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【高校編】分岐・鹿王院樹

いろいろ山積み

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 考えることがたくさんありすぎて、ちょっとゴチャゴチャしてきてます。
 学校では青花がアグレッシブにトンチンカンな攻撃(?)してくるし、委員会に改革案出さなきゃだし、勉強は難しさが増してるし(サインコサインタンジェント!)、な上に。家は家で、少々ごたつき始めていたりしまして。

「あれ敦子さん!? 帰ってくるなんて言ってた!?」

 学校から帰宅すると、広間に敦子さんがいて静子さんとお茶をしていた。

(お、)

 心なしか、ちょっと肌艶の調子がいいような? らぶらぶだからかな!?

(新婚さんだもんなぁ)

 なんて思いながら横に座る。

「……なによそのニヤケ顔は?」
「ううん、……あ! ていうか!」
「なに?」
「えっと」

 敦子さんの「嘘」について問い正そうとしたけれど、……静子さんもいるし、と口ごもる。

「な、なんでも……」
「なによ」
「ええと、そうじゃなくて、……ていうかなんで急に? 仕事?」

 軽く首をかしげると、敦子さんは小さくため息をつきながら「あのね」と眉間を軽く揉んだ。

「姪っ子が増えてね……」
「姪っ子?」

 きょとんと問い返す。

(敦子さんの兄弟って、例の御前クソジジイだけだから、……って!)

「シュリちゃんに妹できたってこと!?」

 少し大きな声になってしまった……!

(大伯父様、70超えてなかったっけ!?)

 シュリママのアカネさんは、はまだ40前半だからあり得るっちゃあり得るんだろうけれど。へぇー。

「おめでたいねぇ」

 未だに会うたび、結構ツンケンしてくれちゃってるシュリちゃんでも、年の離れた妹なんて相当可愛いがるんじゃないかな。絶対可愛いよ~。いいなぁいいなぁ。

「……違うのよ」
「へ?」

 またもや、キョトンと問い返す。違う?

「敦子さん、ほかに兄弟いたっけ?」
「違うの、シュリの妹だってのは合ってるんだけれど。……アカネさんの娘ではないのよ」
「え!?」

 苦々しげに、敦子さんは続けた。

「あの色ボケ、愛人に産ませたのよ」
「……愛人ですと?」
「そう! しかも」

 敦子さんはがくりと肩を落とした。

「23ですって」
「……年の差?」
「いいえ。年齢」
「誰の」
「愛人」

 私はたっぷり10秒は固まったと思う。

「……半世紀くらい違いますね?」
「信ッじられない! 孫じゃない! もはや孫よ!? 呆れた」

 敦子さんは頭を抱える。

「アカネさんも流石に怒髪天らしくて、というかそもそもあの色ボケ兄の子じゃないんじゃないかって」

 そりゃそうだ。70こえてるもん。

「遺伝子鑑定したら親子だったのよ……」
「わー」

 もはや私は感想を失いつつあった。赤ちゃんが生まれたのは喜ばしいことなんだろうけれど、どういう感情で会話したらいいか良く分からないよ……!

「そんなわけでもう、その子ね、3ヶ月くらいらしいの。しかもあのクソボケ、本宅に帰らずに愛人宅にずうっと入り浸りでね、流石のアカネさんも泣きついてきたのよ」
「そうでしたか……」
「時差考えないで引っ切り無しに連絡入って、仕事にならないからとにかく帰国したの。今から行ってくるわ」

 敦子さんは時計を見ながら立ち上がる。

「か、帰ってくる?」

 帰ってくる、って言いかたも変なんだけど。ここ、樹くんの家だし。

「こちらに泊まらせていただくわ」
「じゃあ晩御飯一緒?」
「ええ」

 優しく敦子さんは微笑んだ。やったあ!

(一緒にご飯、久しぶりかも~)

 にこにことしてしまう私の頭を少し撫でて、敦子さんは「気がすすまない」って背中で語りながら出かけて行った。

「お宅も大変ねー」

 静子さんは静かに日本茶を飲みながら言う。

「そうなんでしょうかねぇ」

 ちょっとまだ良く分からないんだけど、親戚さん総出でゴチャつきそうな予感はしてます……。

「華ちゃんも飲む? 甘木から新茶取り寄せたの」
「あ、いただきます」

 静子さんがお茶を淹れ直してくれた。
 ありがたくいただく。敦子さんが持ってきたとかいう和菓子も。なんでアメリカ帰りで和菓子なのかなと思ったけれど、空港に入ってる和菓子屋さんでわざわざ買ってきてくれたみたい。

「あ、夏らしい」

 夏、といってもまだ6月末なんだけれど。
 いわゆる葛餅、なんだろうけれど、ひとつひとつがなんだか上品なつくり。小豆が少しずつ練りこまれていて、透明な葛餅の中に見えるのがまた涼やか。
 ぱくりと口に含むと、予想通りの上品な甘さ。夏用のお菓子なだけあって、甘いけどさっぱりしてて、甘さを引きずる感じではない。

「お~いし~~」
「それだけ美味しそうに食べてもらえたら、お菓子も本望よねぇ……」

 静子さんがなぜかしみじみと言う。本望って、そんな大げさな……。
 それから着替えて、宿題だの予習だのを済ませた頃に、樹くんと圭くんが帰ってきた。

「ほう、敦子さんが」
「それで外食なんだ?」

 食堂で、私はにこにこ頷いた。静子さんが和食のお店を押さえてくれて(私もお気に入りのところ!)敦子さんが帰り次第、皆で向かおうということになったのだ。とりあえず、食堂でお茶飲んで待っているところだ。

「けど遅いんだよね」

 "説明が難しいからとにかく今から帰る"ってメールをもらって、かれこれ1時間半は過ぎている。

「道が混んでいるのではないか?」

 ジャージから、こざっぱりとした服装に着替えてきた樹くんが言う。圭くんも制服から着替えて、2人ともなんだか爽やかだ。

(うむむ)

 少しお高めのお店に行く、だからと言ってそこまで気合いが入る2人ではない。小さいお店で、貸切になるのでドレスコードとかもない。
 樹くんは白シャツにジーンズ、圭くんがポロシャツにチノパン。気合いは入ってない。なのに決まってるのはこれいかに。着てるヒトが格好いいからか、……いいからだろうなぁ。

(私はなぁ)

 うーむ、と考える。なんだかイマイチ、表情とかが抜けてるんだよなぁ。中身のせいか? 中身のせいなのですか?

「? なんだ?」

 私の視線に気づいた樹くんに聞かれる。

「いいえ~」
「どうせ何かヤクタイもないコト考えてたでしょ」

 圭くんに言われて、私は苦笑いする。

「う、まぁね」
「益体も無い?」

 樹くんがそう聞き返した時、だった。盛大に、食堂の扉が開く。

「あ、おかえり……なさい?」

 私はぽかん、と敦子さんを見つめた。背後には、鹿王院の運転手の佐賀さんが所在なさげに立っている。両手に大量の荷物を持って。紅白の紙袋、ビニール袋に、……おむつの袋?
 当の敦子さんは「実に不可解です」という顔をして立っている。

「ねえ、敦子」

 静かに、静子さんが言った。

「その、……もしかして」
「そのもしかしてよ」

 敦子さんは、自分の胸あたりに左手で抱っこしてる赤ちゃんを、優しく撫でた。

「……誰?」

 圭くんがそう呟いて、私は叫びそうになる口を押さえた。
 だって赤ちゃん寝てるから!
 起こしちゃダメじゃん!
 でも叫びたいよ!

「敦子さんその赤ちゃんって!」

 小声で叫ぶ。敦子さんは頷いた。

「あんのクソジジイ、やっぱりあたしに押し付けくださいましたよッ!」
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