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【高校編】分岐・山ノ内瑛
指先
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アキラくんは少し考えてから「あんな」と口を開いた。それから私の右手を取って、少し弄りながら続きを話す。
「どうせそのうち耳に入ると思うから、先に言うとくけど」
「うん」
触れられてる指先が気持ち良くて、少し目を細める。優しく爪を撫でたり、指先を摘んだり。
「そいつーー桜澤いうねんけどな、なんや華に突き落とされたとか吹聴しとんねん」
「うっ」
私は思わず呻いた。よ、予想はしていたんだけれど!
(私が学校行けない間に、その噂どんどん広まったりして……)
そもそもの、学園での私のイメージ自体良くないだろうしなぁ……。
(あっという間に広まっちゃったりして)
ゲンナリとため息をつくと、アキラくんは「でも誰も信じてへんで?」と続けていった。きゅ、と手に入る力が少しだけ強くなる。
「目撃者おるしな」
「目撃者?」
私は首を傾げた。
「落ちたとこに居合わせた子じゃなくて?」
「ん。上から」
階段の上からってことかな? 私は頷く。
「桜澤が一方的になんやまくしたてて、華が庇って落ちてった、って」
私はほっと息をつく。そっか、そりゃあれだけ騒げば誰かしら見に来るか……。
「せやし誰も信じてへん。……面白半分で噂するようなヤツもおるみたいやけど、すぐに下火になるやろ」
そう言いつつも、まだアキラくんは少しイラついているみたいで、私は「まだ何かある感じ?」と口を開く。
「まぁ……その目撃者がやな、水泳部の。覚えとる? 俺がまだ中等部やった頃、華が庇ったヒトおったやろ。俺と同じ学年の」
「あ。……あー」
あの子か! プールの塩素で、髪の色が少し脱色しちゃった女子。
「せやねん。でな、どこからどう桜澤がそれを知ったんかは分からへんねんけど、それでその女子は華の取り巻きやから、って」
「と、取り巻きぃ?」
思わずへんな声が出た。取り巻きて!
(や、言われてますけど)
同じクラスの仲良い子とか、勝手に取り巻き扱いとかされちゃったりしてますけど。でも、件の水泳部の女の子なんか、それ以来話したこともないよー……。
「せやねん。取り巻きやから庇ってる、とかって……まぁいいねん。それもな。別に誰も信じてへん」
「うん」
少し安心して、私は頷く。
「問題はやな、……これもそのうち目にするやろうから、言っておくけど」
「うん」
「……やたらと馴れ馴れしいんや、俺に」
「え」
「シッツコイんや。何回追い返しても、なんやまとわりついて来てやな。部活の見学もウルサイしほんま」
はああ、と深いため息をアキラくんはつく。
「……大丈夫?」
「んー」
アキラくんは苦笑いする。
「すまん、華、グチって。グチりたいんは華のほうやろうに」
「んーん。それはいいんだけど、その」
私は色々と心配になる。部活、集中さてできてないんじゃないかな、とか……。アキラくんは少し微笑んだ。
「大丈夫や。部活は見学禁止にしてもろてん。練習試合含めて。大会はそういうわけにもいかへんけど……」
「あ、そっか」
それは安心、と笑うと、アキラくんは少し眉を下げた。
「せやけど、華に見てもらわれへんくなったんは寂しいわ」
「……確かに」
公式の試合の応援にはなかなか行けない(なんで設楽華いるの? ってなっちゃう)分、ときどき練習とか、練習試合見るのが楽しかったのに。
「クラスも違うしな」
あいつは特進や、と面倒臭そうにアキラくんは言う。
「アホやのに成績はいいらしいわ」
「あは」
乾いた笑い。そうか、後輩にあたるのか……なんだかな。
「ほんで俺に邪険にされたからか」
「うん」
「常盤にやな」
「っ圭くん!?」
私は悲鳴のような声を上げた。う、ううううウチの可愛い弟になにしてくれてんのよおおお!
「だ、大丈夫かな圭くん」
私はちょっと半泣きだ。
「抵抗できないんじゃないかな、優しいから」
もちろん青花が「前世の記憶がない」「ちゃんとヒロインしてる青花」だったら口とか挟まないけどね!?
(けどっ)
明らかにへんな方向に行っちゃってるんだもん青花ー!
「それがやな」
アキラくんは笑った。
「俺以上に辛辣やわあいつ」
「へ」
辛辣? あんまり想像できない。
「ま、せやしあんま心配したらんとき」
「……うん」
いつの間にか、圭くんちゃんと「男の子」だったんだなぁ。いやそれは前からだけど……そっかぁ。
その時、思いっきり無遠慮にガラリと病室の扉が開いた。
「華ぁ、調子どうなの」
花と、お菓子っぽい箱を抱えたシュリちゃんだった。
「あ」
「……あー、彼氏?」
シュリちゃんは少しだけ目を細めた。慌てて手を離す。
ぺこりと頭を下げるアキラくんに「シュリちゃん」と紹介する。
「あー、親戚の」
一緒に暮らしてる話はしてた。シュリちゃんはじっとアキラくんを見つめて「金髪」と呟いた。
「ちょっと華」
「ん?」
「騙されてない? チャラくない?」
「ちゃ、チャラくないもん!」
シュリちゃんは「気に入らない」って顔をして、アキラくんは苦笑いしながら「華一筋っすわ」と首を傾げた。
「どうせそのうち耳に入ると思うから、先に言うとくけど」
「うん」
触れられてる指先が気持ち良くて、少し目を細める。優しく爪を撫でたり、指先を摘んだり。
「そいつーー桜澤いうねんけどな、なんや華に突き落とされたとか吹聴しとんねん」
「うっ」
私は思わず呻いた。よ、予想はしていたんだけれど!
(私が学校行けない間に、その噂どんどん広まったりして……)
そもそもの、学園での私のイメージ自体良くないだろうしなぁ……。
(あっという間に広まっちゃったりして)
ゲンナリとため息をつくと、アキラくんは「でも誰も信じてへんで?」と続けていった。きゅ、と手に入る力が少しだけ強くなる。
「目撃者おるしな」
「目撃者?」
私は首を傾げた。
「落ちたとこに居合わせた子じゃなくて?」
「ん。上から」
階段の上からってことかな? 私は頷く。
「桜澤が一方的になんやまくしたてて、華が庇って落ちてった、って」
私はほっと息をつく。そっか、そりゃあれだけ騒げば誰かしら見に来るか……。
「せやし誰も信じてへん。……面白半分で噂するようなヤツもおるみたいやけど、すぐに下火になるやろ」
そう言いつつも、まだアキラくんは少しイラついているみたいで、私は「まだ何かある感じ?」と口を開く。
「まぁ……その目撃者がやな、水泳部の。覚えとる? 俺がまだ中等部やった頃、華が庇ったヒトおったやろ。俺と同じ学年の」
「あ。……あー」
あの子か! プールの塩素で、髪の色が少し脱色しちゃった女子。
「せやねん。でな、どこからどう桜澤がそれを知ったんかは分からへんねんけど、それでその女子は華の取り巻きやから、って」
「と、取り巻きぃ?」
思わずへんな声が出た。取り巻きて!
(や、言われてますけど)
同じクラスの仲良い子とか、勝手に取り巻き扱いとかされちゃったりしてますけど。でも、件の水泳部の女の子なんか、それ以来話したこともないよー……。
「せやねん。取り巻きやから庇ってる、とかって……まぁいいねん。それもな。別に誰も信じてへん」
「うん」
少し安心して、私は頷く。
「問題はやな、……これもそのうち目にするやろうから、言っておくけど」
「うん」
「……やたらと馴れ馴れしいんや、俺に」
「え」
「シッツコイんや。何回追い返しても、なんやまとわりついて来てやな。部活の見学もウルサイしほんま」
はああ、と深いため息をアキラくんはつく。
「……大丈夫?」
「んー」
アキラくんは苦笑いする。
「すまん、華、グチって。グチりたいんは華のほうやろうに」
「んーん。それはいいんだけど、その」
私は色々と心配になる。部活、集中さてできてないんじゃないかな、とか……。アキラくんは少し微笑んだ。
「大丈夫や。部活は見学禁止にしてもろてん。練習試合含めて。大会はそういうわけにもいかへんけど……」
「あ、そっか」
それは安心、と笑うと、アキラくんは少し眉を下げた。
「せやけど、華に見てもらわれへんくなったんは寂しいわ」
「……確かに」
公式の試合の応援にはなかなか行けない(なんで設楽華いるの? ってなっちゃう)分、ときどき練習とか、練習試合見るのが楽しかったのに。
「クラスも違うしな」
あいつは特進や、と面倒臭そうにアキラくんは言う。
「アホやのに成績はいいらしいわ」
「あは」
乾いた笑い。そうか、後輩にあたるのか……なんだかな。
「ほんで俺に邪険にされたからか」
「うん」
「常盤にやな」
「っ圭くん!?」
私は悲鳴のような声を上げた。う、ううううウチの可愛い弟になにしてくれてんのよおおお!
「だ、大丈夫かな圭くん」
私はちょっと半泣きだ。
「抵抗できないんじゃないかな、優しいから」
もちろん青花が「前世の記憶がない」「ちゃんとヒロインしてる青花」だったら口とか挟まないけどね!?
(けどっ)
明らかにへんな方向に行っちゃってるんだもん青花ー!
「それがやな」
アキラくんは笑った。
「俺以上に辛辣やわあいつ」
「へ」
辛辣? あんまり想像できない。
「ま、せやしあんま心配したらんとき」
「……うん」
いつの間にか、圭くんちゃんと「男の子」だったんだなぁ。いやそれは前からだけど……そっかぁ。
その時、思いっきり無遠慮にガラリと病室の扉が開いた。
「華ぁ、調子どうなの」
花と、お菓子っぽい箱を抱えたシュリちゃんだった。
「あ」
「……あー、彼氏?」
シュリちゃんは少しだけ目を細めた。慌てて手を離す。
ぺこりと頭を下げるアキラくんに「シュリちゃん」と紹介する。
「あー、親戚の」
一緒に暮らしてる話はしてた。シュリちゃんはじっとアキラくんを見つめて「金髪」と呟いた。
「ちょっと華」
「ん?」
「騙されてない? チャラくない?」
「ちゃ、チャラくないもん!」
シュリちゃんは「気に入らない」って顔をして、アキラくんは苦笑いしながら「華一筋っすわ」と首を傾げた。
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