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【高校編】分岐・黒田健
誕生日(side健)
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「ほ、ほんとにこんなにいいのっ」
設楽がハイテンションに叫ぶ。
「いや、逆にこんなんでいいのか俺は不安なんだけど」
「何が逆になのかわかんないっ」
設楽は嬉しそうに言う。
「ケーキ祭り!」
わーい、と諸手を挙げて、って感じで小躍りしてる設楽は俺的にはものすごく可愛い。
ショートケーキ、シフォンケーキ、アップルパイ、クソオヤジにからかわれながら作った甲斐があった。
設楽のオトートは無言で紅茶を淹れていて、常盤は「あんたはしゃぎすぎ」と踏ん反り返ってソファで足を組んでいた。
「つーか、なんで常盤いるんだ」
「悪い!? あたしもここに住むことになったのよ」
ふん、と常盤は踏ん反り返るように言った。まー、親戚間で色々あんだろうなぁとは思う。
「だってさ、シュリちゃん。みっつもケーキが」
「あたしはちゃんとしたお店で買った方が美味しいと思うけどー!?」
「俺もそう思う」
同意すると設楽が「手作りってのがいいのに!」と口を尖らせた。
「ていうか、逆じゃない、逆。百歩譲って手作りケーキ可としても、普通は女子が作るんじゃないの」
「どっちでもいいじゃーん」
美味しければ、と設楽は言う。
「美味いかわかんねー」
味見してない。しようがない。本番一発勝負。
「美味しいよ! よしんば美味しくなくても美味しいに決まってる!」
「ハナ、少し落ち着いたら?」
呆れたようにオトートは言う。設楽は照れたように座った。
「だって、こんなに盛大な誕生日なんか初めてだよ!」
「はいはい。紅茶は?」
「えっと、とりあえずストレートで」
「シュリは」
「……あたしも」
常盤はそう答えた。ミルクティー、とは言わなかった常盤を、設楽はそっと見ていた。ひどく優しげな視線で、俺はなんとなく設楽はいろんな経験してんだよなー、とふと思った。
(年上、って感覚はイマイチねーけど)
俺の前に置かれた紅茶(聞かれなかったけど勝手にストレート)の琥珀色を見つめながら考えた。
(それでも、前世とやらを含めたら、設楽はいろんな経験をしてる)
前世、何が起きたのか、まだ詳しい話は聞いていない。けど、それも含めて、……設楽の「今の人生」も色々起こりすぎだ。
紅茶色の水面が揺れる。
(せめて、やっぱ、今は幸せでいてほしーよな)
俺といるときは、幸せだって、それだけを感じていて欲しい。
もちろん、それは多分現実的じゃないし、なんなら単なる俺のワガママだってのも分かってんだけどさ。
「え、どーすんの。歌うの?」
常盤のダルそうな声ーーの割に、いちいち「歌うの?」なんて聞いてくるからコイツも相当天邪鬼だ。
(……設楽のこと相当好きだよな)
どんな好きかは知らねーけど、まぁ、1つ屋根の下で暮らすんだ。好意があるに越したことはねーよな、なんて思う。
「ロウソク、買ってきた」
俺がカバンから(部活帰りなので結構な大荷物だ)ロウソクを取り出す。雑貨屋で買ったハッピーバースデーだの書いてあるでかいロウソクと、小さいの16本。
「どれに刺す?」
「みっつもあるからなぁ!」
設楽はやっぱり嬉しそうに言った。……つーか、ほんと、不味くないといいんだけど。
「やっぱ王道かなぁ! ショートケーキっ」
「了解」
ショートケーキにロウソクを刺して、オトートがどっからかライターを持ってきた。
「待って外明るい」
常盤は立ち上がり、カーテンを閉めた。……やっぱこいつ、実はこの誕生日会でテンション上がってねーか?
設楽は設楽でニコニコしながら常盤を見ていた。
「ありがと、シュリちゃん」
「は!? た、単に気になっただけよ!」
きっ、と設楽を睨む常盤の視線を感じながら、設楽はこっそり俺に耳打ちした。
「ツンデレでしょ? シュリちゃん」
「……確かに」
俺は頷いた。実在するのか、ツンデレ。
暗くなった部屋でロウソクに灯がともり、なんでか常盤がやっぱり仕切って誕生日の歌を歌う。つっても俺は気恥ずかしくて歌えなかった。
歌い終わりと同時に、設楽が火を噴きけす。
「おめでとう」
それはハッキリと言った。設楽は照れ隠しのように微笑む。
「……つーか、オトート、歌、上手いな」
「圭くんってなんでもできるの」
自慢の弟なの、と設楽が笑う。それを見てオトートは少し意味ありげな表情をした。俺は肩をすくめる。渡さねーよ。
「はい」
ものすごく唐突に、常盤は設楽に紙袋を突き出した。
「あ」
「なによ」
「いやなんでも」
俺は黙る。数日前、常盤がマスコミに追われてた時に持ってた紙袋……。設楽の誕生日プレゼントだったのか。
「え、え、え?」
設楽は設楽で目を白黒させていた。
「な、なによ」
「ううん」
設楽は笑う。
「ありがと! 開けていい?」
「か、勝手にすれば!? もうアンタのなんだからっ」
入っていたのは、俺にはよくわかんねーけど髪につけるやつ?
「うわ、可愛い! ありがと」
「……ふん」
ぷい、と常盤は顔を逸らしてしまう。設楽は嬉しげにそれを髪につけた。
「……似合うな」
思わず反応をもらすと、常盤はこちらを向いて「当たり前でしょ?」と呟いた。
「あたしが選んだんだからっ」
「シュリちゃん、ほんとにありがと」
常盤はやっぱり明後日の方向を向いて、なんていうかツンデレって生き方も大変だよなぁなんて俺は思った。
設楽がハイテンションに叫ぶ。
「いや、逆にこんなんでいいのか俺は不安なんだけど」
「何が逆になのかわかんないっ」
設楽は嬉しそうに言う。
「ケーキ祭り!」
わーい、と諸手を挙げて、って感じで小躍りしてる設楽は俺的にはものすごく可愛い。
ショートケーキ、シフォンケーキ、アップルパイ、クソオヤジにからかわれながら作った甲斐があった。
設楽のオトートは無言で紅茶を淹れていて、常盤は「あんたはしゃぎすぎ」と踏ん反り返ってソファで足を組んでいた。
「つーか、なんで常盤いるんだ」
「悪い!? あたしもここに住むことになったのよ」
ふん、と常盤は踏ん反り返るように言った。まー、親戚間で色々あんだろうなぁとは思う。
「だってさ、シュリちゃん。みっつもケーキが」
「あたしはちゃんとしたお店で買った方が美味しいと思うけどー!?」
「俺もそう思う」
同意すると設楽が「手作りってのがいいのに!」と口を尖らせた。
「ていうか、逆じゃない、逆。百歩譲って手作りケーキ可としても、普通は女子が作るんじゃないの」
「どっちでもいいじゃーん」
美味しければ、と設楽は言う。
「美味いかわかんねー」
味見してない。しようがない。本番一発勝負。
「美味しいよ! よしんば美味しくなくても美味しいに決まってる!」
「ハナ、少し落ち着いたら?」
呆れたようにオトートは言う。設楽は照れたように座った。
「だって、こんなに盛大な誕生日なんか初めてだよ!」
「はいはい。紅茶は?」
「えっと、とりあえずストレートで」
「シュリは」
「……あたしも」
常盤はそう答えた。ミルクティー、とは言わなかった常盤を、設楽はそっと見ていた。ひどく優しげな視線で、俺はなんとなく設楽はいろんな経験してんだよなー、とふと思った。
(年上、って感覚はイマイチねーけど)
俺の前に置かれた紅茶(聞かれなかったけど勝手にストレート)の琥珀色を見つめながら考えた。
(それでも、前世とやらを含めたら、設楽はいろんな経験をしてる)
前世、何が起きたのか、まだ詳しい話は聞いていない。けど、それも含めて、……設楽の「今の人生」も色々起こりすぎだ。
紅茶色の水面が揺れる。
(せめて、やっぱ、今は幸せでいてほしーよな)
俺といるときは、幸せだって、それだけを感じていて欲しい。
もちろん、それは多分現実的じゃないし、なんなら単なる俺のワガママだってのも分かってんだけどさ。
「え、どーすんの。歌うの?」
常盤のダルそうな声ーーの割に、いちいち「歌うの?」なんて聞いてくるからコイツも相当天邪鬼だ。
(……設楽のこと相当好きだよな)
どんな好きかは知らねーけど、まぁ、1つ屋根の下で暮らすんだ。好意があるに越したことはねーよな、なんて思う。
「ロウソク、買ってきた」
俺がカバンから(部活帰りなので結構な大荷物だ)ロウソクを取り出す。雑貨屋で買ったハッピーバースデーだの書いてあるでかいロウソクと、小さいの16本。
「どれに刺す?」
「みっつもあるからなぁ!」
設楽はやっぱり嬉しそうに言った。……つーか、ほんと、不味くないといいんだけど。
「やっぱ王道かなぁ! ショートケーキっ」
「了解」
ショートケーキにロウソクを刺して、オトートがどっからかライターを持ってきた。
「待って外明るい」
常盤は立ち上がり、カーテンを閉めた。……やっぱこいつ、実はこの誕生日会でテンション上がってねーか?
設楽は設楽でニコニコしながら常盤を見ていた。
「ありがと、シュリちゃん」
「は!? た、単に気になっただけよ!」
きっ、と設楽を睨む常盤の視線を感じながら、設楽はこっそり俺に耳打ちした。
「ツンデレでしょ? シュリちゃん」
「……確かに」
俺は頷いた。実在するのか、ツンデレ。
暗くなった部屋でロウソクに灯がともり、なんでか常盤がやっぱり仕切って誕生日の歌を歌う。つっても俺は気恥ずかしくて歌えなかった。
歌い終わりと同時に、設楽が火を噴きけす。
「おめでとう」
それはハッキリと言った。設楽は照れ隠しのように微笑む。
「……つーか、オトート、歌、上手いな」
「圭くんってなんでもできるの」
自慢の弟なの、と設楽が笑う。それを見てオトートは少し意味ありげな表情をした。俺は肩をすくめる。渡さねーよ。
「はい」
ものすごく唐突に、常盤は設楽に紙袋を突き出した。
「あ」
「なによ」
「いやなんでも」
俺は黙る。数日前、常盤がマスコミに追われてた時に持ってた紙袋……。設楽の誕生日プレゼントだったのか。
「え、え、え?」
設楽は設楽で目を白黒させていた。
「な、なによ」
「ううん」
設楽は笑う。
「ありがと! 開けていい?」
「か、勝手にすれば!? もうアンタのなんだからっ」
入っていたのは、俺にはよくわかんねーけど髪につけるやつ?
「うわ、可愛い! ありがと」
「……ふん」
ぷい、と常盤は顔を逸らしてしまう。設楽は嬉しげにそれを髪につけた。
「……似合うな」
思わず反応をもらすと、常盤はこちらを向いて「当たり前でしょ?」と呟いた。
「あたしが選んだんだからっ」
「シュリちゃん、ほんとにありがと」
常盤はやっぱり明後日の方向を向いて、なんていうかツンデレって生き方も大変だよなぁなんて俺は思った。
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