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【高校編】分岐・鹿王院樹

キツネ

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 大村さんは、びしりと私を指差す。

「設楽さんにはあって、その映像に映る人物にはないものがあります。そしてそれはその映像に映っていません」

 私は首を傾げて、あの映像を思い返す。そんなものあったっけ?

(髪留めとかも使ってないし、制服は同じだったし、靴下も学校指定)

 メガネでもないし。なんだろう。
 首をかしげると、大村さんは……なんていうか、鷲掴みにしてきた。背後から。

「ひゃう!?」
「このありすぎるバスト!」
「や、やめて大村さんっ」

 私は何をされているのですかっ!

「設楽さんは制服のシャツ、ぱつんぱつんなのよ!」
「え、い、言わないでっ」

 太りすぎてる自覚はあるんだってええええ!

「ボタン飛びそうなくらいに」
「そこまではないよっ」

 樹くんとアキラくんを見ると、サッと目をそらされた。何その反応!? ねえ!?

「ところがその人、すとーんとしてるわよね? すとーん。この子と違って」

 大村さんは、もう一度私の胸をつつく。や、やめい!

「このサイズは何したって隠せないわ! ゆえに、その人物は設楽さんではないっ!」

 私は涙目で胸を押さえながら、青花に目をやる。青花は「す、す、す、すとーんとしてて悪かったわね!?」と少し裏返った声で叫んだ。

「そ、その女がむしろ胸に肉ありすぎなんでしょ! 脂肪っ」
「うっ」

 私は言葉に詰まる。し、脂肪っ。

「ちゃうで華、多分そこには夢とか希望とかが詰まってるんや気にせんとき!」

 アキラくんのよく分からないフォロー……。

「そうだぞ全体的には痩せているほうだ」

 気遣わしげに樹くんにもフォローされた。……もしかして最近太ってきてるとか思ってた? ねぇ?

「つうかやな、その反応。やっぱ、そいつ、アンタ自身やないんか?」

 アキラくんにびしり、と指さされて、青花は目線をそらす。そして大村さんからスマホを取り返すと「しょ、証拠不十分なようなので、今日はこれでっ」と叫んで、走り去って行ってしまった。

「なんやったんや。つか、そろそろ教師側からもなんやアクションしてもらわな困るで」
「いちおう、働きかけはしているのだが」

 樹くんの声に、私は驚いて樹くんを見た。いつの間に?

「しかし、実害がないので教師陣の腰が重い」
「せやけどこんなん精神的に来るで。なぁ?」

 優しく眉を下げたアキラくんに心配げに言われて、私は微笑み返す。

「大丈夫だよー、もういざとなれば転校するから」
「華が譲ることはない」
「は!? イヤやそんなんっ!」
「えっやだよ!」

 樹くんが眉をひそめて、アキラくんと大村さんがほとんど同時に叫ぶ。ありがたいなぁ、心配してくれて……。
 なんだかジンワリしつつ、その後はふつうに過ごす。
 ところが、休み時間のことだった。ふと青花が教室の窓から見えた。教室は3階にあるから、向こうからは私に気がついてなかっただろうけれど……まじまじと眺める。移動教室っぽくて、教科書とノートを抱えて("私"がビリビリにしたはずでは……?)クラスの男子数人と楽しげに笑い合いながら歩いている。

(可愛い、よね?)

 原作ゲームと同じ姿の青花。髪型も顔つきも体型も、そのままで。中身だけが違う。

(私は随分違うよなぁ)

 中身はもちろん、髪型も違うし、顔つきも違う気がする。同じ顔なんだけど、多分表情とか……それから、体型。大村さんに指摘されるまでもなく、以前千晶ちゃんにも言われた通り「"ゲームの華"はそんなに胸大きくなかった」。はい、多分、ていうか確実に、食べすぎが原因かと思われます……。

(でもゲームの華、細すぎたよ!)

 華奢を通り越しちゃうくらいにほっそりしすぎてた。い、いや別に少しふっくら(してないとは言ってもらえるけれども)してる自分を肯定してるわけではなくってですね……?
 そこまで考えて、ハッと気がついた。気がついてしまった。

(……もしかして、そのせい!?)

 "ゲーム"の華にはなかったこの胸部が、もしかして樹くんが私のことを好きになってくれた要因なのでは……!?
 私はその要因を見下ろす。重くてしんどいからつい机に乗せちゃう、それ。

(むむっ)

 私は眉をひそめた。だとしたら、だとしたら、私はどうすればいいのでしょう?
 帰宅して、私はなんだかモヤモヤと過ごす。

(別に、いーんだけどね?)

 いやよくない。良くないのかな? でも好きになってもらえないより、マシじゃない?
 そんな考えがぐるぐるして、止まらない。別に、好きになってもらうきっかけが何だって、今、樹くんが私のことを好きでいてくれているのは、ほんとうなんだから……。
 でも、部活ですっかり疲れ切って帰宅した樹くんに、つい言ってしまう。
 少し自分の考えで拗ねちゃったのかもしれない、……我ながらメンドくさいと思う。思うけれども。

「ねー、樹くん」
「なんだ?」

 疲れてるのに、樹くんは優しい。帰宅した樹くんについて回るみたいに、部屋まで付いてきてしまっても、穏やかに私の髪を撫でてくれている。少し不機嫌そうな私が、不思議そうではあった。

「樹くんはさ、」
「うむ」
「私とおっぱい、どっちが好きなの?」

 ぽかんとされた。メチャクチャぽかんとしてた。

(わぁ、なんていうか)

 キツネにつままれたようなカオってこういう顔、なんだろうなぁ。
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