312 / 702
【高校編】分岐・鍋島真
炎
しおりを挟む
昼間のうちに、ヴェなんちゃらとかいう(素で覚えてない)自然公園の貸し別荘に連れ込まれた。
「お外散策したいです!」
大きな湖とか見えた。カヌーに乗ってる人たちいたし、サイクリングなんかもできるっぽい!
のに、大きな窓には分厚いカーテン、外は絶対に見せないぞという強い意志が感じられる。
(目的がわかりません!)
まぁ、いつものことなんですが、なんですけれど、でも!
「ここ絶対楽し、むぐぐ」
雑にキスされた。なんだこれ!
「はいはい黙って僕の子猫ちゃん」
「誰が子猫ですか! っていうか、だんだん扱いが雑になってませんか雑にっ」
「そんなことないよ~」
くすくす笑う真さんはめちゃくちゃ楽しそうだ。くそう。
「楽しいことしてあげるから黙って」
「楽しいこと?」
首をかしげると、真さんは優雅に目を細めた。
「やーだなぁ華、僕だって常にヤらしいこと考えてる訳じゃないんだよ?」
「か、考えてませんっ」
「その想像を現実にしてあげてもいいけれど?」
「遠慮しますっ」
ぷう、と頬を膨らませて距離を取ると、真さんはいっそう楽しげに笑った。
「こっちにおいで、華」
そのままスタスタと別荘内を歩いて行ってしまう。私はぺたぺたとその後をついて歩いた。なんだろう?
連れていかれたのはキッチンで、真さんは少し楽しげに鍋だのなんだのを取り出した。
管理人さんあたりが用意してくれてたのかな? ちなみにご丁寧に、こちらの窓にも分厚いカーテン。むう。
「フォイヤーツァンゲンボウレ、っていうんだけど」
「はぁ」
「僕は飲まない」
「へ?」
「いくらアルコールだからって、正気の沙汰じゃない」
そう言いながら、真さんはワインボトルを取り出す。赤ワインのボトルみたい。
「? 飲ませていただけるので?」
「なんでそんな江戸時代の丁稚みたいな口調なの」
「はぁ……」
真さんは「飲んでもいいよ」と笑う。
「ただし、アルコール0.00パーセント。要はノンアル」
「ちぇー」
「華チャン」
真さんは私の鼻をつまんだ。
「身体に悪い、そうでしょう?」
「……真さんに言われたくはないんですけど」
じとりと睨んだ。真さん、絶対に未成年飲酒してたもんな! 証拠はないけども……。悪いやつだ。
「ふふ」
真さんは静かに笑った。
「ドイツは意外にワインの生産も盛んなんだってさ」
思い切り話を逸らされた。まぁ、いいけどさ、もう。
「へー、まぁフランス近いですもんね」
「なにその雑な感想」
口調の割に楽しそうだ。
「そんなわけでフォイヤーツァンゲンボウレ、はじめまーす」
真さんは、片手鍋に例のノンアル赤ワインをどくどくと注ぐ。ああもう、適当にするから服についてるじゃん……。
「そのシャツ後で洗わないと」
「捨ててく」
「もったいないからダメです」
こら、と睨むと真さんは何が嬉しいのか、私のコメカミに軽く唇を落とす。
「可愛いなぁ僕のお嫁さん」
「まだ違いますけどね」
そんな風に言っちゃうけれど、まぁ、こういうの言われるとちょっとドキドキしたりもしてる。
火をかけて、それからそこに香辛料っぽいのを突っ込んでいく。シナモンとか、果実の皮とか。
「グリューワイン?」
「の、さらにエゲツないやつ」
「エゲツない」
思わず反駁。
「えげつなさの正体はこれ」
真さんが取り出したのは、円錐状の……なにこれ?
「お砂糖?」
「正解。気が狂うよねこの砂糖の塊」
真さんは軽く眉をしかめて、それから銀色の、金属製の台を取り出す。鍋にかかる形だ。
「この上にこの狂気の塊を置きます」
「何グラムあるんでしょうか……」
「知らないよ、僕の一生の摂取量は超えてそうだよ」
「超えてないですよ」
案外いろんなものに大量に入ってますよ砂糖。怖いですよ砂糖。
「で、これに」
真さんは別の瓶を取り出した。
「これはマジもんのアルコールだから、よくよく加熱してアルコール飛ばさなきゃいけません」
「ラム酒?」
「まぁ加熱もクソも」
真さんは、お砂糖にラムをかけた。じんわりと湿るお砂糖。
「燃やすんだけどね」
「燃やす?」
「いえす! ふぁいや!」
謎にテンション高く、真さんはラム漬け砂糖にライターで火をつけた。ぼう、と青い炎が揺れる。
「わ、わ、わ」
ぽたぽた、と青い炎がノンアルワインに落ちていく。溶けたお砂糖だ。
「なにこれなにこれー!?」
「なんかこういう飲み物らしいよ」
僕はいらない、と真さんは言う。
「まぁでも、華好きかなぁって」
青い炎を見つめながら、真さんは少し笑った。
「甘いから」
「……あまけりゃいい、って訳じゃないんですけどね」
言いながらも思う。なんだろう、なんでだろ。結構、嬉しいですよ?
(ていうか、かなり、かな)
じわじわと嬉しくなってしまう。なんでだろう、意味わかんない……。
「どーぞ」
真さんは、それをマグカップに注いでくれた。ふんわり香る甘いにおい。一応更にアルコール飛ばす、って加熱されててほかほかだ。
私たちは、ダイニングのテーブルで向かい合って座る。真さんはコーヒーを飲むみたいで、インスタントの粉末にお湯を注いでいた。
「普段インスタント、飲まないのに」
「旅先だからしゃーなしなんだしゃーなし」
真さんはちょっと笑った。
私は真さんが注いでくれた、ノンアルグリューワインのエゲツないやつ、に口をつけた。
「……わー」
甘い。けど、シナモンとかオレンジピールとかが入ってるおかけで、甘さだけじゃなくてスッキリしてる感じ。なにより、あったまる! 正直、外は極寒だからちょっと冷えてたのです。
「あのさ」
「はい?」
真さんが真顔で、私はちょっとびっくりする。この人あんま真顔になんないから。
「おいしい?」
私は一瞬、ぽかんとしてしまった。それからなんだかあったかなものがこみ上げて、何度も頷く。
「おいしい、おいしいです」
「ほんと」
ほんの少し、安心したように真さんはコーヒーに口をつける。その頬が少し赤くて、私はちょっと黙ってしまう。なんだかとっても、くすぐったかったのでした。
「お外散策したいです!」
大きな湖とか見えた。カヌーに乗ってる人たちいたし、サイクリングなんかもできるっぽい!
のに、大きな窓には分厚いカーテン、外は絶対に見せないぞという強い意志が感じられる。
(目的がわかりません!)
まぁ、いつものことなんですが、なんですけれど、でも!
「ここ絶対楽し、むぐぐ」
雑にキスされた。なんだこれ!
「はいはい黙って僕の子猫ちゃん」
「誰が子猫ですか! っていうか、だんだん扱いが雑になってませんか雑にっ」
「そんなことないよ~」
くすくす笑う真さんはめちゃくちゃ楽しそうだ。くそう。
「楽しいことしてあげるから黙って」
「楽しいこと?」
首をかしげると、真さんは優雅に目を細めた。
「やーだなぁ華、僕だって常にヤらしいこと考えてる訳じゃないんだよ?」
「か、考えてませんっ」
「その想像を現実にしてあげてもいいけれど?」
「遠慮しますっ」
ぷう、と頬を膨らませて距離を取ると、真さんはいっそう楽しげに笑った。
「こっちにおいで、華」
そのままスタスタと別荘内を歩いて行ってしまう。私はぺたぺたとその後をついて歩いた。なんだろう?
連れていかれたのはキッチンで、真さんは少し楽しげに鍋だのなんだのを取り出した。
管理人さんあたりが用意してくれてたのかな? ちなみにご丁寧に、こちらの窓にも分厚いカーテン。むう。
「フォイヤーツァンゲンボウレ、っていうんだけど」
「はぁ」
「僕は飲まない」
「へ?」
「いくらアルコールだからって、正気の沙汰じゃない」
そう言いながら、真さんはワインボトルを取り出す。赤ワインのボトルみたい。
「? 飲ませていただけるので?」
「なんでそんな江戸時代の丁稚みたいな口調なの」
「はぁ……」
真さんは「飲んでもいいよ」と笑う。
「ただし、アルコール0.00パーセント。要はノンアル」
「ちぇー」
「華チャン」
真さんは私の鼻をつまんだ。
「身体に悪い、そうでしょう?」
「……真さんに言われたくはないんですけど」
じとりと睨んだ。真さん、絶対に未成年飲酒してたもんな! 証拠はないけども……。悪いやつだ。
「ふふ」
真さんは静かに笑った。
「ドイツは意外にワインの生産も盛んなんだってさ」
思い切り話を逸らされた。まぁ、いいけどさ、もう。
「へー、まぁフランス近いですもんね」
「なにその雑な感想」
口調の割に楽しそうだ。
「そんなわけでフォイヤーツァンゲンボウレ、はじめまーす」
真さんは、片手鍋に例のノンアル赤ワインをどくどくと注ぐ。ああもう、適当にするから服についてるじゃん……。
「そのシャツ後で洗わないと」
「捨ててく」
「もったいないからダメです」
こら、と睨むと真さんは何が嬉しいのか、私のコメカミに軽く唇を落とす。
「可愛いなぁ僕のお嫁さん」
「まだ違いますけどね」
そんな風に言っちゃうけれど、まぁ、こういうの言われるとちょっとドキドキしたりもしてる。
火をかけて、それからそこに香辛料っぽいのを突っ込んでいく。シナモンとか、果実の皮とか。
「グリューワイン?」
「の、さらにエゲツないやつ」
「エゲツない」
思わず反駁。
「えげつなさの正体はこれ」
真さんが取り出したのは、円錐状の……なにこれ?
「お砂糖?」
「正解。気が狂うよねこの砂糖の塊」
真さんは軽く眉をしかめて、それから銀色の、金属製の台を取り出す。鍋にかかる形だ。
「この上にこの狂気の塊を置きます」
「何グラムあるんでしょうか……」
「知らないよ、僕の一生の摂取量は超えてそうだよ」
「超えてないですよ」
案外いろんなものに大量に入ってますよ砂糖。怖いですよ砂糖。
「で、これに」
真さんは別の瓶を取り出した。
「これはマジもんのアルコールだから、よくよく加熱してアルコール飛ばさなきゃいけません」
「ラム酒?」
「まぁ加熱もクソも」
真さんは、お砂糖にラムをかけた。じんわりと湿るお砂糖。
「燃やすんだけどね」
「燃やす?」
「いえす! ふぁいや!」
謎にテンション高く、真さんはラム漬け砂糖にライターで火をつけた。ぼう、と青い炎が揺れる。
「わ、わ、わ」
ぽたぽた、と青い炎がノンアルワインに落ちていく。溶けたお砂糖だ。
「なにこれなにこれー!?」
「なんかこういう飲み物らしいよ」
僕はいらない、と真さんは言う。
「まぁでも、華好きかなぁって」
青い炎を見つめながら、真さんは少し笑った。
「甘いから」
「……あまけりゃいい、って訳じゃないんですけどね」
言いながらも思う。なんだろう、なんでだろ。結構、嬉しいですよ?
(ていうか、かなり、かな)
じわじわと嬉しくなってしまう。なんでだろう、意味わかんない……。
「どーぞ」
真さんは、それをマグカップに注いでくれた。ふんわり香る甘いにおい。一応更にアルコール飛ばす、って加熱されててほかほかだ。
私たちは、ダイニングのテーブルで向かい合って座る。真さんはコーヒーを飲むみたいで、インスタントの粉末にお湯を注いでいた。
「普段インスタント、飲まないのに」
「旅先だからしゃーなしなんだしゃーなし」
真さんはちょっと笑った。
私は真さんが注いでくれた、ノンアルグリューワインのエゲツないやつ、に口をつけた。
「……わー」
甘い。けど、シナモンとかオレンジピールとかが入ってるおかけで、甘さだけじゃなくてスッキリしてる感じ。なにより、あったまる! 正直、外は極寒だからちょっと冷えてたのです。
「あのさ」
「はい?」
真さんが真顔で、私はちょっとびっくりする。この人あんま真顔になんないから。
「おいしい?」
私は一瞬、ぽかんとしてしまった。それからなんだかあったかなものがこみ上げて、何度も頷く。
「おいしい、おいしいです」
「ほんと」
ほんの少し、安心したように真さんはコーヒーに口をつける。その頬が少し赤くて、私はちょっと黙ってしまう。なんだかとっても、くすぐったかったのでした。
0
お気に入りに追加
3,085
あなたにおすすめの小説
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
英国紳士の熱い抱擁に、今にも腰が砕けそうです
坂合奏
恋愛
「I love much more than you think(君が思っているよりは、愛しているよ)」
祖母の策略によって、冷徹上司であるイギリス人のジャン・ブラウンと婚約することになってしまった、二十八歳の清水萌衣。
こんな男と結婚してしまったら、この先人生お先真っ暗だと思いきや、意外にもジャンは恋人に甘々の男で……。
あまりの熱い抱擁に、今にも腰が砕けそうです。
※物語の都合で軽い性描写が2~3ページほどあります。
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。
しかも、定番の悪役令嬢。
いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。
ですから婚約者の王子様。
私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。
気配消し令嬢の失敗
かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。
15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。
※王子は曾祖母コンです。
※ユリアは悪役令嬢ではありません。
※タグを少し修正しました。
初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン
【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい
三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。
そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。
嫌われ者の悪役令嬢の私ですが、殿下の心の声には愛されているみたいです。
深月カナメ
恋愛
婚約者のオルフレット殿下とメアリスさんが
抱き合う姿を目撃して倒れた後から。
私ことロレッテは殿下の心の声が聞こえる様になりました。
のんびり更新。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる