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【高校編】分岐・鹿王院樹

膝枕

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 決起集会……といっても30分くらい、が終わって、私は帰路についた。みんな部活なんかもあるから。

(てか、みんな忙しいのに)

 集まってくれた。応援してくれてるんだ。そう思うと、紙袋の中のだるまさんがやたらと重いような、軽いような、不思議な気持ちになった。

 帰宅して数学の課題を解いていると、こんこん、というノックの音。

「華」
「樹くん!」

 私はバタバタと扉をあける。樹くんはジャージ姿で、部活後すぐっぽい感じ。

「? どうした」
「だって!」

 私はだるまを突き出した。

「……必勝祈願」
「ありがと!」

 樹くんはぽかんとした後、面白そうに笑った。

「こんなもの用意してたのか」
「千晶ちゃんちに余ってたらしいよ」
「だるまは余るものなのか……?」

 不思議そうにしてる樹くんだけど、ふ、と笑った。

「礼を言われることはしてない」
「そんな」
「ほとんど自主的に集まっていたぞ」

 ぽんぽん、と頭を撫でられる。

「人徳だな」
「そんなのあるのかなぁ」

 分からないけれど……でも、集まってくれたのは本当にありがたいのです。

「そういえば」

 私は樹くんを部屋に招き入れながら尋ねる。樹くんはぽすりと勉強机横の小さなソファに座った。

「演説会もありがとう」
「勝手をした」
「ううん」

 首を振って、座ってる樹くんの横に、私も座る。

「本当に嬉しかったから」
「……ん」

 するり、と手を頬に添えられて、軽いキス。

「本当はすごく頭に来ていて」

 樹くんは穏やかに言う。

「色々言ってしまいそうになったのだが」
「色々?」
「うむ。けれど、以前怒られただろう」

 私は首を傾げた。怒った?

「私が?」
「ん。生ゴミ事件の時か」
「あー」

 私は苦笑いした。

「あれかぁ、耳障りとか言っちゃったやつ」
「そうだ。少しは成長しているんだ、俺も」
「あはは、偉い偉い」

 私は樹くんの頭を撫でた。ヨシヨシ。
 樹くんは、少し目を細めて私を見た。少し嬉しそう。

「華にこうされるのは、久々かもしれん」
「あ、かもね」

 笑ってもう一度頭を撫でる。つむじが2つある、樹くんの頭。

「華」
「なぁに?」

 返事をするが早いか、樹くんはぽすりと横になる。膝枕。

「狭い」
「このソファ小さいから」

 樹くんの足ははみ出しちゃってる。

「そのうち大きいやつを買おう」

 私はくすくす笑う。笑いながら、樹くんの頭を優しく撫でる。樹くんは気持ち良さそうだった。

「膝枕のためだけに?」
「ん」

 膝枕のまま、樹くんは私の頬に手を伸ばす。

「華」

 物欲しそうな、目。私は小さくハイハイ、と返事をしてキスをする。

「もっと」
「甘えん坊さんだね、今日は」
「ダメか」
「ダメじゃないよ」

 可愛い、と言っておでこにキス。

「そういえば何の用?」
「ご挨拶だな」
「違う違う、部屋まで来たから」
「華に甘えたかっただけだ」

 樹くんは穏やかに笑う。

「ダメか?」
「ダメじゃないってば」

 軽く頬を撫でて、その肌触りが昔と違って、どきりとした。

「樹くんってさぁ」
「ん?」
「おひげ剃ってる?」
「なんだその言い方」

 樹くんは楽しそうに笑った。

「まだ、たまに、だな」
「ふーん」

 そっか。そっかぁ。

「……大人になっちゃうねぇ」
「大人になられるのは嫌か」
「だってさぁ」

 ふふ、と笑う。

「初めてあった時は小学生だったんだもん」
「華だって子供だった」
「そうだけど」
「まぁ、変な気はしていたんだ」

 ぽつり、と樹くんは笑った。

「記憶がないにしては落ち着いていたし、両親がいないのに寂しそうじゃなかった」
「?」
「"大人すぎる"ような気は、していたから」
「そうかな」
「普通は」

 樹くんは、少し遠くを見るような目をする。

「普通の子供は、もう少し、寂しいし、心細い。……近くに、オヤがいない、というものは」
「……そうなんだ」

 私はもう一度、樹くんの頭を撫でた。そっか、寂しかったんだね。

(ゲームでも、そうだったけれど)

 でも、私といて少しは楽しかったかな。

(水族館で言ってくれてた)

 あの、月明かりに照らされた夜の水槽。ひとりじゃないと、そう思えたって。

(そう思ってくれてたことが、私の力にもなってる)

「……ありがとね、樹くん」
「? なにが」
「なんでもー」

 ふふ、と笑うと樹くんは身体を起こして、私を抱きしめる。

「絶対に守るから」
「ええと、」
「あの女から」
「……桜澤さん?」
「たとえなにがあっても、何を見ても、俺を信じて欲しい」
「信じるけどさー」

 てか、疑うなんか、しないけど。
 私は少し唇を尖らせた。

「仲間はずれみたいにはしないでね」
「……まぁ極力な」
「したら怒るからね」

 樹くんは私のこめかみに軽くキスをする。……何する気か知らないけど、これ、その内私に黙って何かする気ですね、これ。

「ほんとに怒る」
「怒ってもいいから俺から離れないでくれ」
「離れるなんかしないけどさ」
「……良かった」

 樹くんの唇が、首筋に触れる。

「必ず、守るから」

 その声があまりに決意に満ちたものだったから、私は少しだけ、どきりとしたのでした。
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