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【高校編】分岐・黒田健

独占欲と、続き(side健)

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「はいは~い、じゃあスイカ割り大会最下位の罰ゲーム、設楽さん頑張ってねっ」
「うう、まさかあんな方向にスイカがあるとは……」

 設楽は情けない声で頷いた。
 夕方。すでに陽は沈みかけていて、設楽は俺の手が離せない。設楽は暗い屋外が、トラウマ級に苦手だから。

(無理すると過呼吸になるからな)

 ふと思い出す。中学の時のキャンプ、苦しそうに呼吸を繰り返す設楽。
 きゅっと握る手に力を込める。設楽は不思議そうに俺を見上げて、俺はヨユーっぽく笑ってやった。設楽もゆるい顔で笑う。

「あー、ほらもう、また2人ったらいちゃついて」
「大村サン、イチャついてる訳じゃねーんす」

 俺はいちおう、弁明する。

「へえん。じゃあなんなんですか」
「や、いつもこんな感じなんで」
「それをいちゃついてると言うんですっ! どーせ黒田くんも設楽さんの罰ゲーム手伝うんだろうから、二人とも花火片付け係頑張ってくださいよっ」
「ういっす」

 まぁ、そんなに大変なことじゃない。貸別荘の庭の下水んとこに花火のバケツの水捨てて、残りはきちんと消火されてんの確認してから燃えるゴミ、ってのがこの貸別荘のマニュアルらしい。ゴミは市じゃなくて、業者が回収するとのこと。

「設楽は室内にいろよ」
「え、私の罰ゲームだよ!?」

 驚いた顔で設楽は言う。

「いーよ。大した手間でもねーし」
「でも」
「はいはいイチャついてないでー。花火はっじめまーす!」

 大村さんがそう言って火をつけた手持ち花火は、砂浜に向かって、白光じみた赤い光跡を描く。

「おー!」

 歓声が上がって、次々に皆点火していく。設楽は割とおとなしめなのを選んで、俺が持ってた花火から火を貰おうとしていた。

「まっすぐ持ってろ」

 設楽の右手は俺とつないでいるので、左手で持ってなきゃだから少し不安定なんだろうと思う。右利きだから。
 俺の花火の方を近づける。やがて火がついて、設楽が小さく歓声をあげた。胸がぎゅっとする。可愛くて辛い。

(あー、もう今日はダメだ)

 いつもダメだけど、今日は特に、なんかダメだ。

「設楽」
「ん?」

 見上げてきた設楽にキスして、すっと離れる。設楽は真っ赤になってせっかくの花火を見ていない。
 他のやつは花火に夢中で、俺たちを気にしていなかった。だからもう一度キスする。柔らかい。可愛い。

「……今日どうしたの?」
「嫌か?」
「そんなことないけど」

 えへへ、と笑う設楽に心の中で謝る。

(独占欲で)

 あるいは嫉妬で。こいつは俺のだって周りに示したくてしょうがなくて。
 だって皆、設楽を見てる気がして落ち着かなかった。ほんとに。

(実際、わかんねーのにな)

 周りの人間が、本当にそんな風に設楽を見ていたか、なんて。

(まー、実際のとこ、変なスカウトだってあったわけで)

 グラビアだ? ふざけんなと思う。
 設楽の水着姿なんか、ただでさえ誰にも見せたくないのに。

「花火、きれーだよねぇ」
「祭とかにも行くか」

 少し気を取り直して言う。

(浴衣、似合うだろーな)

 露出が少ない分、水着よりは平静な気持ちでいられるだろうと思う。

「そだねー。暗くても、黒田くんと手ぇ繋いでたら平気っぽい」

 嬉しそうに、設楽は繋いだ手を少しあげる。

「黒田くんいたら、私いつも安心」
「なんだそりゃ」

 苦笑して、でも本心は嬉しくて仕方ない。こいつが俺を好きでいてくれてるって奇跡が幸せで仕方ない。

「そういや」
「ん?」
「親にな」
「うん」
「お前と結婚するって言った」
「げふっ」

 設楽は変な咳をした。顔が真っ赤だ。

「え、あ、うー」

 しどろもどろな設楽。

「しねーの?」

 少し意地悪を言う。答えが分かってて言うんだから、俺も性格が悪い。

「するっ! するけども!」

 言い募る設楽が愛しくて、火が消えた花火をバケツに捨てて、片手で頬をむぎゅりと潰す。

「ぎゃあ!」
「変なカオ」

 吹き出しながら言うと、少し拗ねたように「誰のせいで変な顔にっ」と俺を睨む。睨んでも可愛いしかないから、……アレかな、やっぱ俺、設楽に惚れすぎて目がおかしくなってんのかもな。多分一生、目がおかしいままだと思うけど。

「まぁそれでさ、」

 ぱっと頬から手を離す。

「ハハオヤも早く嫁に来てくれってさ」
「わー」

 設楽は、消えた花火をバケツに入れながら続けた。

「なんか次会うときキンチョーだよ」
「いつも通りにしといてくれ」
「う、うん」

 できるかなぁ、なんて呟きながら、設楽は次の花火を選ぶ。
 他の奴らはキャアキャア騒ぎながら花火を楽しんでいた。

「元気だよなー」
「まぁみんなお昼寝してたし」

 設楽は笑いながら言う。

「……寝なかったな、俺ら」
「う、うん」

 設楽は耳まで赤くする。皆が寝てる間何してたって、……さっき大村サンに言ったことじゃないけど俺らが「イチャついてる」としたら、その時間のことだっただろうってくらいにまぁ、色々。

「あのね、」

 設楽はおずおずと俺を見上げる。

「黒田くん、したくないの?」
「何を?」
「ああいうことの、……続き?」

 俺はぽかんと設楽を見つめた。設楽はしばらく黙った後、また真っ赤になって「ごめん忘れて……!」と言いながらしゃがんでしまう。
 俺もしゃがみながら考える。
 続き、続き、なぁ……。
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