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【高校編】分岐・黒田健

隠しておこう(side健)

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「昔から少し落ち着きがあるなとは思ってたんだ」
「あは、そうかな」

 設楽は軽く首を傾げた。さらり、と黒髪が揺れる。

「ん。……ごめん、無理に聞き出したか」
「大丈夫」

 にこりと設楽は笑う。

「じゃああれか、なんか恋愛観っつーのか、そういうの、前世でのハナシだったのか?」
「恋愛観?」
「最近そんな話になんねーけど、小学生の頃とかよく怒ってただろ。フタマタがどうの」
「ああ」

 設楽は思い出した、って感じで頷いた。

「だね。……幸せすぎて昔の仕打ち、忘れてた」

 微笑む設楽を見て、俺は胸が熱くなる。「幸せだけを感じていてほしい」って思ってたけど、少なくとも「前世」での「イヤナコト」を忘れさせる程度ののとは、俺にだってできてたってことだ。

「前世でねー、なんか恋愛運なくってさ。フタマタされるわキープ扱いされるわ、な感じで……基本セカンド彼女? っていうのかな、なんかそんな感じ。結婚考えてたら相手既婚者だったりとかさ」
「……まじか」
「や、知ってたら付き合わないし実際すぐ別れたよ!」

 あはは、と設楽は笑うけど、それって許されて良いのか?

「よし」

 俺は立ち上がる。手は繋いだままだけど。

「なに?」

 ぽかん、と設楽は俺を見上げた。

「そいつらシメにいくか」
「へっ」
「いやオトシマエはつけとこうぜ」

 そいつらが今、何歳になってるか知らねーけど。
 さらにぽかん、とした設楽は楽しげに笑って、立ち上がってから俺に抱きついてきた。

「あのね、そのひとたち、いないの」
「? そんなに昔だったのか? 前世」
「ええと、違って。なんていうのかな、こことそもそも別の世界?」
「そんなもんあんのか」
「……信じられないよね」
「信じるよ」

 バカだなぁ、と思う。設楽が言うことならなんでも信じる。それがどんな荒唐無稽に感じられることでも。

「そもそも彼女の言うコト信じねーオトコいんのかよ」
「……いっぱいいると思うけど」

 俺の腕の中で、俺を見上げる設楽は最高に可愛い。

「でもね、……前世のままの姿だったら、私、黒田くんに好きになってもらえてなかったんじゃないかなぁ」
「? なんでだよ」
「今ほどカオ、キレイじゃないもん」

 むしろフツーだったもん、カオもカラダも、と言う設楽に俺は首を傾げた。

「別に俺、設楽のカオ好きじゃないけど」
「へっ!?」
「あー、違う。好きだけど」

 軽く首を傾げた。語弊がある、語弊が。

「整ってんなぁとは思ってるよ」
「はぁ」
「けど、俺が好きなのは、なんていうか、……前も海でも言ったけど。設楽の中身? 性格? みたいなとこで、……ごめん上手く言えねーんだけど」

 設楽見てるの好きだけど、それは設楽の表情が顔に出るからだ。
 ぽすん、と設楽は俺の胸に顔を埋めた。

「設楽?」
「……ごめん」
「なんで泣いてんの」
「嬉しくて」

 設楽が、俺の服を強く掴む。

「どっか不安だった、のかも。黒田くんが好きでいてくれるのは、この外見があるからだって」
「常盤にも言われたわ」
「シュリちゃん?」
「外側ありきだろう、って。けどさ、設楽」

 俺は設楽を強く抱きしめる。

「俺は設楽が多分別の姿してても、そっちのお前に恋してた自信があるよ」
「……変なの」

 くす、と設楽は笑う。その笑い方が少し大人びていて、なるほど大人びてるわけだ、と俺はちょっと思う。設楽のナカミからしたら、俺なんかまだまだガキなんだろうから。

「つーかそろそろ送るわ、ばーさん心配するだろ」

 気がつけばすっかり暗い。設楽は頷いた。
 また、チャリに座らせて俺はチャリを押す。

「大丈夫か?」
「黒田くんといるとヘーキ」

 にっこりと設楽が笑うから、俺は満たされるような感覚に陥る。

「あ、そうそう」

 設楽は何でもないことのように言った。

「樹くんとのね、婚約、破棄になりました」

 俺は思わず立ち止まる。

「まぁ、元からカタチだけのものだったから、ーーって黒田くん!?」

 俺は設楽を抱きしめる。チャリは足で支えてーーそっか、そうか。
 じわじわと広がる安心感みたいな、もの。

(……イヤだったのか、俺は)

 自分でも驚く。設楽の言う「かたちだけ」っての、ちゃんと信じていたのに。それでも俺は、嫌だったんだ。大好きな恋人に、ほかに「決まった人」がいることが。

(俺っていつも鈍感だよな)

 自分でも呆れる。自分の感情に気がつくのが、いつも少し遅い。

「黒田くん」

 俺は無言で設楽を抱きしめ続けた。
 一度離して、チャリ停めて、設楽抱き上げて、もう一度抱きしめる。

「ごめんね、いやだったよね、ごめんね」
「設楽のせいじゃねーんだろ」
「そ、だけど」
「だから、……あー、もうなんも言うな」

 俺は設楽にキスをする。頭のどっかで、例の「設楽を見張ってるだれか」に見られてんのかなとは思うけれど、別にどーでも良かった。見たいなら見てろ。つーか見せつけてやる。これは俺の女だから、なんて思う。

「あの、でも、でもね、対外的には破棄したことは秘密なの、その、おばあちゃんの仕事の関係もあって、んっ」

 キスの合間に、設楽は一生懸命に話すけど無視して何度もキスを重ねた。
 舌で味わう設楽の口の中は柔らかくて、温かくて、気持ちいい。
 ゆっくり離れると、設楽は俺を見上げたまま、こくりと細い喉を鳴らした。
 それがあまりに甘くて、そんで蕩けそうな感覚で、俺は自分の中に自分でも度し難い欲求があることに気がつく。

(ま、しょーがねーか)

 設楽を抱きしめ直す。
 しょうがない、俺は俺でちゃんと男で、それもシシュンキとやら、なんだから。
 ただ、できるだけそれは隠しておこうと思う。別にそれは設楽のためとか、設楽がどう思うかとかじゃなくて、単に俺のために。俺のちっぽけなプライド、ただそのためだけに。
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