し甘えた声で華は言った。
「だから、さぁ」
俺は胸がぎゅうと痛くて、嬉しくて切なくて、華を抱きしめ返す。
要は、久々に二人きりでテンションが上がってた、ってことらしくて。
「華?」
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答えの代わりに、唇にキスをひとつ。
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