305 / 702
【高校編】分岐・鍋島真
唐突
しおりを挟む
ものすごく唐突に真さんと千晶ちゃんが家に来て焦る。い、一体なんのご用事!?
「華、パジャマも可愛いね~フゥ!」
「いつにも増してヤバイテンションですね真さん」
つい本音が出た。真さんはとても綺麗に微笑むと「脱がせたいけどそれはまた今度」とまるで歌でも詠むみたいな優雅さで言った。内容アレですからね!? がっつり千晶ちゃんに睨まれていた。
「敦子サンいらっしゃるかな~?」
「今さっき帰宅して、」
「なになに今度は何の用!?」
リビングから出てきた敦子さんに、真さんは分厚い封筒を掲げた。
「バレました」
「……今すぐ動くわ」
敦子さんはそう言って、自室に飛び込んでいった。
「え、なに? なんですか?」
「それより華、僕たち今日ここに泊まるから」
「エッ、何言い出してるんですかお兄様」
急にご迷惑でしょ、と言う千晶ちゃんに真さんは言った。
「オトーサマの手がまわると厄介だから僕のマンションとかは無理。ここが一番安全」
私と千晶ちゃんは顔を見合わせた。何が起きてるんだろう?
よく分からないけれど、とりあえずまぁ真さんには客間を貸して、千晶ちゃんは私の部屋に泊まってもらうことになった。
「えー、僕も華の部屋がいいよ。3人で川の字で寝ようよ」
「イヤです却下」
「ばーかばーかばーか」
千晶ちゃん、ちょっとお疲れらしい。
私のベッドで2人並んで横になる。電気を消して、ぽつぽつと千晶ちゃんから話を聞いた。
「何が何だか良く分からないんだけど、お父様がらみで何か動いてるみたいなのよね」
「ゲームでこんな展開はあった?」
「ううん」
千晶ちゃんはすぐに否定する。
「なかった、はず」
「じゃあ読めないねー……なんなんだろ」
「敦子さんも関わってるみたいよね?」
「うん」
となると、心当たりはひとつ。
「"手土産"?」
「うん、そう言ってた」
「華ちゃんと樹くんの婚約さえも破棄できるレベルのもの、ってことよね」
「うん」
「華ちゃんの、大伯父さま絡みかしら」
「大伯父さま?」
私はきょとんと問いかえす。なんであのクソジジイが。
「敦子さんとの権力争いの絡みなのかなぁって」
「んー」
正直、その辺りはよく分からない。それこそ「蚊帳の外」だ。
「ま、それはあくまで推測だから……もう少しすれば色々ハッキリするでしょ」
千晶ちゃんは諦めた気軽さで言う。
「もうお兄様に振り回されるのは慣れました」
「あは」
「華ちゃんも慣れてね」
「……はーい」
なんか、気恥ずかしいな。ころりと寝返ると、千晶ちゃんは「ほんとにいいの?」と小さく聞いてきた。
「今からでも遅くないよ、華ちゃん。樹くんはなにがあっても華ちゃんをまた受け入れてくれると思うし」
「や、そんなワガママは言えないよ、……っていうか、」
私は密やかに笑った。
「もう離してもらえないでしょ?」
「……確かにね」
千晶ちゃんは嘆息する。
「華ちゃんへの執着は思った以上だったわ」
「執着」
私はくすくす笑ってしまう。
「私のほうこそ、」
「え?」
「真さんに執着してるの」
「……華ちゃん」
「どうしちゃったんだろう、気でもおかしくなったのかな」
「そんなに、あのクソ兄貴好きなの」
「好きっていうか」
うーん、と悩む。好き、とも何か違う。
「欲しくなっちゃって」
「お兄様を?」
「うん」
私は小さく言った。
「とてもとても、欲しいなって」
そう思ってしまったのだ。
「恋しちゃったのね、あの人外に」
「恋?」
みんなに言われる。これ、恋? 絶対違うと思うんだけど。
(ていうか、人外て)
ふふ、と笑ってしまった。ひどい言われようだ。……まぁ、今までの行動も悪いよね、真さんは。
じきに、疲れていたのか(さすがにあの騒動だ)千晶ちゃんはすぐに寝息を立てる。可愛らしい、すぴすぴという寝息。
それを聞きながら、私はベッドから抜け出す。暗い廊下を歩いて、客間の扉をきい、と押し開けた。
電気が消えた客間のカーテンは開いていて、窓越しに真さんは空を見ていた。
「この辺りは星が見えるね」
「海が近いからですかね」
後手で、ドアを閉める。かちゃり、という金属音が薄暗い部屋に響いた。
「おいで、華」
ひどく優しい声で呼ばれる。
月は明るいけれど逆光で、真さんの顔は見えない。
……ほんとに私は、頭がどうにかしてるのかもしれない。無言で真さんのそばに行く。そっと抱きしめられた。真さんのにおい。……なんだか落ち着く。
「可愛い華」
「可愛くなんか、ないですよ」
私の強がりは無視された。軽いキス。
それから真さんは私を窓側に向けて、後ろから抱きつきながら、ふと空を指差す。
「あれ、土星」
「へー」
「その横射手座」
唐突に星空教室が始まったけれど、私は全然集中できない。
「あの、耳噛みながら言うのやめてもらえません?」
「ああごめん、ちょうどいいところにあったから」
可愛い耳が、なんて言いながら耳の後ろを舐められた。思わずあられもない声が出そうになって、真さんにしがみつく。
「何しにきたの?」
私を見下ろす真さんの目は、とても嗜虐的だった。ぞくりとする。
「……さあ」
「悪い子」
くすくす、と真さんは笑った。
「華、パジャマも可愛いね~フゥ!」
「いつにも増してヤバイテンションですね真さん」
つい本音が出た。真さんはとても綺麗に微笑むと「脱がせたいけどそれはまた今度」とまるで歌でも詠むみたいな優雅さで言った。内容アレですからね!? がっつり千晶ちゃんに睨まれていた。
「敦子サンいらっしゃるかな~?」
「今さっき帰宅して、」
「なになに今度は何の用!?」
リビングから出てきた敦子さんに、真さんは分厚い封筒を掲げた。
「バレました」
「……今すぐ動くわ」
敦子さんはそう言って、自室に飛び込んでいった。
「え、なに? なんですか?」
「それより華、僕たち今日ここに泊まるから」
「エッ、何言い出してるんですかお兄様」
急にご迷惑でしょ、と言う千晶ちゃんに真さんは言った。
「オトーサマの手がまわると厄介だから僕のマンションとかは無理。ここが一番安全」
私と千晶ちゃんは顔を見合わせた。何が起きてるんだろう?
よく分からないけれど、とりあえずまぁ真さんには客間を貸して、千晶ちゃんは私の部屋に泊まってもらうことになった。
「えー、僕も華の部屋がいいよ。3人で川の字で寝ようよ」
「イヤです却下」
「ばーかばーかばーか」
千晶ちゃん、ちょっとお疲れらしい。
私のベッドで2人並んで横になる。電気を消して、ぽつぽつと千晶ちゃんから話を聞いた。
「何が何だか良く分からないんだけど、お父様がらみで何か動いてるみたいなのよね」
「ゲームでこんな展開はあった?」
「ううん」
千晶ちゃんはすぐに否定する。
「なかった、はず」
「じゃあ読めないねー……なんなんだろ」
「敦子さんも関わってるみたいよね?」
「うん」
となると、心当たりはひとつ。
「"手土産"?」
「うん、そう言ってた」
「華ちゃんと樹くんの婚約さえも破棄できるレベルのもの、ってことよね」
「うん」
「華ちゃんの、大伯父さま絡みかしら」
「大伯父さま?」
私はきょとんと問いかえす。なんであのクソジジイが。
「敦子さんとの権力争いの絡みなのかなぁって」
「んー」
正直、その辺りはよく分からない。それこそ「蚊帳の外」だ。
「ま、それはあくまで推測だから……もう少しすれば色々ハッキリするでしょ」
千晶ちゃんは諦めた気軽さで言う。
「もうお兄様に振り回されるのは慣れました」
「あは」
「華ちゃんも慣れてね」
「……はーい」
なんか、気恥ずかしいな。ころりと寝返ると、千晶ちゃんは「ほんとにいいの?」と小さく聞いてきた。
「今からでも遅くないよ、華ちゃん。樹くんはなにがあっても華ちゃんをまた受け入れてくれると思うし」
「や、そんなワガママは言えないよ、……っていうか、」
私は密やかに笑った。
「もう離してもらえないでしょ?」
「……確かにね」
千晶ちゃんは嘆息する。
「華ちゃんへの執着は思った以上だったわ」
「執着」
私はくすくす笑ってしまう。
「私のほうこそ、」
「え?」
「真さんに執着してるの」
「……華ちゃん」
「どうしちゃったんだろう、気でもおかしくなったのかな」
「そんなに、あのクソ兄貴好きなの」
「好きっていうか」
うーん、と悩む。好き、とも何か違う。
「欲しくなっちゃって」
「お兄様を?」
「うん」
私は小さく言った。
「とてもとても、欲しいなって」
そう思ってしまったのだ。
「恋しちゃったのね、あの人外に」
「恋?」
みんなに言われる。これ、恋? 絶対違うと思うんだけど。
(ていうか、人外て)
ふふ、と笑ってしまった。ひどい言われようだ。……まぁ、今までの行動も悪いよね、真さんは。
じきに、疲れていたのか(さすがにあの騒動だ)千晶ちゃんはすぐに寝息を立てる。可愛らしい、すぴすぴという寝息。
それを聞きながら、私はベッドから抜け出す。暗い廊下を歩いて、客間の扉をきい、と押し開けた。
電気が消えた客間のカーテンは開いていて、窓越しに真さんは空を見ていた。
「この辺りは星が見えるね」
「海が近いからですかね」
後手で、ドアを閉める。かちゃり、という金属音が薄暗い部屋に響いた。
「おいで、華」
ひどく優しい声で呼ばれる。
月は明るいけれど逆光で、真さんの顔は見えない。
……ほんとに私は、頭がどうにかしてるのかもしれない。無言で真さんのそばに行く。そっと抱きしめられた。真さんのにおい。……なんだか落ち着く。
「可愛い華」
「可愛くなんか、ないですよ」
私の強がりは無視された。軽いキス。
それから真さんは私を窓側に向けて、後ろから抱きつきながら、ふと空を指差す。
「あれ、土星」
「へー」
「その横射手座」
唐突に星空教室が始まったけれど、私は全然集中できない。
「あの、耳噛みながら言うのやめてもらえません?」
「ああごめん、ちょうどいいところにあったから」
可愛い耳が、なんて言いながら耳の後ろを舐められた。思わずあられもない声が出そうになって、真さんにしがみつく。
「何しにきたの?」
私を見下ろす真さんの目は、とても嗜虐的だった。ぞくりとする。
「……さあ」
「悪い子」
くすくす、と真さんは笑った。
0
お気に入りに追加
3,084
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢なので舞台である学園に行きません!
神々廻
恋愛
ある日、前世でプレイしていた乙女ゲーに転生した事に気付いたアリサ・モニーク。この乙女ゲーは悪役令嬢にハッピーエンドはない。そして、ことあるイベント事に死んでしまう.......
だが、ここは乙女ゲーの世界だが自由に動ける!よし、学園に行かなければ婚約破棄はされても死にはしないのでは!?
全8話完結 完結保証!!
【完結】死がふたりを分かつとも
杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」
私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。
ああ、やった。
とうとうやり遂げた。
これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。
私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。
自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。
彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。
それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。
やれるかどうか何とも言えない。
だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。
だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺!
◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。
詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。
◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。
1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。
◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます!
◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。
未来の記憶を手に入れて~婚約破棄された瞬間に未来を知った私は、受け入れて逃げ出したのだが~
キョウキョウ
恋愛
リムピンゼル公爵家の令嬢であるコルネリアはある日突然、ヘルベルト王子から婚約を破棄すると告げられた。
その瞬間にコルネリアは、処刑されてしまった数々の未来を見る。
絶対に死にたくないと思った彼女は、婚約破棄を快く受け入れた。
今後は彼らに目をつけられないよう、田舎に引きこもって地味に暮らすことを決意する。
それなのに、王子の周りに居た人達が次々と私に求婚してきた!?
※カクヨムにも掲載中の作品です。
使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後
有木珠乃
恋愛
アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢は「使えない」悪役令嬢である。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに、最低限の義務である、王子の婚約者にすらなれなったほどの。
だから簡単に、ヒロインは王子の婚約者の座を得る。
それを見た父、ハイドフェルド公爵は怒り心頭でアベリアを修道院へ行くように命じる。
王子の婚約者にもなれず、断罪やざまぁもされていないのに、修道院!?
けれど、そこには……。
※この作品は小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない
おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。
どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに!
あれ、でも意外と悪くないかも!
断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。
※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
婚約破棄ですか。ゲームみたいに上手くはいきませんよ?
ゆるり
恋愛
公爵令嬢スカーレットは婚約者を紹介された時に前世を思い出した。そして、この世界が前世での乙女ゲームの世界に似ていることに気付く。シナリオなんて気にせず生きていくことを決めたが、学園にヒロイン気取りの少女が入学してきたことで、スカーレットの運命が変わっていく。全6話予定
婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます
葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。
しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。
お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。
二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。
「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」
アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。
「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」
「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」
「どんな約束でも守るわ」
「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」
これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。
※タイトル通りのご都合主義なお話です。
※他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる