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【高校編】分岐・黒田健

直情型直進ガールとツンデレガール

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「許せない」

 鹿島先輩は怒っている。とても。

 私たちがいるのは、学校からほど近いファストフードの奥まった席。私、大村さん、そして松井さんは、松井さんの希望で仁と鹿島先輩に話を聞いてもらっていた。
 今後の進路とか、とりあえず身近なひとに話を聞いてみたかったらしい。
 けどまぁ、それどころじゃなくなった。鹿島先輩、ものすごいキレよう。

「退学、ってどういうこと」
「いえ、それは諦めが」

 松井さんは手を振る。

「ですので、これから通信とかで」
「通信でウチとーーってわたしは卒業しているけれど、でも同じレベルの授業が受けられるとでも?」
「そ、それは」

 私たちの学校はトップレベルの進学校、って言っていいと思う。そのぶん、先生や授業の質も高い。

「ダメよ。そんなのは許されないわ」
「せ、先輩」
「先生っ」
「ハイ」

 仁は両手を上げている。

「どうにかしてください」
「いや、僕も色々頑張ったんですよ? ほんとに」

 松井さんが申し訳なさそうに眉を下げた。

「先生だけは味方してくれたんですけど」
「や、ごめんね結局どうともできなくて」
「譲り合ってる場合ですか」

 ばしり、と鹿島先輩。

「徹底的に抗議すべきです。妊娠出産で学ぶ権利を奪われてたまるもんですか!」

 そして、先輩は鼻息荒くこう言った。「考えがあります、少し待っていて」ーーと。


 お店を出て、仁はみんなを車で送ってくれた。私はさいごのひとり。

「お前はさ~」

 最後のひとりたる私を送り届けるために運転しながら、ふと仁は聞いてきた。

「どう思ってんの?」
「へ?」
「あんま発言しなかったけど」
「うーん」

 聞かれて、考える。

「そうだねぇ」

 松井さんちは、なんだか「こうなったらしょうがない」みたいな感じらしい。割とポジティブだ。

(まぁ、根岸くんが誠心誠意ってとこが大きいのかも)

 辞めて働く、と言っていたけれど、将来的なことを見据えてそれはやめたらしい。

「発言しなかった、っていうよりはどうしたらいいか見当もつかない」
「へえ?」
「だって松井さんの人生だし」
「案外クールだなお前」

 意外そうに、ちらりと目線を向けてこられた。

「だって分かんないもん」

 私の中には、女子高生……にはなりきれてないかもなんだけど、まぁ「華」としての自分と、「前世」で大人だった自分とが同居してて、その双方で考え方とかもちょっと違ったりする。

「でも、松井さんのために何かしたい、とは思ってる」
「退学には反対なかんじ?」
「そりゃ、」

 そーでしょ、と小さく言った。

「松井さん成績悪いわけじゃないし、赤ちゃんご実家で見てもらえるって話だし」
「そうしたら学校通えるって?」
「通えるでしょ?」
「まー、今まで通りってわけにはいかねーだろうけど、まぁ」
「だからね、変だとは思うけど……てか、鹿島先輩」
「あー」

 仁は軽く眉をよせた。

「何か考えがある、って言ってたな」
「あの人ねぇ」

 私は目を細めた。

「こう、だから。こう」

 目の横に両手をまっすぐ置く。
 鹿島先輩って、思い込むと、直情型直進ガールなとこがある。

「なんかね、……しでかす気がします」
「……俺も」

 仁は軽く嘆息したあと、軽い調子でこう続けた。

「お前らも気をつけろよ」
「? 何が」
「いや、避妊。まぁ黒田はしっかりしてそうだけど」
「は!?」

 避妊、避妊って!

「セクハラ!」
「セクっ……いや、俺は単に心配して」
「余計なお世話でえええす」

 べえ、と舌をだしてやる。

「ていうか、まだだしっ」
「え」

 仁は思わず、って感じでこっちを見た。

「ちょ、あぶない、前見て、前っ」
「あ、ごめ、はい」

 変な汗が出た。運転中になにしてくれてるのもう!

「……変? まだしてないの」
「いや、あいつらしいなとは……へー」
「なによ」
「なにが」
「なんか機嫌良くなったから」
「そんなことないけどさ」

 家の前にぴったりと付けられた車。

「送ってくれてありがと」
「んー」

 ひらひら、と手を振る仁。

「……やっぱ機嫌良くない?」
「気のせい気のせい」

 私は首をひねりながら仁の車をみおくった。一体なんだったんだか。

「お帰り華」

 玄関を入ると、シュリちゃんもちょうど帰宅したところみたいだった。ずいぶん慣れてきて、ただいまお帰りくらいは言ってくれる。

「ただいま、……あ、ねえシュリちゃん」
「なによ」
「高校生で妊娠したら学校やめるべき?」

 シュリちゃんは靴を脱ごうとした姿勢のまま、たっぷり十数秒は黙って、地を這うような声で「は?」と目を細めた。

「黒田、アイツ」
「え?」

 その時やっと私はシュリちゃんの誤解に気がつく。シュリちゃんの目線は私のお腹と顔をウロウロしていた。

「あんのクソ男、なにがまだヤってないよヤってんじゃないのよ何アンタもそんな平然としてんのよバカなの!?」
「ちが、ごめん、違うの」

 慌てて手を振る。

「私じゃない」
「……は?」
「私じゃなくて、友達」

 シュリちゃんはジッと私を見つめたあと、肩を落とした。

「なに、……もう、焦らせないでよ」

 その声がほんとに力が抜けたかんじで、私は「へへ」と笑ってしまう。

「心配してくれたんだ」
「は!?」

 ぎゅん、って効果音をつけたくなる勢いでシュリちゃんは振り向いた。

「ち、違うわよ! そんなんじゃないわよバカ華! バーカっ」
「シュリちゃんて」

 ツンデレだよね、という言葉は何とか飲み込んだ。そんなこと言ったら、あとでなに言われるか分かりませんからね。へへ。
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