上 下
386 / 702
【高校編】分岐・山ノ内瑛

指輪

しおりを挟む
「すっごい安モンでな、申し訳ないねんけど」

 アキラくんがそう言って渡してきてくれたのは、10代の子とかが割と気軽に買える(っていっても、これくらいの子にしたら高額だ)のブランドの紙袋。
 首を傾げて開けてみる。私は変な声をあげそうになった。
 だって、指輪だよ!? お揃いの! ペアリング! 前世では一回もしたことなかった……!

「うわわ、う、嬉しい」

 ちょー嬉しい。どうしたらいいか分からないレベルです。
 ひとりでワタワタしてる私を見て、アキラくんは嬉しそうに笑った。

「そんな喜んでくれるん?」
「だ、だってお揃いだよ、指輪だよ」

 嬉しくないわけがないじゃん!
 泣きそうだし(っていうか半分泣いてる)でも嬉しくてニコニコしてると、アキラくんは私の手をそっと取った。

「もう、ほんま華は可愛いな」

 左手の薬指に、すうっと入るその銀の指輪。びっくりするくらいぴったりで、私は首を傾げた。

「……サイズ、知ってた?」
「カンやったけど、いけるもんやな」

 俺の指と比べてこんくらいです、ってお店のヒトに聞いたんや、ってちょっと嬉しそうなアキラくん。

「つけといてなー」
「学校ではネックレスにしようかな」

 チェーンにつけてシャツの下につけておいたら良い気がする。装飾品は禁止なのです、あの学校は。ただしおメダイとかは良い。ミッション系ですからね。

「俺も」

 アキラくんは笑う。それから自分の指に指輪をつけようとしてたから、私は慌てて止めた。

「ま、待って待ってっ」
「ん?」
「わ、私がつけちゃ、ダメかな」

 アキラくんは一瞬ぽかんとして、それからふわりと笑った。とても幸せそうにーー私はきゅう、と胸が甘く痛むのを感じた。なんでこの人、いちいち私の好きな表情するんだろ。

「ん、つけて」

 渡される指輪。私はほんの少し緊張しながら、指輪をつける。当然ながらぴったりサイズ。

「華」

 呼ばれて顔を上げる。重なる唇。キスは深くなって、私はうまく息ができない。
 やがて離れていくアキラくんを、ぽうっと見つめる。

「……えっろ」
「?」
「いま、自分どんなカオしとるか分かっとる?」

 アキラくんは私の頬を撫でる。指で、つうっと。

「わ、かんない」
「えっろい顔してるわ」

 そう言ってアキラくんは私の首筋に舌を這わせた。

「ん、」
「なんで俺は子供なんやー」

 ふう、とアキラくんはため息をつくけれど、首筋にかかるその息ですら、ひどく熱くて、私は体を揺らす。
 ……どうなっちゃってるんだろう、私。

「頭冷やそ」

 アキラくんは名残惜しそうに私の耳を噛んだあと、立ち上がって掃き出し窓を開けた。からりからり。今度はベランダに、ふつうに立つ。
 私も少しよろよろと(情けないな!?)立ち上がって、アキラくんに続いた。
 ベランダに並んで、手を繋ぐ。

「寒っ」
「さっきはよおあんなできたで」

 ケタケタとアキラくんは笑った。ほんとうに!
 私は指輪が嬉しくて、いろんな角度から見てしまう。ストレートタイプの、銀の指輪。嬉しくて仕方ない。
 にまにましてる私を、アキラくんはいったん手を離して、後ろから抱きしめた。それから私の左手を取る。

「華はちょーお嬢様やし、こんな安モン似合わへんかったらどないしよ思うてたけど、うん、似合うな」
「安モンって」

 私は首を振る。

「そんなことないーーっていうか、どうやって買ったの?」

 中学生にはそれなりのお値段だと思う。

「あー、お年玉の前借りや」

 アキラくんは、私の手の隣に自分の手を並べてみせる。

「ふっふ、ラブラブーって感じやな?」

 からかうように言われて、私は照れてしまう……っていうか!

「ご、ごめん、私ね、クリスマスって分かってたのに」

 まさかプレゼントあるなんて、あんまり考えてなかったのだ。

「そんなんええって! 俺があげたかっただけやもーん」

 アキラくんは私の指輪に触れた。

「つうか、ちゃうな。俺のやでって、少しでも示せるもんが欲しかっただけかも分からん」
「アキラくん」
「華の、」

 アキラくんは私の肩口に顔を埋めた。あったかい。

「……イイナズケの件は、ちらっと聞いたんやけど」

 私は頷く。樹くんとの婚約は、この間正式に破棄された。
 実質、常盤の経営から大伯父様がいなくなった今、私と樹くんの意思を無視してまで「そうする」必要がないから。

「でもね、この間も言ったけれど。対外的に、いま破棄したのがバレるのは不味いらしいの」

 いまこの破棄によって、敦子さんと鹿王院側の不仲が囁かれたりするのは、今足場を固めてる敦子さんにとってあまり喜ばしくないことだ。

「だから、多分高校卒業とか、それくらいまでは」

 申し訳なくて頷く。

「そーかー」

 あっけらかん、とアキラくんは言った。

「遊園地の制服デートとか、してみたかったけど」
「ご、ごめん」
「正式に発表? みたいになったら、そっこー行こか、制服で」

 卒業してても、とアキラくんは明るく笑う。

「華やったら何歳なってても似合いそうやし、制服」
「そ、そうかなぁ」

 さすがにそれはないと思うけれど、卒業してすぐ、とかなら大丈夫かな。

「絶対やで」

 アキラくんは私の首に唇を寄せた。軽く軽く、触れるだけのキス。

(あ、足りない)

 そう思ってしまうんだから、私はやっぱりどうかしちゃってるのかもしれないなぁ、なんて思う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?

tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」 「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」 子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

くだらない結婚はもう終わりにしましょう

杉本凪咲
恋愛
夫の隣には私ではない女性。 妻である私を除け者にして、彼は違う女性を選んだ。 くだらない結婚に終わりを告げるべく、私は行動を起こす。

転生したら攻略対象者の母親(王妃)でした

黒木寿々
恋愛
我儘な公爵令嬢リザベル・フォリス、7歳。弟が産まれたことで前世の記憶を思い出したけど、この世界って前世でハマっていた乙女ゲームの世界!?私の未来って物凄く性悪な王妃様じゃん! しかもゲーム本編が始まる時点ですでに亡くなってるし・・・。 ゲームの中ではことごとく酷いことをしていたみたいだけど、私はそんなことしない! 清く正しい心で、未来の息子(攻略対象者)を愛でまくるぞ!!! *R15は保険です。小説家になろう様でも掲載しています。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

処理中です...