310 / 702
【高校編】分岐・鍋島真
婚前旅行
しおりを挟む
イベント事には、あんまりこだわらない主義なんですが。
「ごめんね華ちゃん、なんか、お兄様、ほんっと唐突で……」
「いーのいーの慣れてきたから」
そんな会話を交わしてるのは、年の瀬も差し迫った12月の半ば。
家の玄関、千晶ちゃんはものすごく申し訳なさそうな顔で見送ってくれている。私はトランクと一緒に、千晶ちゃんを見て微笑んだ。
(ていうか、……この家も人数増えたよなぁ)
最初は私と敦子さん、時々八重子さんだったのに。
(圭くんが増えて、千晶ちゃんも一緒に暮らすようになって、)
……秋口にあった、真さんのよく分からない暗躍(?)によって、真さんと千晶ちゃんのオトーサマは逮捕されてしまった。
千晶ちゃんはウチで避難してた流れでそのままウチに下宿、っていうか一緒に住むことに。
真さんは都内のマンションで普段は過ごしてて、まあなんやかんやとウチに来ては騒いでる。主に圭くんと……。
(仲がいいんだか、悪いんだか)
そして、その余波でなんか、芋づる式にウチの大伯父様まで逮捕されちゃったのだ。
それで、それまで大伯父様がいたポジションを、まるっと敦子さんが頂いた感じ。
(なるほどねぇ)
事がそこまで動いて、やっと私は理解した。真さんの「手土産」がなんだったかと、樹くんとの婚約破棄が公表されない理由も。
(まだ盤石じゃない、ってことなんだろうな)
敦子さんの足元。「鹿王院との繋がり」があるから支持してる層もいるらしいし。
そんなわけで、そのゴタゴタの渦中に真さんはとっても嬉しそうに「はい入籍しよ!」ってウチに来て満面の笑みだった。いや、いいけども。
「じゃあ今から提出行きますか」
私の言葉に、敦子さんは嘆息して「あたしもバツイチだから」とつぶやき、千晶ちゃんは「マジなの!? 戸籍汚れるよ!?」って軽く叫んで、圭くんは「まぁバツイチでもいいんじゃない?」と謎のフォローを……。バツ付くの前提なのね皆さん。
「……ちょっと待って」
真さんは皆を無視して、とても真剣な顔で言った。
「大事なこと忘れてた」
「何ですか?」
「婚前旅行」
「は?」
「婚前旅行というものに行きたいです」
「……はぁ」
私は頷いた。まぁ行きたいというのならお付き合いしましょう、っていうか連れて行かれるんだろうなぁ、なんて思ってたのが数日前。
で、昨日の夜ですよ。唐突にウチに来たと思ったら「はいチケット」って手渡された。
「は?」
「明日の午後発フランクフルト直行便、ごめんねビジネスクラスなんだけど」
「いや、は?」
「朝迎えに来るから。車で行こう」
「あのう」
「クリスマスマーケット、行ってみたかったんだよねぇ」
「あーのー?」
「暗いけどさ、ずっと手を繋いでるから」
真さんはにっこり笑う。た、たしかにこのところ、……要はこのヒトとの婚約以降、なぜだか真さんと手を繋いでたら夜道もいけるようになってきましたよ? いけました、確かにいけました、けれども!
「いや、急すぎません?」
「思い立ったが吉日」
にっこりと微笑まれて返された。えー
なにそれ、ずるい。そういうカオされると、何でか知らないけど、私、抵抗できないんだよなぁ……。
(パスポート、あって良かった)
来年の修学旅行のために、高校入学してすぐとったのだけれど、まさかこんなことで役に立つとは。
そんな回想を終了させたのは、鳴り響くインターフォンの音。
「あー、お兄様かな」
「いってきます」
微笑んで、扉を開く。案の定というかなんというか、真さんが立っていた。
コートにマフラー、ボトムスはチノパンっぽい。かっちりしてないのは、飛行機だから過ごしやすさ優先なんだろう。……旅慣れてるなぁ。
てか、ふつーの格好なんだけど、この人が着るとなんか決まるからムカつく。
「忘れ物してない?」
真さんは、私の荷物を車のトランクに詰め込みながら言った。
「どうですかね」
昨日からバタバタと荷造りしたので、なにが入ってるんだか、入ってないんだか。
「ていうか、何泊なんですか」
「決めてない」
あっけらかん、と真さんは答えた。
「へ!?」
「気が向いたら帰国しようね」
にっこり、と笑われる。え、やっぱ、行くのやめようなあなんて思ってる内に、車の助手席に詰め込まれた。
「ほ、ホテルの予約とかっ」
「とりあえず抑えてるのが何か所かあるから心配しないで大丈夫」
「えぇ……」
「ふふ」
運転席でシートベルトをかけながら、真さんはとっても上品な笑い方で言った。
「旅行中に赤ちゃんできちゃうかもね? ……いたたたた」
「避妊してくんないならしません」
真さんの太ももをつねりながら軽く睨む。まったくもう、なにを言い出すんだか!
「ちぇー」
「ちぇー、じゃないです!」
「はいはい」
「ハイは1回!」
「でも華、」
真さんは微笑む。とっても優雅に、閑雅に、気品たっぷり、って感じで。
「拒めないくせに?」
「う」
「とっても悪い子だからね、華は」
む、って顔をして睨んで見せると、真さんは楽しげに笑った。
「じょーだん。まだまだ新婚楽しみたいからね、その辺は気をつけるよ」
「……まだ新婚でもないですけど?」
「気持ちの問題だよー!」
帰国したらすぐ届け出そうね、大安吉日にしようね、なんて真さんは本気なんだか冗談なんだか分からないことを言って車を発進させた。
(まぁ大安吉日はともかく、婚姻届は出しちゃうんだろうなぁ)
真さんがそうするから、とかじゃなくて、私もそうしたい。
(だってなんか、どっか行ったらヤダもん)
なんだかフワフワしてる人だから、……繋ぎ止めておきたいんだ。
膝の上の、私の左手、その薬指に光る指輪。まさか16で結婚するなんて、想像もしてなかった。
(けれどまぁ、幸せだし、まぁいっか)
赤信号のたびに降ってくる大量のキスに若干辟易しながら、私はそう思ったのでした。
「ごめんね華ちゃん、なんか、お兄様、ほんっと唐突で……」
「いーのいーの慣れてきたから」
そんな会話を交わしてるのは、年の瀬も差し迫った12月の半ば。
家の玄関、千晶ちゃんはものすごく申し訳なさそうな顔で見送ってくれている。私はトランクと一緒に、千晶ちゃんを見て微笑んだ。
(ていうか、……この家も人数増えたよなぁ)
最初は私と敦子さん、時々八重子さんだったのに。
(圭くんが増えて、千晶ちゃんも一緒に暮らすようになって、)
……秋口にあった、真さんのよく分からない暗躍(?)によって、真さんと千晶ちゃんのオトーサマは逮捕されてしまった。
千晶ちゃんはウチで避難してた流れでそのままウチに下宿、っていうか一緒に住むことに。
真さんは都内のマンションで普段は過ごしてて、まあなんやかんやとウチに来ては騒いでる。主に圭くんと……。
(仲がいいんだか、悪いんだか)
そして、その余波でなんか、芋づる式にウチの大伯父様まで逮捕されちゃったのだ。
それで、それまで大伯父様がいたポジションを、まるっと敦子さんが頂いた感じ。
(なるほどねぇ)
事がそこまで動いて、やっと私は理解した。真さんの「手土産」がなんだったかと、樹くんとの婚約破棄が公表されない理由も。
(まだ盤石じゃない、ってことなんだろうな)
敦子さんの足元。「鹿王院との繋がり」があるから支持してる層もいるらしいし。
そんなわけで、そのゴタゴタの渦中に真さんはとっても嬉しそうに「はい入籍しよ!」ってウチに来て満面の笑みだった。いや、いいけども。
「じゃあ今から提出行きますか」
私の言葉に、敦子さんは嘆息して「あたしもバツイチだから」とつぶやき、千晶ちゃんは「マジなの!? 戸籍汚れるよ!?」って軽く叫んで、圭くんは「まぁバツイチでもいいんじゃない?」と謎のフォローを……。バツ付くの前提なのね皆さん。
「……ちょっと待って」
真さんは皆を無視して、とても真剣な顔で言った。
「大事なこと忘れてた」
「何ですか?」
「婚前旅行」
「は?」
「婚前旅行というものに行きたいです」
「……はぁ」
私は頷いた。まぁ行きたいというのならお付き合いしましょう、っていうか連れて行かれるんだろうなぁ、なんて思ってたのが数日前。
で、昨日の夜ですよ。唐突にウチに来たと思ったら「はいチケット」って手渡された。
「は?」
「明日の午後発フランクフルト直行便、ごめんねビジネスクラスなんだけど」
「いや、は?」
「朝迎えに来るから。車で行こう」
「あのう」
「クリスマスマーケット、行ってみたかったんだよねぇ」
「あーのー?」
「暗いけどさ、ずっと手を繋いでるから」
真さんはにっこり笑う。た、たしかにこのところ、……要はこのヒトとの婚約以降、なぜだか真さんと手を繋いでたら夜道もいけるようになってきましたよ? いけました、確かにいけました、けれども!
「いや、急すぎません?」
「思い立ったが吉日」
にっこりと微笑まれて返された。えー
なにそれ、ずるい。そういうカオされると、何でか知らないけど、私、抵抗できないんだよなぁ……。
(パスポート、あって良かった)
来年の修学旅行のために、高校入学してすぐとったのだけれど、まさかこんなことで役に立つとは。
そんな回想を終了させたのは、鳴り響くインターフォンの音。
「あー、お兄様かな」
「いってきます」
微笑んで、扉を開く。案の定というかなんというか、真さんが立っていた。
コートにマフラー、ボトムスはチノパンっぽい。かっちりしてないのは、飛行機だから過ごしやすさ優先なんだろう。……旅慣れてるなぁ。
てか、ふつーの格好なんだけど、この人が着るとなんか決まるからムカつく。
「忘れ物してない?」
真さんは、私の荷物を車のトランクに詰め込みながら言った。
「どうですかね」
昨日からバタバタと荷造りしたので、なにが入ってるんだか、入ってないんだか。
「ていうか、何泊なんですか」
「決めてない」
あっけらかん、と真さんは答えた。
「へ!?」
「気が向いたら帰国しようね」
にっこり、と笑われる。え、やっぱ、行くのやめようなあなんて思ってる内に、車の助手席に詰め込まれた。
「ほ、ホテルの予約とかっ」
「とりあえず抑えてるのが何か所かあるから心配しないで大丈夫」
「えぇ……」
「ふふ」
運転席でシートベルトをかけながら、真さんはとっても上品な笑い方で言った。
「旅行中に赤ちゃんできちゃうかもね? ……いたたたた」
「避妊してくんないならしません」
真さんの太ももをつねりながら軽く睨む。まったくもう、なにを言い出すんだか!
「ちぇー」
「ちぇー、じゃないです!」
「はいはい」
「ハイは1回!」
「でも華、」
真さんは微笑む。とっても優雅に、閑雅に、気品たっぷり、って感じで。
「拒めないくせに?」
「う」
「とっても悪い子だからね、華は」
む、って顔をして睨んで見せると、真さんは楽しげに笑った。
「じょーだん。まだまだ新婚楽しみたいからね、その辺は気をつけるよ」
「……まだ新婚でもないですけど?」
「気持ちの問題だよー!」
帰国したらすぐ届け出そうね、大安吉日にしようね、なんて真さんは本気なんだか冗談なんだか分からないことを言って車を発進させた。
(まぁ大安吉日はともかく、婚姻届は出しちゃうんだろうなぁ)
真さんがそうするから、とかじゃなくて、私もそうしたい。
(だってなんか、どっか行ったらヤダもん)
なんだかフワフワしてる人だから、……繋ぎ止めておきたいんだ。
膝の上の、私の左手、その薬指に光る指輪。まさか16で結婚するなんて、想像もしてなかった。
(けれどまぁ、幸せだし、まぁいっか)
赤信号のたびに降ってくる大量のキスに若干辟易しながら、私はそう思ったのでした。
0
お気に入りに追加
3,084
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?
tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」
「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」
子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。
悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない
おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。
どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに!
あれ、でも意外と悪くないかも!
断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。
※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。
七年間の婚約は今日で終わりを迎えます
hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。
転生したら攻略対象者の母親(王妃)でした
黒木寿々
恋愛
我儘な公爵令嬢リザベル・フォリス、7歳。弟が産まれたことで前世の記憶を思い出したけど、この世界って前世でハマっていた乙女ゲームの世界!?私の未来って物凄く性悪な王妃様じゃん!
しかもゲーム本編が始まる時点ですでに亡くなってるし・・・。
ゲームの中ではことごとく酷いことをしていたみたいだけど、私はそんなことしない!
清く正しい心で、未来の息子(攻略対象者)を愛でまくるぞ!!!
*R15は保険です。小説家になろう様でも掲載しています。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる