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【高校編】分岐・鍋島真
【side真】花曇りと月の散乱反射
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「真さん、は」
僕の目を華はじっと見つめた。カーテンも引かれてない窓の外は暗いのに少し明るくて、街で咲き散らしてる桜が、厚い雲に散乱反射しているように思えた。このところ、花曇りだからーーと考えて、そうだ華とお花見に行こうと思う。
「知っていたのですか」
「なにを?」
僕の思考はまるっと無視して、華は続ける。知っていた? そうだね、僕は知っていた。
ソファに座り込む華の前、その床に座り込んで僕は華を見上げた。
「……樹くんが」
「うん」
「私を好きでいてくれたことを」
「なんで気がついたの?」
僕は首を傾げた。
「告られた?」
「違います、ただ」
華はうなだれた。
「ただ……」
「ふうん」
暗い部屋だから、そんな風に俯かれると華の表情は見えない。泣いているようにも見えるし、いつも通りな気もした。
「知ってたよ」
ガバリと顔を上げる華。
「知ってたなら、どうして」
「それでも君が欲しかったから」
僕は手を伸ばす。華の頬に触れる。そうか君は泣いていたのか。
「教えてあげなかったのは、そのせい。君が樹クンにとられたら僕」
首を傾げた。
「世界なんかどうでも良くなっちゃうかもしれなかったから」
華はなにも言わずに、僕を見ていた。
「僕を悪者にしていいよ、華」
さらり、とその髪に触れる。いいかおり。華のにおい。
「華は被害者だよ」
「……真さん」
「僕に拐われた、可愛そうなお姫様」
「……私は」
華がはっきりと口にする。
「私は、私が、私の意思で、真さんを選びました」
「うん」
「だから、……これに罪があるとすれば、同罪です」
「でもね」
ふふ、と僕は笑った。
「樹クンはそんな考え方は嫌がるよ」
「でも」
「すっげー腹立つけど、樹クンってそういう奴じゃんムカつく」
「そういう?」
「好きな子には」
僕は華から手を離した。
「幸せでいてほしいって」
僕には理解できない。自分の手の中にいない誰かを愛するなんて、理解できない。
華は泣きながら僕にしがみついてくる。僕は華を抱きしめる。僕のでいて。口に出せないけど、僕は叫びたい。なんで今更気がついたの? 君がどこかへいってしまうなんて、想像しただけで僕は気が狂いそうになるのに。
「大丈夫」
「華」
「分かってます、樹くんに対してこんな感情を抱くのは、樹くんに対してすごく失礼なことなんだって」
「そうだね」
「だから、今日だけ」
そのまま、華は泣いていた。なんで泣いてるのかは分からないけれど、泣いていた。ごめんね、と言いそうになってやめる。それこそ樹クンにも、華本人にも、失礼なことだと思ったから。
しばらくして華は泣くことに満足したのか「さて」と立ち上がった。
「ご飯食べましょうか」
スタスタ歩いて、電気をつける。
「切り替え早いね」
僕も立ち上がって、カーテンを閉めた。雲の隙間から、月がぼんやり覗いている。星の観察には向かないけれど、まぁこういう空模様もなかなか風流なんじゃないかな。
「何をしててもお腹は空くんです」
華はキッチンに向かいながら言った。
「ふうん?」
「世界の終わりが近づこうと、隕石が降り注ごうと、お腹が減るから炊飯器のスイッチは押さなきゃいけないんです」
「わーお」
思わず吹き出した。華ってさ、生命力がつよいよなぁ。
「食欲なくなること、ないの?」
「記憶にある限り、食欲がなくなったことはありません」
言い切ったあと、華は首を傾げて「あ」と呟いた。
「一度だけあります」
「なぁに? いつ」
少し興味を惹かれて聞き返す。華は苦笑いした。ほんとうに、しょうがない、って顔で笑った。
「あなたに恋してると気がついたとき」
僕は何も言えなかった。ぼんやりと心の中があったかくなって、ただ僕はやっぱりこの子がいなきゃ生きていけないとはっきり思った。この子に出会う前、僕はどうやって息をしていたか、心臓を動かしていたのか、思い出せないくらいに。
「あー、もう、やっぱり何もないじゃないですか」
華は台所を見てブーブー言ってる。
「私が買ってきてたレトルトのカレーは?」
「昨日食べた」
「もう、ちゃんとサラダとか足しました?」
「足してない」
「もう」
華は笑った。
「何か買いに行かなきゃ、何も作れませんよ」
カレーでいいかと思ったんですけど、と冷凍庫を覗き込む。華が買い込んだ色々が入ってたり、僕が食べちゃってたり。
「何が食べたいですかー?」
「華」
「……それなしで」
華は半目だ。ガチで空腹らしい。ちぇ。
「なんでもいーよー」
君が作ってくれるものなら。
「なんでもいい、がいちばん困るんですよねぇ」
むう、と華は首を傾げた。
「もうお外行きますか」
「えー」
「ファミレスいきましょ、ファミレス」
華は作る気をなくしてしまったのか、僕のそばまで来て、僕を見上げた。軽く首を傾げる様が、子猫みたいでいちいち可愛い。
「そのまま送ってください」
「……じゃあ華食べらんないじゃん」
「お預けです」
そんな会話のあとでたどり着いたファミレスで、華は固まって身を潜めた。
「……なにしてるの?」
目線だけで、華は「あっち!」と示す。その方向には、ふうん。こないだ僕と華に「自分はヒロインだ」とか言い放った激痛アイタタタ女子が不機嫌そうに茶髪の男とペペロンチーノを食べていた。
僕の目を華はじっと見つめた。カーテンも引かれてない窓の外は暗いのに少し明るくて、街で咲き散らしてる桜が、厚い雲に散乱反射しているように思えた。このところ、花曇りだからーーと考えて、そうだ華とお花見に行こうと思う。
「知っていたのですか」
「なにを?」
僕の思考はまるっと無視して、華は続ける。知っていた? そうだね、僕は知っていた。
ソファに座り込む華の前、その床に座り込んで僕は華を見上げた。
「……樹くんが」
「うん」
「私を好きでいてくれたことを」
「なんで気がついたの?」
僕は首を傾げた。
「告られた?」
「違います、ただ」
華はうなだれた。
「ただ……」
「ふうん」
暗い部屋だから、そんな風に俯かれると華の表情は見えない。泣いているようにも見えるし、いつも通りな気もした。
「知ってたよ」
ガバリと顔を上げる華。
「知ってたなら、どうして」
「それでも君が欲しかったから」
僕は手を伸ばす。華の頬に触れる。そうか君は泣いていたのか。
「教えてあげなかったのは、そのせい。君が樹クンにとられたら僕」
首を傾げた。
「世界なんかどうでも良くなっちゃうかもしれなかったから」
華はなにも言わずに、僕を見ていた。
「僕を悪者にしていいよ、華」
さらり、とその髪に触れる。いいかおり。華のにおい。
「華は被害者だよ」
「……真さん」
「僕に拐われた、可愛そうなお姫様」
「……私は」
華がはっきりと口にする。
「私は、私が、私の意思で、真さんを選びました」
「うん」
「だから、……これに罪があるとすれば、同罪です」
「でもね」
ふふ、と僕は笑った。
「樹クンはそんな考え方は嫌がるよ」
「でも」
「すっげー腹立つけど、樹クンってそういう奴じゃんムカつく」
「そういう?」
「好きな子には」
僕は華から手を離した。
「幸せでいてほしいって」
僕には理解できない。自分の手の中にいない誰かを愛するなんて、理解できない。
華は泣きながら僕にしがみついてくる。僕は華を抱きしめる。僕のでいて。口に出せないけど、僕は叫びたい。なんで今更気がついたの? 君がどこかへいってしまうなんて、想像しただけで僕は気が狂いそうになるのに。
「大丈夫」
「華」
「分かってます、樹くんに対してこんな感情を抱くのは、樹くんに対してすごく失礼なことなんだって」
「そうだね」
「だから、今日だけ」
そのまま、華は泣いていた。なんで泣いてるのかは分からないけれど、泣いていた。ごめんね、と言いそうになってやめる。それこそ樹クンにも、華本人にも、失礼なことだと思ったから。
しばらくして華は泣くことに満足したのか「さて」と立ち上がった。
「ご飯食べましょうか」
スタスタ歩いて、電気をつける。
「切り替え早いね」
僕も立ち上がって、カーテンを閉めた。雲の隙間から、月がぼんやり覗いている。星の観察には向かないけれど、まぁこういう空模様もなかなか風流なんじゃないかな。
「何をしててもお腹は空くんです」
華はキッチンに向かいながら言った。
「ふうん?」
「世界の終わりが近づこうと、隕石が降り注ごうと、お腹が減るから炊飯器のスイッチは押さなきゃいけないんです」
「わーお」
思わず吹き出した。華ってさ、生命力がつよいよなぁ。
「食欲なくなること、ないの?」
「記憶にある限り、食欲がなくなったことはありません」
言い切ったあと、華は首を傾げて「あ」と呟いた。
「一度だけあります」
「なぁに? いつ」
少し興味を惹かれて聞き返す。華は苦笑いした。ほんとうに、しょうがない、って顔で笑った。
「あなたに恋してると気がついたとき」
僕は何も言えなかった。ぼんやりと心の中があったかくなって、ただ僕はやっぱりこの子がいなきゃ生きていけないとはっきり思った。この子に出会う前、僕はどうやって息をしていたか、心臓を動かしていたのか、思い出せないくらいに。
「あー、もう、やっぱり何もないじゃないですか」
華は台所を見てブーブー言ってる。
「私が買ってきてたレトルトのカレーは?」
「昨日食べた」
「もう、ちゃんとサラダとか足しました?」
「足してない」
「もう」
華は笑った。
「何か買いに行かなきゃ、何も作れませんよ」
カレーでいいかと思ったんですけど、と冷凍庫を覗き込む。華が買い込んだ色々が入ってたり、僕が食べちゃってたり。
「何が食べたいですかー?」
「華」
「……それなしで」
華は半目だ。ガチで空腹らしい。ちぇ。
「なんでもいーよー」
君が作ってくれるものなら。
「なんでもいい、がいちばん困るんですよねぇ」
むう、と華は首を傾げた。
「もうお外行きますか」
「えー」
「ファミレスいきましょ、ファミレス」
華は作る気をなくしてしまったのか、僕のそばまで来て、僕を見上げた。軽く首を傾げる様が、子猫みたいでいちいち可愛い。
「そのまま送ってください」
「……じゃあ華食べらんないじゃん」
「お預けです」
そんな会話のあとでたどり着いたファミレスで、華は固まって身を潜めた。
「……なにしてるの?」
目線だけで、華は「あっち!」と示す。その方向には、ふうん。こないだ僕と華に「自分はヒロインだ」とか言い放った激痛アイタタタ女子が不機嫌そうに茶髪の男とペペロンチーノを食べていた。
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