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【高校編】分岐・黒田健

女子校の文化祭

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 黒田くんは思いっきり不機嫌だった。
 ウチの学校の文化祭。私のクラスは「コスプレカフェ」って出し物で、生徒がそれぞれ色んな格好をして、飲み物とケーキを提供する、まぁ学祭とかで良くあるやつです。

(っていっても、メニューはパウンドケーキとコーヒーしかないんですけどね~)

 それでもなかなか好評を頂いてる、この企画なのでしたが。

「……黒田くん?」
「設楽に怒ってるわけじゃねーから」

  むすっとした顔で言われる。こんなカオで接されるの初めてで、私は思い切り戸惑ってしまった。

「やっぱさぁ」

 松井さんがひょこ、と顔を出す。ロングの青のチャイナドレスは、大人っぽい雰囲気の松井さんによく似合っていた。

「やりすぎたかな」
「そうかな」

 返事をしたのは、大村さん。子供向け映画のキャラクターのコスプレで、これも可愛くて似合う。

(私も一緒にこれがいいって言ったんだけどなぁ……)

 私は自分の衣装を見下ろす。

(……露出が多い気がする)

 気のせいかなぁ。

「やりすぎたかも。ミニスカポリスはやりすぎたかも」

 松井さんは繰り返す。

「ぱつんぱつんだもんね」
「うっ」

 そ、それは太ってるということ……!?

「す、好きで太ってるわけじゃ」
「いや太ってはないよ設楽ちゃん。たださあ、おっぱいがぱつんぱつん」
「でもそれに伴ってお肉も色んな箇所にっ」

 なぜ!?
 なぜなの!?

(ゲームの華と体格が違いすぎない!?)

 事あるごとに思うんだけど……え、食べても太らないスペックとかは悪役令嬢に付属してないんですか!?

「お肉? ま、それはそうだけども」

 呆れたように松井さんは笑った。私の腰のお肉をつまむ。ううっ、や、やめて……!

「だ、ダイエットしなきゃ」
「それほどじゃないよ。ふつーふつー」
「……ダイエットの必要はねーけども」

 黒田くんが口を開いた。

「少しやりすぎじゃねーのか」

 じろり、と全身を見られた。

「そうでもないよ」

 大村さんはくすくす笑う。

「黒田くんが過保護ー。ま、もう連れてってもらって大丈夫だよ」
「え、当番は?」

 私は時計をちらりと見上げた。
 休憩まであと30分はあるはずなんだけれど。

「あのさぁ」

 大村さんは思いっきり笑って、黒田くんを指さす。

「そんなカオした番犬が店内にいたら来るお客さんも来ませーん」
「悪かったな人相悪くて」
「さーさー、さっさと学祭デートでもなんでもしてらして!」

 よくわかんない口調で言う大村さんに、松井さんが首を傾げた。

「あのね大村ちゃん」
「なぁに?」
「わたしも少し抜けていいかなぁ」

 えへへ、と笑う視線の先には根岸くん。スマホで一生懸命に松井さんのチャイナドレス姿を撮影していた。

「……どいつもこいつもリア充ばっか!」

 口を尖らせた大村さんだけど「えーいさっさと行ってこい!」と私たちは教室から追い出された。

「大丈夫かなぁ」
「他の当番の子もたくさんいるし」

 えへへ、と根岸くんとお手手繋いでホンワリ笑う松井さんはすっごい幸せそう。

「わたしたち、このままお化け屋敷行ってくるから」
「またなー」

 しあわせオーラを撒き散らしつつ、2人は人ごみに消えていく。

「付き合いたてだからかなぁ」

 イチャイチャぶりがハンパない。

「らぶらぶだよねー」

 言ってる私たちもきっちり手を繋いでるし、人のことは言えないかもしれないなぁ。

「どこいく?」
「とりあえずな」

 黒田くんは淡々と言った。

「個人的には」
「うん」
「それ、着替える気、ねー?」

 思い切り眉を寄せてた。私はしゅんとする。

「設楽?」
「そ、そんなに似合わない?」
「似合うに合わねーじゃねーし、なんなら似合ってる」

 淡々と言われた。

「けど、しょーじきそんな格好の設楽を俺以外が見てるのがムカつく」
「む、ムカつく?」
「おう」

 堂々と黒田くんは言った。

「すっげー嫉妬してる」
「嫉妬?」
「俺のなのに」

 軽い溜め息。

「ただでさえ、設楽目立つのに」
「それはどうかな……」

 視線をあげた黒田くんが、ほんとにキツそうだったから、私はこくりと頷いた。

「……でも」
「ん?」

 ちょっとニヤニヤしながら、黒田くんの腕に抱きつく。

「"俺以外の"ってことは、黒田くんの前だけならいーんだ?」

 ちょっとからかい気味に言ってみると、黒田くんは少し考えてから「そーかもな」と答えた。

「へ!?」
「どこで着替えんの?」

 更衣室? と聞かれて慌てて頷く。

(えー……)

 私はなぜだか赤面してしまう。見上げた先で、黒田くんはフツーっぼくて堂々としてて、なんだかズルイなぁなんて思うのでした。


「で、何食う?」
「食べ物限定なの?」

 着替え終わった私に、黒田くんは聞いてくる。校舎裏の部活棟が、指定の更衣室になっていて、制服にきっちり着替え終わったところ。
 人気のない渡り廊下を、てくてくと歩く。少し遠くから、お祭りのざわめきが静かに響いて聞こえた。

「クレープ? ポテト?」
「ちょっと待ってカロリーが」

 さっきダイエット決めたばっかなのに!

「だから別に痩せなくていーだろ」
「でもー」

 口を尖らせて黒田くんを見上げた次の瞬間には、ぎゅうっと抱きしめられていた。

「抱き心地いーし」
「……そっかな」

 遠くから聞こえるざわめきとか、ぼんやり聞きながら考える。そんくらいでダイエットする気なくなっちゃうんだから、不思議なものです。……決して自分に甘いわけでは、ないですよ。多分。
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