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【高校編】分岐・黒田健
遭遇(side健)
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「万が一でいいから、見かけたら教えて黒田くんっ」
設楽から電話が入ったのは、設楽たちが横浜市内のホテルにカンヅメ状態になってから3日後の昼。
部活の昼休憩中で、すぐに出る。
「どーした」
『シュリちゃんがいなくなったの……』
ほとほと困った、という設楽の声。俺はへえ、と返事をした。
「まー、あいつ、無理そうだよな。何日も同じ部屋の中」
『脱走だよー。マスコミうろついてるって噂なのに』
どこの噂だよ、なんて思うけれどそれは本当(親父情報)。特に常盤シュリは週刊誌に狙われてた。父親譲りのワガママ令嬢がどうのこうの。
(ま、俺にはどーしようもない)
設楽にだってそれは分かっているだろう。単に誰かにグチりたかったんだと思う。
「まあ、万が一みかけたら連絡するわ」
そんな風に言っていたのに。
「……まさか、見つけてしまうとは」
部活後、足りなくなったテービングを買い足しに出た駅ちかくのスポーツショップを目指していたら、件の常盤シュリを見つけてしまった。何か買い物をしたのか、小さい紙袋を持っていた。
しかも思いっ切り、記者っぽいやつに声をかけられている、というか言い合っていた。
(どうすべきか)
一瞬悩んで、ぱっと駆け出す。設楽んとこに連れて行くのが一番いいだろう。
「だから、お父様はきっと無実よっ」
「常盤、来い」
「だ、れっ」
狼狽する常盤の腕を掴んで走る。記者も走って追いかけてこようとするがこの人混みだ、諦めたのか姿が見えなくなった。俺は常盤から手を離す。
「ここまで来ればもう大丈夫だろ、っておい」
ぜえぜえと肩で息をしながら、俺を睨みつけてくる常盤。
「だ、だれかと、お、もえば、華の、しゅみのわる、い、カレシ」
「すまん、そんなに走ったつもりじゃ」
「う、うるさいわね、急だった、から」
ふん、と胸を張るけど、しかしそれでも苦しそうだった。もしかして設楽以上に運動苦手なのか。
「つーか、勝手に出歩いてんなよ。設楽探してたぞ」
「うるさいわねー、アンタにも華にも関係ないでしょ」
「あるだろ」
常盤を見下ろす。
「お前がテキトー喋って、記事になって。それが父親の事件になんか影響与えたらどーすんだよ」
「それは」
「つーか」
俺はボリボリと頭をかいた。……一応、言っておくべきだと思ったのだ。
「お前の父親逮捕したの、俺の親父だわ」
「……は?」
「設楽に当たんなよ。あいつはなんも知らねー」
「……でしょうね、あの子に隠し事はムリ」
常盤はじっと俺を見た。
「そう、あんたの父親が」
「つーか、俺も関わってる」
「は?」
「収賄の話タレ込んだって事務官、……知り合いで。説得して、親父に紹介した」
ぽかん、と常盤は俺を見上げた。
「あ、そう」
目線をそらす。表情が、いまいち読めない。それから歩き出した。
「おい」
「心配しなくても帰るわよ」
淡々とした口調で、常盤は言う。
「付いてくぞ」
常盤は無言だった。単にちゃんとホテルに帰るのかだけ見ておこうと思ったけど、……近くに来たらやっぱり会いたくなる。
一緒にエレベーターに乗り込むと、常盤はチラリと俺を見た。
「華に会うの」
「そのつもりだけど」
「ふうん」
常盤は壁に寄りかかって、俺を見る。
「やっぱ、どー考えても樹さまよね?」
「だろうな」
俺だってそう思うわ。死んでも譲る気はないけど。
「華の」
常盤は続ける。
「華のどこがいいの? カオ? おっぱい?」
軽く眉をひそめた。やけにストレートだな。
「中身」
「セーカクってこと?」
「まぁそれを含めて」
「そなの? でもソトガワありきじゃん?」
「かもしんねーけど、惚れたのは中身」
「ふーん」
ちょうど目的の階について、俺たちは降りる。この階には三部屋しか部屋がない、らしい。
「ねー、もうヤった?」
「してねえよ」
「付き合って何年?」
「2年」
「まだなの? ダサ」
「好きに言えよ」
軽くため息をついて常盤を見ていると、ばたりと扉が開いた。
「シュリちゃんっ」
設楽だ。がばりと常盤に抱きついた。
「もー、心配したじゃんっ」
「う、うるさいわねっ」
少し赤くなって、常盤は設楽を自分から引き剥がす。
「黒田くんが見つけてくれたの!?」
「たまたまな」
肩をすくめると、設楽はユルイ笑顔で「ありがと」と小さく言った。……あー、もう、今日はこのカオ見れただけで充分だ。そんな風に思ってしまうくらいの、俺的に本気で「ヤバイ」笑顔。
「いこ、華」
「黒田くん、お茶でもしてかない?」
華の誘いに、常盤は少し舌打ちした。……嫌われても仕方ないと思う。
(つか、カオ見てたくねーよな)
俺は軽く首を振る。
「設楽のカオ見れたらそれでじゅーぶん」
「でも」
寂しそうに、俺の服の裾を握る設楽。なに可愛いことしてくれてんだ。
視界の隅で、常盤が扉の向こうに消えていく。ぱたり、という音。俺は設楽を抱き寄せた。
「黒田く、」
「会いたかった」
「私も」
嬉しそうな声、俺の背中に回される手のひら。
「……もーすぐ誕生日だろ」
「ん」
「なにしたい?」
こんな状況だ、どこかへは行けなくとも。
「えへへ、ケーキ食べたい」
「買ってくる」
「……手作り」
ダメ? なんて首をかしげるから、俺は帰宅途中にスイーツのレシピ本を買ってしまう。あいつに惚れすぎてるわ、俺、ほんとに。
設楽から電話が入ったのは、設楽たちが横浜市内のホテルにカンヅメ状態になってから3日後の昼。
部活の昼休憩中で、すぐに出る。
「どーした」
『シュリちゃんがいなくなったの……』
ほとほと困った、という設楽の声。俺はへえ、と返事をした。
「まー、あいつ、無理そうだよな。何日も同じ部屋の中」
『脱走だよー。マスコミうろついてるって噂なのに』
どこの噂だよ、なんて思うけれどそれは本当(親父情報)。特に常盤シュリは週刊誌に狙われてた。父親譲りのワガママ令嬢がどうのこうの。
(ま、俺にはどーしようもない)
設楽にだってそれは分かっているだろう。単に誰かにグチりたかったんだと思う。
「まあ、万が一みかけたら連絡するわ」
そんな風に言っていたのに。
「……まさか、見つけてしまうとは」
部活後、足りなくなったテービングを買い足しに出た駅ちかくのスポーツショップを目指していたら、件の常盤シュリを見つけてしまった。何か買い物をしたのか、小さい紙袋を持っていた。
しかも思いっ切り、記者っぽいやつに声をかけられている、というか言い合っていた。
(どうすべきか)
一瞬悩んで、ぱっと駆け出す。設楽んとこに連れて行くのが一番いいだろう。
「だから、お父様はきっと無実よっ」
「常盤、来い」
「だ、れっ」
狼狽する常盤の腕を掴んで走る。記者も走って追いかけてこようとするがこの人混みだ、諦めたのか姿が見えなくなった。俺は常盤から手を離す。
「ここまで来ればもう大丈夫だろ、っておい」
ぜえぜえと肩で息をしながら、俺を睨みつけてくる常盤。
「だ、だれかと、お、もえば、華の、しゅみのわる、い、カレシ」
「すまん、そんなに走ったつもりじゃ」
「う、うるさいわね、急だった、から」
ふん、と胸を張るけど、しかしそれでも苦しそうだった。もしかして設楽以上に運動苦手なのか。
「つーか、勝手に出歩いてんなよ。設楽探してたぞ」
「うるさいわねー、アンタにも華にも関係ないでしょ」
「あるだろ」
常盤を見下ろす。
「お前がテキトー喋って、記事になって。それが父親の事件になんか影響与えたらどーすんだよ」
「それは」
「つーか」
俺はボリボリと頭をかいた。……一応、言っておくべきだと思ったのだ。
「お前の父親逮捕したの、俺の親父だわ」
「……は?」
「設楽に当たんなよ。あいつはなんも知らねー」
「……でしょうね、あの子に隠し事はムリ」
常盤はじっと俺を見た。
「そう、あんたの父親が」
「つーか、俺も関わってる」
「は?」
「収賄の話タレ込んだって事務官、……知り合いで。説得して、親父に紹介した」
ぽかん、と常盤は俺を見上げた。
「あ、そう」
目線をそらす。表情が、いまいち読めない。それから歩き出した。
「おい」
「心配しなくても帰るわよ」
淡々とした口調で、常盤は言う。
「付いてくぞ」
常盤は無言だった。単にちゃんとホテルに帰るのかだけ見ておこうと思ったけど、……近くに来たらやっぱり会いたくなる。
一緒にエレベーターに乗り込むと、常盤はチラリと俺を見た。
「華に会うの」
「そのつもりだけど」
「ふうん」
常盤は壁に寄りかかって、俺を見る。
「やっぱ、どー考えても樹さまよね?」
「だろうな」
俺だってそう思うわ。死んでも譲る気はないけど。
「華の」
常盤は続ける。
「華のどこがいいの? カオ? おっぱい?」
軽く眉をひそめた。やけにストレートだな。
「中身」
「セーカクってこと?」
「まぁそれを含めて」
「そなの? でもソトガワありきじゃん?」
「かもしんねーけど、惚れたのは中身」
「ふーん」
ちょうど目的の階について、俺たちは降りる。この階には三部屋しか部屋がない、らしい。
「ねー、もうヤった?」
「してねえよ」
「付き合って何年?」
「2年」
「まだなの? ダサ」
「好きに言えよ」
軽くため息をついて常盤を見ていると、ばたりと扉が開いた。
「シュリちゃんっ」
設楽だ。がばりと常盤に抱きついた。
「もー、心配したじゃんっ」
「う、うるさいわねっ」
少し赤くなって、常盤は設楽を自分から引き剥がす。
「黒田くんが見つけてくれたの!?」
「たまたまな」
肩をすくめると、設楽はユルイ笑顔で「ありがと」と小さく言った。……あー、もう、今日はこのカオ見れただけで充分だ。そんな風に思ってしまうくらいの、俺的に本気で「ヤバイ」笑顔。
「いこ、華」
「黒田くん、お茶でもしてかない?」
華の誘いに、常盤は少し舌打ちした。……嫌われても仕方ないと思う。
(つか、カオ見てたくねーよな)
俺は軽く首を振る。
「設楽のカオ見れたらそれでじゅーぶん」
「でも」
寂しそうに、俺の服の裾を握る設楽。なに可愛いことしてくれてんだ。
視界の隅で、常盤が扉の向こうに消えていく。ぱたり、という音。俺は設楽を抱き寄せた。
「黒田く、」
「会いたかった」
「私も」
嬉しそうな声、俺の背中に回される手のひら。
「……もーすぐ誕生日だろ」
「ん」
「なにしたい?」
こんな状況だ、どこかへは行けなくとも。
「えへへ、ケーキ食べたい」
「買ってくる」
「……手作り」
ダメ? なんて首をかしげるから、俺は帰宅途中にスイーツのレシピ本を買ってしまう。あいつに惚れすぎてるわ、俺、ほんとに。
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