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【高校編】分岐・鍋島真
スキヤキ
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グツグツ、と煮えるA5ランク飛騨牛に私は戦慄する。
「ぜ。ぜーたくな」
「もう綿飴入れていいの?」
「あ、はい、お願いします」
そう言ったとき、空が光る。色とりどりの輝き、それからワンテンポ遅れての爆発音。花火だ。
ローテーブルをベランダ前の大きな掃き出し窓まで持ってきて、そこから真さんと並んで紺色の空を見上げながらの「綿飴スキヤキ」。部屋の電気は薄暗くして、外が見やすいようにして。
(何せ、綿飴消費しなきゃだからなぁ)
真さんのスマホで検索したら、綿飴はスキヤキに使えるとかでさっそくチャレンジしてみたのだ。材料と卓上コンロを買ってきて。
(でも、わざわざこんな高級な牛肉でなくたって)
そう思う。だってちょっとプレッシャーだ。一応言ったのだ、あんまりお高くないお肉にしましょうと。私の料理の腕前でもなんとかなるお肉にしましょう、とは!
「食べてみよう食べてみよう」
真さんは気楽にはしゃいでくれちゃっている。
(あー、もう)
肉が美味しいから美味しいでしょ多分! きっと!
思い切ってひとくち……思わず真さんと顔を見合わせた。おいしー! なにこれ!
「すっごい、これが飛騨牛の本気」
でもまだポテンシャル高かったと思う。私の料理の腕じゃ活かしきれてない気がするよ……!
それでも美味しいのは間違いなくて、思わず笑って真さんを見上げるとなぜか唇を塞がれた。唐突なキスで。
「んー!?」
「あ、ごめん。あんまり美味しすぎてちゅーしちゃった」
「いや、意味がわかりませんっ」
唐突すぎます! 理由もわかりません!
「なんだろねー?」
また窓の外が光って、破裂音のような音もする。きらきらと空を彩る花火。
それに照らされて、ほんの少し眉を下げて笑う真さんを見て、私はなんだか力が抜けてしまった。まぁいいや、好きなようにしたらいいんだ。
「ていうか、お米美味しい」
真さんの言葉に、私は頷く。
「これ、米だけの力じゃないですよね……」
たしかにお米も良いやつ買ってくれたんだけど、……さすが10万超え炊飯器。ポテンシャル半端ないよ……。
(ていうか)
私は気づいてしまった。さっきから真さん、肉しか食べてませんよ?
「はいおネギもどうぞ」
「はーい」
「白菜も」
「……あのさ、基本肉がいい」
「ワガママを言わない」
真さんのお皿にどんどんお野菜も入れていく。シイタケも、こんにゃくも。
その間にもどんどんと上がる花火。
「……前も見たね、花火」
「ああ、あれいつでしたっけ」
「ひどいなー」
真さんは笑う。
「ちょうど758日と2時間前だよ」
「ちょっと待ってくださいなに数えてるんですか……!」
思わず真さんの顔を凝視すると、ふはっと吹き出された。
「うっそうそ、ジョーダン。さすがに数えてないってば」
「で、ですよね」
思わず身体から力を抜く。さすがにそうだよね……? にっこりと微笑む真さん。え、冗談、です、よね……?
花火が終わる頃には、すき焼き鍋のなかはすっかり空っぽになっていた。
「ふー、食べた食べたぁ」
「案外入りますね、っていうか真さん案外食べますね?」
「そうかな?」
不思議そうに空っぽの鍋を見つめる真さん。まぁハタチの男子なんてそんなものか。運動部だしなぁ。
「あー、帰したくないなぁ」
真さんはきゅうっと私を抱きしめた。
「はやくいっしょに暮らしたいなぁ、24時間華を愛でていたいなぁ」
「そ、それは嫌です。……って、まだ先になりそうじゃないです?」
真さんと敦子さんが言ってた話が一体どんなものかは、未だに教えてもらっていない。けれど、そうなったらどうやら籍だけ入れちゃっていいらしい。
もちろん"私がいいなら"って前提はあるんだけれど、……今更逃げたりなんかできない、っていうか、しない。
(真さんが私がどこか行かないか不安だなんて言うけれど)
私はぼんやりと思う。
(同じくらい、私だって真さんを縛っておきたいと思ってる)
私のものだって、世界中に宣言しておきたい。
(真さんの話だと、それはまだ先になるんだろうけれど)
敦子さんと「鹿王院」のつながりを世間にアピールするための「許婚」。
(そういや、"土産"ってなんだったんだろ?)
その「許婚」を解消していいほどの、お土産ーー。
考えてみるけれど、予想もつかない。すっかり蚊帳の外だけど、……まぁ、真さんのやることだから色々詮索してもムダかもなとも思う。好きにさせとこ。
「それなんだよなぁ、僕だって千晶ほっとくのは心配だもんなぁ。やっぱ3人で暮らそうよ」
「私はいいですけど、千晶ちゃんの胃に穴があきます」
多分、開くと思う。今の時点で「華ちゃん本当に大丈夫?」って何回聞かれたか分からない……。正気を疑われてる。というか「洗脳されてない?」って聞かれたし……っていうか、洗脳なんかできるの真さん。できるか。「豚さん」飼ってたもんな……。
(まー、それならそれでいいのかも)
そんな風に思っちゃうから、重症だ。
でも少なくとも、この人が欲しいと思ったのは確実に私の意思だって断言できる。
「……ん、どこ触ってるんですか」
「お腹いっぱいになったから、ほかの欲求満たそうよ」
「あの、さすがに帰らないと」
「ちょっとだけ」
私は軽々とお姫様抱っこされてしまう。
「道が混んでたとでも言い訳しようね?」
にっこりと微笑む真さんを見て、私は諦めて身体を預けた。
「ぜ。ぜーたくな」
「もう綿飴入れていいの?」
「あ、はい、お願いします」
そう言ったとき、空が光る。色とりどりの輝き、それからワンテンポ遅れての爆発音。花火だ。
ローテーブルをベランダ前の大きな掃き出し窓まで持ってきて、そこから真さんと並んで紺色の空を見上げながらの「綿飴スキヤキ」。部屋の電気は薄暗くして、外が見やすいようにして。
(何せ、綿飴消費しなきゃだからなぁ)
真さんのスマホで検索したら、綿飴はスキヤキに使えるとかでさっそくチャレンジしてみたのだ。材料と卓上コンロを買ってきて。
(でも、わざわざこんな高級な牛肉でなくたって)
そう思う。だってちょっとプレッシャーだ。一応言ったのだ、あんまりお高くないお肉にしましょうと。私の料理の腕前でもなんとかなるお肉にしましょう、とは!
「食べてみよう食べてみよう」
真さんは気楽にはしゃいでくれちゃっている。
(あー、もう)
肉が美味しいから美味しいでしょ多分! きっと!
思い切ってひとくち……思わず真さんと顔を見合わせた。おいしー! なにこれ!
「すっごい、これが飛騨牛の本気」
でもまだポテンシャル高かったと思う。私の料理の腕じゃ活かしきれてない気がするよ……!
それでも美味しいのは間違いなくて、思わず笑って真さんを見上げるとなぜか唇を塞がれた。唐突なキスで。
「んー!?」
「あ、ごめん。あんまり美味しすぎてちゅーしちゃった」
「いや、意味がわかりませんっ」
唐突すぎます! 理由もわかりません!
「なんだろねー?」
また窓の外が光って、破裂音のような音もする。きらきらと空を彩る花火。
それに照らされて、ほんの少し眉を下げて笑う真さんを見て、私はなんだか力が抜けてしまった。まぁいいや、好きなようにしたらいいんだ。
「ていうか、お米美味しい」
真さんの言葉に、私は頷く。
「これ、米だけの力じゃないですよね……」
たしかにお米も良いやつ買ってくれたんだけど、……さすが10万超え炊飯器。ポテンシャル半端ないよ……。
(ていうか)
私は気づいてしまった。さっきから真さん、肉しか食べてませんよ?
「はいおネギもどうぞ」
「はーい」
「白菜も」
「……あのさ、基本肉がいい」
「ワガママを言わない」
真さんのお皿にどんどんお野菜も入れていく。シイタケも、こんにゃくも。
その間にもどんどんと上がる花火。
「……前も見たね、花火」
「ああ、あれいつでしたっけ」
「ひどいなー」
真さんは笑う。
「ちょうど758日と2時間前だよ」
「ちょっと待ってくださいなに数えてるんですか……!」
思わず真さんの顔を凝視すると、ふはっと吹き出された。
「うっそうそ、ジョーダン。さすがに数えてないってば」
「で、ですよね」
思わず身体から力を抜く。さすがにそうだよね……? にっこりと微笑む真さん。え、冗談、です、よね……?
花火が終わる頃には、すき焼き鍋のなかはすっかり空っぽになっていた。
「ふー、食べた食べたぁ」
「案外入りますね、っていうか真さん案外食べますね?」
「そうかな?」
不思議そうに空っぽの鍋を見つめる真さん。まぁハタチの男子なんてそんなものか。運動部だしなぁ。
「あー、帰したくないなぁ」
真さんはきゅうっと私を抱きしめた。
「はやくいっしょに暮らしたいなぁ、24時間華を愛でていたいなぁ」
「そ、それは嫌です。……って、まだ先になりそうじゃないです?」
真さんと敦子さんが言ってた話が一体どんなものかは、未だに教えてもらっていない。けれど、そうなったらどうやら籍だけ入れちゃっていいらしい。
もちろん"私がいいなら"って前提はあるんだけれど、……今更逃げたりなんかできない、っていうか、しない。
(真さんが私がどこか行かないか不安だなんて言うけれど)
私はぼんやりと思う。
(同じくらい、私だって真さんを縛っておきたいと思ってる)
私のものだって、世界中に宣言しておきたい。
(真さんの話だと、それはまだ先になるんだろうけれど)
敦子さんと「鹿王院」のつながりを世間にアピールするための「許婚」。
(そういや、"土産"ってなんだったんだろ?)
その「許婚」を解消していいほどの、お土産ーー。
考えてみるけれど、予想もつかない。すっかり蚊帳の外だけど、……まぁ、真さんのやることだから色々詮索してもムダかもなとも思う。好きにさせとこ。
「それなんだよなぁ、僕だって千晶ほっとくのは心配だもんなぁ。やっぱ3人で暮らそうよ」
「私はいいですけど、千晶ちゃんの胃に穴があきます」
多分、開くと思う。今の時点で「華ちゃん本当に大丈夫?」って何回聞かれたか分からない……。正気を疑われてる。というか「洗脳されてない?」って聞かれたし……っていうか、洗脳なんかできるの真さん。できるか。「豚さん」飼ってたもんな……。
(まー、それならそれでいいのかも)
そんな風に思っちゃうから、重症だ。
でも少なくとも、この人が欲しいと思ったのは確実に私の意思だって断言できる。
「……ん、どこ触ってるんですか」
「お腹いっぱいになったから、ほかの欲求満たそうよ」
「あの、さすがに帰らないと」
「ちょっとだけ」
私は軽々とお姫様抱っこされてしまう。
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