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【高校編】分岐・鍋島真
クリスマスマーケット
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ヨーロッパでは「クリスマスマーケット」なるものが存在して、なんなら日本からツアーも出たりなんかしちゃってるという話は見聞きしていたけれど、実際目の前にしてみると、まぁ、なんとも煌びやかな。
金色の電飾に彩られた大きなクリスマスツリー、所狭しと並んだ屋台、暖かな電灯の下ではクリスマスの飾りがピカピカ光って。
「飲めなくてカワイソウ」
「……」
私はじとりと真さんを睨みつけた。美味しそうなホットワイン、というかグリューワイン。
クリスマスマーケットの名物らしく、屋台で売ってるのです。
可愛らしいマグカップに入ってて、マグカップをお店に返すとマグカップ代が返ってくる仕組み。気に入ったマグカップはお土産として持ち帰れる……のは、いいんだけれど!
それをなーに、ひとりで美味しそーに、ぐびぐび飲んでるんだろこの人は。
「いやぁ、こんなモノが全身に回ってたら、そりゃキマろうというものだよね」
「なんの話です」
「これ」
真さんは可愛らしいマグカップ、というかその中身を私に見せてくる。たゆんと揺れる赤い水面、シナモンと赤ワインの香り。
(うう、飲みたいよう……)
ずるい。大変にずるい。美味しそうなんだもの……!!
「赤ワインって、イエス・キリストの血なんじゃなかった?」
「あー、最後の晩餐ですね」
いちおう学校でも聖書の授業がある。たしか、最後の晩餐、その場面で「パンは私のからだ、ワインは私の血」とかそんな話をお弟子さんたちにしたんじゃなかったっけ?
「華はさぁ」
「はぁ」
未練がましく、私の視線はグリューワインのカップに固定されたまま。濃い緑色に、デフォルメされたサンタとトナカイ。
「世界最後の日、なにが食べたい?」
「最後の日、ですか」
最後の晩餐からの連想なんだろうけれど、これまた使い古された質問だ。そうだなぁ。
「……しょうゆラーメン」
「しょうゆラーメン?」
不思議そうに聞き返される。え、変かな!?
「や、なんか、お腹にたまるしあったまるし」
「ふーん」
真さんはグリューワインを口に運ぶ。ああっ羨ましい……なんで私は子供なんだろ!
「ま、真さんはなに食べますか」
「僕? そうだなぁ」
にこり、と麗しく笑われた。
「華」
「は?」
「華チャン食べてる」
「か、カニバリズム」
関係ないけど、カニバリズムって「かに」食べることだと思ってたんだよな……友達と会話が噛み合わない噛み合わない。
そんな前世の思い出をふと思い出していると、真さんは「ふふ」と笑った。
「比喩表現だよ」
「比喩」
「そ」
真さんは、とっても「いやらしく」笑った。そんな顔さえ上品で、……表情筋どうなってるんだろ?
繋いでる手にも、軽く力が入る。
「世界の最後だもん、気持ちよくなってようね」
「酔ってます?」
「少しね」
真さんは肩をすくめた。
「酔っ払うとさぁ」
「はぁ」
「えっちな気分になるよね」
「なるかもですけど!」
ここでそんな会話しなくたって!
「大丈夫、日本語なんてわかんないよ」
「日本人けっこういますから!」
ていうか、ツアーの団体客とさっきすれ違ったじゃないですか!
「変な目で見られるからヤメテください」
「ふーん? ちょっとあげようと思ったのに」
「へっ」
私は思わず真さんを見上げた。えっ、いいの!?
「も、もしかしてドイツでは16歳から飲酒が!?」
「不可」
ダメなのか……! 期待しちゃったじゃん!
「じゃあ、どういう、うぷ」
変な声が出てしまった。真さんが唐突にキスをしてきたから、舌を絡めてきたから。
「んー!」
「ふふ、」
離れながら、真さんは笑う。
「16のオコチャマにはこれで十分デショ?」
「うー」
真さんを軽く睨む。真さんの舌、確かにグリューワインの味だったかもだけれど!
甘くて、苦くて、……ていうか。
「真さん、甘いのダメなんじゃ」
「お酒は平気」
「謎基準ですっ」
口を尖らせてる私を見て、真さんはにっこり笑う。
「ホテルへ帰ろうか、華」
「? まだ全然、」
「明日も明後日もやってるから」
いーのいーの、と真さんは言う。そして私の耳元に唇を寄せた。
「世界の最後でもなんでもないけど、やぁらしいことして遊ぼうよ」
「……」
私はじとりと真さんをみるけれど、自分でも恐ろしいくらいに、この言葉に抵抗できないことくらい、分かっていた。
「明日も明後日もって言ったけどね」
「はぁ」
真さんがゆるゆると私の髪を撫でている。
私は、真さんがそうしつつ目を細めているのを、ぼんやりと横目で見ながらウトウトしていた。
クイーンサイズのベッドの、真っ白なシーツも枕も(なんでホテルってこんなに枕あるんだろ)めちゃくちゃになってる。
「明日、ベルリンへ向かうから」
「……ベルリンでもクリスマスマーケットが?」
「あるよー。けど、目的地は違いまーす、ぶっぶー!」
「……」
なにこのテンション。……なにかあるな。また何か企んでるんだ。
(真さんの好きなもの関連だから、)
うーん、と迷う。
「天文台とか、プラネタリウム?」
「惜しいけど違います」
真さんはそう言いながら、私の鼻を甘噛みしてきた。なぜ鼻!? と思ってたら唇にそれが降りて、軽いキスを何度も。
「じゃ、じゃあなんですかっ」
「ヴェスターヴェラント自然公園」
「ゔぇ?」
発音、しづらっ!
「うん」
「なにがあるんですか?」
「ついてのお楽しみに決まってるじゃん!」
楽しげな真さんはがばりと起き上がって、私を上から見つめる。えーと、あの。
「……これ以上は明日起きれません」
「列車移動だから寝てていいよ」
くすくすと笑う真さんは、私の首元に顔を埋める。やたらとキューティクルが美しい髪の毛(腹立つ!)がくすぐったい。思わずくすくすと笑った。
「余裕あるね、華」
挑戦っぽく言ってくる真さん。
「……ない、ないですよ」
慌てて否定するけれど「それだけ余裕なら明日起きれるって」と軽く言われて、なんていうか、最後の晩餐でもなんでもないけれど、私は再び、真さんに美味しく(か、どうかは分からないけれど)いただかれてしまうのでした。
金色の電飾に彩られた大きなクリスマスツリー、所狭しと並んだ屋台、暖かな電灯の下ではクリスマスの飾りがピカピカ光って。
「飲めなくてカワイソウ」
「……」
私はじとりと真さんを睨みつけた。美味しそうなホットワイン、というかグリューワイン。
クリスマスマーケットの名物らしく、屋台で売ってるのです。
可愛らしいマグカップに入ってて、マグカップをお店に返すとマグカップ代が返ってくる仕組み。気に入ったマグカップはお土産として持ち帰れる……のは、いいんだけれど!
それをなーに、ひとりで美味しそーに、ぐびぐび飲んでるんだろこの人は。
「いやぁ、こんなモノが全身に回ってたら、そりゃキマろうというものだよね」
「なんの話です」
「これ」
真さんは可愛らしいマグカップ、というかその中身を私に見せてくる。たゆんと揺れる赤い水面、シナモンと赤ワインの香り。
(うう、飲みたいよう……)
ずるい。大変にずるい。美味しそうなんだもの……!!
「赤ワインって、イエス・キリストの血なんじゃなかった?」
「あー、最後の晩餐ですね」
いちおう学校でも聖書の授業がある。たしか、最後の晩餐、その場面で「パンは私のからだ、ワインは私の血」とかそんな話をお弟子さんたちにしたんじゃなかったっけ?
「華はさぁ」
「はぁ」
未練がましく、私の視線はグリューワインのカップに固定されたまま。濃い緑色に、デフォルメされたサンタとトナカイ。
「世界最後の日、なにが食べたい?」
「最後の日、ですか」
最後の晩餐からの連想なんだろうけれど、これまた使い古された質問だ。そうだなぁ。
「……しょうゆラーメン」
「しょうゆラーメン?」
不思議そうに聞き返される。え、変かな!?
「や、なんか、お腹にたまるしあったまるし」
「ふーん」
真さんはグリューワインを口に運ぶ。ああっ羨ましい……なんで私は子供なんだろ!
「ま、真さんはなに食べますか」
「僕? そうだなぁ」
にこり、と麗しく笑われた。
「華」
「は?」
「華チャン食べてる」
「か、カニバリズム」
関係ないけど、カニバリズムって「かに」食べることだと思ってたんだよな……友達と会話が噛み合わない噛み合わない。
そんな前世の思い出をふと思い出していると、真さんは「ふふ」と笑った。
「比喩表現だよ」
「比喩」
「そ」
真さんは、とっても「いやらしく」笑った。そんな顔さえ上品で、……表情筋どうなってるんだろ?
繋いでる手にも、軽く力が入る。
「世界の最後だもん、気持ちよくなってようね」
「酔ってます?」
「少しね」
真さんは肩をすくめた。
「酔っ払うとさぁ」
「はぁ」
「えっちな気分になるよね」
「なるかもですけど!」
ここでそんな会話しなくたって!
「大丈夫、日本語なんてわかんないよ」
「日本人けっこういますから!」
ていうか、ツアーの団体客とさっきすれ違ったじゃないですか!
「変な目で見られるからヤメテください」
「ふーん? ちょっとあげようと思ったのに」
「へっ」
私は思わず真さんを見上げた。えっ、いいの!?
「も、もしかしてドイツでは16歳から飲酒が!?」
「不可」
ダメなのか……! 期待しちゃったじゃん!
「じゃあ、どういう、うぷ」
変な声が出てしまった。真さんが唐突にキスをしてきたから、舌を絡めてきたから。
「んー!」
「ふふ、」
離れながら、真さんは笑う。
「16のオコチャマにはこれで十分デショ?」
「うー」
真さんを軽く睨む。真さんの舌、確かにグリューワインの味だったかもだけれど!
甘くて、苦くて、……ていうか。
「真さん、甘いのダメなんじゃ」
「お酒は平気」
「謎基準ですっ」
口を尖らせてる私を見て、真さんはにっこり笑う。
「ホテルへ帰ろうか、華」
「? まだ全然、」
「明日も明後日もやってるから」
いーのいーの、と真さんは言う。そして私の耳元に唇を寄せた。
「世界の最後でもなんでもないけど、やぁらしいことして遊ぼうよ」
「……」
私はじとりと真さんをみるけれど、自分でも恐ろしいくらいに、この言葉に抵抗できないことくらい、分かっていた。
「明日も明後日もって言ったけどね」
「はぁ」
真さんがゆるゆると私の髪を撫でている。
私は、真さんがそうしつつ目を細めているのを、ぼんやりと横目で見ながらウトウトしていた。
クイーンサイズのベッドの、真っ白なシーツも枕も(なんでホテルってこんなに枕あるんだろ)めちゃくちゃになってる。
「明日、ベルリンへ向かうから」
「……ベルリンでもクリスマスマーケットが?」
「あるよー。けど、目的地は違いまーす、ぶっぶー!」
「……」
なにこのテンション。……なにかあるな。また何か企んでるんだ。
(真さんの好きなもの関連だから、)
うーん、と迷う。
「天文台とか、プラネタリウム?」
「惜しいけど違います」
真さんはそう言いながら、私の鼻を甘噛みしてきた。なぜ鼻!? と思ってたら唇にそれが降りて、軽いキスを何度も。
「じゃ、じゃあなんですかっ」
「ヴェスターヴェラント自然公園」
「ゔぇ?」
発音、しづらっ!
「うん」
「なにがあるんですか?」
「ついてのお楽しみに決まってるじゃん!」
楽しげな真さんはがばりと起き上がって、私を上から見つめる。えーと、あの。
「……これ以上は明日起きれません」
「列車移動だから寝てていいよ」
くすくすと笑う真さんは、私の首元に顔を埋める。やたらとキューティクルが美しい髪の毛(腹立つ!)がくすぐったい。思わずくすくすと笑った。
「余裕あるね、華」
挑戦っぽく言ってくる真さん。
「……ない、ないですよ」
慌てて否定するけれど「それだけ余裕なら明日起きれるって」と軽く言われて、なんていうか、最後の晩餐でもなんでもないけれど、私は再び、真さんに美味しく(か、どうかは分からないけれど)いただかれてしまうのでした。
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