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【高校編】分岐・黒田健

これからのこと

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「設楽」

 黒田くんが、私をじっと見て言うから、私はすこしピクリとした。

(お、怒られる……?)

 それとも呆れられたかな? は、ハレンチなこと言い出してとか思われたかなっ!?

「あのな」
「は、はい」

 黒田くんは、目の前に立ててたロウソクから、線香花火に火をつけた。
 シメには早いけど、まぁ座ってやるにはちょうどいい。

「ん」

 私にもくれた。

「あ、ありがと」

 ぱちぱちと弾ける、線香花火。
 ちょっと無言になる。
 その火花を見ながら、黒田くんはどうということも無さそうに口を開いた。

「続きって何?」
「えええええと」

 そ、そんな風に聞かれるとは! 想定外だった! ひとりで赤くなる。

「俺の考えが違ったらさ、すっげえ申し訳ないんだけど。それってセック」
「うわあああ」

 思わず大声で遮る。手も振りたかったけど、左手は線香花火持ってるし、右手は黒田くんと繋いでるし!
 黒田くんはちらりと私を見て「あってたか?」と聞いてくる。
 私はうつむきながら「ハイ……」と答えるので精一杯。
 ざあざあ、と波が寄せては返す。波打ち際ではみんながはしゃいでいて、私たちに気をかける素振りもない。
 すっかり日も暮れて、月光で波はキラキラ光って、みんなが持ってる花火がそれをさらに彩っていた。

「あのさ」
「うん」
「したい」
「ん?」

 一瞬、ぽかんとしてしまう。

「いや、ふつうに。男だし。……関係ないか」
「あ、うう、どうだろう」

 目線が泳いでしまう。

(だって私だって)

 触れたいと、思うもの。

「設楽のこと好きだからさ、触りたいとかキスしたいとか思うし、実際実行してるわけだけど」
「うん」
「けど」

 黒田くんはいつも通りな、トーンで続けていく。

「正しい言い方かどうか、俺良くわかんねーけど、デキ婚ってあるじゃん」
「ん?」

 授かり婚?
 アメリカではshotgun marriageって言うとか。なんだかお国柄が出るよなー、って関係ないか。

「でな。そー言うのがある以上、避妊って100パーじゃねぇわけだろ」
「うん」

 黒田くんは淡々と続ける。

「結婚前にもし設楽が妊娠したらさ、俺、学校辞めて働く」
「え、ええっ」
「それくらい覚悟がいるって思ってる、俺は」

 黒田くんは、そう結んだ。

「……あの、ごめんね?」

 結構、私は軽い感じでいた、のかも……いや、軽くはないんだけど! それなりの覚悟? でいたつもりなんだけど、そんなに、そんなにちゃんと考えてくれてるなんて、思ってもみなかったから。

「や、俺が硬すぎっつーか考えすぎなのは自覚してる。付き合わせてごめん」
「ううん」

 私は首を振った。

(そっか)

 そっかあ。

「……私、大事にされてますね?」
「自分の彼女大事にしねーやつなんかいねぇだろ」

 当たり前だろ? って顔で言われるけれど。
 いますよ? 二股とかキープ扱いとか色々ッ!

(でも)

 ……黒田くんは、違うんだなぁ。
 きゅんとしてしまう。まっすぐで、多分世間のいわゆる"男子高校生"とはちょっと考え方と違う、のかもなんだけど。

「えへへ」

 なんだかニンマリと笑う私に、黒田くんは不思議そうな視線を向ける。

「なんだよ」
「や、えーと。好きだなぁって」

 黒田くんは一瞬ぽかんとして、それから「俺も好きだよ」とほんの少し、目線を逸らして小さく言った。

「ひゃあ」
「なんだよ」

 唐突に奇声を上げた私に、今度は不思議っていうよりは訝しげな視線を向けて黒田くんは言った。私はぷいっと目線をそらす。

「だって急だからさ!」
「……設楽から言い出したんだろーが」
「そうなんだけど」

 そうなんだけど。やっぱりハッキリ言ってもらうって、照れるし嬉しいしで、どうしていいかわかんなくなっちゃう。

「でもなぁ、俺それも怖いと時々思う」
「それ?」
「いや、」

 黒田くんは少し迷うように眉を寄せて(珍しい)、それからぽつりと言った。

「結婚した後に、まぁ授かりモンなんだろうからどーなるかわかんねぇけど、子供できたとすんじゃん」
「うん」

 授かりもの、って言いかたが黒田くんらしいなとふと思う。

「親父が昔言ってたの、覚えてるか? 俺、生まれる時死にかけたらしい。母親も」

 私を握る手に、ギュッと力がこもる。

「俺がひとりっ子なの、そのせいなんだよ。母親はもう1人欲しかったらしいんだけど、親父が泣いて諦めさせたっぽい」

 断片的にしか知らねーんだけど、と黒田くんは言う。

「子供産む時に、設楽が死んだらどうしようって、時々思うんだよな」
「……鼻からスイカとかは聞くけど」
「出産ってなぁ、それだけリスクあることなんだよ」

 線香花火の火花が、ぽとりと落ちる。砂に当たって、フワリと消えた。

「それくらいなら、一生ンなことしなくていいと思う」

 考えすぎ、って言えたら良かったのかもしれない。でも、実際黒田くんは当事者なわけでーーって、覚えてるわけじゃないんだろうけれど、それでも。

「あのね」

 私は小さく言った。

「私、それでも黒田くんの赤ちゃん、産みたいって思うよ」

 今すぐでなくても。いつか、そのうち、絶対。

「……ん」

 サンキュ、と黒田くんは私の手を強く握り直す。

「心配してくれてありがと」
「設楽のこと限定だけどさ、俺、結構心配性だからな」

 黒田くんはそう言って、水を張ったバケツに線香花火の残りを投げ入れた。
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