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【高校編】分岐・相良仁
釘(side戸田)
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好きな人がいる、っていうのは人生に張り合いがでる。そんなことを学んだのは、高校の入学式から少し経ってのことだった。
「落としたよ」
移動教室の途中、ふと後ろから聞こえた声にオレはぎょっとした。オレのボールペン持って立ってたのが、あんまりにも綺麗なコだったから。キレイすぎて、少し冷たい印象を受けるようなーー。
けれど、お礼を言って受け取って、そして向けられたあったかな笑顔にオレは一瞬で恋に落ちた。フォーリンラブってやつだ。いやホント、そんな事ある? って感じ。
けれど、その恋が実るものではないことを、すぐにオレは知ることになる。
「ああ、設楽さん?」
「え、知ってんの」
「うん」
同じクラスのヤツと、たまたま設楽さんの話になった時だ。たまたま、っていうか設楽さんのことが知りたくて、俺から話を向けたんだけど。曰く「隣のクラスにえらい美人さんがいるよな?」。
「オレ、ほら中学からの持ち上がりだから」
「? うん」
設楽さんも中学からの持ち上がりなんだろうか?
「鹿王院樹って分かる」
「うん」
いやでも目立つ。えらくイケメンの、背が高い、スポクラの。詳しくは知らないけど、ものすごく家柄もいいらしい。
「完璧男」
「その鹿王院の許婚」
「は?」
「だから、設楽さんが」
「……いまどき?」
「今時。でも普通に仲良いらしい、ほら」
言われて廊下を見る。並んで歩く設楽さんと鹿王院。
微笑む設楽さんは完全にリラックスした顔で、オレは恋して数日でこの恋が不毛なものだと知ったのだった。
けれど、それから1年以上経った夏休み明けのその日、もしかしたらほんの一筋の光明が見えるのかもしれない出来事が起きた。
「……婚約解消?」
「し、声がデカイ」
オレに昔、鹿王院と設楽さんについて教えてくれたヤツがそっとオレに囁いた。どうやらあの2人、許婚じゃなくなったらしい、ってこと。
「トップシークレットだからな。オレもお前だから教えるんだ」
「なんで、オレ?」
「だってお前、設楽さん好きじゃん」
わざわざ昼休みっちゃー隣のクラスまで行ってさ、と笑われてオレは赤面した。そうか、バレバレだったのか。
「親父が、鹿王院関係の仕事してて。関係者でもほんの一握りだけしか知らないらしいんだけど」
「え、オレに教えていいの」
「口堅いだろ」
「なんでそんなこと、」
「不毛な片思いを一年以上黙ってたんだから」
そう言われると、返す言葉もなかった。
とはいえ、何ができるわけでもない。積極的にいけるなら、とっくの昔に行っている。
どうするべきか、なんて考えてた実力テスト明けの日、設楽さんとたまたま話す機会があった。
「あれー、戸田くん。おつかれ」
「設楽さんも質問?」
近代史、特に昭和に入ってからの動きがイマイチ理解できない。暗記科目と言われてしまえばそこまでなんだけれど……、と日本史の相良先生のとこに行ったら、まさかの設楽さんがいた。
コーヒー出してもらって、テキスト開いて質問中みたいだ。
「そう」
「近代史ってわかんなくなるよな」
開いてたのは、同じくらいのところ。
(設楽さんもこの辺苦手なんだ)
勝手に親近感がわく。
「せんせー、この辺難しい」
オレが教科書開きながら言うと、相良先生は苦笑いした。質問多いのかな、このへん。
「りょーかい。お前もコーヒー飲む?」
「お砂糖あります?」
思わず聞いた。苦いだけのは、苦手だ。
「ブラックしかねーよ」
「じゃーいらないっす」
先生の返しに即答するけれど。
「あは」
設楽さんが少しだけ、楽しそうに笑った。「カワイイ」って顔してて、なんか同じ年に見えなかった……ていうか、設楽さん、ブラック飲めるんだ。
「……設楽さんはブラック平気なの?」
「うん」
「じゃあ!」
コドモだと思われたくない。
「オレも飲みます」
「……そ?」
先生はほんの少し、何か言いたげにしたあとコーヒーポットを手に取った。
がたりと設楽さんは立ち上がる。しまわれるテキスト。
「あれ、設楽さん、いいの?」
せっかくいっしょになったのに!
「うん、私、数学わかんないとこあって」
「あの、……オレ、教えようか?」
オレとしては、かなり勇気を振り絞ったと思う。
「へ?」
不思議そうな設楽さんに、オレは続けた。
「数学得意なんだ」
「あー」
設楽さんの納得した顔。オレが数学得意なの、知っててくれたんだろう。じわじわと嬉しくなる。
「じゃあ、」
「戸田は先にこっちだろーが」
先生にテキストを叩かれた。
「あ」
「あは、やっぱ私数字の先生とこ行くね。じゃあ相良先生、また」
「おー」
先生はオレのテキストに目線を落としている。
(あ)
オレは一瞬、息を飲んだ。設楽さんの淋しそうな目線。その目に浮かんだ、独特の熱に、言葉が詰まる。
「? 戸田くんもまたね」
「あ! うん、また」
閉まった扉をしばらく見つめ、それから先生に聞いてみた。
「先生、ジョシコーセーに告られたらどうする?」
「断るよ」
呆れたように言う先生に、オレはちょっと安心した。
先生と目が合う。口は笑ってるけど、目は笑ってなかった。
なんだか、……釘を刺された気がした。
「落としたよ」
移動教室の途中、ふと後ろから聞こえた声にオレはぎょっとした。オレのボールペン持って立ってたのが、あんまりにも綺麗なコだったから。キレイすぎて、少し冷たい印象を受けるようなーー。
けれど、お礼を言って受け取って、そして向けられたあったかな笑顔にオレは一瞬で恋に落ちた。フォーリンラブってやつだ。いやホント、そんな事ある? って感じ。
けれど、その恋が実るものではないことを、すぐにオレは知ることになる。
「ああ、設楽さん?」
「え、知ってんの」
「うん」
同じクラスのヤツと、たまたま設楽さんの話になった時だ。たまたま、っていうか設楽さんのことが知りたくて、俺から話を向けたんだけど。曰く「隣のクラスにえらい美人さんがいるよな?」。
「オレ、ほら中学からの持ち上がりだから」
「? うん」
設楽さんも中学からの持ち上がりなんだろうか?
「鹿王院樹って分かる」
「うん」
いやでも目立つ。えらくイケメンの、背が高い、スポクラの。詳しくは知らないけど、ものすごく家柄もいいらしい。
「完璧男」
「その鹿王院の許婚」
「は?」
「だから、設楽さんが」
「……いまどき?」
「今時。でも普通に仲良いらしい、ほら」
言われて廊下を見る。並んで歩く設楽さんと鹿王院。
微笑む設楽さんは完全にリラックスした顔で、オレは恋して数日でこの恋が不毛なものだと知ったのだった。
けれど、それから1年以上経った夏休み明けのその日、もしかしたらほんの一筋の光明が見えるのかもしれない出来事が起きた。
「……婚約解消?」
「し、声がデカイ」
オレに昔、鹿王院と設楽さんについて教えてくれたヤツがそっとオレに囁いた。どうやらあの2人、許婚じゃなくなったらしい、ってこと。
「トップシークレットだからな。オレもお前だから教えるんだ」
「なんで、オレ?」
「だってお前、設楽さん好きじゃん」
わざわざ昼休みっちゃー隣のクラスまで行ってさ、と笑われてオレは赤面した。そうか、バレバレだったのか。
「親父が、鹿王院関係の仕事してて。関係者でもほんの一握りだけしか知らないらしいんだけど」
「え、オレに教えていいの」
「口堅いだろ」
「なんでそんなこと、」
「不毛な片思いを一年以上黙ってたんだから」
そう言われると、返す言葉もなかった。
とはいえ、何ができるわけでもない。積極的にいけるなら、とっくの昔に行っている。
どうするべきか、なんて考えてた実力テスト明けの日、設楽さんとたまたま話す機会があった。
「あれー、戸田くん。おつかれ」
「設楽さんも質問?」
近代史、特に昭和に入ってからの動きがイマイチ理解できない。暗記科目と言われてしまえばそこまでなんだけれど……、と日本史の相良先生のとこに行ったら、まさかの設楽さんがいた。
コーヒー出してもらって、テキスト開いて質問中みたいだ。
「そう」
「近代史ってわかんなくなるよな」
開いてたのは、同じくらいのところ。
(設楽さんもこの辺苦手なんだ)
勝手に親近感がわく。
「せんせー、この辺難しい」
オレが教科書開きながら言うと、相良先生は苦笑いした。質問多いのかな、このへん。
「りょーかい。お前もコーヒー飲む?」
「お砂糖あります?」
思わず聞いた。苦いだけのは、苦手だ。
「ブラックしかねーよ」
「じゃーいらないっす」
先生の返しに即答するけれど。
「あは」
設楽さんが少しだけ、楽しそうに笑った。「カワイイ」って顔してて、なんか同じ年に見えなかった……ていうか、設楽さん、ブラック飲めるんだ。
「……設楽さんはブラック平気なの?」
「うん」
「じゃあ!」
コドモだと思われたくない。
「オレも飲みます」
「……そ?」
先生はほんの少し、何か言いたげにしたあとコーヒーポットを手に取った。
がたりと設楽さんは立ち上がる。しまわれるテキスト。
「あれ、設楽さん、いいの?」
せっかくいっしょになったのに!
「うん、私、数学わかんないとこあって」
「あの、……オレ、教えようか?」
オレとしては、かなり勇気を振り絞ったと思う。
「へ?」
不思議そうな設楽さんに、オレは続けた。
「数学得意なんだ」
「あー」
設楽さんの納得した顔。オレが数学得意なの、知っててくれたんだろう。じわじわと嬉しくなる。
「じゃあ、」
「戸田は先にこっちだろーが」
先生にテキストを叩かれた。
「あ」
「あは、やっぱ私数字の先生とこ行くね。じゃあ相良先生、また」
「おー」
先生はオレのテキストに目線を落としている。
(あ)
オレは一瞬、息を飲んだ。設楽さんの淋しそうな目線。その目に浮かんだ、独特の熱に、言葉が詰まる。
「? 戸田くんもまたね」
「あ! うん、また」
閉まった扉をしばらく見つめ、それから先生に聞いてみた。
「先生、ジョシコーセーに告られたらどうする?」
「断るよ」
呆れたように言う先生に、オレはちょっと安心した。
先生と目が合う。口は笑ってるけど、目は笑ってなかった。
なんだか、……釘を刺された気がした。
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