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【高校編】分岐・山ノ内瑛
病室
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入院なんか久しぶりだ。……前世の記憶を取り戻した、小学生以来。
(暇だなあ)
何やら豪華な個室の窓から、ぼけーっと外を見る。初夏の午前中の、きらきらした日が眩しい。日曜日、らしいけど入院3日目にして既に曜日感覚が無かった。
「……暇だなぁ」
ムダに広い病室(もはやホテルみたいな部屋なんだけど)に、私の独り言が響く。
暇なので、つい、戻ってきた「華」としての記憶について咀嚼してしまう。いろんな記憶が浮かんでは消えて。
(ひとつ分かるのは、私はとても幸せだったってこと)
ちゃんと愛されて育ってた。その記憶が戻って、疑問なのは「華はなぜ悪役令嬢になったのか」ってこと。
(自分で言うのもなんだけど、とても苛めとかするようなキャラクターじゃなかった)
じゃあ、なぜ……なんて思ったところで、コンコンと病室の扉がノックされる。
「はい」
「よう」
入ってきたのは、仁だった。私はむっと口を曲げる。
「仁!」
「うお、なんだよ」
「あなた私の護衛ならもうちょっと早くきてよね~」
軽い冗談のつもりだったのに、仁はものすごく情けない顔で私を見る。悲しげな、辛そうな。
「え、ごめん、そんなガチで」
「……すまん、こっちの手ぬかりだった。本当に」
しっかりと頭を下げられてしまう。
「や、ほんとに」
慌てて手を振ると、仁はやっと顔を上げた。
「校内であそこまで何かが起きるなんて、想定もしてなかった」
「あ、うん、だよね……」
そりゃそう、だと思う。
「また、お前を失うのかと」
仁は少し離れたところから、私を見てきゅうと目を細めた。
「また、って……ごめん」
前世のことだ。先に死んでしまったから。
「なあ華、もしあの生徒について何か心当たりあるなら話してほしい」
仁は淡々と言う。私は仁を見つめたあと、「信じてもらえないかもだけど」と口を開いた。
「うん」
「ここって乙女ゲームの世界なのよね」
「……は?」
たっぷり間をとったあと、仁はものすごく変な声でそう言ったから、私は思わず笑ってしまった。
そのあと、ざっと「ゲーム」について説明する。仁は不審そうな目を私に向けてくる。
「……頭を打ったから」
「ちょ、信じないの!?」
「うん」
「生まれ変わりって時点で不思議満載なのに!?」
「いやまぁ、それはなぁ」
でもなぁ、と訝しがる仁に、私はスマホを掲げた。
「じゃあ証人、呼んであげる!」
じきに千晶ちゃんが病室にきてくれた。
「ごめんね、修学旅行前の忙しいところに」
「ううん、全然いいの。どうせお昼からお邪魔しようかなって思ってたの」
千晶ちゃんははい、と可愛らしい紙箱をベッドサイドの机に置いてくれた。
「……シュークリーム?」
「正解!」
「わーい!」
「紅茶淹れようね」
2人でキャッキャとはしゃいでいると、仁が「あのう」と口を開いた。
「僕のことお忘れではありません?」
「あは」
ちょっと、わざと。だって信じないなんて言うからさ!
それから、千晶ちゃんが淹れてくれたお紅茶を飲みながら(メインはもちろんシュークリームなんだけれど)この世界について話す。おそらくは、ゲームを元にした世界じゃないかなぁって話を。
「……まぁ、信じる」
「どうしたの急に」
「というか、そういう前提で行く」
仁は言う。
「前提?」
「そー。つまりは桜澤が」
その時、再びこんこん、とノック音。私たちはすっと会話をやめた。
(聞かれたらヤバイ集団だよね~)
なんて思って、苦笑いする。
「どーぞ?」
「……あー、その」
アキラくんだった。困ったように仁たちを見る。
「……じゃあお邪魔しました。お大事にね」
千晶ちゃんが微笑んで、仁の腕をとってたたせた。
「あー、じゃ、また。設楽さん」
「はい」
2人が出て行って、アキラくんは首を傾げた。
「良かったん?」
「うん」
多分ね、と言いながら微笑む。
「来てくれたの?」
「午前練やったから」
アキラくんはベッド横の椅子にぽすんと腰掛ける。
「どない? 骨」
「骨って」
クスクス笑うと、捻挫してる首が少し痛い。軽く眉をしかめると心配気に顔を覗き込まれる。
「ごめん」
「全然」
ふ、と手を握られる。
「なぁ華?」
「ん?」
「なんの話してたん?」
じっ、と見つめられて私は固まった。
(も、もしや聞かれてました……!?)
(暇だなあ)
何やら豪華な個室の窓から、ぼけーっと外を見る。初夏の午前中の、きらきらした日が眩しい。日曜日、らしいけど入院3日目にして既に曜日感覚が無かった。
「……暇だなぁ」
ムダに広い病室(もはやホテルみたいな部屋なんだけど)に、私の独り言が響く。
暇なので、つい、戻ってきた「華」としての記憶について咀嚼してしまう。いろんな記憶が浮かんでは消えて。
(ひとつ分かるのは、私はとても幸せだったってこと)
ちゃんと愛されて育ってた。その記憶が戻って、疑問なのは「華はなぜ悪役令嬢になったのか」ってこと。
(自分で言うのもなんだけど、とても苛めとかするようなキャラクターじゃなかった)
じゃあ、なぜ……なんて思ったところで、コンコンと病室の扉がノックされる。
「はい」
「よう」
入ってきたのは、仁だった。私はむっと口を曲げる。
「仁!」
「うお、なんだよ」
「あなた私の護衛ならもうちょっと早くきてよね~」
軽い冗談のつもりだったのに、仁はものすごく情けない顔で私を見る。悲しげな、辛そうな。
「え、ごめん、そんなガチで」
「……すまん、こっちの手ぬかりだった。本当に」
しっかりと頭を下げられてしまう。
「や、ほんとに」
慌てて手を振ると、仁はやっと顔を上げた。
「校内であそこまで何かが起きるなんて、想定もしてなかった」
「あ、うん、だよね……」
そりゃそう、だと思う。
「また、お前を失うのかと」
仁は少し離れたところから、私を見てきゅうと目を細めた。
「また、って……ごめん」
前世のことだ。先に死んでしまったから。
「なあ華、もしあの生徒について何か心当たりあるなら話してほしい」
仁は淡々と言う。私は仁を見つめたあと、「信じてもらえないかもだけど」と口を開いた。
「うん」
「ここって乙女ゲームの世界なのよね」
「……は?」
たっぷり間をとったあと、仁はものすごく変な声でそう言ったから、私は思わず笑ってしまった。
そのあと、ざっと「ゲーム」について説明する。仁は不審そうな目を私に向けてくる。
「……頭を打ったから」
「ちょ、信じないの!?」
「うん」
「生まれ変わりって時点で不思議満載なのに!?」
「いやまぁ、それはなぁ」
でもなぁ、と訝しがる仁に、私はスマホを掲げた。
「じゃあ証人、呼んであげる!」
じきに千晶ちゃんが病室にきてくれた。
「ごめんね、修学旅行前の忙しいところに」
「ううん、全然いいの。どうせお昼からお邪魔しようかなって思ってたの」
千晶ちゃんははい、と可愛らしい紙箱をベッドサイドの机に置いてくれた。
「……シュークリーム?」
「正解!」
「わーい!」
「紅茶淹れようね」
2人でキャッキャとはしゃいでいると、仁が「あのう」と口を開いた。
「僕のことお忘れではありません?」
「あは」
ちょっと、わざと。だって信じないなんて言うからさ!
それから、千晶ちゃんが淹れてくれたお紅茶を飲みながら(メインはもちろんシュークリームなんだけれど)この世界について話す。おそらくは、ゲームを元にした世界じゃないかなぁって話を。
「……まぁ、信じる」
「どうしたの急に」
「というか、そういう前提で行く」
仁は言う。
「前提?」
「そー。つまりは桜澤が」
その時、再びこんこん、とノック音。私たちはすっと会話をやめた。
(聞かれたらヤバイ集団だよね~)
なんて思って、苦笑いする。
「どーぞ?」
「……あー、その」
アキラくんだった。困ったように仁たちを見る。
「……じゃあお邪魔しました。お大事にね」
千晶ちゃんが微笑んで、仁の腕をとってたたせた。
「あー、じゃ、また。設楽さん」
「はい」
2人が出て行って、アキラくんは首を傾げた。
「良かったん?」
「うん」
多分ね、と言いながら微笑む。
「来てくれたの?」
「午前練やったから」
アキラくんはベッド横の椅子にぽすんと腰掛ける。
「どない? 骨」
「骨って」
クスクス笑うと、捻挫してる首が少し痛い。軽く眉をしかめると心配気に顔を覗き込まれる。
「ごめん」
「全然」
ふ、と手を握られる。
「なぁ華?」
「ん?」
「なんの話してたん?」
じっ、と見つめられて私は固まった。
(も、もしや聞かれてました……!?)
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