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【高校編】分岐・鹿王院樹

選挙!

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 この学校の「生徒会役員選挙」はちょっと変わっていて、立候補しなくても当選できるという謎システムが採用されているらしい。

「ま、これもお育ちのいいお坊っちゃまお嬢ちゃまがメインの学校だからできることよねぇ」

 千晶ちゃんが私の応援原稿を眺めながら、そう言った。

「? そう?」
「だってさ、これがフツーの学校なら、体のいいイジメの理由になると思わない?」
「あー」
「そんなことをしない、っていうか想像すらしないでしょ、ここのガチなひとたちは」
「うん」

 実のところ、その通りなのだ。「ほんとうに育ちのいい」ひとたちは恐ろしいくらいに、人に対して敵意がない。持つ必要がないから、だろうか。

「ま、でも結局は歴代、立候補者から選ばれてる訳なんだけども」
「みたいだね」

 頷きながら返事をした時、私たちは名前を呼ばれた。

「設楽さん、鍋島さーん。準備お願いしまーす」
「はーい」

 私たちは椅子から立ち上がる。
 ここは、大講堂の舞台袖。なんと、というか何というか……今、生徒会役員選挙の生徒前演説、その本番なのでした。
 私の前の順番の立候補者が、壇上で公約について演説をしている。

「千晶ちゃん」

 私は改めて頭を下げた。

「ありがとね、応援演説、引き受けてくれて」

 実のところ……大村さんや、ひよりちゃんには頼みづらかったのだ。

(校則の改革、なんて)

 ヘタをすれば、学園側に目をつけられてしまう。それでも私が先生たちから何も言われず行動できているのは、私のバックに「常盤敦子」が、「鹿王院樹」がいてくれているから、で……。

(……これも、権力を傘に着て、ってことになるのかなぁ)

 だとすれば、やっぱりシナリオ通り、ってことになるんだけれど……くっ、仕方ない。背に腹はかえられぬのです。
 そんな訳で、学園側に目をつけられても平気でいられる家柄、となると(そういう体制もどうか、とは思うんだけれど)仲が良い子の中では、千晶ちゃんしかいなかったのです。

「いーえー」

 ふふ、と千晶ちゃんが笑う。

「ここまで"シナリオ"と別の話になってるんだもん、なんかトコトン行ってもらおうと思って。面白いから」
「あは、不純」
「そーそー。華ちゃんの為とかじゃないから、ほら、リラックスリラックス」

 肩をぐいぐいと揉まれた。

「凝ってるね」
「え、ほんと?」

 少し張るなぁとは思っていたんだけれど。

「緊張してるからかなぁ」
「違うわね、これは。おっぱい大きいからね」
「おっ」

 何ということを演説前に言ってくれるんだ!
 くるりと振り向くと、「ほら力抜けた?」と微笑まれた。私も微笑み返す。

「……ありがと」
「では次は、風紀委員長候補、設楽華さん、応援演説は鍋島千晶さん」

 私たちは並んで壇上に上がる。

(……わー)

 思わず息を飲んだ。全校生徒、……高等部だけたけれど、それでもすごい人数だ。
 私が目を白黒させている間に、千晶ちゃんかの応援演説が終わってしまった。拍手が講堂を包む。

(……あれ?)

 なんか泣いてる人とかいるんだけど。え?
 ちらり、と千晶ちゃんを見た。ニヤリと笑われる。

(さ、さすが鍋島真の妹さんです……)

 謎の感動エピソード(創作)とかを話したんじゃなかろうか。……大丈夫なの、それ?
 千晶ちゃんが口パクで「嘘は言ってないよ」と笑った。うう、そっちのが怖いよ。

「続きまして立候補されている、設楽華さんです」

 司会の人にそう言われ、マイクを握ろうとした時ーー唐突に、ブーインゲが講堂内に響いた。

(へ!?)

 思わずその声の方をみやるとーーそれは、1年の特進クラス。ブーインゲしているのは、そのクラスの男子たちだった。

(ていうか)

 なにこのクラス?

(並び順が、へん……)

 他のクラスは、男女混合で並んでいる。この講堂は、ステージが見えるように後ろに行くにつれ階段状になっているので、身長に関してそこまで気にする必要がない。
 なのに、このクラスは、男子がひとかたまりになっていた。……正確には、ひとりの女子を囲むように、座っていた。

(桜澤青花……)

 満足そうに、ブーインゲをしている男子たちを眺めている。
 女の子たちは、迷惑そうに男子たちを見ていた。
 視界の隅に、戸惑う司会さんの姿が見えた。……そりゃ、そうだよね。

「ひっこめー」
「横暴やめろ」
「権力ふりまわすな」
「横暴女王」
「青花ちゃんに関わるなー!」

 私はぽかん、とその子たちを眺めた。

(えー……)

 怒り、というよりは呆れた。

(い、いつ私から関わったのよ……)

 関わってない。絶対に、関わってない!
 視界の隅に、樹くんが見えた。立ち上がり、こちらに歩いてきてくれている。それを、私は首を振って制した。マイクをがごん! とマイク台からむしり取り、マイク片手にブーイング集団のところへツカツカと向かう。

「権力の横暴を許すなー」
「設楽華を退学にし……」

 威勢の良さった男子たちも、私が目の前まで来ると、シュンと黙り込んだ。誰もが気まずそうに目線をそらす。

「私がいつ権力を濫用しましたか」

 マイク越しに、そう訊く。男子たちは「ええと」「その」などと逡巡したあと、1人が大声で「青花さんに嫌がらせをしているじゃないか!」と叫んだ。

「してません」

 端的に言い切る。男子は一瞬ひるんで、それから言った。

「じゃ、じゃあ誰が青花さんの教科書やテキストを」
「それさぁ、別に桜澤さん困ってないじゃん」

 声が上がったのは、同じクラスの女の子からだった。

「あんたたちがプレゼントするし。それありきで、自分でやってんじゃないの」
「そ、」

 声をあげたのは、青花。

「そんなこと、してないもんっ」
「そ、そーだそーだっ」

 気がつけば、私のことはまるっと無視して桜澤クラスの青花取り巻きVS女子みたいな構図になっていた。

(……ていうか、私の選挙演説っ)

 へんなことになっちゃったなぁ、と思っていると、ふとマイクを取り上げられた。見上げた先には樹くん。

「?」
「飛び入りで済まない」

 マイク片手に、樹くんは話し出した。
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