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【高校編】分岐・黒田健

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 ビーチバレーって見てるよりずっと過酷!
 ってのを、私はたかが(否、真剣勝負だ)お遊びのビーチバレーで実感してた。でも本気だ。
 だってお昼の焼きそば、海の家のやたらと具が少ない、なのにやたらと美味しいあの焼きそばがかかっているのだから……!

(や、自分で買えばいいだけなんだけど)

 私はじりじりとした暑さにやられながら思う。
 そこはそれ! 勝負事なんだから熱くならなきゃ!

 例の合コンなんだか何なんだかよく分からない集まり。結局朝から海で遊んでる。周りも海水浴客でいっぱいで、大盛況っていうか、芋を洗うようにっていうか。
 私と黒田くんのペア、それから大村さんと松井さんは黒田くんの友達とそれぞれペアになって、ビーチバレーの試合。

「根岸バレー部で有利になっちゃうから、攻撃はどのチームも女子だけにしよう」

 っていう近藤くんの提案で、とにかくアタック決めなきゃなんだけど、まぁ砂に足がとられるとられる。

「ひゃあごめん!」
「いーよつか無理すんなよ」

 私の後ろで、黒田くんのヒヤヒヤした声が聞こえた。こういう声、珍しいかも。
 黒田くんの上げてくれたボール、頑張って飛んで打ったんだけど、近藤くんにバインと弾き返されてしまった。ぽとりと落ちるそれを取ろうとして、思いっきり砂浜でコケてしまった。うう、前世はバレー部だったのに……ていうかやっぱ、全然違うよ!

「やーったあ、とりあえず設楽ちゃんチーム最下位確定」
「うう……黒田くんごめんね」
「いーよ、怪我ないか」

 黒田くんは私を抱き起す。

「砂まみれだぁ」

 砂まみれっていうか、汗まみれでもある。口の中も少ししょっぱいくらいに……うん、体育とかより余程チカラ入ったかも。食べ物かかっちゃうとなぁ……。

「だな。海入るか?」

 黒田くんが髪についた砂を払ってくれる。目の前に黒田くんの鍛えられた胸筋が……あわわってなって目線を下げたら今度は腹筋でまたあわわってなって目線を上げると、目があった。

「どーした」
「い、いえいえ」

 ひとりで挙動不審です。

「う、ううう海行こっかな!」

 挙動不審な私は回れ右して海へ向かう。背後では大村さんチームと松井さんチームの決勝戦が始まっていた。

(ず、ずるいよー)

 かっこいいんだもん。筋肉に至るまでカッコいいんだもん。黒田くんは不思議そうに私の手を取る。

「浮き輪持ってくか?」
「そーしよっか」

 根岸くんのご親戚の方が貸してくださった浮き輪。というかビーチボールとかも借りました。貸別荘にいろいろあるらしくて、あとでちょっと探検してみたいなぁなんて思ってる。
 ザブザブ、と胸の下くらいまで海に入って、浮き輪でぽかんと浮かぶ。

「うー、気持ちいい」
「つーか、あいつらはしゃぎすぎだよな」

 黒田くんはふと砂浜のほうを見て言う。

「夜まで持つのか、体力」
「あは、もうみんなでお昼寝したら良いんじゃない」

 せっかく別荘までお借りしてるのだ。ごろ寝くらいしちゃっていいだろう……って超贅沢!

「それでさー、お腹空いたらね、そこの海の家のパンケーキ食べよう……」
「要はあっこのパンケーキ食べたいんだな?」
「あは」

 海の家なんて言っていいのかな、なんかすごくオシャレなカフェっぽい感じの海の家。カクテルなんかもある……。ま、それはあと四年の我慢。

「ちらっと見たんだけど、すっごい美味しそうだったんだよねー」
「あのな、パンケーキとホットケーキってどう違うんだ?」
「どう違うんだろ」

 私たちはほとんど同じタイミングで首を傾げて、ほとんど同じタイミングで吹き出した。

「変なの!」
「何が変なんだ」

 黒田くんは笑いながら、私の髪をぐちゃぐちゃにする。

「ぎゃーもーやめてよ」
「設楽が可愛いくて仕方ない」

 黒田くんはそう言ってから、ふと目を瞬いた。それからほんの少しだけ「言ってしまった」って顔をした。

「え」
「いや、あー」
「ねー、今なんて言ったの」

 ちょっとからかってしまう。だってこういうの、珍しいんだもん。

「なんだよ」
「もっかい言ってよー」
「……お前な」

 呆れたように、黒田くんはいう。それから「よし」となぜか気合をいれていた。

「?」
「お前な、いちいち可愛いんだ」
「あーあの」

 いや、言ったけど。もっかい言ってって言ったのは私はだけどさー。
 照れちゃうよ。
 黒田くんは私の頬を手で包む。

「可愛い。あのな、これは見た目じゃねーぞ」
「えっと」
「なんか表情とか言葉とか気持ちとか、あー」

 黒田くんは困ったように目線を上げて、それから戻した。

「悪い、俺あんま語彙力ねーからハッキリ言う。よくわかんねーけど全部可愛いんだわ設楽」

 私は目線が定まらない。何を言われてるの私は!?

「一挙手一投足可愛いわ」
「なにそれぇ……」

 私は照れて、ほんとに顔が真っ赤だし顔を背けたいけどほっぺた固定されてるし動けないし!

「キスしていいか」
「ええぇ」

 私はキョロキョロする。周りも人いるし、ていうか皆に見られたら恥ずかしいですよ!

「煽ったのは設楽だろーが」
「あ、煽ったの? 私」
「おう」

 返事を待たずに、唇が重なってーーそして怒号が砂浜から飛んできた。

「おいコラ黒田! なに見せつけてくれてんだよ!」
「うるせー」

 黒田くんは本気でうるさそうに言って、私は水面に顔をつけちゃうくらいに下を向いていた。どっきどきして恥ずかしくて、でもなんかすごく嬉しくて。

(あ、あんな風に思ってくれてたんだー)

 へにゃりと笑った瞬間、水面に顔をつけちゃって浮き輪持ってるのに溺れそうになる。

「ごぼっ!?」
「なにしてんだ!?」

 慌てて黒田くんが私を抱えて、抱きかかえられた感じのまま私たちの目が合う。「ありがとう」と笑うと黒田くんは笑って、そしてまた唇が重なって、やっぱり砂浜からは大きな声が飛んできたのでした。
 ……こんな黒田くんは珍しいです。
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