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【高校編】分岐・鍋島真

唐突

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 ものすごく唐突に真さんと千晶ちゃんが家に来て焦る。い、一体なんのご用事!?

「華、パジャマも可愛いね~フゥ!」
「いつにも増してヤバイテンションですね真さん」

 つい本音が出た。真さんはとても綺麗に微笑むと「脱がせたいけどそれはまた今度」とまるで歌でも詠むみたいな優雅さで言った。内容アレですからね!? がっつり千晶ちゃんに睨まれていた。

「敦子サンいらっしゃるかな~?」
「今さっき帰宅して、」
「なになに今度は何の用!?」

 リビングから出てきた敦子さんに、真さんは分厚い封筒を掲げた。

「バレました」
「……今すぐ動くわ」

 敦子さんはそう言って、自室に飛び込んでいった。

「え、なに? なんですか?」
「それより華、僕たち今日ここに泊まるから」
「エッ、何言い出してるんですかお兄様」

 急にご迷惑でしょ、と言う千晶ちゃんに真さんは言った。

「オトーサマの手がまわると厄介だから僕のマンションとかは無理。ここが一番安全」

 私と千晶ちゃんは顔を見合わせた。何が起きてるんだろう?
 よく分からないけれど、とりあえずまぁ真さんには客間を貸して、千晶ちゃんは私の部屋に泊まってもらうことになった。

「えー、僕も華の部屋がいいよ。3人で川の字で寝ようよ」
「イヤです却下」
「ばーかばーかばーか」

 千晶ちゃん、ちょっとお疲れらしい。
 私のベッドで2人並んで横になる。電気を消して、ぽつぽつと千晶ちゃんから話を聞いた。

「何が何だか良く分からないんだけど、お父様がらみで何か動いてるみたいなのよね」
「ゲームでこんな展開はあった?」
「ううん」

 千晶ちゃんはすぐに否定する。

「なかった、はず」
「じゃあ読めないねー……なんなんだろ」
「敦子さんも関わってるみたいよね?」
「うん」

 となると、心当たりはひとつ。

「"手土産"?」
「うん、そう言ってた」
「華ちゃんと樹くんの婚約さえも破棄できるレベルのもの、ってことよね」
「うん」
「華ちゃんの、大伯父さま絡みかしら」
「大伯父さま?」

 私はきょとんと問いかえす。なんであのクソジジイが。

「敦子さんとの権力争いの絡みなのかなぁって」
「んー」

 正直、その辺りはよく分からない。それこそ「蚊帳の外」だ。

「ま、それはあくまで推測だから……もう少しすれば色々ハッキリするでしょ」

 千晶ちゃんは諦めた気軽さで言う。

「もうお兄様に振り回されるのは慣れました」
「あは」
「華ちゃんも慣れてね」
「……はーい」

 なんか、気恥ずかしいな。ころりと寝返ると、千晶ちゃんは「ほんとにいいの?」と小さく聞いてきた。

「今からでも遅くないよ、華ちゃん。樹くんはなにがあっても華ちゃんをまた受け入れてくれると思うし」
「や、そんなワガママは言えないよ、……っていうか、」

 私は密やかに笑った。

「もう離してもらえないでしょ?」
「……確かにね」

 千晶ちゃんは嘆息する。

「華ちゃんへの執着は思った以上だったわ」
「執着」

 私はくすくす笑ってしまう。

「私のほうこそ、」
「え?」
「真さんに執着してるの」
「……華ちゃん」
「どうしちゃったんだろう、気でもおかしくなったのかな」
「そんなに、あのクソ兄貴好きなの」
「好きっていうか」

 うーん、と悩む。好き、とも何か違う。

「欲しくなっちゃって」
「お兄様を?」
「うん」

 私は小さく言った。

「とてもとても、欲しいなって」

 そう思ってしまったのだ。

「恋しちゃったのね、あの人外に」
「恋?」

 みんなに言われる。これ、恋? 絶対違うと思うんだけど。

(ていうか、人外て)

 ふふ、と笑ってしまった。ひどい言われようだ。……まぁ、今までの行動も悪いよね、真さんは。
 じきに、疲れていたのか(さすがにあの騒動だ)千晶ちゃんはすぐに寝息を立てる。可愛らしい、すぴすぴという寝息。
 それを聞きながら、私はベッドから抜け出す。暗い廊下を歩いて、客間の扉をきい、と押し開けた。
 電気が消えた客間のカーテンは開いていて、窓越しに真さんは空を見ていた。

「この辺りは星が見えるね」
「海が近いからですかね」

 後手で、ドアを閉める。かちゃり、という金属音が薄暗い部屋に響いた。

「おいで、華」

 ひどく優しい声で呼ばれる。
 月は明るいけれど逆光で、真さんの顔は見えない。
 ……ほんとに私は、頭がどうにかしてるのかもしれない。無言で真さんのそばに行く。そっと抱きしめられた。真さんのにおい。……なんだか落ち着く。

「可愛い華」
「可愛くなんか、ないですよ」

 私の強がりは無視された。軽いキス。
 それから真さんは私を窓側に向けて、後ろから抱きつきながら、ふと空を指差す。

「あれ、土星」
「へー」
「その横射手座」

 唐突に星空教室が始まったけれど、私は全然集中できない。

「あの、耳噛みながら言うのやめてもらえません?」
「ああごめん、ちょうどいいところにあったから」

 可愛い耳が、なんて言いながら耳の後ろを舐められた。思わずあられもない声が出そうになって、真さんにしがみつく。

「何しにきたの?」

 私を見下ろす真さんの目は、とても嗜虐的だった。ぞくりとする。

「……さあ」
「悪い子」

 くすくす、と真さんは笑った。
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